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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4243/4272

4243話

 レイが行った行動、それは今まで横に移動してレッドキャップの攻撃を回避していたのを、真っ直ぐ前に向かうというものに変えるだけだった。

 普通に考えれば、ただ回避する方向を変えただけだと、そういう風に思うような行動。

 実際、その考えは間違っていない。

 間違っていないものの、そのように動く標的を狙っている方にしてみれば、今までずっと横に動いていた相手が、急に真っ直ぐ自分達の方に向かってくるのだ。

 それはつまり、今まで横の……線の動きをしていた相手が、いきなり真っ直ぐに点の動きをするということを意味していた。

 攻撃する方にしてみれば、横の動きから急に縦の動きになったことで数秒、あるいはそれ以下かもしれないが遠近感が狂ったり、もしくは単純に線から点になったことで狙いがつけにくくなったりと、攻撃が今まで以上に命中しにくくなる。

 そして、レイにしてみれば、レッドキャップの群れに……それもリーダーがメインとなっており、中にはフルプレートメイルを着ているレッドキャップとの間合いを詰めるのは、そう難しいことではない。


「飛斬! ついでにこれも!」


 右手でデスサイズを振るって飛斬を放ち、その動きを利用しつつ左手に持っている黄昏の槍を投擲する。

 飛斬で放たれた飛ぶ斬撃が真っ直ぐに飛び、リーダーの群れに突っ込む。

 リーダー達にしてみれば、まさか斬撃が飛んでくるとは思いもしなかったのだろう。

 何も理解出来ないまま、先頭にいた数匹が飛斬によってあっさりと切断され、その後ろにいたリーダー達にも飛斬は襲い掛かる。

 運の良い個体は偶然盾を飛斬の来る方向に向けていたり、あるいは危険を察知し、本能に従って盾を持ち上げたことによって、前方にいたリーダー達を斬り裂いた後ということもあり、盾で攻撃を防ぐことが出来た。

 ……もっとも、盾は切断されたり、そこまでいかずとも切れ目が入っていたりと、とてもではないがこれから盾は使い物にならなくなってしまったが。

 ただ、それでもダメージを受けたのは盾だけだったので、幸運だったのは間違いない。

 後列にいたリーダーのうち、数匹は威力が弱まったとはいえ、飛斬によって手足を切断されたり、あるいは鎧に覆われていない場所を斬り裂かれたといったことになったのだから。

 また、黄昏の槍はフルプレートメイルを着ているレッドキャップであってもその鎧を容易に貫き、それどころから爆散させ、その後ろにいたフルプレートメイルを着た他のレッドキャップを最初の個体よりも少し下を貫き、更にその後ろにいるフルプレートメイルのレッドキャップ数匹を同様に少し下向きに串刺しにした状態でようやく動きが止まり……かと思えば、次の瞬間にはフルプレートメイルを着たレッドキャップ達を貫いていた槍はレイの手元に戻る。


「パワースラッシュ!」


 最初の攻撃によってレッドキャップ達が大きなダメージを受けている間に、既にレイはレッドキャップ達との間合いを十分以上に詰めていた。

 黄昏の槍をその固有能力で手元に戻すと同時に、フルプレートメイルを着たレッドキャップの群れに向かってスキルを発動し、デスサイズを振るう。

 その瞬間に起こったことは、その場にいた他のレッドキャップ達が見ても到底信じられないことだった。

 この場にいたレッドキャップ達にしてみれば、フルプレートメイルを着たレッドキャップ達は最強の防御力を持っている存在だ。

 そのような存在が、十把一絡げと言わんばかりに振るわれたデスサイズによって吹き飛ばされたのだから。

 ……それもただ吹き飛ばされたのではなく、鎧を砕かれ、身体を砕かれ、金属片と肉片と砕かれた骨と血や内臓がそこら中に纏めて吹き飛ばされたといった感じだ。

 不運な個体……本来ならフルプレートメイルを着ているレッドキャップ達の後ろにいて、敵の攻撃の心配をしなくてもよかった筈のレッドキャップ達は、それら金属片や骨の欠片によって容易に身体を傷つけられ、中には頭部に金属片を食らって死んだ個体もいた。


「ワオオオオオオオオオオオオン!」


 あまりの展開にレッドキャップ達が動揺した瞬間、そんな動揺した者達を叱りつけるような鳴き声がホールに響く。


(犬……いや、狼か?)


