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世界1のサッカー選手と落ちこぼれ高校生が入れ替わった話  作者: おばれ
第五章 序列を超えろ!二軍対三軍、試合 (後半戦)
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71話 オフサイドトラップ

 

 三軍ボールで試合が再開される。


 田宮がスローインを受け、近くの味方へ預ける。


 三軍は、後半の入りで大神が鬼米からボールを奪ったことで、少しだけ空気が上向いていた。


 だが、二軍も簡単には流れを渡さない。


 三軍が中盤でつなごうとした瞬間、二軍の選手が素早く寄せる。


「しまっ……!」


 パスコースを読まれ、ボールを奪われた。


 すぐに二軍が前を向く。


 奪った選手は迷わず中央へ預けた。


 そこから、前線へ。


 柴山が動き出していた。


 二軍の選手が、柴山へ縦パスを送る。


 その瞬間。


「今や!ライン上げろ!」


 大神の大声が飛んだ。


 さっきまでのおちゃらけた声ではなかった。


 短く、鋭く、迷いがない。


 三軍の最終ラインが、一斉に反応する。


 鶴見も慌てて一歩上がる。


 他の三軍メンバーも、大神の声に引っ張られるように前へ出た。


 柴山がボールを受ける。


 その瞬間だった。


 副審の青砥が旗を上げた。


 主審の笛が鳴る。


 ピーッ!


「オフサイド!」


 プレーが止まった。


 柴山はボールを足元に置いたまま、一瞬固まる。


 三軍の選手たちも、何が起きたのか分からずに周囲を見る。


「え?」


「今の、なんで止まった?」


「ファウル?」


「いや、オフサイドって……」


 多くの三軍メンバーは、すぐには理解できなかった。


 ただ、プレーが止まったことだけは分かる。


 その中で、牧だけは小さく息を吐いた。


「今の……」


 近くの選手が牧を見る。


「牧?」


 牧は大神の方を見ながら言った。


「オフサイドトラップだ…」


「オフサイドトラップ……?」


 三軍の選手たちがざわつく。


 柴山も、ゆっくりと大神を見る。


「やられた……」


 柴山は小さく呟いた。


「まさか、ここでオフサイドトラップか」


 タイミングは完璧だった。


 柴山が動き出し、パスが出る直前。


 大神は迷わずラインを上げた。


 少しでも遅れれば、柴山は抜け出していた。


 少しでも早ければ、二軍に気づかれ、別の選択をされていた。


 その一瞬を、大神は読んでいた。


 ピッチの外では、一軍メンバーが反応していた。


「出た」


「大神の十八番」


「オフサイドトラップ」


「あいつ、相変わらず嫌なタイミングで上げるな」


 守谷も腕を組んだまま、静かに頷く。


「大神のライン統率は本当にすごい」


 赤城も前線で、そのプレーを見ていた。


 オフサイドトラップ。


 言葉としては当然知っている。


 戦術としても分かる。


 だが、プロならまだしも、高校生の試合で、あのタイミングで仕掛けるのは簡単ではない。


 味方全員のラインを揃えなければならない。


 一人でも遅れれば崩れる。


 相手の動き、パスの出し手、受け手のタイミング。


 すべてを見て、瞬時に判断しなければならない。


 それを、大神はやった。


 しかも、後半から入ったばかりの初めて一緒にプレイする三軍のチームで。


 赤城は思わず目を細める。


 ――これが、大神か。


 ピッチ外でのおちゃらけた姿とは、まるで別人だった。


 副審として旗を上げた青砥も、外から大神を見ていた。


 青砥は小さく呟く。


「今のタイミングでライン上げられたら、受け手はどうしようもない」


 青砥は旗を下ろしながら、少しだけ口元を歪めた。


「ムカつくが、完璧だ」


 柴山はボールから足を離し、大神を見る。


 その時、ハーフタイムの三島の言葉が頭をよぎった。


 ――身体能力やパワーではないところで、あいつは守備を支配します。


 柴山は息を吐いた。


「これが、大神か……」


 その横で、三島は額にうっすら汗を浮かべていた。


「……」


 予想していた。


 大神が守備を変えることは分かっていた。


 だが、分かっていても厄介だった。


 ただのカバーリングではない。


 大神は、味方の位置そのものを動かして守る。


 相手が攻撃する前に、攻撃の選択肢を奪う。


 三島は小さく呟いた。


「やっぱり、嫌な守り方をする」


 一方、三軍の選手たちは、周囲の反応を聞いてようやく理解し始めていた。


「今の、大神がやったのか?」


「ラインを上げて、オフサイドにしたってこと?」


「そんなこと、できるのかよ」


「しかも、俺たちを動かして?」


 最初は、大神が本当に一軍なのか疑っていた。


 ただのお調子者ではないかと思っていた。


 だが、今のプレーは違う。


 鬼米からボールを奪った時もそうだった。


 そして今も。


 大神が一声かけただけで、三軍の守備は機能した。


 前半、バラバラだった最終ラインが、一つの意志で動いた。


「すげぇ……」


 誰かが呟いた。


「頼もしすぎるだろ」


「さすが、1年でいきなり1軍に入っただけはある……」


 鶴見も目を輝かせて大神を見る。


 さっきまで軽く笑っていた男が、ラインを統率した瞬間だけ、誰よりも頼もしく見えた。


 大神は周囲の視線を受けながらも、笑わなかった。


 いつものようなおちゃらけた返しもない。


 ただ、最終ラインの位置を確認しながら、短く言った。


「だから言ったやろ」


 三軍の選手たちが大神を見る。


 大神は、真っ直ぐ前を見たまま続けた。


「俺が来たからには、後半はもう一点もやらんて」


 その声に、三軍の空気が締まった。


 今度は誰も、不安そうな顔をしなかった。


 大神狼。


 ピッチの中では、守備を支配する男。


 後半開始直後の二つのプレーで、三軍の守備は完全に変わり始めていた。


おばれの簡単!サッカー用語解説!


〇オフサイド。

攻撃側の選手が、味方からパスを受ける瞬間に、ボールより相手ゴールに近く、なおかつ相手の後ろから二人目の選手よりもゴールに近い位置にいると、基本的に反則となるルールだ。

簡単に言えば、相手の守備ラインより前で待ち伏せしてパスを受けることを防ぐためのルールである。


〇オフサイドトラップ。

守備陣が、相手にパスを出される直前に一斉に前へ出て、相手の攻撃選手をオフサイドにする守備戦術だ。一人でも動きが遅れれば成立しない。だからこそ、全員の連携と、一瞬の判断が必要になる


サッカーて色々ややこしいんです泣

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