第59話 泥だらけの守備(ディフェンス)
「鶴見があそこまでやってんだぞ……」
「俺たちも、逃げてばっかじゃだめだろ」
「次、俺も寄せる」
キソマルが立ち上がる。
ユニフォームについた土を払う。
「そうだ。鶴見だけにやらせるな」
その声に、三軍の選手たちが少しずつ頷く。
恐怖が消えたわけではない。
鬼米の圧は、変わらず恐ろしい。
ぶつかれば、また吹き飛ばされるかもしれない。
それでも――。
逃げるだけでは終われない。
鶴見が、そう見せた。
赤城は前線へ視線を向けた。
再び、二軍ボールで試合が動き出す。
三軍の空気は、少しずつ変わっていた。
鬼米の圧は変わらない。
それでも、さっきまでのように足が止まる選手は減っていた。
鶴見が、何度も吹き飛ばされながら食らいついた。
それが、三軍の選手たちの背中を押していた。
二軍は後方からボールを繋ぐ。
柴山が中盤で受ける。
三軍が寄せる。
柴山は冷静にボールを動かし、右へ、中央へ、また左へと揺さぶる。
三軍の守備は、まだ粗い。
だが、さっきよりも明らかに足が出る。
「寄せろ!」
キソマルが叫ぶ。
「一人で止めなくていいから! みんなで行こう!」
その声に、三軍の選手たちが反応する。
二軍のボランチが前を向こうとした瞬間、鶴見が食らいついた。
「うおおっ!」
タイミングは完璧ではない。
足の出し方も綺麗ではない。
相手から見れば、勢い任せの守備だった。
二軍の選手は身体を入れてかわそうとする。
鶴見は一度、剥がされた。
だが、すぐに戻る。
もう一度、横から寄せる。
「しつこい!」
二軍の選手が苛立つ。
鶴見は何も返さない。
息は荒い。
肩は上下している。
身体中が痛い。
それでも、足だけは止めなかった。
相手がボールを右足から左足へ持ち替えた瞬間。
鶴見は、身体ごと飛び込んだ。
綺麗なタックルではなかった。
泥臭く、必死で、転びながらの守備。
それでも――。
つま先がボールに触れた。
「っ!」
ボールがこぼれる。
鶴見は倒れ込みながら、すぐに顔を上げた。
前に、赤城がいる。
鬼米がついている。
それでも、鶴見には赤城しか見えていなかった。
「零!」
鶴見は倒れた体勢のまま、必死に右足を振った。
次回もお楽しみに!




