第62話 歓喜のハーフタイム
その直後、笛が鳴った。
前半終了。
赤城のエアゼロが決まり、三軍が再び勝ち越して、一点リードで前半を終えた。
ピッチには、まだざわめきが残っていた。
二軍の選手たちも、すぐには言葉を出せない。
鬼米も、三島も、柴山も。
あのシュートの余韻を、まだ振り払えずにいた。
一軍の選手たちも同じだった。
観戦していた守谷たちは、互いに顔を見合わせる。
「……すげぇな」
誰かが、ぽつりと言った。
その一言をきっかけに、一軍の空気が一気に熱を帯びる。
「あんな一年、マジで入ってきたのかよ」
「三軍にいたんだろ? 意味分かんねぇ」
「いや、でもあいつが一軍に上がってきたら……」
「今年、マジで全国いけるんじゃねぇか?」
「全国どころか、制覇も見えるだろ」
零明学園は、決定力不足に苦しんできたチームだ。
青砥という天才パサーが入った。
だが、そのパスをゴールに変え切れる選手が足りていなかった。
そこに、赤城零が入る。
今見せたような決定力を持つストライカーが、一軍に加わる。
それは、一軍の選手たちにとって希望だった。
守谷も、静かに赤城を見ていた。
「本当に、すごい一年が入ってきたな」
その声には、驚きと期待が混じっていた。
だが、守谷はふと隣を見た。
小曽根が、黙っていた。
腕を組み、ピッチを見つめている。
周囲のように喜んではいない。
表情は険しい。
同じフォワード。
赤城が入ってくるということは、小曽根にとっては単純な補強ではない。
自分のポジションを脅かす存在でもある。
守谷は、その横顔を少しだけ気にした。
だが、今は何も言わなかった。
一方、三軍側は完全に沸いていた。
「赤城!」
「やばすぎだろ!」
「今の何だよ!」
「本当に決めた!」
赤城の周りに、三軍の選手たちが集まる。
鶴見は、まだ肩で息をしていた。
泥だらけで、膝も擦りむいている。
それでも、誰よりも嬉しそうに笑っていた。
「零、今の何だよ!」
「俺のパス、めちゃくちゃだっただろ! なのに、あれエアゼロだよな? はじめてだよ、あんなシュート生でみたの!」
赤城は息を整えながら、軽く肩をすくめた。
「たまたまだ」
「たまたまであんなの決まるかよ!」
別の三軍選手が、興奮気味に言う。
「お前、一軍どころじゃねぇよ。全国でも通用するって!」
「いや、全国でも普通に点取れるだろ!」
「マジで何者なんだよ!」
赤城は苦笑する。
「だから、たまたまだって」
そう言いながらも、赤城は自分の右足に残る痛みを感じていた。
筋肉が熱い。
軸足にも重さがある。
さっきの一撃は、完璧に近い形で撃てた。
だが、その分だけ身体への反動も大きかった。
赤城は小さく息を吐く。
「あんなの、何回も連発できるもんじゃない」
鶴見が顔を覗き込む。
「身体、大丈夫か?」
「平気だ」
赤城はそう答えた。
だが、鶴見は少しだけ眉を寄せた。
平気と言う時の赤城は、大体平気ではない。
それは、鶴見がよく知っていた。
◆
ピッチの外では、コーチ陣も赤城のプレーに圧倒されていた。
吉澤コーチが、まだ信じられないように言う。
「今のシュート、明らかに高校生の技術じゃありません」
佐々木コーチも頷く。
「ボールの質は悪かった。普通なら収めるのも難しい。なのに、あれを一発で……」
「本当に、とんでもないですね」
二人が赤城を見ている中、森本監督だけは別の場所を見ていた。
三軍の輪の外。
キソマルが、少しだけ右足を引きずっている…
次回もお楽しみに!




