4245話
「雷鳴斬!」
デスサイズの刃が雷に包まれ、レイが刃を振るった時、直接刃に当たらなかったタンクやリーダー達も、その雷に触れた瞬間三秒程動きが止まり、次の瞬間には返す刃によってタンクもリーダーも纏めて胴体を切断される。
「火炎斬!」
デスサイズの刃が炎に包まれ、それによって振るわれる刃にタンクやリーダーは斬り裂かれ、燃やされる。
そうして色々なスキルを使いながら戦っていたレイだったが……
(駄目だな)
デスサイズを振るって次々と相手を殺しながらも、そう思う。
雷鳴斬にしろ火炎斬にしろ、個別の……もしくは少数の敵を倒すという意味では悪くない。
いや、まだレベルが低いこともあってか、普通に攻撃したのとそう戦力的な違いはないだろう。
雷鳴斬によって相手の身体が数秒とはいえ動けなくなるといった利点はあるものの、それこそ多数の敵を相手に使うようなスキルではなく、少数の強敵に使うようなタイプだろう。
「となると……おっと」
次にどんなスキルを使おうかと考えたレイだったが、そんなレイに向けて矢が飛んでくる。
どうやら先程の飛針で被害を受けなかったアーチャーがレイを狙って射ったのだろう。
この混戦の中で、仮にもレイだけを狙って矢を射るというのは、相応の技量が必要となる。
あるいは、偶然矢がレイに向かって飛んできただけなのか。
その辺りはレイにも分からなかったが、とにかく自分に向かって飛んできているのは事実。
ちょうどそのタイミングでレイに向かって斬りかかってくるリーダーの姿があり、レイはその一撃を回避しつつ、黄昏の槍で身体を貫くと、そのまま持ち上げる。
ザクリ、と。そんな感触が黄昏の槍を伝わってレイの手に感じた。
矢がリーダーの背中に突き刺さった感触。
これが新兵……ろくに戦闘をしたことがないような者であれば、その感触に気持ち悪くなり、場合によっては吐いたりして、とてもではないが戦闘を続けることが出来なくなるだろう。
しかし、戦闘に慣れているレイにしてみれば、この程度の感触は特に気にしない。
それこそ、だからどうした? といったように思ってもおかしくはない……そんな感触でしかなかった。
そのまま矢が背に突き刺さり、リーダーは死ぬ。
元々胴体を黄昏の槍に貫かれ、その上でレイの膂力で強引に持ち上げられ、そこに矢が突き刺さったのだ。
リーダーにしてみれば、それは致命傷と呼ぶに相応しいものだった。
そんなリーダーの身体を、レイは片手で大きく振るって自分に向かって攻撃する為に近付こうとしていた個体に向けて投擲する。
タンクと違ってフルプレートメイルを装備している訳ではないリーダーだったが、それでも鎧は装備しているし、何より投擲したのがレイだ。
リーダーを投げつけられ、ぶつけられたリーダーは、そのまま吹き飛んできた仲間……既に死体になっていたが、その死体と共に吹き飛んでいく。
「ペネトレイト!」
デスサイズを持っている手首を返し、刃のある方ではなく石突きを敵に……タンクに向けて、スキルを発動する。
放たれた一撃は、フルプレートメイルを装備しているタンクをもあっさりと貫き、砕き、螺旋状の衝撃によって肉片として周囲に撒き散らかされる。
当然ながらペネトレイトの一撃はそれだけでは終わらず、その背後にいたタンクを、更にその後ろにいたリーダー二匹を殺すことに成功する。
ペネトレイトの一撃を放ちながら、移動するレイ。
そして自分の周囲を囲もうとしていたタンクの群れから飛び出したところで、再び手首の動きによってデスサイズを通常の構えに戻し……
「多連斬!」
敵が密集している場所に向かい、多連斬を放つ。
同一ヶ所に向け、放たれるデスサイズの斬撃……その数、二十。
(しくじったな)
その結果を見たレイは、スキルの選択を間違えたと判断する。
同じ場所ではあっても、斬撃の放たれる角度や場所は微妙に異なる。
そういう意味で、ある程度の範囲攻撃として使えるかもしれないと思って多連斬を使ってみたのだが、残念ながらレイの予想は外れてしまう。
……いや、完全に的外れだったのかと言えば、そういう訳でもない。
実際に多少ではあるが狙った場所の周辺にも斬撃は放たれたのだから。
だが、レイにとって残念なのは……既にそこにいたタンクやリーダーは、死んでしまっていたということだろう。
幾ら多少は範囲攻撃として使えたところで、狙った場所に敵がいないのでは意味がない。
つまり、多連斬で放たれた斬撃はその殆どが全く無意味なものであったということになる。
(やっぱり多連斬は強力な個に対して使うべきスキルだな)
改めて確認しつつ、この状況でこれはどうだ? と疑問に思ってレイはスキルを発動する。
「黒連!」
スキルを発動し、デスサイズで周囲にいる敵を斬り裂いていくのだが……
(あれ? これ、もしかして思ったより使い勝手がいい?)
