4239話
「さて、残るのはこの魔石だな」
レッドキャップのアサシンの爪をミスティリングに収納すると、レイは次に残った物……つまり、魔石に視線を向ける。
この魔石をどうするべきかと考えていたレイだったが、レイを襲ってきたアサシンはそれなりにすぐに――レイは土砦の中を結構歩き回った末にだが――遭遇したので、恐らくもう一匹……セトの分のアサシンの魔石もそう遠くないうちに入手出来るだろうと、そうレイには思えたのだ。
なら、このまま使ってもいいだろうと判断し、レイは魔石を手に、もう片方の手にデスサイズを持つ。
(セトがどういう状況なのか分からない以上、ここで俺が魔石を使うのは危険な気もするけど……セトも自分が魔石を使ったんだから、俺も魔石を使うというのは分かってるよな? というか、出来れば分かっていて欲しい)
そのように思いつつ、レイは魔石を空中に放り投げ、次の瞬間にはデスサイズを振るう。
斬、と。
あっさりと魔石はデスサイズによって切断され……
【デスサイズは『幻影斬 Lv.六』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「幻影斬? これはちょっと意外だったな」
レイは本気で驚いた様子を見せる。
アサシンの魔石だったので、それこそ隠密辺りがレベルアップするか、あるいは爪の毒の件を思えば毒関係のスキルを新たに習得するかだと思っていた為だ。
それこそセトがこのアサシンの魔石を使えば、毒の爪のレベルが十になるかも……と思っていたところでまさかの幻影斬なのだから、それに驚くなという方が無理だった。
「取りあえず、試してみるか。……この幻影斬はあまり使う機会がないんだけど」
そう思いつつ、レイはデスサイズを手にスキルを発動する。
「幻影斬」
スキルを発動してデスサイズを振るうと、その周辺にデスサイズが六つ現れ、レイがデスサイズを振るった軌跡に合わせるようにして振るわれる。
レベル五の時が五つの幻影だったことを思えば、レベル六になったことによって幻影が一つ増えた形だ。
ある意味多連斬に近い見た目のスキルだったが、この幻影斬はその名称にもあるように、あくまでも幻影……幻だ。
ただ、それは幻であっても相手に痛みを感じさせるには十分な威力を持つ幻影でもある。
人は目隠しをして、焼けた鉄棒だと思わされてそれを腕に当てられた場合、実際にはただの鉄棒であっても思い込みだけでその部分が火傷を負う。
つまり、幻影であっても人が心の底から思い込めば、それは現実となるのだ。
レイにしてみれば、それなりに使いやすいスキル……と思うのだが、そもそも幻影を見せるくらいなら普通に同じようなスキルで更に威力も高い上位互換の多連斬を使ってみせるのが手っ取り早い。
だからこそ、幻影斬は習得したのはいいものの、これまであまり使う機会はなかった。
(何事も考えようではあるが。相手を脅かすという目的でなら使えるか? ……もっとも、注意しないと相手にダメージを与えてしまうから、脅かすという目的であっても下手に使うと、それによって相手が死んでもおかしくはないんだが)
幻影斬というスキルは、やはりレイにとって微妙に……いや、かなり使いにくいスキルなのは間違いない。
レイとしては、出来ればもっと使いやすいスキルであってくれた方が嬉しかったのだが、その辺についてはレイがどうこう考えられるようなことではない。
それこそデスサイズが習得した……いや、習得するように設計された、魔獣術の影響なのは間違いない。
幻影斬についてレイがどうこう考えても、それは全く意味のあることではなかった。
「ともあれ、これ以上この部屋にいるのも何だし……あ、でもアサシンの血や内臓の臭いを感知して、また別のアサシンが、あるいは他の希少種や上位種がやって来たりするか?」
もしそうであれば、レイとしては最低でももう一匹分のアサシンの死体……正確にはそこから取れる魔石を確保したい。
とはいえ、だからといってレッドキャップの血や内臓の悪臭が漂う場所にずっといたいかと言えば……それは勿論、否な訳で。
少し考えた後、レイはやはりその部屋から離れることにするのだった。
時は少し戻る。
レイがアサシンを倒して魔石をどうするか迷っている頃、セトは空中を飛びながらレッドキャップの攻撃を回避し、反撃をしては倒していた。
これがダンジョンの外のように自由に上空を飛べるのなら、セトにとってはかなり楽な戦いだっただろう。
