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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4248/4274

4248話

 十匹程のライダーのうち、真っ先にレイとの距離を縮めてきた先頭の一匹。

 手にした長剣を振り上げ、レイに向けて突撃してくる。


「この状況でそれは意味がないだろ」


 狼に乗っているのなら、それこそ狼の機動性……より正確には敏捷性を活かすべく、自分を囲んで牽制しつつ、それで隙が出来たところで襲い掛かるといった攻撃をするとレイは思っていた。

 だが、実際にはそのようなことは考えず、ただ真っ直ぐ自分に向かって突っ込んで来たのだ。

 勿論、そのようなことをしたのは先頭の一匹だけではなく、それに続くようにして他のライダーも同じようにレイに向かって長剣や槍を使った攻撃を行う様子を見せていた。


(警戒しすぎたか?)


 そうも思ったが、レイにしてみれば敵が馬鹿なのは決して悪い話ではない。

 寧ろ魔石を稼ぐにはレイとしては好ましいことですらあった。


「ギャギャギャ!」

「ウオオオオン!」


 ライダーが何かを叫ぶと、狼がそれに反応するように鳴き声を上げる。

 それはつまり、両者の間で完全に意思疎通が出来ているということを意味していた。

 ライダーと狼では、当然のように使う言語は違う。

 だというのにこうして意思疎通が出来ているのがレイにとって少しだけ不思議だったが……


(いや、俺とセトの例もあるか)


 レイとセトも、双方で違う言葉を話している。

 セトの鳴き声が明確な言語として成立しているのかはレイにも分からなかったが、とにかくそうして言葉が違ってもセトはレイの言葉を完全に理解しているし、レイもまたセトの鳴き声で何を言いたいのかを完全ではないにしろ、大まかには理解出来る。

 それを思えば、ライダーと狼が意思疎通出来るというのはおかしくない。

 そもそも普通の騎兵であっても、時に馬は特に何も指示しないのに乗り手のして欲しいことを理解し、その行動を行う。

 そういう意味では、ライダーと狼の言語が違っても問題なくやり取りが出来るというのは、そうおかしな話ではないとレイには思えた。


(人間であっても、英語の喋れない相手と身体の動作、ボディランゲージでやり取り出来るらしいしな。……いや、でもまぁ、これはちょっと違うか?)


 そんな風に思いつつ、レイはデスサイズを振るう。

 ライダーの振るった長剣は、あっさりとデスサイズの刃に切断され、そのまま身体も両断される。


(あ、これやりやすい)


 レイはその一撃を放ってそう思う。

 考えてみれば当然なのだが、狼に乗っているということは、地面に立っているレッドキャップと比べても身長……いや、この場合は全高と表現した方がいいのかもしれないが、とにかく大きいのだ。

