第23話 『逆転まで、あと二点だ』
横田はゴール前で固まっていた。
今、自分はクリアしようとした。
だが、その前に赤城がいた。
遅れて、横田は顔を歪めて笑う。
「……ま、まぐれだろ」
二・三年生たちも、慌てて笑った。
「そうだよ、あんなの偶然だって」
「GKが弾いた場所に、たまたまいただけだろ」
一年生たちの中にも、同じような空気が広がる。
「赤城が決めた……?」
「いや、でも今のはまぐれじゃね?」
「たまたまだろ。あんな反応、狙ってできるわけないし」
だが――。
鶴見だけは違った。
赤城の背中を見ながら、胸の奥がざわついていた。
(違う……まぐれじゃねぇ)
鶴見は知っている。
赤城の中にいる“誰か”が、ただの高校生ではないことを。
その視線。
その判断。
そして、あの一歩目。
あれは偶然じゃない。
(ロングシュートで終わらせる気なんて、最初からなかったんだ)
(GKに弾かせる場所まで見えてた。横田さんがクリアに来るのも、その前に自分が入れるのも……全部、分かってたのかよ)
背筋が震えた。
まるで――。
赤城だけが、別の速度で試合を見ているようだった。
牧廻那もまた、左サイドで呆然と赤城を見ていた。
(今の、セカンドボールへの反応……普通じゃない)
ロングシュートを打ったあと、普通なら足が止まる。
決まるか、外れるか。
誰もが一瞬、ボールの行方を目で追ってしまう。
だが、赤城は違った。
打った瞬間にはもう、次の場所へ走っていた。
GKが弾く前に。
横田が動く前に。
まるで――。
ボールが落ちる未来を知っていたみたいに。
牧は小さく息を呑んだ。
その一方で、横田は無理やり笑みを作り、赤城に近づいた。
「おいおい、まぐれで嬉しいかよ、赤城」
赤城は何も答えなかった。
ただ、ゴールネットから跳ね返ったボールを拾い、センターサークルの方へ歩き出す。
そして、その口が小さく動いた。
「あと二点」
横田の眉が動く。
「……あ?」
赤城はボールを抱えたまま、ゆっくりと横田を見た。
その目は、さっきまでの静かな目ではなかった。
冷たく、鋭く――。
そして、圧倒的な自信を宿していた。
「逆転まで、あと二点だ」
その一言に――空気が変わった。
横田は一瞬、言葉を返せなかった。
目の前にいるのは、さっきまで自分が笑っていた一年。
なのに今、その赤城から放たれる圧に、横田は本能的に一歩引きそうになった。
「……調子、乗んなよ」
そう言った声は、わずかに震えていた。
周囲の部員たちの視線も変わっていた。
まぐれかもしれない。
偶然かもしれない。
それでも――。
今のゴールは、何かが違った。
赤城零を見る目が、少しずつ変わっていく。
次回もお楽しみに!




