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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4247/4270

4247話

 メイジの部隊が被害を受けている間、アーチャーはある程度部隊を立て直すことが出来た。

 それでも使える戦力は、四割ほどといったところだったが。

 しかし、その四割の戦力であっても……いや、四割しか復帰出来なかったからこそなのか、とにかくレイが近付くのを阻止しようと、必死になって動けるアーチャーは矢を射る。

 中には腕に長針が突き刺さっているのに、その怪我を押してでも弓を構えているアーチャーの姿があった。

 だが、そうして射られた矢は、スレイプニルの靴を使って空中を蹴ってアーチャーの部隊に向かっているレイに命中しない。

 これが魔法なら、先程やったように念の為に三角跳びで回避するといったこともしただろう。

 だが、今レイに向かって来ているのは、魔法ではなく矢だ。

 それならわざわざ回避するまでもないだろうと判断し、手にしたデスサイズと黄昏の槍を振るうことによって矢を斬り落とす。

 あるいは……本当にあるいはの話だが、もしアーチャーの部隊がここまで被害を受けていない……そして万全の状態であれば、集中攻撃によってレイを倒すまでは出来ずとも、近づけさせないといったことが出来たかもしれない。

 だが、既にアーチャーの部隊は大きな被害を受けており、とてもではないがこの状況でレイの行動を防ぐといったことは出来ず……


「ギョギャアアアア!」


 不運にも、レイの突っ込んだ先にいたアーチャーが、レイの振るったデスサイズによってあっさりと胴体を切断され、死ぬ。


「さて、虐殺の時間だ!」


 その言葉と共に、レイはデスサイズを振るい、黄昏の槍を突く。

 弓を使うアーチャーもまた、メイジと同じく遠距離に特化した存在だ。

 ……冒険者の中には弓を使いつつも短剣を使って敵を攻撃するといったようなことを出来る者もいるのだが、このアーチャー達にそのような技量はない。


(それでも短剣を持つくらいはしてもいいと思うんだが。……それとも、やっぱり武器と一緒に木から生み出されてるから、アーチャーという個体である以上、短剣を含めて弓以外の武器は持てないとか?)


 その辺りについてはレイも正直どうなのかは分からない。

 そもそも、ここはダンジョンなのだから何が起きてもおかしくはないと、そう思えるのも事実。

 レッドキャップの木という存在も、ダンジョンだからと言われれば納得するしかないのだから。

 ともあれ、敵が弓しかもっておらず、近接戦闘に向いていないのはレイにとっては決して悪い話ではない。

 いや、寧ろ楽な状況であると言えるだろう。

 もっとも、だからといって油断をするつもりはレイにはなかったが。


(それに……)