 そしてレッドキャップは人……大人の半分程の大きさしかないゴブリンの、更に半分程の大きさだ。

 デスサイズや黄昏の槍を使って攻撃するにしても、どうしても体勢を低くする必要がある。

 だが、ライダーは狼に乗っている分だけ、その身体は高い場所にあり……レイがデスサイズや黄昏の槍で攻撃する際に大分楽なのは間違いなかった。

 勿論、それは普通の……自分と同じくらいの大きさの敵と戦うのと比べると、まだ身体に相応の負担があるのは間違いない。

 だが、それでも小さい相手と戦うのに比べると、大分楽になったのは間違いないことだった。


「次!」


 そうして楽になった分だけ、レイとしても戦いがやりやすくなり、最初の……先頭になって突っ込んできたライダーを殺すと、次の敵が来いといったように叫ぶ。

 そんなレイの言葉に反応した訳でもないのだろうが、残りの個体もレイに向かって攻撃をしてくる。

 だが、それらの攻撃はその全てがレイによって弾かれ、斬り落とされ……そして気が付けば、レイの振るうデスサイズによって斬り裂かれ、黄昏の槍によって貫かれる。


「ワオオオオオオオンッ!」


 レイにとって厄介だったのは、ライダーは狼に乗っており、その狼もレイに普通に攻撃を仕掛けてくるということだろう。

 それこそ自分に乗っているライダーが殺されても、狼はその場から逃げるようなことはせず、レイに向かって攻撃をしてくる。

 これがまた、レイにとっては厄介だった。

 ライダーがいなくなった……つまり、長剣や槍といった武器を使って攻撃出来なくなったことによって攻撃力が落ちたのは間違いない。

 それは間違いないが、その代わりにライダーという重量物が消えたことによって、狼の速度や細かな動きを行う運動性が増した。

 攻撃力が落ちたのは間違いないとはいえ、狼の最大の武器である牙は当然ながら今も普通に使える。

 ましてや、元々狼は集団で狩りを行う動物だ。

 自分の相棒であるライダーを殺された狼は、まだ生きているライダー……自分達の中では高い攻撃力を持っている個体に有利に攻撃させる為に連携を取ろうとしてくる。


「邪魔だ!」


 狼が攻撃をすると見せ掛けて自分の注意を引くことに苛立ちを覚えつつ、レイはデスサイズを振るう。

 狼の行動は半ば牽制なのは間違いなかったが、同時に半ば本気でもある。

 もしレイがその攻撃は見せかけのものだろうと判断して無視をしていれば、狼はその攻撃を見せかけのものではなく、実際に攻撃に移すだろう。

 それを防ぐ為にも、ちょっかいを出してきた狼については対処する必要があった。

 もっとも、もし狼に自由に攻撃されても、レイの身体はドラゴンローブによって守られている。

 数百年を生きたドラゴンの革と鱗を使って作られたドラゴンローブは、狼の牙程度でどうにかなるものではない。

 ……とはいえ、ドラゴンローブが汚れるのはレイも嫌だったし、狼がドラゴンローブの内側に入ってくるといったことも考えられる。

 特に後者は、レイの防具がドラゴンローブだけであることを考えると、絶対に避けるべきことだった。

 もっとも、レイにしてみればこの程度の相手にそこまでの心配をする必要はないだろうと、そう思っていたのだが。

 何よりも狼達にとって想定外だったのは、レイが二槍流だったということだろう。

 これがもしデスサイズだけ、あるいは黄昏の槍だけであれば、例えば二方向から攻撃すれば、レイも対処が難しかった。

 だが、レイはデスサイズと黄昏の槍の双方を自由に使えるので、狼達に出来るのはあくまでも牽制だけだった。

 あるいはもっと狼の数が多ければ、二ヶ所だけではなく三ヶ所、四ヶ所同時に攻撃を行うといったことも出来たかもしれないが、十匹程度となると仲間の数やタイミング、それに場所の問題もあってそれは難しい。

 いや、無理にでもやろうと思えば出来るのだろうが、そうなると一度失敗するとそれが致命傷となってもおかしくはないのだ。

 だからこそ、狼達は必死になってレイに攻撃を行いながらも、ある程度の余裕を持つようにはしていたのだが……


「ガルルルルルルゥッ!」


 そのような状況を我慢出来なくなったのか、狼の一匹……相棒のレッドキャップに可愛がられていた狼が、我慢の限界だと言わんばかりにレイに向かって牽制も何もなく突っ込んでいく。

 狼にしてみれば、ここで自分が行動しないでどうするといったように思ったのだろう。

 だが……それはレイを相手にする際には致命的だった。

 そんな狼の気配を察したレイは、他の狼がその個体の援護に来ないよう、最初に動こうとした個体に向かって黄昏の槍を投擲しつつ、右手のデスサイズを振るう。

 斬、と。

 一瞬にして相手の命を奪う一撃。

 我慢出来ずにレイに襲い掛かった狼は、頭部だけではなく胴体までもが左右二つに切断される。


(魔石は……ないか)


 しっかりと調べた訳ではないので、もしかしたら心臓に隠れて見つけられないだけかもしれなかったが、一瞬切断面を見た限りだと、そこに魔石は存在しなかった。

 惜しいと思う。

 勿論、恐らく魔石はないだろうと予想はしていた。

 していたが、それでももしかしたらこっちの狼にも魔石があるかもしれないと思っていたのだが、その希望が見事に外れてしまった形だった。


(もしレッドキャップの木でライダーと一緒に生まれたのなら、魔石があるかもしれないと思ったんだけどな)


 残念に思いつつ、それでもレイは戦闘を止める様子はない。

 ライダーが乗っていない狼の数はただでさえ少なくなっていたので、今のように一匹が死んでしまったというのは、致命的だった。

 元々狼は群れの利点を使ってレイを攻撃……いや、実際には牽制していたこともあり、その群れを構成する一匹が突出し、そしてレイに殺されたことによって攻撃のバランスが崩れてしまう。

