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世界1のサッカー選手と落ちこぼれ高校生が入れ替わった話  作者: おばれ
第四章 序列を超えろ!二軍対三軍、試合 (前半戦)
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第67話 今度は、俺一人の勝負じゃねぇ

 二軍ベンチの空気は、三軍側とは対照的に静かだった。


 前半を終えて、スコアは一対二。


 二軍が三軍を追う展開。


 本来なら、あってはならない状況だった。


 だが、誰もその事実を軽く見ていない。


 それだけ、赤城零という一年は異質だった。


 鬼米はベンチに腰を下ろし、黙って自分の手を見ていた。


 その頭の中では、前半の場面が何度もよみがえっていた。


 赤城に抜かれた場面。


 力で止めにいった。


 少し突っ込みすぎただけだ。


 そう考えていた。


 だが、赤城はその力すら利用するように、ほんのわずかなズレで鬼米の前から消えた。


 そして、得点を決めた。


 鬼米の奥歯が、ぎり、と鳴る。


 悔しい。


 単純に、悔しい。


 しかし、その悔しさの奥に、別の言葉が残っていた。


 ――力の使い方を間違えるな。


 以前、森本監督に言われた言葉だった。


 鬼米は、自分の力に絶対の自信を持っていた。


 相手がどれだけうまくても、最後は力でねじ伏せればいい。


 ずっと、そう思ってきた。


 だが、赤城にはそれが通じなかった。


 少なくとも、前半は、自分の力がそのまま赤城に利用された。


 そして最後には、目の前であのシュートを撃たれた。


 止めるどころか、反応すらできなかった。


 鬼米は拳を握る。


 後半も、このまま一対一でいくべきなのか。


 それとも、最初から二枚で潰すべきなのか。


 セオリーでいえば、二枚でつくべきだ。


 赤城は、それだけの選手だ。


 一人で止めようとする方が危険かもしれない。


 鬼米の目が、わずかに揺れる。


 その迷いを、柴山は見逃さなかった。


「鬼米――」


 柴山が何かを言いかけた。


 だが、その前に、三島が淡々と言った。


「何を迷ってるんですか」


 鬼米が顔を上げる。


 柴山も三島を見る。


 三島はいつも通り、表情を変えない。


 ただ、状況を整理するように、冷静に口を開いた。


「後半も、あの赤城には鬼米さんがサシでついてください」


 鬼米は眉を寄せる。


「……いいのかよ」


「はい」


 三島は即答した。


「鬼米さんが赤城を止めると思って、自分は動きます」


 その言い方は、あまりにも淡々としていた。


 鬼米は三島を見つめる。


「赤城は普通じゃねぇぞ」


「分かっています」


「二枚で行った方が堅いんじゃねぇのか」


「二枚で行っても、必ず止まるとは限りません」


 三島は静かに言った。


「赤城は判断が速い。二枚で寄せれば、そのぶん別の場所にズレができます。あの選手は、そのズレを使える」


 柴山は黙って聞いていた。


 三島の言葉には、感情がほとんどない。


 だからこそ、余計な熱に流されていない説得力があった。


「それに、このチームで赤城を止められる可能性が一番高いのは、鬼米さんです」


 鬼米の表情が、わずかに変わった。


 三島は続ける。


「赤城の技術と判断に対して、身体ごと圧をかけられるのは鬼米さんしかいません。赤城がどれだけうまくても、鬼米さんの圧は無視できない」


「……」


「鬼米さんが前で止める。自分は、その次を読む」


 三島は淡々と言い切った。


「それが一番現実的です」


 鬼米は、しばらく何も言わなかった。


 三島は熱い言葉を吐いたわけではない。


 ただ、事実として言った。


 その言葉を聞いていた二軍の選手たちも、少しずつ顔を上げた。


「……そうだな」


 一人が呟く。


「赤城を止められるとしたら、鬼米しかいない」


