4246話
狼に乗ったレッドキャップに気が付くと、レイは周囲にいるタンク、リーダー、槍兵……いや、これまでの流れからしてランサーと呼ぶべきだろうと考えつつ、そんな面々を一瞥しながらデスサイズを振るう。
円を描くようにして振るわれたデスサイズは、その範囲内にいた敵の全てを一撃で切断していく。
もっとも、相手はゴブリンよりも小さなレッドキャップだ。
少し身を屈めながらの一撃なので、体勢的に少し無理があったのは間違いなかったが。
ただ、そんな一撃であってもレッドキャップに耐えられる筈もなく、タンク、リーダー、ランサー関係なく切断されて死んでいくのだが。
(というか、ランサーと呼ぶならリーダーという呼び名も……いや、今更か。リーダーはリーダーでいいとして、あっちの騎兵……ライダーをどうするかだな)
人でもそうだが、騎兵というのは基本的に精鋭だ。
狼に乗ったレッドキャップのライダーもまた、精鋭なのは間違いなかった。
とはいえ、精鋭であっても騎兵……ライダーにとってこのような戦場は決して得意な場所ではない。
標的であるレイがこうしているのも事実だが、そのレイの周囲には多数の味方がいるのだから。
もしこの状況でライダーが突っ込んで来たら、それはレイにとっても厄介だったが、レイ以上に味方に被害が出るだろう。
なので、こうしてライダーが姿を現したものの、それはあくまでも味方に対する督戦隊的な役割、あるいは味方にライダーという強力な援軍が来たと安堵させる為で、レイにも敵の援軍が来たということで動揺させようと思っての行動なのだろうと予想出来た。
つまり、レイにしてみれば直接自分のいる戦場に突っ込んで来るようなことはないだろうと。
……勿論、それはあくまでも今この状態であればの話だ。
もしレイが相手に大きな隙を見せるようなことでもあったら、恐らくその時はライダー達も機を逃すことなく攻撃に……
「って、マジかよ!?」
そんなレイの予想を裏切るように、狼に跨がったレッドキャッ……ライダー達は躊躇することもなく、戦場に突っ込んで来る。
当然ながら、そうなればレイはともかく、レイの周囲にいるレッドキャップ達にも大きな被害が出る。
だが……ライダー達は、そんなのは知ったことではないと、真っ直ぐレイに向かって突っ込んできた。
当然ながら、途中にいるリーダーやランサーは吹き飛ばし、唯一フルプレートメイルを着ているのもあってか、タンクにはぶつかると自分達の被害の方が大きいと思い、回避してはいる様子だったが。
レイにとっては不幸なことに、そしてライダー達には幸運――という訳でもないのだろうが――なことに、これまでの戦闘でタンクの多くが既に死んでおり、ライダーの突撃の邪魔になるタンクの数は多くない。
あるいは、だからこそこちらに向かって突っ込むといった選択をしたのかもしれなかったが。
どちらにせよ、レイにしてみれば厄介極まりない行動を取られたのは間違いなく……
「飛斬!」
遠距離攻撃に向いたスキルを発動し、同時に左手の槍も投擲する。
乗っている狼の機動性を重視する為なのだろう。
上に乗っているライダーは、鎧を身につけているものの、それは金属製ではなく革製だ。
……あれもまた、レッドキャップの木から生まれた時に既に装備していた防具だとすれば、それが一体何の革なのかは少し気になるレイだったが。
(いや、というかライダーの場合、乗っている狼はどこから連れてきたんだ? もしかして、ライダーとして生まれた時に乗っている狼も一緒に生まれるとか?)