レイは今更ながらに黒連の使い方を間違っていたのかもしれないと思う。
今まで、レイは黒連というのはトリッキーな……つまり、罠的な感じで使うことが多かった。
だが、黒連というのはデスサイズで斬り裂いた場所に滞空する斬撃とでも呼ぶべきものを作れるスキルだ。
つまり、デスサイズを使ってタンクやリーダーを斬り裂いた後も、それでデスサイズを一度振るったという判定になって、そこに黒連による滞空する斬撃が生み出される。
もっとも、黒連によって生み出された滞空する斬撃は一度で消えるものの、暫くの間そこに残る。
そして当然ながら滞空する斬撃に敵味方識別機能のようなものはない。
つまり、もしレイやセト、あるいは一緒に行動している仲間が黒連によって生み出された斬撃に触れると、当然ながらその斬撃は威力を発揮することになる。
そういう意味では、レイが偶然発見したこの新しい黒連はレイだけ……もしくはいてもせいぜいがセトといった時でなければ非常に使いにくいスキルなのは間違いなかった。
(ちょうど訓練相手に丁度いい敵もいるし、ここで使いこなせるようになっておくか)
八度デスサイズを使い、その刃でタンクとリーダーを纏めて斬り裂きつつ、最後の滞空する斬撃を設置する。
タンクやリーダーの中には、戦いによる興奮で……あるいは普通に空中に浮かぶ斬撃に気が付かず、それに触れて手足や首、場合によっては胴体が切断される個体も出てくる。
ただ、迂闊な個体もいれば当然頭の切れる個体もいる訳で、空中に存在する滞空する斬撃に触れれば危険だというのは理解したらしく、それらには触れないように行動する個体もいた。
とはいえ、レイにしてみればそれはそれで別に構わない。
黒連の新しい使い方が判明したのだから、それを試し、慣れる方が先だと判断した為だ。
ここで迂闊にもレイを攻撃しない個体については、それこそいい標的であると……そんな風にレイは判断する。
このような、ある程度頭の切れる個体を相手にどうやって黒連を当てるか。
黒連を罠ではなく戦闘に使うとなると、やはりこうした使い方をしっかりと研究する必要があった。
「黒連!」
再び黒連を発動すると、レイは頭の切れる個体の一匹である、リーダーに向かう。
そのリーダーは比較的早いうちに黒連の生み出した滞空する斬撃の危険性を察知し、極力それに触れないようにしていた。
だからこそ、レイとしては自分の思いつき……誰でも思いつくようなものだったが、それを試してみるのに丁度いい相手だと認識出来た。
つまり……
「ギョギャガアァギャグ!」
デスサイズと黄昏の槍を手に自分に近付いてくるレイの存在に、頭の切れるリーダーは驚きと恐怖の表情を浮かべる。
まさかこの状況で自分に向かってくるとは、思ってもいなかったのだろう。
もっとも、普通に考えれば頭の切れる……場合によっては戦局を覆すことが出来る者をそのまま残しておくといったことはありえないのだが。
その辺りに考えが及んでいないのは、あるいはそのリーダーは自分が黒連について見破っているというのを、レイに知られていないとでも思っていたのか。
ともあれ、その個体にしてみればここで自分がレイに襲われるというのは完全に予想外だったらしく、咄嗟に手にした長剣を突き出すのが精一杯だった。
そんな咄嗟の行動がレイに通じる筈もなく、レイは突き出された長剣をあっさりと回避しながら黒連を発動した状態でデスサイズを一閃する。
頭が切れる個体であっても、動きそのものは通常のリーダーとそう違わない。
……いや、頭が切れる分だけ、身体の動かし方が他の個体よりも勝っていたりはするが、レイにしてみればその程度は誤差でしかない。
結果として、リーダーはレイの振るったデスサイズによってあっさりと身体が切断され、そして身体が切断した後にはリーダーのいた場所に黒連の成果が……滞空する斬撃が生み出される。
