第54話 痛恨の失点
ピッチの外で見ていた守谷が、わずかに目を細めた。
「……やられたな」
小曽根が横を見る。
「何がだ?」
守谷は、牧が戻ろうとしている左サイドを見た。
「あの一年のサイドバックを、わざと上がらせた。あいつが守備にいると二軍の攻撃は引っかかる。なら、上がらせてから、その裏を使う」
小曽根は短く息を吐いた。
「なるほどな」
守谷は続ける。
「あの一年の読みだな。暗い顔してるわりに、嫌なところを見てる」
柴山は前線でボールを収め、鬼米の上がりを待った。
三軍の選手たちは、柴山へ寄せようとする。
だが、柴山は慌てない。
一拍、ためる。
そして、走り込んできた鬼米へパスを出した。
鬼米鉄が、前を向く。
その瞬間、三軍の選手たちは圧を感じた。
重い。
ただ走っているだけなのに、迫ってくる迫力が違う。
まるで、重戦車。
「どけどけどけぇ!」
鬼米が吠えた。
キソマルが身体を張って止めに入る。
「俺がいく!」
だが、鬼米の肩がぶつかった瞬間、キソマルの身体が弾かれた。
「ぐっ……!」
さらに別の三軍選手が寄せる。
鬼米はボールを少し前へ押し出し、強引に突破した。
一人。
二人。
三人。
三軍の選手たちは止めようとするが、正面からぶつかれば弾かれる。
一部の選手は、鬼米の圧に思わず足を止めた。
避けてしまった。
それほどまでに、鬼米の突進には迫力があった。
「まずい!」
キソマルが叫ぶ。
鬼米は、あっという間にゴール前まで迫った。
右足を振り上げる。
「ぶっ潰す!」
シュートモーション。
誰も間に合わない。
そう思われた瞬間だった。
赤城零が、そこに滑り込んだ。
「なっ……!」
鬼米の目が見開かれる。
赤城は前線にいたはずだ。
さっきまで、鬼米と駆け引きをしていたはずだ。
それなのに――。
誰よりも早く戻り、ゴール前で身体を投げ出していた。
鬼米のシュートが、赤城の身体に当たる。
鈍い音が響いた。
ボールが弾かれる。
「赤城!」
三軍から声が飛ぶ。
ピッチの外もざわついた。
「戻ってきたのか、あそこまで……?」
「ワントップだろ、あいつ」
「今の運動量、普通じゃないぞ」
森本監督も、思わず目を細める。
「攻撃だけじゃない。あそこまで戻るか」
吉澤コーチが驚いたように言う。
「相当きついはずです。さっきから攻撃の中心にもなっているのに」
鬼米は、ブロックに入った赤城を見下ろしていた。
驚き。
そして、その奥に喜びがあった。
「はっ……」
鬼米は笑った。
「お前、そこまで戻ってくんのかよ」
赤城は息を吐きながら、立ち上がろうとする。
「守らないと、点を取られますから」
「ますます気に入ったぜ」
だが、次の瞬間――。
赤城がブロックしたボールは、こぼれ球になっていた。
その先に、二軍の選手が詰めている。
「こぼれた!」
三軍の選手が反応するより早く、二軍の選手が右足を振った。
シュート。
ボールはゴール左隅へ転がる。
GKが飛ぶ。
届かない。
ネットが揺れた。
――同点。
二軍が追いついた。
「よし!」
柴山が拳を握る。
三島の読み。
柴山のキープ。
鬼米の突進。
牧が上がった隙を完全に突かれた。
二軍が、チームとして三軍を崩して奪った一点だった。
さあ、これでまた同点!次回もお楽しみに!




