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第12話

「次、右手。」

「はい!」


 恒一(つねかず)は右手に軽く力を入れる。

 恒一の右腕にある式が右手に集まっていき、やがて完全に右腕の式が右手に収められた。


「次、左わき腹。」

「はい!」


 恒一は右手の力を抜き、左わき腹に軽く力を入れる。

 右腕同様、左胸から腰辺りまでの式が左わき腹に集まっていき、収まる。


「次、左わき腹維持で右足の甲。」

「はい!」


 恒一は左わき腹に力を入れたまま、右足の甲に力を入れる。

 右足全体の式が右足の甲に集まった。

 右手や左わき腹よりも時間はかかったが、誤差といってもいいくらいだ。


「やめ!」


 空也(くうや)の声が庭中に響く。

 恒一は集めていた部分の力を抜き、式を集める前の状態に戻す。


「一点集中が1秒ちょい、二点集中がだいたい2秒、といったところか。」

「そうですか…。」

「そう落ち込むな。式について無知だったのが、3か月でここまで成長できたんだぞ。もっと自信を持て。」


 そう言うと、空也は恒一の肩に手を当てる。

 恒一は少し目を潤わせながら、空也に軽く頭を下げた。



◇◇◇



 空也のもとで修行を始めてから3か月。

 恒一の式を集める早さは格段に上がっていた。

 毎日隙間時間があれば式の一点集中の練習をし、感覚を少しずつ身につかせていく。

 これにより、集める早さがどんどん早くなっていった。

 6月の中旬には1分を切るようになっていき、6月末には遂に10秒を切ることが容易くなった。

 恒一の継続力が、実を結んだのである。



◇◇◇



 空也は恒一の肩に置いている手を離し、少し距離をとって話し始める。


「これから対(あやかし)に向けた式操作を修得してもらう。」


 そう言うと空也はいつも着ている着物の右腕の袖をまくる。

 恒一と同じくらいの細さだが、鍛えていたのが一目でわかる、そんな腕だ。


「まずは『受け身(うけみ)』についてだ。」


 空也はそう言うと、左腕と頭以外の式を瞬時に右腕に集める。


「『受け身』とは、文字通り攻撃を受けれる状態にすることだ。できるだけ多くの式を守りたい部位に集める、こうすることで強力な妖の攻撃を防ぐということだ。コツとしては『守る範囲はできるだけ広く、できるだけ多くの式を均等に集めること』。今までのような小範囲だと受け身の部分を外されて攻撃を受けたり、防いだとしても余波で範囲外の部分に当たったりしてしまう。故に範囲を広くすることが重要なんだ。そして、できるだけ強度を高めるために多くの式を集めること。その際、偏りが起きて内部を傷めないよう均等にすることも意識しておくように。」


 一通り説明を終え空也は、右腕に集めた式を全身に戻す。

 全身に戻したと同時に、今度は右腕の式を瞬時に右手に集中させた。

 その早さは瞬きよりも早く、人間がギリギリ認識できるかどうかというほどだった。

 その状態のまま、恒一に話し始める。


「これは今恒一がやっていることだな。これを私たちは『式術(しきじゅつ)』と呼んでいる。式を一点に集めて火力を増強させる術だ。受け身と異なるのは『当てた部分の面積が小さいほど、式の密度が大きいほど威力が増大する』ことだ。」


 そう言うと空也は右手に集まっている式の半分を右人差し指に送る。


「ついてきなさい。」


 そう言うと空也は人差し指の式を維持しながら庭にある松の木の方へ行く。

 恒一は嫌な予感を感じながら空也についていく。


 十数本植えてある松の木の一本の前に空也は立ち、人差し指を構える。

 そして、勢いよく幹に突き刺しさ。

 幹の中から破裂していく音が聞こえ、やがて突き刺した方と反対側から勢いよく残骸が飛び出した。

 恒一はその光景をただ見ていることしかできなかった。


「極めればこんなこともできるようになる。」


 そう言うと空也は式を元の位置に戻した。


「ではこれが最後だな。今説明した中で一番修得するのが難しいものだ。」


 恒一はまた右手に式を集めた。


太郎(たろう)、ちょっと手伝ってくれ!」


 恒一は家に向かって叫んだ。

 しばらくして、家の中にいた太郎がやってきて恒一の隣に立った。


「太郎、右腕受け身。」


 太郎は瞬時に右半身の式を右腕に集め受け身の状態にし、空也の前に出す。


「恒一、太郎は受け身をしておるか?」

「はい。何となく感じることしかできていませんが、太郎さんの式が右腕に集まっています。」

「よろしい。ではしっかり見ておくんだぞ。」


 そういうと空也は太郎の右腕の方に右手を向けた。

 そして、右手から軽い衝撃波を放つ。

 衝撃波が太郎の右腕に当たった瞬間、右腕に集められた式が元の場所に一部戻っていく。

 恒一はその光景を何が起きているかわからぬまま見ていた。


「恒一、何が起きた?」

「先生が太郎さんに向かって『何か』を放つと、太郎さんの受け身状態が乱されたように感じました。」

「よろしい。これが『式波(しきは)』というものだ。これを受け身状態でくらえば受け身の一部乱されてしまう。いわゆる『守り崩し(まもりくずし)』というやつだ。だが、これには弱点があってだなぁ…、太郎次右手一点集中。」


 太郎はそれを聞き、右腕の式を右手に集めた。

 空也はそれに向かって先ほど同様式波を放つ。


「恒一、どう見えた?」

「先生が式波を放っても、太郎さんの一点集中は乱されませんでした。」

「そうだ。式波は基本『式術などの攻撃時に式を一点に集めるもの』には効果がない。」

「なるほど…。なんか三すくみみたいですね。」

「そうだ。式波、式術、受け身、これらは三すくみとなっておる。故に、この3つを修得することが重要なことなのだ。これからはこの3つの修得を目指してもらう。いいな?」

「はい!」


 恒一は力いっぱい答えた。

 空也は笑みを浮かべ、横で見ていた太郎は腕を組み恒一の方を見ていた。


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