第11話
ここは空也宅にある道j…
「守りが甘い!」
太郎の声と同時に恒一は胸に太郎の拳をくらう。
太郎は力を抜いているらしいが、拳の速さがすさまじいため全力で殴っているのかと感じてしまう。
殴られた恒一は直撃した胸を手で押さえる。
太郎はそれを見つめながらゆっくり恒一に近づいていく。
「太郎、いったんやめ。」
空也がそう言うと太郎はその場にとどまった。
恒一は胸を押さえながら、自分の未熟さを痛感していた。
◇◇◇
空也の下で修行を始めてから1か月半が経過した。
学科で学ぶべきことは全て終わり、今は体術や式の操作が主な内容だ。
4月よりも1時間早く行き、体術の稽古をする。昼食を済ませたらいつも通り式の操作の練習。
5月に入ってしばらく経ったが、恒一は何事もなくこなしている。
生活習慣は。
体術、式の操作はなかなか上達しない。
式の操作は全身30分を切るほどには成長した。
だが空也曰はく「本来なら殻破の儀から1か月もあれば1分を切れるようになっている。」とのこと。
恒一の1か月30分はあまりにも遅すぎる。
故に恒一は自分の不器用さを式の操作中ずっと痛感していた。
空也のところに行かない日曜日もしっかり練習している。
これまでサボったことはない。
それなのに…、なぜ…。
5月から始まった体術も苦戦していた。
空也から基本的な構えや攻撃法を教えてもらい、太郎相手に実践を行っている。
だが、いざやっているのを見ていると素人でもわかるくらい動きがぎこちない。
腰の入りが甘かったり、頭を変に揺らすことで重心がぶれぶれだったり、当人は真剣にやっているつもりだが、癖として身についてしまっているのかと感じてしまうほど改善されない。
それゆえに、太郎との組手では太郎に攻撃を当てることさえできていない。
全て避けられたり受け流されたりしている。
そして攻撃をしていた隙をつかれて返り討ちにされて…という日々だ。
◇◇◇
胸を押さえながらも恒一は立ち上がる。
痛いがうずくまるほどではない。
太郎に左腕で正拳突きしようとした際、変な癖で右腕の守りの姿勢を崩してしまった。
そこを太郎さんに見抜かれてくらった…といったところだろう。
恒一は右腕を腰に当て、左腕の上腕部を地面と平行にし、前腕部を地面と垂直にする。
右手は拳を握り、左手は指と指の間隔を閉じ指先を天井に向ける。
腰を少し落とし、重心を地面と垂直にしてからゆっくりと肩の力を抜く。
これが「空也流の体術の構え」だ。
太郎も同様に同じ構えをとった。
先ほど恒一が吹き飛ばされたため、間合いは10メートルほどある。
太郎は空也から「組手中はその場から動くな」と言われている。
そのため恒一が近づかなければならない。
太郎の顔に目線を合わせ、呼吸を整えていると道場の端で組手を見守る空也から声がかかる。
「恒一、さっきなぜ太郎の攻撃をくらったかわかっているな?」
空也の問いに恒一は軽くうなずく。
「よし。ではその反省を生かしてやるように。」
「はい!」
恒一は腹から声を出して太郎のところに向かう。
左腕で走る体を支え、右腕はいつでも拳を突き出せるよう構えておく。
そして、自分の間合いに相手が入ったとき、走っていた時の勢いを利用して右腕で一気につく。
これが間合いがある相手での基本的な戦い方だ。
恒一も同様に太郎に右腕で腹部を突こうとした。
だが、太郎はそれを左腕で受け流す。
「また腹部を狙うのか。二度も同じことは通用しないといい加減気づいたらどうだ。」
そういうと太郎はまた恒一の胸をめがけて右腕の拳を突こうとした。
「いい加減気づいてますよ。二度も同じようにやられたくないですからね。」
恒一はそう言いながら、太郎の拳を左腕ではらう。
太郎の拳は恒一によって恒一の腰をかすめていった。
太郎は口角をあげ、左の拳で追撃しようとする。
恒一はそれを見て、迫りくる太郎の左の拳を右手で受け止める。
(太郎さんの拳を受け止めれた!はじめて!でもどうする?どうすれば太郎さんに一撃与えられる?)
太郎の拳を掴んだ時、恒一の脳内が超回転する。
そしてすぐに恒一は覚悟を決めた。
拳を掴んでいる右腕を力いっぱい右側へはらう。
そうすれば、太郎の重心が崩れて無防備になる。
そこを攻撃すれば勝ちだ!
太郎はびくともしなかった。
それもそのはず。太郎は恒一よりも2回りも大きい。
そんな人間を片腕で倒れさせようと恒一はしたのだ。
太郎は最初戸惑ったが、恒一の目を見て意図を理解した。
そして、少し微笑みながら右わき腹に蹴りを軽く入れた。
恒一は思わず掴んでいた太郎の拳を離す。
「発想はよかったぞ。だがそれを成す力が足りない。」
恒一は蹴られたわき腹を抑えながら太郎に視線を向ける。
「太郎の言うとおりだ。発想は良い。だが格上相手にするようなものではないぞ。」
端で見ていた空也が太郎の恒一の元へ歩み寄る。
「恒一、前半の動きは今までで一番良かった。だが後半、太郎相手にあの判断はいかんかったな~。」
「すみません。太郎さんの重心を崩すことに必死だったもので。」
「まぁこの辺は実戦で経験値を積むものだからな。これから身に着けていこう。」
恒一は少し微笑んだ。




