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第34話 誰も知らない三軍の新キャプテン

激闘の三軍内紅白戦の翌週。


放課後の三軍グラウンドには、いつもと少し違う空気が流れていた。


赤城、鶴見、牧を含めた一年生たちが集まると、そこには見慣れない二年生が一人、立っていた。


いや、正確には――。


見たことがあるような気もする。


だが、はっきりと思い出せる者は少なかった。


やや細身で、表情は穏やか。


声も大きくなく、立っているだけで周囲を圧倒するような雰囲気もない。


その二年生は、少し困ったように笑いながら、全員の前に立った。


「えーっと……今日から三軍のキャプテンを任されることになりました。二年の木曽野丸です」


一瞬、沈黙が落ちる。


「木曽野丸……?」


「誰だっけ……?」


「二年生だよな?」


一年生たちの間で、小さなざわめきが広がった。


木曽野丸は、それを聞いても怒るどころか、苦笑いを浮かべた。


「まあ、そうなるよね。俺、あんまり目立つタイプじゃないし」


そう言って、少し照れくさそうに頭をかく。


「名前も長いから、みんなからはキソマルって呼ばれてる。君たちも、よかったらキソマルって呼んでくれ」


その言い方があまりにも柔らかくて、一年生たちは少しだけ拍子抜けした。


キソマルは続ける。


「一応、俺もカテゴリ戦のメンバーに入ってる。だから、一緒に戦うことになると思う。よろしく」


その言葉に、一年生たちはさらに顔を見合わせた。


「カテゴリ戦メンバー……?」


「え、いたっけ?」


「紅白戦、出てた?」


「二、三年チームにいた……ような?」


キソマルの笑顔が、ほんの少しだけ固まった。


「……うん。いたんだけどね」


その声は穏やかだったが、少しだけ落ち込んでいた。


鶴見が気まずそうに、赤城へ小声で聞く。


「零、覚えてる?」


赤城は少し考えてから答えた。


「覚えている」


「マジで?」


「ああ。後半の終盤、あの人が入ってから、相手の守備が少し安定した」


「そうなのか?」


「中央の空いた場所を埋めていた。派手ではないが、嫌なところにいた」


鶴見は目を丸くする。


「そんなとこまで見てたのかよ……」


すると、近くにいた上級生が、一年生たちにだけ聞こえるくらいの声でぽつりと言った。


「木曽はさ、前から横田のやり方に反対してたんだよ」


赤城たちが、そちらを見る。


その上級生は、キソマルに聞こえないように少し声を潜めた。


「一年に走りばっかさせるのは違うって、何度も言ってた。でも横田に煙たがられて、試合でもあんまり使われなくなった」


「え……」


鶴見がキソマルを見る。


キソマルは、少し離れたところで資料を確認している。


その顔に、不満や怒りはない。


「本人は、単に自分の実力不足だって言ってるけどな」


上級生は苦笑する。


「そういう人なんだよ。あいつは」


その言葉に、一年生たちは少しだけ黙った。


派手な選手ではない。


大きな声で誰かを責めるタイプでもない。


でも、見えないところで、ちゃんと誰かのために動いていた。


キソマルは一度咳払いをして、改めて全員を見る。


「それで、まず報告です」


一年生たちの視線が、キソマルへ集まる。


「横田の件は、森本監督にも報告されました。横田と数人は、二週間の部活動停止になっています」


一年生たちの間に、ざわめきが走った。


「二週間……」


「あの件、ちゃんと監督まで行ったんだ……」


キソマルは、少しだけ表情を曇らせる。


「もちろん、やったことは駄目だと思う。でも、横田達も根が悪いやつってわけじゃないんだ」


一度、言葉を選ぶように間を置く。


「上に行きたい気持ちが強すぎて、やり方を間違えたんだと思う」


誰も、すぐには返事をしなかった。


キソマルは、慌てたように少し笑う。


「いや、だから許してくれって話じゃないよ」


「ただ、同じチームだからさ」


その声は、どこまでも穏やかだった。


「戻ってきた時に、またちゃんとサッカーできるようにしたいと思ってる」


その言葉に、鶴見は少しだけ目を伏せた。


優しい人だと思った。


あれだけ嫌な思いをしてきたはずなのに――。


横田のことまで気にしている。


キソマルは穏やかな声のまま、さらに続けた。


「それと、今後は二軍の佐々木コーチが三軍の練習も時々見に来ることになりました」


一年生たちが顔を上げる。


「三軍だからって、放置されるようなことは減ると思う」


その言葉に、一年生たちの表情が少し明るくなった。


まともに練習できる。


ただ、それだけのこと。


それだけのことなのに――。


三軍の空気が、少しずつ変わり始めていた。


新章突入、この章はいよいよカテゴリ戦が始まります!世界一のストライカーが、高校サッカーの2軍に挑む!次回もお楽しみに!

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