第35話 三軍、再始動――新キャプテン・キソマル
キソマルは少し緊張したように、自分の胸に手を当てる。
「俺自身も、正直いきなりキャプテンって言われてびっくりしてます。たぶん、みんなの方がもっとびっくりしてると思うけど……」
そこで、少しだけ周囲を見渡す。
「というか、今の反応を見る限り、そもそも俺のことあんまり覚えてなかったみたいだけど……」
最後の方だけ、少し声が小さくなった。
鶴見が慌てて口を開く。
「い、いや! 今覚えました!」
「今なんだ……」
キソマルは、がっくりと肩を落とす。
その反応に、一年生たちの間から小さな笑いが漏れた。
キソマルも苦笑しながら、気を取り直すように顔を上げる。
「でも、任された以上はちゃんとやります」
声は大きくない。
だが、不思議と聞き取りやすかった。
「俺は横田みたいに強く引っ張るタイプじゃないし、プレーでめちゃくちゃ目立つタイプでもない。正直、選手としても普通だと思う」
キソマルは、少し照れくさそうに笑った。
「でも、普通のことをちゃんとやるのは、たぶんできる」
そして、一年生たちを見渡す。
「みんながボールを触れて、ちゃんと練習できて、困った時に相談できる。そういう三軍にはしたいと思ってる」
そこで、キソマルは軽く頭を下げた。
「だから、これからよろしくお願いします」
牧は、小さく頭を下げる。
「ウス……よろしくお願いします」
キソマルは、優しく頷いた。
「よろしく、牧。カテゴリ戦、頑張ろうな」
牧は自分の名前を呼ばれて、少し驚いたように顔を上げた。
「……俺の名前、知ってるんですか」
「もちろん。紅白戦、すごくよかったよ。左サイドの上がり、見てた」
牧の目が、わずかに揺れた。
自分のプレーを見てくれていた。
それだけのことが、牧には少し意外だった。
キソマルは続けて、赤城と鶴見にも視線を向ける。
「赤城も、鶴見も。カテゴリ戦メンバーに入った以上、ここからが本番だから」
鶴見は拳を握る。
「はい!」
赤城は静かに頷いた。
「分かっています」
キソマルは、少しだけ安心したように笑った。
そして最後に――。
パン、と軽く手を叩く。
「じゃあ、今日から三軍は少し変わります」
一年生たちの視線が集まる。
「まずは基礎練習。そのあと、カテゴリ戦メンバーは別メニューで確認。全員、ちゃんとボール触るから安心して」
その言葉に、一年生たちから小さなどよめきが起こった。
「ボール触れる……!」
「普通のことなのに嬉しいな……」
鶴見が笑う。
「なんか、やっと部活って感じだな」
その言葉に、周囲からも小さな笑いが起こった。
赤城も、静かにグラウンドを見渡す。
夕方の風が、土の匂いを運んでくる。
少し前まで、三軍にはどこか諦めたような空気が漂っていた。
だが――。
今は違う。
ほんの小さな変化。
それでも確かに、三軍の空気が変わり始めていた。
三軍が再始動した!次回もお楽しみに!




