第39話「味方を勝たせろ」 天才MFに監督が告げたこと
そこに立っていたのは、森本靖典監督だった。
無表情。
だが、その目は明らかに冷たい。
大神は、ぎこちなく首だけを動かす。
「……あ、監督。いつからそこに?」
「青砥が小曽根に『実力は俺の方が上』と言ったあたりからだ」
空気が凍る。
青砥が、わずかに目を逸らす。
小曽根も気まずそうに口を閉じた。
森本監督は大神を見た。
「それで、今は何をしていた」
「えーっと……チームの雰囲気をですね、こう、明るくしようと……」
「ふざけていたのか」
「……はい、少しだけ」
「試合後のミーティング中にか」
大神は、即座に姿勢を正した。
「すみませんでした」
森本は、それ以上大神を責めなかった。
今度は、青砥へと視線を向ける。
「青砥」
「……はい」
青砥の返事は小さい。
「お前の言ったことには、正しい部分もある。決定機を外したことは反省すべきだ」
小曽根を含む攻撃陣の表情が引き締まる。
だが、森本の言葉はそこで止まらなかった。
「だが、お前にも反省点はある」
青砥の眉が、わずかに動く。
「俺にですか」
「そうだ」
森本は、淡々と続ける。
「今日もお前のパスは、質だけ見れば高かった。ほぼ完ぺきと言ってもいい。だが、味方の状態を見ていない場面があった」
青砥の表情が固まる。
「走り出しが半歩遅れた味方に、最高速度で合わせるパスを出す。相手DFを背負ったFWに、足元ではなくスペースへ強いボールを出す」
森本は、一度言葉を切った。
「……あれは、味方を生かすパスではなく、味方を試すパスだ」
青砥は、唇を結んだ。
「全国で勝つために必要なレベルです」
「違う」
森本の声が、短く響いた。
「全国で勝つために必要なのは、味方を置き去りにすることではない」
一瞬の沈黙。
そして――。
「味方を勝たせることだ」
青砥は、不満そうに視線を落とす。
「……はい」
その返事には、納得しきれていない色が明らかに滲んでいた。
森本は、次に小曽根と攻撃陣を見た。
「ただし、攻撃陣も青砥の言葉を、ただの生意気で片づけるな」
小曽根の背筋が伸びる。
「はい」
「今日の決定機のうち、最低でもあと二本は決めなければならなかった。全国を目指すチームの前線なら、外していいチャンスではない」
森本の声は静かだった。
だが、重い。
「青砥の態度は問題かもしれない。だが、青砥に言われて腹が立つなら――点をきめろ」
小曽根は、奥歯を噛みしめる。
「……はい」
「攻撃陣全員だ。パスが難しかった、タイミングが合わなかった。それで終わるな」
森本は、一人ひとりを見渡した。
「決めるために、何が足りなかったのかを考えろ」
一軍の選手たちは、黙ってうなずいた。