ふと、そんな疑問を抱くレイだったが、今はそれより先にやるべきことがあると、その件について頭の中で忘れておく。
「グギャアアアアアッ!」
レイが黄昏の槍を投擲し、飛斬を使ったのを見たことにより、これが絶好のチャンスだとでも思ったのか、ランサーがレイに向かって槍を突き立てんとしてくる。
「奇襲をするのに、声を上げる馬鹿がいるか」
呆れながらそう言うと同時に、振り向きざまにデスサイズを振るう。
レイに突き立てようと思っていた槍が、一瞬にして切断され、手首を返すことによってもう一度振るわれたデスサイズの刃によって、ランサーは胴体を切断される。
そんなレイの行動の一体どこが気に障ったのか、あるいは単純にこれまで大量に仲間が殺されたので我慢の限界が来たのか、もしくはライダーが応援に駆けつけたからか……もしくはそれら全てか。
ともあれ、レイに向かって突っ込んでくる、タンク、リーダー、ランサー。
そんな相手を面倒に思い、レイはその場で跳躍すると、スレイプニルの靴を使って空中を蹴り、その場を移動する。
「ギョギャ!」
「ギャガアアアアギャ!」
地上でレイに向かってそんな声を発するレッドキャップ達。
恐らくは逃げるなといったようなことを叫んでいるんだろうなと思いつつ、レイはそれを無視して周囲の様子を改めて確認する。
レイが思う存分暴れた影響もあってか、最初にこのホールで見た時と比べても明らかに陣形は崩れている。
いや、崩れているといった表現はこの場合相応しくないだろう。
しっちゃかめっちゃかといった表現の方が相応しいのは、明らかだった。
何より、先程レイが使った飛針によってアーチャーとメイジが大きなダメージを受けているのが、この場合は大きい。
実際、こうして空中にレイがいても、矢や魔法は殆ど飛んでこないのだから。
勿論、全く飛んでこない訳ではない。
中には少数だが無事なアーチャーやメイジがおり、先程戦闘をしていた時に多少なりとも飛んできたことからも、完全に倒した訳ではないのは明らかだったのだから。
だからこそ、レイはこの機会に……戦いにライダー達が乱入してきたこの機会に、一度戦闘を仕切り直す為、アーチャーやメイジを倒してしまった方がいいだろうと、そう判断したのだ。
なので、この状況でこうして攻撃をしてきてくれるというのは、敵がどこにいるのかが判明するという意味で、寧ろレイにしてみれば歓迎すらしていた。
「お代は、命で貰います……ってな!」
微妙に違うような?
そう思わないでもないレイだったが、この際、そこまで気にしなくてもいいだろうとスレイプニルの靴を使って空中を蹴り、真っ先にメイジのいる場所に向かう。
レッドキャップ達の指揮を執っている個体がこうしてメイジを一ヶ所に集めたのは、集団で……部隊としてメイジを使うことにより、火力を少しでも上げようとしたからだろう。
それはレイにとっても納得出来ることだ。
実際、人の軍隊であっても同じように魔法使いを部隊として使うというのは普通なのだから。
だが……その考えが悪くないのは間違いなかったが、同時に今回に限っては失策でもある。
何しろ敵対する相手は、レイなのだから。
メイジにしろアーチャーにしろ、纏まっているということはタイミングを合わせて一斉に攻撃することによって、高い火力を、あるいは威力を出すことが出来る。
だがそれはつまり、一ヶ所に敵が集まっているということでもあり……その上、先程レイが使った飛針によってアーチャーもメイジも壊滅的とまではいかないものの、それでも非常に大きなダメージを受けていた。
だからこそ、この状況はレイにとって絶好の機会であるのは間違いなかったのだ。
そんな中で最初にレイがアーチャーではなくメイジの集団を狙ったのは、弓より魔法の方が危険度が高いと判断したというのもあるし、それ以外にも魔石を入手するのならメイジの……あるいはその希少種や上位種がいるかもしれないと、そう思ったからでもある。
アーチャーとメイジのどちらが貴重かと思えば、それは当然ながらメイジだ。
そういう意味でも、レイがそちらに向かうのはある意味で当然のことではあった。
「ギャギョク!」
そんなレイの姿に気が付いたのだろう。
杖を手にしたメイジの一匹が、レイに向かって叫ぶと次の瞬間には氷の矢が数本放たれる。
「っと!」
だが、それを見た瞬間にレイは再度スレイプニルの靴を発動し、空中を蹴って、その先でも更に空中を蹴り……三角跳びに近い軌道を描くことによって、氷の矢を回避する。
