第37話 三軍の新体制、それぞれの武器が見えてきた
続いて、牧が守備側に入った。
相手は二年生のサイドアタッカー。
牧は少し緊張したように肩をすくめる。
「ウス……お願いします」
笛が鳴る。
相手の二年生は、細かいタッチで仕掛けた。
右へ揺さぶり、左へ切り返す。
牧は、一歩目で飛び込まなかった。
相手の上半身ではなく、軸足を見る。
次に、どちらへ抜けるのか。
相手の足の向き。
視線。
それらを拾うように、牧は静かに距離を保つ。
そして――。
相手が勝負に出た。
縦へ抜けようとした瞬間、牧が半歩だけ前へ出る。
その足が、ボールだけを正確に突いた。
――パシッ。
ボールが相手の足元から離れる。
牧が、カットした。
「おおっ!」
一年生たちから声が上がる。
「牧、ナイス!」
牧は少し驚いたようにボールを見た。
それから、小さく頭を下げる。
「ウス……」
佐々木コーチの目が鋭くなる。
「牧もいい」
吉澤コーチが頷く。
「守備の間合いが上手い。派手に奪いに行かないのに、最後だけ正確に足が出る」
「攻撃参加だけじゃないな。あれだけ相手の動きを見られるなら、サイドバックとして相当伸びる」
佐々木は、少し間を置いてから言った。
「赤城と牧。この二人は、もう三軍で見る選手じゃない。少なくとも二軍で試す価値がある」
吉澤は赤城を見る。
「赤城に関しては、二軍どころか一軍でも……いや」
言いかけて、少し言葉を選ぶ。
「全国トップクラスの相手にぶつけて、どこまでやれるか見たいレベルだな」
その評価は、決して大げさではなかった。
そして――。
次は、鶴見の番だった。
攻撃側に立った鶴見は、深く息を吸う。
目の前には二年生の守備。
赤城のようにはいかない。
それでも――負けていられない。
赤城は、もう先を走っている。
牧も、自分の武器を見せ始めている。
自分だけ置いていかれるわけにはいかない。
笛が鳴る。
鶴見は、ボールを前へ運んだ。
相手が距離を詰める。
鶴見は、一度身体をぶつけるようにして、強引に左へ持ち出した。
完全に綺麗な突破ではない。
だが――気持ちで前に出た。
「おっ!」
相手の二年生が、一瞬遅れる。
鶴見は抜けた。
「いけ、鶴見!」
誰かが叫ぶ。
鶴見はゴールを見る。
そして――。
右足を振り抜いた。
だが、力が入りすぎた。
――バンッ!
ボールはゴールの上を大きく越えていく。
「ああああっ!」
鶴見は頭を抱えた。
「今のは決めろよ、俺!」
悔しさで顔を歪める。
抜けた。
でも、決めきれなかった。
赤城なら、決めていた。
鶴見は、拳を握る。
まだ足りない。
全然足りない。
赤城と一緒にプロを目指すと決めた。
零にもう一度会うために、上へ行くと決めた。
だったら――。
こんなところで苦戦している場合じゃない。
「くそ……もう一本お願いします!」
鶴見が顔を上げる。
その声には、悔しさと同時に熱があった。
キソマルが、すぐに声をかける。
「いいよ、鶴見。抜くところまではよかった。最後は力んだだけ。切り替えていこう」
「はい!」
「今の失敗、次に使えばいい。落ち込むより、もう一本だ」
キソマルの声は優しかった。
だが、甘やかしているわけではない。
ちゃんと見て、ちゃんと次へ向かわせる声だった。
練習は、その後も続いた。
赤城が圧倒的な技術を見せるたびに、周囲がどよめく。
そして鶴見は、何度も失敗しながら、それでも声を出し、走り続けた。
やがて――。
練習終了の笛が鳴る頃には、選手たちは全員汗だくになっていた。
鶴見は膝に手をつきながら、息を切らして笑う。
「……きっつ。でも、なんか今日、ちゃんとサッカーしたって感じするわ」
牧が小さく頷く。
「ウス……楽しかった」
赤城は、静かにグラウンドを見渡した。
以前とは違う。
誰もがボールを追い、声を出し、失敗しても次へ進もうとしている。
そして――。
「三軍は、変わり始めている」
赤城は、そう感じていた。
次回もお楽しみに!