それを見つつ、槍を手にしたタンクの攻撃に気が付き、その場から跳躍して移動した。
改めて空中で数秒前にも確認した、リーダーを倒した時に生み出された滞空する斬撃を確認する。
(やっぱり、これが多分最善なんだろうな)
着地しながら、攻撃してきたタンクに黄昏の槍を投擲しながらそう思う。
黒連の正体……いや、この場合は仕組みというのが正しい表現なのだろうが、それに気が付いた個体を殺し、その攻撃によって滞空する斬撃を生み出す。
これが黒連について見抜いた相手に対する一番手っ取り早い解決方法なのは間違いなかった。
……もっとも、何も捻ることはなく、ようは気が付いた相手を殺し、それを利用して滞空する斬撃を作り出すというだけでしかないので、それを解決方法と称してもいいのかどうかは非常に微妙なところではあったが。
ただ、実際に一番手っ取り早い方法でもある。
(他に黒連を上手く使うとなると……相手を上手い具合に誘導するとか? 滞空する斬撃は見えるんだし、相手が単純な性格をしているのなら、俺でもその辺はどうとでもなりそうだし)
そんな風に思いながら戦っていると……
「げ、また新しい兵種か」
振るう一撃によって滞空する斬撃を生み出すと、丁度そこに槍を手にした個体が数匹だが姿を現す。
槍を装備しているという意味では、タンクも同様だ。
もっとも、タンクはフルプレートメイルや盾を装備しており、あくまでも防御重視で、武器はおまけでしかない。
だが、新しく現れた個体は違う。
持っている武器は槍が、基本的にその防具はリーダーと同じ物だ。
(となると、この槍を持った個体もリーダーなのか? もしくは、リーダーの希少種や上位種……いや、どっちもないな)
希少種というのは、あくまでも希少だから……そのモンスター全体で見た場合、数が少ないからこそ希少種と呼ばれているのだが、戦場となっている場所をざっと見てみると、そこには結構な数の槍を持った個体が見える。
これだけの数がいるのなら、とてもではないが希少種とは呼べないだろう。
また、上位種といったことも……絶対にないとは言わないが、それでも恐らくは有り得ないだろうと思う。
リーダーがそもそも通常のレッドキャップの上位種である以上、そこから更に上位種に進化した個体がこれだけいるとは、レイには思えなかった。
(あ、けどそうだな。俺がこの階層に入ってくるまで、ずっとこの二十一階には冒険者はいなかった訳で。そう考えると、その間に多くの個体が進化しているって可能性もあるのか? そもそもこのレッドキャップは、レッドキャップの木から生み出された存在な訳だし)
このホールにも三本ある、レッドキャップの木。
そこから生まれた個体が、レイが二十一階に来るまでの有り余っている時間で進化しているといった可能性もないではなかったが、レイがこうして戦っている感じでは、普通のリーダーとの違いはない。
長剣ではなく槍を持っている分だけ間合いでは有利なものの、だからといって特別に強いのかと言われれば、そうではない。
レイの目から見ても、それこそ身体の動きそのもの……身体能力の類も含めて、通常のリーダーとそう違いがないように思えた。
勿論それは、あくまでもレイがそのように見えたというだけなのだが。
そんな風に新しく参戦してきた槍兵に対し、レイは普通に攻撃を行う。
最初こそ少し驚いたものの、そういう存在がいると認識すれば対処するのは難しくなかった。
だが……そうして槍を使うリーダーを相手にしているレイの目に、狼に乗って走っているレッドキャップの姿も目に入り……そう言えば、先程混乱したタンク達を落ち着かせたのは、督戦隊的な行動もそうだったが、狼か何かの動物の鳴き声だったなと思い出すのだった。




