第45話 全力でぶっ潰します
一方、二軍ベンチ前。
三軍とは違い、そこには落ち着いた緊張感が漂っていた。
二軍のキャプテン、三年の柴山は、手元のメモを見ながら選手たちを集めていた。
表情は冷静。
だが、その目は三軍側のアップを何度も確認している。
特に、一年のFW赤城零。
軽いパス回し。
身体の向き。
ボールを受ける前の首振り。
走り出す一歩目。
どれも、三軍の選手とは明らかに違っていた。
さらに、三軍の三年からも話を聞いている。
紅白戦で赤城が何をしたのか。
横田たちを相手に、どれほど異質なプレーを見せたのか。
そして、とんでもないシュートまで放ったこと。
柴山は、そこまで聞いてなお、話を盛っているとは思わなかった。
なぜなら――。
今のアップを見れば分かる。
あの一年は、普通ではない。
「まず、確認する」
柴山は、全員を見渡した。
「三軍だからといって油断するな。特にあそこにいる一年、名前は赤城零というらしい。あいつは要注意だ。三年の中でも噂になっててな、化け物みたいな一年が三軍にいるって」
二軍の選手たちの視線が、三軍側へ向く。
赤城は、表情を変えずにボールを受けていた。
柴山は続ける。
「前線でボールが入ったら、簡単に前を向かせるな。足元で受けさせた時点で危険だ」
一度、言葉を切る。
「周囲の選手も、赤城に集まりすぎるな。あいつを囮にして、サイドを使ってくる可能性もある」
作戦は淡々としている。
だが、細かい。
三軍を下に見ている雰囲気はなかった。
「赤城には、三島と鬼米で対応する」
その言葉に、一人の一年生がわずかに肩を動かした。
三島。
二軍にいる数少ない一年生の一人。
身長百八十二センチ。
大柄な体格に反して、ボールタッチは柔らかい。
後方からのロングフィードと足元の技術に優れ、守備力もそこそこある。
そして――性格は暗い。
三島は少し伏し目がちに、ぼそりと呟いた。
「……俺と鬼米さんで、ですか」
「そうだ」
柴山はうなずく。
「赤城は一人で見るには危険だ。お前が距離を取ってコースを切り、鬼米が潰す」
「現実的ですね……」
三島は、小さく息を吐いた。
「一対一で止めるとか言い出すより、ずっとマシです」
その瞬間。
隣に立っていた鬼米鉄が、ぐっと拳を握った。
「いや、俺がサシでやります」
三島の目が、ゆっくり鬼米へ向く。
「……言い出した」
鬼米は、赤城を見ていた。
その目は、完全に燃えている。
「あいつ、面白そうじゃないっすか。一年で、あの動き。だったら俺が正面から止めます」
柴山は眉をひそめる。
「鬼米。相手を甘く見るな」
「甘く見てないっす」
鬼米は即答した。
「だからサシでやりたいんすよ。全力でぶっ潰します」
三島が、少しだけ後ろへ下がる。
「……暑苦しい」
鬼米が振り向く。
「なんか言ったか、三島」
「いえ。現実的じゃないなと思っただけです」
「現実なんてもんは、ぶつかって変えるもんだろ」
「いや、そういう精神論が一番苦手です……」
三島は、心底面倒くさそうに目を伏せた。
柴山は深く息を吐く。
「鬼米。気持ちは分かった。ただし、最初だけだ」
「最初だけ?」
「序盤はお前に任せる。だが、危険だと判断したら三島と二枚で対応する」
鬼米は少し不満そうにしたが、すぐにうなずいた。
「分かりました。最初でぶっ潰します」
「だから、ぶっ潰すな。止めろ。監督にも言われてるだろ。」
柴山の訂正に、二軍の何人かが苦笑した。
三島だけは笑わず、赤城の方を見ていた。
「そんな厄介な奴を一対一で止めに行くとか、本当に理解できない」
小さな声。
三島の目にも警戒はあった。
ウォーミングアップ中の赤城の動きは、見れば見るほど嫌だった。
柴山が最後に全員へ声をかける。
「いいか。これはカテゴリ戦だ。上にいる俺たちが、下の相手に飲まれるわけにはいかない」
二軍の選手たちが顔を上げる。
「相手が三軍でも、勢いに乗らせれば厄介だ。最初の十分で主導権を握る。甘く入るな」
柴山は手を差し出した。
「円陣」
選手たちが集まる。
鬼米は、誰よりも強く肩を組んだ。
「勝つぞ」
柴山の声に、二軍の選手たちが応える。
「おおっ!」
その中で、鬼米だけがひときわ大きな声を張り上げた。
「全員まとめてぶっ潰すぞおおお!」
「いや、勝つぞでいいですよね…」
三島が小さく呟く。
その熱さに、少し引いている。
だが、鬼米は気にしない。
拳を握り、すでに戦う相手を見据えていた。
――その視線の先にいるのは、三軍の一年生。
赤城零。
そして、試合開始の笛が鳴ろうとしていた。
次回、白熱のカテゴリ戦キックオフ! 次回もお楽しみに!