だが、この二十一階は湖の階層……正確には地底湖の階層で、セトが現在戦っている場所は天井があり、しかも鍾乳石が鋭く尖って槍の如く下を向いている。
その辺について何も気にせずに空を飛ぶようなことをすると、それこそ鍾乳石にぶつかるようなことにもなりかねない。
さすがに鍾乳石が鋭く尖っていても、セトの毛皮を貫く程ではない。
……あるいは、セトが全速力で、それも角度も考えて鍾乳石にぶつかれば、あるいはそのような結果になってもおかしくはなかったものの、だからといってセトが意図的にそのようなことをする筈もない。
ただ、それでも飛べる高度が決まっているというのは、空を自由に飛ぶのを好むセトにしてみれば、決して面白いことではなかった。
とはいえ、それでも今の状況を考えれば、問題がない程度に空を飛ぶしかないのも事実だったが。
そうして空を飛び続けながら、セトはブレス系やアロー系といった遠距離攻撃に向いているスキルを使っては、レッドキャップの数を減らしていく。
……もしこれがレッドキャップではなく、それこそレイが趣味で行っている盗賊狩りの対象である盗賊達であれば、ここまで一方的にダメージを受けたのなら即座に逃げ出していてもおかしくはない。
だが、レッドキャップは既に数百匹は殺されているというのに、未だにセトとの戦闘を続けていた。
ましてや、それだけの数を殺しても次から次に土砦からレッドキャップが出てくるので、倒しているのに倒したといったつもりにはなれない。
「グルルルルルゥ!」
ファイアブレスを放ち、十匹以上のレッドキャップを消し炭にする。
そうしながら、セトは少し前に見たレイ……何を考えたのか、土砦から姿を現したレイのことを思い出す。
自分がこうして土砦の外でレッドキャップと戦っているのに、レイは一体何故あそこから姿を現すようなことをしたのか、と。
一瞬、セトはレイがいた場所に視線を向ける。
ただ、結局のところすぐに視線を逸らすと、再びレッドキャップとの戦闘を続けるが。
「グルルゥ」
そうした戦いの中で、少しだけセトが不安に思うのは、先程自分が魔石を飲み込み、魔獣術を発動させてしまったことだろう。
地面から岩の矢を、あるいは槍を作っては飛ばしてくるレッドキャップがいたのだ。
他のレッドキャップはそもそも弓の攻撃で矢が届くようなことは殆どなかったし、届いてもセトのいる高度まで矢が飛んでくると勢いはほぼ完全に殺されている。
そのような理由もあって、セトもかなり楽に戦えていたのだが……岩の矢や槍は普通にセトのいる場所まで届くし、命中すれば致命傷にはならなくても、相応に痛みはある。
その為、レッドキャップとの戦闘の中で隙を突くようにして一気に迫り、前足でその身体を捕らえると、皮を破り、肉を裂き、骨を砕き……そして内臓を破壊するといったことを行って殺した。
殺した後で、このレッドキャップがレイの探していた希少種や上位種だと判断し、死体を……より正確には魔石を確保しておこうと思い、結果として戦闘のドサクサで魔石を飲み込んでしまったのだ。
セトにしてみれば完全に不可抗力だったのだが……それでも脳に響いたアナウンスメッセージは、自分だけではなくレイにも聞こえている筈だった。
それでレイを驚かせていないといいんだけど。
そう思っていたセトだったが、ちょうどそのタイミングで脳裏にアナウンスメッセージが流れる。
【デスサイズは『幻影斬 Lv.六』のスキルを習得した】
突然のアナウンスメッセージではあったが、セトもそこまで露骨に驚いたりといったことはなかった。
勿論、驚いたかどうかと言われれば、間違いなく驚いたのは事実。
ただ、先程自分の行動によってアナウンスメッセージが流れたのも間違いはなく、そういう意味では一種の慣れがあった。
……そもそも、魔獣術で生み出されたセトにしてみれば、魔獣術によって脳裏にアナウンスメッセージが流れるのは自然なことだったのだから。
「グルゥ!?」
とはいえ、それでもやはりいきなりの展開に多少の驚きがあったのは間違いなく、そんな鳴き声を出してしまう。
セトにとって幸いだったのは、そのタイミングでレッドキャップが攻撃してこなかったことだろう。
レッドキャップにしてみれば、千載一遇のチャンスを逃したのは間違いなかったが。
もっとも、そうなったらそうなったで、セトも相応に対処はしていただろうが。
とにかくセトは、自分の動揺を誤魔化すように地上に向かってレーザーブレスを放つのだった。
「グルルルルルゥ!」
