第18話 走りたいのに、走れない
一年生たちは、ほとんどがその場に座り込んだ。
肩で息をし、膝に手をつき、声も出ない。
鶴見も地面に座り込み、汗だくになりながら空を見上げていた。
「はぁ……はぁ……死ぬ……マジで死ぬ……」
牧も近くにしゃがみ込み、黙って呼吸を整えている。
そんな中――。
赤城だけが立ち上がった。
鶴見が目を見開く。
「……おい、赤城?」
赤城は軽く首を回すと、もう一度、外周コースへ向かった。
「増やされた十周分を走る」
「は?」
周囲の一年生たちが、一斉に赤城を見る。
「何言ってんだよ……もう三十本終わっただろ」
「走りが増えたのは、俺の責任だ」
赤城は淡々と言った。
「なら、その分は俺が走る」
鶴見が慌てて立ち上がろうとする。
だが、足に力が入らず、その場でよろけた。
「待てって……お前、もう十分だろ……!」
「十分かどうかは、俺が決める」
赤城はそう言って、再び走り出した。
誰も動けなかった。
さっきまで赤城に文句を言っていた一年生たちも、もう何も言えない。
ただ、信じられないものを見るように、その背中を見つめている。
その中で、牧廻那だけがゆっくりと立ち上がりかけた。
自分も行きたい。
そう思った。
赤城が走っている。
自分のせいだと言って、誰よりも速く走った。
そのうえで、さらに十周を背負おうとしている。
だったら、自分も走ればいい。
そう思った。
なのに――。
牧の視線は、無意識に横田の方へ向いた。
横田は腕を組み、面白くなさそうに赤城を見ている。
その表情を見た瞬間。
牧の足が止まった。
目立てば、また何か言われる。
次の紅白戦で使われなくなるかもしれない。
三軍で、さらに居場所がなくなるかもしれない。
そんな恐怖が、胸の奥からせり上がってきた。
牧は拳を握った。
(……まただ)
動けない。
本当は走れる。
まだ余力はある。
でも――走れない。
赤城の背中は、どんどん遠ざかっていく。
牧は唇を噛んだ。
(俺も……ああなりたい)
赤城のように。
誰かの顔色をうかがわずに。
自分が正しいと思ったことを、まっすぐに選べる人間になりたい。
(でも……なれない)
牧の胸の奥に、悔しさが沈んだ。
その悔しさは、まだ声にはならない。
誰にも届かない。
けれど――確かに、そこにあった。
夕陽に染まるグラウンドを、赤城零だけが走り続けていた。
その姿は、三軍の一年生たちの目に焼き付き、離れなかった。
自分の信念を貫き、周囲の視線を気にせず突き進む強さ、カッコいいですよね
作者である私は、外周は嫌いで、隠れて手を抜いてました(笑)