 アーチャーのうちの数匹をデスサイズで纏めて切断し、黄昏の槍を投擲して数匹を纏めて貫きながら、レイはアーチャーの側にいるリーダーの部隊を見る。

 長剣を手にしたその部隊は、既に動いていた。

 メイジの側にいた部隊は、メイジが全滅するまで動く様子がなかった。

 それはレイの行動に驚いたのか、それとも単純にそのリーダーの部隊の練度が低かったからなのか。

 その辺りは生憎とレイには分からなかったが、それに対してこちらのリーダーの部隊は動き出しが早い。

 こちらに向かってくるリーダーの部隊に対し、レイは黄昏の槍を投擲する。

 真っ直ぐに飛んでいった黄昏の槍は、近付いてくる部隊に向かって突っ込んでいく。

 先頭にいる数匹を爆散させ、続いて後ろにいるリーダー達も爆散させ、貫く。

 それは、近付いて来たリーダー達にとっては、致命的なまでの先制攻撃でもあった。

 ……実際には、リーダーの部隊もレイのこれまでの戦闘から、レイが槍を投擲するというのは見ていた。

 だが、見ていたとしても、実際に自分達がそれを食らうというのは、かなり予想外だったのだろう。

 若干……それが数秒なのか、十数秒なのか、数十秒なのか、もしくは一分程なのか。

 ともあれ、アーチャー達の救出に駆けつけようとしたリーダーの部隊の足が止まった、もしくは緩まったのは間違いない事実。

 そして、レイにとってそれは十分すぎる程に大きな隙であり……


「地形操作!」


 投擲した黄昏の槍を手元に戻すのと同時に、デスサイズの石突きを地面に突き立て、スキルを発動する。

 この土砦の中では、本来なら使うのを控えるべきスキル。

 何しろ、スキル名通りに地形そのものを操作するのだから。

 それは場合によっては土砦そのものを破壊するといったようなことになってもおかしくはなかった。

 ただ、それはつまり土砦の構造……具体的には壁の部分に手を加えず、何もない地面にちょっかいをだすのであれば、問題がないということでもある。

 そしてこのホールは結構な広さを持ち、そのような意味で地形操作を使うに全く問題ないというのが、レイの判断となる。

 もっとも、それはあくまでも建築の素人でしかないレイの判断だ。

 建築の知識的にそれが正しいのかどうかまでは分からなかったが……それでも恐らく大丈夫だろうと、そうレイが思ってスキルを使ったのは間違いない。

 そして生み出されたのは、落とし穴。

 深さ十五m程の落とし穴が、リーダー達の前に生み出される。

 幅も、リーダー達がとてもではないが跳び越えられない程度にはあった。

 とはいえ、レイが咄嗟に作った落とし穴である以上、それは現在レイ達のいる場所を完全に囲んでいる円状の落とし穴という訳ではない。

 勿論、地形操作のスキルの特性を考えると、そのようなことをやろうと思えば出来ただろうが、レイとしてはわざわざそこまでやる必要は感じていなかった。

 それこそリーダーの部隊がレイによって作り出された落とし穴を迂回してくるのなら、それはそれでレイにとっては何の問題もない。

 既にこの場で生き残っているアーチャーは少数だ。

 リーダーの部隊がここに到着するまでの間に、アーチャーが全滅するのは間違いなかったのだから。


「ギャギャ……ギョギャギョ!」


 そんなレイの思惑を知ってか知らずか、あるいは知っていてもここで動かないという選択肢はなかったのか、リーダーの部隊を率いるのだろう個体は、部隊に指示を出して落とし穴を回り込もうとする。


(うん? あのリーダーの部隊を率いている個体、もしかして……本当にもしかしてだが、リーダーという個体の中でも更に上位の個体だったりするのか?)


 そんな疑問を抱くレイだったが、その間もアーチャーの生き残りを次々に殺していく手が止まることはない。

 中には矢を手にしてレイに突き刺そうとする個体もいたりするのだが、アーチャーはあくまでも弓を使うことに特化した個体で、矢を使って近接戦闘をやるといったようなことは全く想定されていないし、当然ながら訓練もされていない。

 先程レイに殲滅されたメイジもそうだったが、自分の役割については十分に能力を発揮出来るものの、その能力が通用しないところ――具体的には今のような近接戦闘――では、メイジやアーチャーは非常に脆かった。

 これが冒険者なら、後衛職であっても何かあった時の為にそれなりに近接戦闘の訓練をしたりするだろうが、メイジやアーチャーにそのようは発想はなかったらしい。


(いやまぁ、メイジやアーチャーとしての純度を高めるという意味では、それも決して間違ってはいないんだけどな。……けど、そもそもレッドキャップ達が何か訓練をしたりするのか? 社会性……というのが正しいのかどうかは分からないが、とにかくモンスターが戦闘訓練をするとか、ちょっと分からないが。……セトは別として)


