第33話 【番外編その1・後編】 目覚めた僕は、世界一のストライカーになっていた
次に目を開けた時――。
見知らぬ天井があった。
「……ここ、どこ?」
身体を起こそうとする。
すると――。
「クリス!」
突然、目の前の女性が僕に抱きついてきた。
「えっ!?」
外国人。
金色の髪。
見たことのない女性だった。
その後ろには、小さな男の子もいる。
「パパ!」
男の子が嬉しそうに叫んだ。
「……え?」
何が起きているのか分からない。
女性は泣きながら、僕を抱きしめている。
「よかった……本当によかった……!」
「ちょ、ちょっと……」
僕は慌てて身体を離した。
すると女性は、すぐに看護師へ声をかけた。
「主人が目覚めました!」
看護師が慌ててこちらへ駆け寄ってくる。
「本当に? 先生を呼んで!」
「待ってください!」
僕は混乱しながら女性を見る。
「あなたは……誰ですか?」
女性の表情が固まった。
「……え?」
「ここは……どこですか?」
女性の顔から、みるみる血の気が引いていく。
「私よ……リミアよ」
「リミア……?」
「リミア・レッド。あなたの妻よ」
「……妻?」
僕は思わず後ずさった。
「あなたはクリスよ。クリス・レッド。分かる?」
女性は必死だった。
「試合中に倒れたの。覚えてる?」
「試合……?」
何の話をしているのか分からない。
僕は震える声で答えた。
「……僕は、赤城です」
「……アカギ?」
「赤城零です」
女性が困惑する。
「何を言っているの……? あなたはクリスよ。クリス・レッド」
「違います!」
自分でも分かる。
僕は赤城零だ。
クリス・レッドなんて、憧れているだけの選手だ。
それなのに――。
「僕は……赤城零です」
女性は、何も言えなくなった。
その時、病室へ医師が入ってきた。
「クリスさん、分かりますか?」
「違います」
僕は即座に答えた。
「僕はクリスじゃない。赤城零です」
医師は僕の顔を見つめた。
そして、少し困ったような表情になる。
「……なるほど」
「先生……?」
リミアが不安そうに尋ねる。
医師は少し考えてから口を開いた。
「記憶障害を起こしている可能性があります」
「記憶障害……?」
「脳に何らかのダメージがあった可能性も考えられます」
「そんな……」
リミアの目から、涙がこぼれた。
「大丈夫です。まずは詳しい検査をしましょう」
医師は看護師へ指示を出す。
「すぐに脳の検査を」
僕は何も分からないまま、ベッドの上で呆然としていた。
クリス・レッド。
僕がずっと憧れていた、世界最高のストライカー。
その名前が――。
なぜか、今の僕自身として扱われている。
何が起きているんだ。
僕は、いったい――。
誰なんだ?
◆
それから三日後。
世界中のニュースサイトに、同じニュースが流れた。
――クリス・レッド、意識戻る。
――ワールドカップ決勝で倒れた世界最高のストライカー、意識を取り戻す。
―― 一方で、記憶障害の可能性も。
世界中が、そのニュースで騒然となっていた。
そして、日本。
赤城家。
「零」
母さんが、スマートフォンを見ながら声をかけてくる。
「あなたの好きなレッドが、意識を取り戻したみたいよ」
「……知ってる」
そう答えた。
テレビにも、スマートフォンにも、そのニュースが流れている。
クリス・レッド。
世界最高のストライカー。
意識は戻った。
だけど――。
「記憶障害……か」
「俺」は、ニュース画面を見つめながら呟いた。
そして、静かに目を伏せる。
「まあ……意識は戻ったのか」
その声には、どこか複雑な響きがあった。
「今の俺には……どうすることもできないけどな」
テレビには、世界中から届くニュースが映し出されている。
世界一のストライカー。
クリス・レッド。
そして――。
赤城零の身体の中にいるのは、本来なら、当然赤城零であるはずの意識。
けれど今、その意識は――。
確かに、別の誰かだった。
番外編、後編になります!「番外編その1 世界一の身体、落ちこぼれの魂 編」は一旦完結!
番外編は時間があるときにゆっくり書きます。結構こっちサイドの物語のアイデアが浮かびにくい泣
次回より、零明学園にもどり、新章突入!