先程までレイのいた場所を通りすぎる氷の矢。
それを放ったメイジは、予想外の展開に驚き、更に魔法を使おうとするものの……
「残念」
三角跳びの要領で間近に迫っていたレイが振るったデスサイズの一撃は、あっさりとメイジの身体を切断する。
その一撃と共に、レイはメイジ達の目の前……いや、メイジの中に突入することに成功した。
そして……そこから行われるのは、一方的な蹂躙、虐殺とも呼ぶべき行動。
メイジ達は普通のレッドキャップ達と比べて……いや、普通のレッドキャップだけではなく、このホールにいる希少種や上位種と比べても魔法という遠距離から強力な攻撃を放てるという、強力無比な力を持つ。
だが、それは言ってみれば人間の魔法使いと同じ……いや、あるいはそれ以上に遠距離からの魔法に特化しているということでもあり、こうして接近されれば対処は出来ない。
これが冒険者なら、魔法使いでも近接戦闘をやる機会が多いので、相応に鍛えていたりするのだが、生憎とレッドキャップのメイジ達はそのような訓練をしておらず、あるいはそちら方面の才能を持っている個体もいないらしい。
レイの振るうデスサイズに、何匹かは咄嗟に手にした杖で攻撃を防ごうとしたものの、その程度でレイの攻撃を防げる筈もない。
杖諸共にあっさりと身体を切断され、そのメイジも死ぬ。
そうして数分と経たず、その場にいたメイジ達は全滅することになる。
近くにいた他の部隊が助けに来るような余裕すら、そこには存在しなかった。
あるいは、メイジの近くにいた部隊も、まさかこうしていきなり他の部隊を無視して、メイジの部隊に突っ込んで来るとは思っていなかったのかもしれないが。
ともあれ、レイは他の敵が来る前にメイジを全て殺すと、その中の数匹の死体……杖を手にした死体をミスティリングに収納する。
この状況では恐らく大丈夫だとは思うが、もし最終的にこのホールが崩壊するなりなんなりした場合、死体を回収するのは不可能だ。
そうならないようにする為に、レイはこうして死体を回収しておいたのだ。
これなら、もし……万が一にも戦いが終わった後でホールが崩壊しても、最低限の死体の回収は問題ない。
もっとも、レッドキャップ達が本当にこのホールを崩壊させるのかというと、レイは恐らくそれはないだろうと思っていたが。
何故なら、ここにはレッドキャップの木が三本もあるのだから。
(となると、レッドキャップの木に攻撃するのは最後までやらない方がいいってことか)
周囲の状況を見つつ、レイはそんな風に考える。
もしここでレッドキャップの木を破壊したりしたら、それこそこのホールを守る理由がレッドキャップ達にはなくなるのだから。
そうなると、当然ながらレイが心配しているような、このホールの崩壊……現在このホールにいる希少種や上位種を纏めて殺すことになっても、そのような手段を実行するだろうと、そう思う。
実際、もしレイがレッドキャップ側の立場であったとすれば、レッドキャップ達がレイを倒すにはそこまでやる必要があるのだから。
「ん? ライダー達がこっちに向かってきてるな。そうなると、いつまでもここにいるのは不味いか」
不味いというより、ここでライダー達と戦うとなると面倒なことになるというのが正しい。
また、メイジ達の護衛を任されていたと思しき、近くにいたリーダーの部隊も動き始めているのが見える。
そうである以上、レイとしてもいつまでもここにいる訳にもいかないだろうと判断し……
「次は向こうだな」
メイジを優先したものの、それと同じくらい遠距離攻撃を得意としているアーチャー。
そちらに意識を向けると、スレイプニルの靴を発動する。
地面を蹴って、そのまま空中を蹴りながら、文字通りの意味でアーチャーのいる方に飛んでいく。
当然ながら、アーチャー側もそんなレイを黙って見てはいない。
飛針によって大きな被害を受けたのは間違いなかったが、メイジの部隊が蹂躙されている間、そこまで長い時間ではなかったが、それでもアーチャーの部隊は立て直す時間があった。
……もっとも、それでも結局のところ飛針によって致命傷を受けたり、あるいは利き腕に重傷を負ったり、もしくは武器の弓が飛針によって被害を受けていたり。
そのような諸々を考えると、レイの放った飛針による被害は、アーチャー部隊に六割近い被害を与えている。
それでもどうにか立て直したアーチャー部隊に、レイはデスサイズと黄昏の槍を手に突っ込むのだった。