 アーチャーの首をデスサイズで切断しながら、レイはそんな風に思う。

 ただ、セトも……例えばこのガンダルシアでは冒険者育成校の模擬戦で生徒達を相手に戦ったりしてはいるが、あれはセトの訓練というよりは、生徒達の訓練と言うべきだろう。

 そういう意味では、セトは基本的に実戦主義とでも言うべきか。

 戦いを通して自分がどのように戦うのかというのを練り上げていくタイプだった。

 それがレイから見ても、それらしいと、そのように思えるのは間違いなかった。


「とにかく、あの部隊がこっちに近付いてくるよりも前に、こっちの仕事も片付ける必要があるな。……そう遠くないうちに終わるだろうけど」


 既にこの場で生き残っているアーチャーの数は数匹程度にまで減っている。

 しかも、それらのアーチャーにも万全の個体はいない。

 この状態になってしまえば、生き残っているアーチャー達に出来ることはなく、レイの振るうデスサイズと黄昏の槍によってあっさりと全滅する。

 そうして完全にその場から生きている者が消えたのを確認すると、こちらもまたメイジの時と同じく死体を幾つかミスティリングに収納する。

 今のこのホールの状況を考えると、本当に何が起きてもおかしくはないのだから。

 ……もっとも、地形操作を使って落とし穴を作ったレイがそのようなことを言っても、そこには全く説得力がなかったが。

 もしレッドキャップが人の言葉を理解し、喋ることが出来たのなら、お前が言うな! あるいはお前がそんなことをやるなと、そのように突っ込んでいてもおかしくはない。


「ん? あー……どうするか」


 アーチャーの死体と弓、後は矢を数本ミスティリングに収納したところで、最初の戦いの場に乱入してきたライダー達が現在のレイのいる場所に向かっているのを見て取った為だ。

 どうする?

 レイは少しだけ、この場でどうするべきなのかを考える。

 ここから退避し、ライダー達と距離を取るのはそう難しいことではない。

 ライダー達も狼に乗って移動しているので足は速いものの、それで限定的ながら空を飛べる……いや、空中を蹴って空を跳べるといった表現の方が相応しいのかもしれないが、とにかくそのような移動方法があるので、機動力ではライダー達よりもレイの方が勝っている。

 しかし、勝っているからといってそれはライダー達の機動力を圧倒し、全く意味がない程に違うという訳ではない。

 あるいはここが二十階のような広い草原ならともかく、土砦の中にあるホールといったような場所となれば、機動力が高いとはいえ、どうしても移動出来る範囲は限られてしまう。

 なら、レイが次々に移動しても追ってくるライダー達の対処をここで終わらせておいた方がいいのではないかと、そうレイは思ったのだ。

 それ以外にも、単純にここでライダーの魔石を欲しいという思いがあった。


(というか、ライダーの魔石は……狼に乗ってるレッドキャップの方にあるんだよな? なら、レッドキャップが乗っている狼の方はなんなんだ? ただの動物? いや、けど二十階のような草原ならともかく、地底湖の階層……洞窟なのに、狼? それもあれだけの数が?)


 それはレイにとって素直に疑問だった。

 あるいはライダーである以上は乗っているレッドキャップとセットという扱いになり、そうなるとあの狼も含めてレッドキャップの木から生み出されたのかもしれないと、そのようにも思えるが。

 とはいえ、実際のところどうなっているのかは分からず、もし狼もモンスターなら、もしかしたらそちらにも魔石がある可能性は十分にあった。

 であれば、その魔石を入手する為にもやはりここでライダーは倒した方がいい。

 そう考え、レイはここから移動するのではなく、ここで敵を……ライダーの部隊を待ち受けることにする。


(とはいえ、ライダーとの戦闘にもあまり時間を掛けていられないんだよな)


 アーチャー部隊を救助に来ようとしていたリーダーの部隊が、落とし穴を迂回するべく移動しているのが見える。

 そうなると、ライダーと戦うのに時間を使うと、その間にリーダーの部隊が穴を迂回してここにやって来る可能性は十分にあった。

 それだけではない。

 レイがこの場所にいると知れば、当然ながら他の部隊もレイを倒す為にここに集まってくるだろう。


(それに、あの鳴き声を発した個体もまだ姿を見せていないしな)


 タンク達が混乱していたときに聞こえてきた鳴き声。

 その鳴き声の種類と、ライダー達が乗っているのが狼だと考えれば、恐らくあの鳴き声も狼系のものなのだろうというのはレイにも容易に予想が出来る。

 だが、こうしてライダー達がレイのいる方に向かってきていても、未だに先程の鳴き声を発した個体は姿を現してはいない。


(まさか、ここにいるレッドキャップの全てを倒さないと、出て来ないとか……そんな事はないよな?)


 微妙に不安に思いながらも、レイはデスサイズと黄昏の槍を手に、こちらに向かってくる十匹程のライダーを待ち受けるのだった。

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