 別の選手も頷いた。


「二枚で行って中途半端になるくらいなら、鬼米が前で潰してくれた方がいい」


「後ろは俺たちも見る」


 その声は、一つではなかった。


 ベンチに座る選手も、立って話を聞いていた選手も、自然と鬼米へ視線を向ける。


「赤城には、鬼米で頼む」


「お前が一番、あいつにぶつかれる」


「俺たちもカバーに入る。だから、前は任せる」


 鬼米は、ゆっくりと周囲を見た。


 三島だけではない。


 二軍の仲間たちが、自分に赤城を任せようとしている。


 その事実が、鬼米の胸に重く落ちた。


「……三島」


「はい」


 鬼米は、ゆっくりと息を吐いた。


「お前らが俺をそこまで信頼してくれるとはな」


 その言葉に、三島は少しだけ眉をひそめた。


「信頼とか、そういう熱い話は苦手です」


 鬼米が目を丸くする。


 三島はいつもの調子で続けた。


「ただ、事実を言っただけです」


 一瞬、沈黙が落ちた。


 そして鬼米は、小さく笑った。


「はっ」


 笑いは短かった。


 だが、その顔には、前半までの苛立ちとは違うものが浮かんでいた。


「そうかよ」


 鬼米は拳を握り直した。


 胸の奥で、何かが変わっていくのを感じていた。


 今まで、自分が一対一にこだわってきた理由。


 それは、いつも自分のためだった。


 強い奴を倒したい。


 自分のパワーを証明したい。


 自分の力でねじ伏せることに意味がある。


 赤城に対しても、最初は同じだった。


 一度抜かれた借りを返したい。


 赤城を力で潰したい。


 自分のパワーが通用しないはずがない。


 そう思っていた。


 でも、今は違う。


 三島は、事実だと言った。


 信頼じゃないと言った。


 それでも鬼米には分かった。


 三島は、自分が赤城を止めるものとして動く。


 二軍の仲間たちも、自分が赤城を止めることを望んでいる。


 自分が一対一で勝つことは、もう自分だけの意地ではない。


 自分を軸に、チームが動く。


 自分が止めると考えて、仲間が後ろを支える。


 鬼米は、ゆっくりと顔を上げた。


 赤城に勝ちたい。


 その気持ちは変わらない。


 むしろ、前半よりも強くなっている。


 だが、その理由が変わった。


 自分を見てくれている仲間のために。


 この二軍のために。


 みんなのために。


 赤城に勝ちたい。


 鬼米の目から迷いが消えた。


 代わりに宿ったのは、荒々しい闘志だけではない。


 自分が背負うものを理解した者の目だった。


 鬼米は立ち上がった。


 そして、柴山を見た。


「柴山さん」


「なんだ」


 鬼米は真っ直ぐに言った。


「後半も、赤城とサシでやらせてください」


 柴山は、少しだけ目を細めた。


 鬼米の顔を見る。


 その目には、迷いがなかった。


 柴山は、満足そうに口元を緩めた。


「ちょうど、俺も後半引き続き赤城につけと言うつもりだった」


 鬼米は少しだけ笑う。


「ありがとうございます」


 柴山は頷いた。


 そして、三島へ視線を向ける。


「三島、お前も引き続きカバーだ。鬼米が赤城についた後ろを見ろ」


「はい」


 三島は短く答えた。


 その表情は最後まで冷静だった。


 柴山は二軍全体を見る。


「前半はやられた。だが、まだ終わっていない」


 二軍の選手たちが顔を上げる。


「赤城は間違いなく全国トップクラスの選手だ。だが、あいつ一人に試合を壊されるな」


 柴山の声に、二軍の空気が締まっていく。


「後半、俺たちが二軍の意地を見せてやろう」


 鬼米は、もう一度、赤城を見た。


 胸の奥に燃えるものは、前半とは違う。


 ――今度は、俺一人の勝負じゃねぇ。


 ――二軍全員のために、止める。


 その目に、迷いはなかった。


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