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世界1のサッカー選手と落ちこぼれ高校生が入れ替わった話  作者: おばれ
第五章 序列を超えろ!二軍対三軍、試合 (後半戦)
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第70話 チームで一番頼れる男

 

 二軍のクリアボールはタッチラインを割った。


 一瞬、グラウンドに沈黙が落ちた。


 誰も、田宮が取られたことを責めなかった。


 それよりも、全員の頭に残っていたのは、その前のプレーだった。


 大神が、鬼米からボールを奪った。


 しかも、力でぶつかったわけではない。


 鶴見を動かし、鬼米のタッチを乱し、その瞬間を奪った。


 三軍の選手たちが大神を見る。


 さっきまで、ただのお調子者にしか見えなかった一年。


 その大神が、鬼米の突破をいとも簡単に止めてみせた。


「……今の」


「鬼米さんから取ったよな?」


「マジかよ」


 鶴見も驚いていた。


 自分は、言われた通りに動いただけだった。


 それだけで、鬼米のタッチが乱れた。


 そして大神は、その一瞬を逃さなかった。


 鶴見は大神に駆け寄る。


「大神くん、すごい! よく取れたね!」


 大神は、へらっと笑った。


「いやー、たまたま、たまたま」


 そして、すぐに少しだけ真面目な声で続けた。


「鬼米さんのプレー、ちゃんと見たのは初めてやけどな」


 大神は鬼米の方を見る。


「ドリブルで相手にぶつかる瞬間、ちょっとボールタッチが乱れる。身体を当てる方に意識が行く分、ボールが離れるんよ」


 鶴見は目を見開く。


「そこを狙ったの?」


「そうそう」


 大神は軽く頷いた。


「でも、鶴見が指示通り動いてくれたから取れたんやで。あそこで詰めてくれんかったら、鬼米さんは普通に前向いて突っ込んできてた」


「俺が?」


「そう。めっちゃええ動きやった」


 鶴見は言葉に詰まった。


 前半、自分はただ必死に食らいつくだけだった。


 それでも、今は大神の指示に合わせて、鬼米からボールを奪うきっかけを作れた。


 鶴見の胸が熱くなる。


 大神は、そんな鶴見の肩を軽く叩いた。


「今のプレイは冷蔵庫開けたらプリンが一個だけ残ってて、誰にも見つからんうちに取った感じやな」


「……え、どういうこと?」


「笑うとこや、タイミングが大事ってことやで」


 その軽さに、鶴見や三軍の何人かは苦笑した。


 だが、さっきまでの不安とは違う。


 大神がピッチに入ると、別人のように頼もしく見える。


 言葉は軽い。


 態度も軽い。


 それでも、見ている場所が違う。


 動かす場所が違う。


 一つの指示で、鬼米の突破を止めてみせた。


 三軍の空気が変わる。


 赤城も、そのプレーを前線から見ていた。


 大神が入った意味。


 それを、今の一プレーだけで理解した。


 ――守備が変わった。


 赤城は静かに息を吐く。


 これなら、自分は前に残れる。


 攻撃に集中できる。


 一方、ピッチ外。


 コーチ陣も今のプレーに反応していた。


 吉澤コーチが思わず笑う。


「今のプレー、さすが大神ですね」


 佐々木コーチも頷く。


「鬼米に直接ぶつからず、鶴見を使ってタッチを乱させた。そこを自分で回収。簡単にやっているように見えますが、かなり高度です」


 吉澤コーチは続ける。


「コーチングも的確でした。鶴見の根性を活かしつつ、無駄にぶつからせない。前半とは守り方がまるで違う」


 森本監督は腕を組んだまま、大神を見ていた。


 大神はピッチの中で、相変わらずへらへらと笑っている。


 鶴見に何かを言い、三軍の選手たちを笑わせている。


 だが、守備の位置取りだけは崩れない。


 森本監督は小さく息を吐いた。


「ピッチ外でふざけすぎるところがなければ…」


 吉澤コーチが苦笑する。


 森本監督は続けた。


「チームで一番頼れる男だからな、あいつは」


 その言葉に、コーチたちは静かに頷いた。


次回もお楽しみに!

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