 レイは聞こえてきた鳴き声にそう疑問を抱きつつも、攻撃を止めることはない。

 ここで一旦後ろに退いて様子を見るといった選択肢もない訳ではなかったが、相手がまだ動揺や混乱から完全に立ち直っていないのだから、それを黙って見ているようなことをしようとは思わない。


「腐食!」


 スキルを発動し、レイはデスサイズを振るう。

 レベル九という非常に高レベルな腐食。

 これまでは相手の装備品であったり、あるいは素材であったりを失うのが惜しいということで、滅多にこのスキルを使うようなことはなかった。

 だが、これだけ大量にレッドキャップがいる状態で、装備品についても……まぁ、入手出来れば何かに使えるかもしれないが、それでもどうしても欲しいとは思わない以上、レイが腐食というスキルを使うのに躊躇することはなかった。

 振るわれたデスサイズの刃が触れた瞬間、フルプレートメイルはドロリと溶け、その下にあるレッドキャップの身体も同様にドロリと溶ける。


「腐食!」


 再度腐食のスキルを発動し、同じようにフルプレートメイルを装備した個体をあっさりと腐らせ、溶かし、殺す。


(使いにくいな)


 次々に腐食を使って攻撃をしてはいったものの、レイはそんな感想を抱く。

 何より、腐食の効果があるのは一度スキルを使ったら、その後はデスサイズを一振りするところまでだ。

 つまり、一匹……もしくはデスサイズの刃の大きさと大鎌という武器の特性を考えれば、数匹くらいなら纏めて倒すことが出来るものの、言ってみればそれだけだ。

 おまけに腐食というかレベル五になって溶解といったような効果を持つようになっており……つまり、何を言いたいのかといえば、悪臭が結構強いのだ。

 強力な悪臭といった程ではないが、それでも戦いの中のふとした瞬間、本当に一瞬ではあるが気を取られるといったような、そんな悪臭。

 恐らく長時間使い続けていれば臭いにも慣れてそこまで気にせずとも戦い続けることは出来るだろうが、だからといって慣れたいとは思えない。

 とはいえ、レイにとっては非常に使いにくいスキルであるのは間違いなかったが、戦っている相手……正確にはそれを見ている相手に恐怖を与えるという点では非常に大きな意味を持つのも間違いなかった。

 何しろ、自分の仲間がレイの振るうデスサイズに触れると、その瞬間には装備も身体も溶けるのだ。

 それもただ溶ける……例えば臭いのない液体に変化するといったような意味での溶け方ではなく、悪臭を、腐臭を放つ液体に溶ける。

 それが具体的に何なのか、どのような理由でそうなるのかは、レッドキャップには分からないだろう。

 だが、仲間がそのようになってしまったのを見れば、レッドキャップの希少種や上位種であっても……いや、通常のレッドキャップよりも高い知性を持つ希少種や上位種だからこそ、恐怖を抱くのは当然だった。


「斬撃加速!」


 ただ、悪臭に嫌気がさしたレイは、取りあえず腐食による恐怖を十分に相手に叩き込んだと判断し、攻撃方法を変える。

 斬撃加速のスキルを使って振るわれたデスサイズは、その名の通りデスサイズを振るう速度が一度だけ二割増しになるが……


(意味はないな)


 もしこれで相手がレイの振るうデスサイズを見て、あるいは軌道を予想して回避しているのなら、斬撃加速によって振るわれる速度が二割増しになるというのは、致命的だろう。

 だが、そもそもレッドキャップ……それもフルプレートメイルを着ている個体であっても、そのようなことは到底出来ない。

 だからこそ、レイが斬撃加速のスキルを使っても、そこには殆ど意味がなかった。

 ……勿論、斬撃の速度が上がるということは、多少ではあってもフルプレートメイルの個体を殺す速度が上がるということを意味してるので、そこには多少なりとも意味はあったのだろうが。

 数度斬撃加速を使うと、レイはスキルを切り替える。

 これだけ大量に敵がいるというのは……それも強敵ではなく、戦力的には雑魚に等しいというのは、今まで使う機会がなかった、あるいは少なかったスキルを実際に使ってみる機会として考えれば、レイにとって決して悪くない状況でもあった。


