第53話 武器には、必ず裏側がある
その少し後ろで、三島は柴山のもとへ歩み寄った。
「柴山さん、ちょっといいですか。」
「なんだ、三島」
三島は、周囲に聞こえない程度の声で言った。
「三軍を崩す策を思いつきました。」
柴山は眉をひそめる。
「策?」
「はい、現実的な策です。今の一連のプレイを見て思いつきました。」
三島は、牧が戻っていく背中を見た。
「相手の左サイドバックが守備に残っていると、たぶん攻撃がうまくいきません」
柴山の目が細くなる。
三島は、それ以上大きな声では言わなかった。
ただ、暗い表情のまま続ける。
「でも、今みたいに上がった後なら……使えます」
柴山は一瞬だけ黙った。
そして、三島の視線の先を追う。
牧廻那。
守備では読みが鋭く、ボールを奪えば一気に加速してくる。
三軍にとって、間違いなく大きな武器だ。
だが、武器には必ず裏側がある。
柴山は短く息を吐いた。
「……続けろ」
三島は小さくうなずき、さらに声を落とした。
◆
試合は、三軍ボールで再開された。
赤城がスルーし、三島にクリアされた直後。
三軍は、再びボールを動かし始める。
「もう一回落ち着いていこう!」
キソマルが声を張る。
三軍の選手たちは、赤城のゴールと牧の突破によって、少しずつ自信を取り戻していた。
二軍相手でも、やれる。
そう思えるだけの材料が、今の三軍にはあった。
だが、二軍もただ見ているわけではない。
柴山は、三島に言われた言葉を頭の中で反芻していた。
――相手の左サイドバックが守備に残っていると、たぶん攻撃がうまくいきません。
――でも、今みたいに上がった後なら……使えます。
柴山は、静かに周囲へ指示を出す。
「中央を切れ。右に流せ」
二軍の守備が、わずかに形を変えた。
露骨ではない。
だが、三軍がボールを持った時、中央へのパスコースが少しずつ消されていく。
赤城に入れたい。
だが、そこには鬼米がいる。
さらに、周囲も締められている。
キソマルは一瞬迷い、ボールを外へ逃がした。
ボールは左サイドへ。
牧廻那の足元に渡る。
「……ウス」
牧は前を向いた。
次の瞬間、加速する。
まただ。
一歩目で、空気が変わる。
二軍の選手が寄せるより早く、牧はボールを前へ運んでいた。
「速ぇ……!」
三軍ベンチがどよめく。
ピッチの外で見ていた一軍の選手たちも、再び牧の突破に目を奪われた。
牧は敵陣の浅い位置で顔を上げる。
中央には赤城。
鬼米が、その赤城に身体を寄せている。
牧は迷わず左足を振った。
再び、アーリークロス。
鋭いボールが赤城へ向かう。
だが、そのボールが赤城に届く前に――。
三島が、そこにいた。
「……やっぱり」
三島は落下地点へ先に入り、冷静に胸で受ける。
赤城に渡るはずだったクロスは、三島の足元に収まった。
鬼米が目を剥く。
「おい、三島! 俺の勝負の邪魔すんな!」
三島は表情を変えずに返した。
「現実的に、勝負になる前に取りました」
「んだと?」
鬼米が一瞬、黙る。
三島はすぐに前を向いた。
前線では、柴山が顔を出している。
三島は余計なことを言わず、柴山の足元へ正確な縦パスを入れた。
柴山がボールを受ける。
その瞬間、柴山の声が飛んだ。
「上がってこい、鬼米」
鬼米の目が動く。
考えるより先に、身体が反応した。
柴山が何を狙っているのか。
細かい理屈までは分からない。
だが、本能で理解した。
三軍のサイドバックが上がっている。
左サイドに、三軍の守備の要がいない。
――そこを突けということだ。
鬼米は、勢いよく前へ駆け出した。
次回もお楽しみに!




