第51話 重戦車、再び
鬼米は、二軍キャプテンの柴山へ歩み寄った。
「柴山さん」
柴山は顔をしかめる。
「……なんだ」
「俺に、もう一回あいつをやらせてください」
「赤城をか?」
「はい」
鬼米は、赤城を睨んだまま答えた。
「次は突っ込みすぎません。あいつは俺の勢いを使ってかわした。だったら、今度は勢いを殺してぶつかればいい」
柴山の眉間に皺が寄る。
「今ので分かったと思うが、赤城は只者じゃない。現にお前をかわしたあの動き、次もやられて止められる保証はないだろ、それでもサシでいくというのか?」
「やられっぱなしは、性に合わないんで」
鬼米は拳を握った。
「それに、突っ込みすぎなければ、俺が負けるわけないです。技術があろうが、駆け引きがあろうが、最後に身体を当てれば俺の方が強い」
グラウンドの外で見ていた守谷が、小さくため息をついた。
「出たな、鬼米の悪い癖」
隣にいた小曽根も、腕を組んだままうなずく。
「……そうだな」
守谷は続けた。
「あいつ、強い相手を見ると、すぐサシで潰したがる。一軍の試合でも何度かあった。そのたびに俺か監督がなだめてきた」
小曽根はピッチの鬼米を見たまま、短く息を吐く。
「ま、ああいう奴だからな」
森本監督も、鬼米の様子を静かに見ていた。
「……悪い癖だな」
吉澤コーチが隣から尋ねる。
「止めますか?」
森本監督は腕を組んだまま、すぐには答えなかった。
ピッチの中では、柴山が鬼米を睨んでいる。
「鬼米。これはお前の喧嘩じゃない。カテゴリ戦だ。チームの試合だ」
「分かってます」
「なら、サシで止めることにこだわるな。ここからは安全に赤城には二枚で対応する」
鬼米は一歩も引かなかった。
「お願いします。あいつを止めたいんです」
「二枚で挟めばいい。普通に考えれば、それが一番確実だ」
「それじゃ意味ないです」
「意味?」
鬼米は低い声で言った。
「あいつに一回やられたのは俺です。だったら、俺が返します」
柴山は舌打ちした。
さっきのゴールを見る限り、赤城零はただの一年ではない。
むしろ、二軍全体で警戒すべき相手だ。
だが、鬼米の目はもう完全に赤城しか見ていなかった。
ここで無理に抑え込めば、逆に守備の集中を欠く可能性もある。
柴山は深く息を吐いた。
「……分かった」
鬼米の表情が、わずかに明るくなる。
「ただし、条件がある」
「なんですか」
「サシは許す。だが、突っ込みすぎるな。抜かれた時のカバーは三島が入る。中央のスペースは全員で締める。お前が赤城を見る間、チーム全体で赤城の逃げ道を消す」
三島が、暗い顔のままうなずいた。
「……まあ、それが現実的ですね」
柴山は鬼米に鋭い視線を向ける。
「勘違いするな。お前一人に任せるんじゃない。お前を中心に守るだけだ」
鬼米はニヤリと笑った。
「十分です」
柴山は、もう一度だけ念を押す。
「熱くなりすぎるなよ」
「大丈夫です。次は、ちゃんと見て潰します」
鬼米は、再び赤城へ視線を戻した。
さっきは勢いを利用された。
なら、次は勢い任せには行かない。
距離を詰める。
身体を当てる。
そして、最後はパワーで潰す。
鬼米の中では、まだ答えは変わっていなかった。
自分の力が通用しないはずがない。
突っ込みすぎなければ、負けるはずがない。
次回もお楽しみに!




