第44話 「カテゴリなんて、ただの名前だ」―三軍、出陣!
三軍ベンチ前。
試合開始が近づき、三軍の選手たちは小さな円を作って集まっていた。
カテゴリ戦では、基本的に出場メンバーや配置は選手たちで決める。
試合に入る前の判断は、選手たちに委ねられていた。
中心に立つのは、キャプテンになったばかりのキソマル。
手元のメモを見ながら、少し緊張した様子で口を開いた。
「えっと……スタメンは、話し合った通りでいく」
全員の視線が集まる。
「赤城がワントップ。左サイドバックに牧。ボランチは俺。右サイドは田宮。中盤は……」
名前を呼ばれた選手たちが、それぞれ小さくうなずく。
牧は少し硬い表情で、
「ウス」
と短く返した。
鶴見はベンチ側で拳を握っていた。
スタートはベンチ。
悔しさがないわけではない。
だが、納得はしていた。
キソマルを中心に、全員で話し合って決めたことだった。
前半は赤城を中心に攻める。
そして流れを見て、後半にサブ組を投入する。
それが、今の三軍が勝つために出した答えだった。
キソマルは続ける。
「作戦はシンプルにいこう。前半の入りは、とにかく赤城にボールを集める」
誰も反対しなかった。
数日前なら、一年の赤城にそこまで託すことに、戸惑う者もいたかもしれない。
だが、今は違う。
三軍内紅白戦。
その後の練習。
一対一。
シュート練習。
この数日で、三軍の選手たちは全員理解していた。
赤城零は、三軍にいる選手ではない。
いや――。
三軍どころか、高校生の中に混じっていること自体が不自然なほど、明らかにレベルが違う。
だからこそ、誰かが言ったわけでもなく、全員の中に同じ考えが生まれていた。
――赤城に預ければ、何かが起きる。
キソマルは赤城を見る。
「赤城。前半はかなり負担をかけることになると思う」
赤城は静かにうなずいた。
「問題ありません」
その一言だけで、不思議と周囲の空気が引き締まる。
赤城は全員を見渡した。
「俺にボールをくれれば、必ずチームのためにゴールを狙います。」
言い切った。
迷いのない声だった。
何人かの選手が、ごくりと息を呑む。
だが、赤城はそこで終わらなかった。
「ただし、俺に集め続ければ、相手のマークは必ず俺に集中する」
キソマルが小さくうなずく。
赤城は続けた。
「そうなれば、空く場所が出る。特に両サイドだ」
赤城の視線が、牧と田宮へ向く。
「牧。田宮。俺に相手が寄ったら、迷わず前へ出ろ。相手の目線が俺に向いた瞬間、サイドは必ず空く」
牧は、一瞬だけ目を見開いた。
自分の名前を、赤城がはっきり呼んだ。
それだけで、胸の奥が少し熱くなる。
「ウス……!」
田宮も力強くうなずく。
「分かった!」
赤城は、さらに言った。
「中央から崩せない時は、サイドを使う。サイドが警戒されれば、また中央が空く。俺ひとりで勝つ必要はない」
その言葉に、選手たちの表情が変わる。
赤城は、自分に集めろと言った。
だが、自分だけで決めるとは言っていない。
自分を囮にしてでも、チームで勝つつもりでいる。
キソマルは、少しだけ驚いたように赤城を見ていた。
そして、柔らかく笑う。
「うん。俺が言いたかったことは全部赤城が言ってくれた。ありがとう。」
鶴見がベンチから声を出す。
「前半、頼んだぞ!」
赤城は鶴見を見る。
「鶴見!後半必ずお前の出番が来る!準備しておけ」
「もちろん!頼むぞ零!」
鶴見は強く拳を握った。
スタメン落ちで少し気落ちしていた気持ちが引き締まった。
キソマルが両手を軽く叩く。
「よし。じゃあ、最後に円陣組もう」
三軍の選手たちが肩を組み、円になる。
普段のキソマルは、頼りないところがある。
声も大きくない。
誰かを強く引っ張るようなタイプでもない。
だが、この時だけは違った。
キソマルは顔を上げ、全員を見た。
「俺たちは三軍だ」
静かな声だった。
それでも、不思議と全員の耳に届いた。
「でも、三軍だから負けていいわけじゃない。三軍だから諦めていいわけでもない」
選手たちの肩に力が入る。
「今日の相手は二軍だ。強い。俺たちより上にいるチームだ」
キソマルは、一度息を吸った。
「でも、試合になれば関係ない」
その声が、少しだけ強くなる。
「今このピッチに立つなら、カテゴリなんてただの名前だ。上に行きたいなら、勝って証明しよう」
赤城が静かに目を細める。
鶴見が拳を握る。
牧が小さく息を吸う。
キソマルは最後に、いつもより大きな声で言った。
「勝つぞ!」
「おおっ!」
三軍の声が、グラウンドに響いた。
――そして。
二軍対三軍。
三軍の下剋上を懸けた試合が、いよいよ始まる。
チームスポーツの試合前の円陣の雰囲気がとても好きです。今回はそれをうまく表現できるように心がけました。さあ、やろうぜ三軍! 次回もお楽しみに!




