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第10話

 空也の下で修行を始めてから2週間たった日曜日。

 恒一(つねかず)はだいぶ今の生活にも慣れてきていた。

 今まで着いていたころには息切れしていた行き帰りも、ずっと駆け足でも疲れないほどに成長し、駆け足で通えるようになったことで移動時間も30分ほど減った。

 空也からは5月になったら今までよりも1時間早く来るよう言われているが、今の恒一は今より早く起きなくても行けるという自信があった。


 妖防衛隊(あやかしぼうえいたい)に関する座学も今週でひと段落した。

 本当はもっと教えることがあるそうなのだが、防衛隊で勤めていれば自然と頭に入っていくのと試験範囲は式関連よりも軍事専門科目や一般教養科目が中心となるかららしい。

 恒一は落ちた身ではあるが、陸軍士官学校を受験するための勉強は毎日欠かさずやっていた。

 それにより培われた一般教養と軍事知識は名門士官学生に引けを取らない。

 空也はそれを知り、座学を4月中に終わらすと恒一に伝えた。

 そして5月からは座学の時間が体術を極める時間とした。

 空也曰く恒一の課題点は「式の操作」と「体術」とのこと。

 9月にある仮免許試験に向けてこの2つを重点的に鍛えることとなった。



◇◇◇



 今週の座学は主に妖防衛隊のしくみについてだった。


 妖防衛隊は陸軍省の秘密組織である。

 現在所属している人はおよそ50名ほど。

 基本的に地方の支部長が見込みのある者を勧誘したり、各支部に所属を申し込むような採用形式をとっている。

 だが、実際は所属している者が見込みのある親族を紹介をし、支部長が実力を見極めて所属するかを決める場合がほとんどだ。


 所属が決まれば支部長から仮免許を渡され、本免許を持つ者と行動を共にすることを条件に活動することができる。

 仮免許を取得して半年後、支部長は仮免許の者を単独行動できるほどの強さかを判断し、できると判断すれば本部に本免許の申請を行う。そして本部から本免許が届けば、晴れて正式な隊員となることができる。

 なお、できないと判断されればまた半年間仮免で行動しなければならない。

 (ゆえに恒一は厳密には四国支部に所属していない。)


 大日本帝国の陸軍には軍事行動を指揮する参謀本部があるが、妖防衛隊は陸軍省の組織に属している。

 理由としては『妖防衛隊の役割は「妖から人々を守る」ことが目的であること』だという。

 組織図的には憲兵隊と同格の位置にいるが、陸軍大臣の命令にも逆らえるほどの力を持つ。

 その理由は”妖防衛隊が抵抗すれば陸軍は壊滅するから„。

 それほどまでに式能や式神の力が強大なのである。


 しかし、妖防衛隊にはかなりの制約や規制が存在する。

 一つ目は「天皇の命令は絶対服従」であること。

 天皇は軍部の最高責任者であり、逆らうことは国家に反することになる。現状天皇からは「帝国民を守ってほしい」と命ぜられているためそれに従い妖を討伐しているが、「参謀本部を助けよ」といわれれば早急に従わなければならない。

 二つ目は「組織所属の身でありながら罪を犯したものは無期禁錮以上の刑の処される」こと。

 式能や式神を持つ者の中には国家転覆を行うことが可能なものもいる。仮に捕らえたとしても、出所した際にまた同じことをされればひとたまりもない。故にこの規則ができた。

 無期禁錮以上と書かれているが、罪を犯した者はほぼ全員処刑あるいはとらえる前に殺処分されている。

 ちなみにこの規則は妖防衛隊に所属していなくても適応され、式を用いた犯罪あるいは犯人が殻破の儀を得て式を扱えるものも同様に罰せられる。

 三つ目は「式や妖に関することを公開してはならない」こと。

 政府の方針上、妖や式を扱える者は撲滅した状態になっている。

 ゆえにそれを無知な帝国民に伝えるようなことをしたものは機密情報漏洩ということで処罰される。

 例外として、殻破の儀を行ったことを妖防衛隊に報告した者には伝えてもよい。

 ただし、妖防衛隊の機密情報は伝えてはならない。


 妖防衛隊は関東(東京)にある本部を中心に、「四国支部(愛媛)」、「九州支部(宮崎)」、「中国支部(岡山)」、「関西支部(京都)」、「東海支部(静岡)」、「北陸・甲信支部(長野)」、「東北越支部(山形)」と支部が存在する。

 基本的には各支部に管轄内の防衛を任せており、本部も関東を管轄として守っている。

 支部がある場所は県庁や大きな町ではなく、中規模の町あるいは田舎である。

 秘密組織であるため、あまり人目につかない場所に建てられるのが好ましいからだ。

 

 一部の妖防衛隊の者には「防衛隊第〇級戦力保持者」という肩書が付いている。

 これは、「式を悪用する者と戦闘することを許可された者」という意味だ。

 式を悪用する者は、一般隊員では対処できないことが多かったため、この仕組みが作られた。

 この肩書を入手するためには妖防衛隊に所属し、且つ妖防衛隊隊長の認可をもらう必要がある。

 〇の中の数字が小さいほど強いことを表し、

 第一級 妖防衛隊隊長(現御阴(みかげ))、関西支部長

 第二級 本部、関西を除く支部長(秋寧など)、本部副支部長、関西副支部長

 第三級 本部、関西を除く副支部長(陸胡(りくう)など)、一部の本部、関西支部隊員

 第四級 上記を除く妖防衛隊隊長から認可されたもの

 となっている。



◇◇◇



 恒一の式操作は中々上達しない。

 先週は移動させるのに1時間以上かかっていたのだが、今週は隙間時間に練習するなどして両手に集める工程を1時間を切るまでに成長した。

 しかし、仮免許を取得するにはこの工程を1秒以内で行わなければならない。

 5月からは学科が終わったり、今よりも早く空也の家に向かうので練習する時間が増えるだろう。

 それでも現状の成長速度では厳しい。

 空也からはそう言われた。

 恒一は自分が不器用なこと、運動面が苦手なことを自覚している。

 ゆえに、誰よりも努力しなければならないことも。

 恒一はこの日、1日のほとんどを式の一点集中の練習に費やした。

 それでも、恒一は自分の成長を感じれなかった。


 時刻は23:00

 疲れ果てた恒一は布団に入り眠る。

 しばらくして、恒一の瞳から涙がこぼれた。

 

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