 そして、当然ながらレイがそれを見逃す筈もなく……


「飛針!」


 数匹の狼が、まだ生き残っているライダーの側に移動した瞬間を見計らい、スキルを発動する。

 スキルによって生み出された百八十本の長針は、一斉に射出され……


「ギャン!」

「ギャウウウン!」

「ヒャンン!」

「ギャギャゴギャ!」


 狼や、あるいはライダー達に一斉に襲い掛かる。

 元々、飛針で生み出された長針は金属の鎧ですら貫く威力を持つ。

 そして狼は当然のように防具を装備はしておらず、ライダーも機動力を落とさない為に着ているのは革の鎧だ。

 そのような鎧が、飛針で生み出された長針を防げる筈もない。

 ……いや、革鎧と一口に言っても、例えばそれが高ランクモンスターの革を使った革鎧であれば、下手な金属鎧よりも高い防御力を持つので、それによって長針を防ぐといったことも出来るかもしれない。

 だが、ライダーの着ている革鎧は、とてもではないがそこまでの防御力を持つ物ではなかった。

 結果として、放たれた長針は、生き残っていたライダーの身体にも次々と突き刺さる。

 運の悪い個体は、その時に長針が心臓であったり、脳であったりといった急所に突き刺さり、そのまま死ぬ。

 そうして気が付けばライダーは全滅しており、狼の数も一匹にまで減っていた。

 レイにとって狼が厄介だったのは、あくまでも数を使った戦い方だ。

 一匹になってしまえば対処するのも難しくはなく……

 斬、と。

 一気に間合いを詰め、デスサイズで身体を切断し、一撃で仕留める。


「ふぅ、さて……あー、もうそこまで来てるか」


 ライダーとの戦闘は、それなりに時間が掛かったように思えたものの、実際には数分かそこらだ。

 しかし、それだけの時間があれば、レイが生み出した落とし穴を迂回し、アーチャーの助けに来ようとしていたリーダーの部隊がここに到着してもおかしくはない。


(けど、期待していたライダーの部隊はこうして全滅したってのに………それでも俺に向かってくるってのは、正直どうなんだ?)


 レイにしてみれば、そのような疑問を抱く。

 リーダーとライダー。

 どちらもレッドキャップの希少種や上位種だろうが、それでもこれまでの経験からすると、リーダーよりもライダーの方か格上だろうと思う。

 これは、人間の軍隊を見れば分かりやすい。

 歩兵と騎兵のどちらが強力な部隊なのかと。

 勿論場合によって、その強力さというのは大きく変わるだろう。

 例えば、林や森の中、あるいは湿地帯のような場所であれば、騎兵よりも歩兵の方が有利だ。

 だが、戦場の大部分においては、やはり騎兵の方が有利なのは間違いない。

 また、実際リーダーの部隊が大小合わせて結構な数なのに対してライダーの数が少ないことからも、部隊の違いというのはレイにも理解出来た。

 そういう意味では、自分達よりも上位の存在がレイに負けたにもかかわらず、こうして挑んでくるというのはレイには理解出来ない。


(あるいは、数で押し切れると思ってるのか? それならまぁ……納得出来なくもない、か?)


 ライダーの数が十匹程度だったのに対し、リーダーが率いる部隊はその三倍……三十匹程はいるようにレイには思えた。

 数で相手を押すというのは、決して間違った攻略法ではない。

 実際、一般的に見た場合、数というのは決して侮れない戦力となるのだから。

 だが……それはあくまでも一般的な話の場合だ。

 そもそもレイはベスティア帝国との戦争であったり、ベスティア帝国の内乱においても自分とセトだけ、あるいは少数の精鋭を率いて敵を圧倒してきた経験がある。

 三十匹程のリーダーの部隊で、レイをどうにか出来る筈がなかった。

 それどころか、その十倍、百倍いてもレイを相手にどうにかするのは絶対に無理だっただろう。

 ……リーダー達にとっての唯一の希望は、ここが土砦の中だということだろう。

 そしてレイが土砦の中を探索したいということもあり、土砦を破壊しようと思っていないことか。

 ただ、それはあくまでもレイが自分の安全を確保した上での話であり……それこそ自分の命と土砦のどちらを選ぶかと言われれば、話は決まっているのだから。

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