「砂礫斬!」


 次に使ったスキルは、砂礫斬だったが……こちらは完全に無意味だった。

 何しろ、相手の斬り傷に対してヤスリで削ったような追加ダメージを与えるといったスキルだ。

 つまり、一撃で相手が死んでしまっては意味がない。

 なので一度使うと、すぐに別のスキルに切り替える。


「これも多分駄目ではあるんだろうけど……出血増加」


 こちらもまた相手にダメージを与えた場合に出血量を増加させるというもので、一撃で殺してしまっては意味がないスキルだ。

 だが……意味がないのはともかく、名称から危険なスキルだということで、他のスキルと違って習得したり、レベルアップしても使っていなかったスキルでもある。

 そういう意味では、少し無理をして……手加減をしてでも、このスキルを試してみる機会ではあった。

 そう思い直し、レイは再度スキルを発動する。


「出血増加!」


 スキルが発動したのを見て、近くで何とか長剣――レッドキャップ用の物だが――をレイに振るおうとしていたフルプレートメイルの個体に向け、デスサイズを振るう。

 長剣を持つ手が切断され、そこから血が一気に噴き出るが……


(分からないな、これは)


 比較対象がない以上、出血増加のスキルによって本当に出血量が増えているのかどうか分からない。


(いや、スキルが発動してるんだし、多分増えているのは間違いないんだろうけど……もう一レベルが上がってレベル五になれば、また話は違うのか?)


 そんな疑問を抱きつつ、他にも何匹かに出血増加を使い、切断し、斬り裂きとしてみるが、そこまで違いは分からない。


「っと、マジか」


 レイが戦っている場所に、不意に矢や魔法が飛んでくる。

 レイが敵との間合いを詰めた理由の一つには、味方が近くにいれば矢や魔法といった攻撃は味方を巻き込む可能性もあるので、やらないだろうというものがあった。

 実際、最初のうちはレイがフルプレートメイルの個体を相手に蹂躙していてもそれらが特に攻撃をしてくるといったことはなかった。

 だが、腐食によって混乱をする個体が多く現れ、それ以外にも幾つかのスキルを使った攻撃によって、フルプレートメイルの個体達もかなりの動揺によって統制が乱れた。

 幾ら強固な――レッドキャップ基準でだが――フルプレートメイルを装備しているとはいえ、その強固さを最大限に発揮出来るのは、あくまでも統一された動きがあってこそだ。

 いや、勿論一匹でもそれなりに強固な防御力というのは役に立つのだが、やはり統一された集団と比べると、どうしても劣ってしまう。

 もっとも、統一された動きと言っても結局のところはレッドキャップだ。

 希少種や上位種であるフルプレートメイルを着た個体も、本当の意味で完全に統一された動きは出来ないのだが。


(フルプレートメイルを着た個体……面倒だな。重装……いや、タンクか。タンクでいいな。そのタンク諸共に攻撃をしてくるとは思わなかった)


 黄昏の槍でタンクの鎧を貫き、そのまま片手だけで持ち上げると、自分に向かって飛んできた氷の塊に対する盾代わりにする。

 フルプレートメイルを着ているとはいっても、結局のところタンクもレッドキャップに違いはない。

 ゴブリンの半分程の大きさ……いや、タンクは通常のレッドキャップではなく希少種や上位種なのだから、リーダーと同じく普通のレッドキャップよりも少し大きいかもしれないが、それでもフルプレートメイルを着ていてもゴブリンより小さいのは明らかだ。

 その程度の重量であれば、レイにとって片手で持ち上げるのはそう難しいことではなかった。


(タンク達の混乱を治める……そんな目的があっての攻撃だったのかもしれないな。……督戦隊って訳でもないだろうに)


 督戦隊、それは味方が逃げたり、あるいは戦果が挙がらない時に味方を攻撃するといった存在だ。

 とはいえ、そのレイの知識は例によって例の如く、日本にいた時にゲームや漫画、アニメといったもので知った知識なので、正確な意味では違うかもしれないが。

 ただ、ニュアンス的には間違っていないだろうとレイは考え……実際、降り注いだ矢や魔法によって、混乱していたタンク達の攻撃がレイに向かったのは間違いない。

 そういう意味では、督戦隊というのも使い方次第なのかもしれないなと思いながら、レイはデスサイズと黄昏の槍を振るうのだった。

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