「さて、次は一体どういう部屋を見つけられるのか。……この土砦の中は思った程にいいものはないよな」
セトがレッドキャップを相手に相変わらず無双をしている頃、レイは土砦の探索を続けていた。
もっとも、特に何もこれといった収穫はなかったが。
「レッドキャップの木が他にもあると、そう思っていたんだけどな。それに、レッドキャップの指揮をしていた個体とかにも、まだ遭遇はしていないし」
通路を進みつつ、愚痴を口にするレイ。
宝石を見つけていたし、何より二十二階に続くのだろう階段も見つけ、その階段の途中にある扉も、ピラミッド状の通路で見つけた鍵で開けられると予想している。
そういう意味では、既にこの土砦で十分な収穫はあるのだが……やはりレイにとってこの土砦での収穫の一番期待しているのは、先程襲ってきたアサシンと同じく希少種や上位種といった個体だった。
(というか、こうして俺が土砦の中を堂々と歩いているんだから、さっきと同じくアサシンが襲ってきてもおかしくはないと思うんだが。……もしかして、俺が予想していた以上に希少種や上位種は数が少ないのか?)
レイとしては、レッドキャップの指揮を執っている個体を含め、希少種や上位種は結構な数がいて、それが普通のレッドキャップとは別にどこかにいると思っていた。
……レイにとって一番好都合だったのは、大群で襲われたホールにおいて希少種や上位種も出てくることだったのだが……生憎と、そういうことはなかった。
いや、あるいはホールで襲ってきた大群の中に多少は希少種や上位種が入っていたのかもしれないが……そういうのが判別出来ないような戦い方だったのも、事実。
ただ、そのような戦いであったが為に、希少種や上位種といった存在を見つけることが出来なかったのだ。
何しろ、地形操作を使って作った落とし穴が、通路から出てすぐの場所に広がっているのだ。
そうなると、通路から飛び出したレッドキャップは、当然のように落とし穴に一直線に落ちる。
それなりの深さのある落とし穴だったものの、絶対に死ぬという訳ではない。
落ちた時に偶然体勢が整っていたということもあって死ななかったり、もしくは先に落ちたレッドキャップの死体がクッション代わりとなって生き延びることが出来たり。
ホールに突っ込んで来たレッドキャップの数を考えれば、次々にレッドキャップの死体や、まだ生きているが動けない個体で穴が埋まっていくのは当然のことだった。
それだけなら、レッドキャップ側にも被害は大きかっただろうが、それでも生き延び、落とし穴を越える個体も出て来ただろうが……そこでレイの無詠唱魔法によって発動したファイアボールがて、穴の中、それにレイから見える位置に限られるが通路の中にも次々に使われた。
結果として、まさに大虐殺といった表現が相応しい光景がそこに広がり……そんな中で、例え数匹、あるいは十数匹、もしくは数十匹程いても、レイに区別出来る筈もなかった。
あるいは他のレッドキャップと明らかに違う……一目見ただけでそう判断出来るような外見の違いがあったり、もしくは他のレッドキャップよりも明らかに大きい……それこそゴブリンの半分程の大きさしかないレッドキャップが、ゴブリンと同じくらいの大きさになっているといったようなことでもあれば、レイもすぐにその違いを理解出来たのだろうが。
ただ、残念ながらそのように外見で区別出来るような個体はおらず、結局レイはこうして希少種や上位種を探して土砦の中を歩き回ることになるのだった。
【デスサイズ】
『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.五』『パワースラッシュ Lv.九』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』『ペインバースト Lv.七』『ペネトレイト Lv.九』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.九』『飛針 Lv.九』『地中転移斬 Lv.六』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.六』new『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.四』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.四』『緑生斬Lv.二』『出血増加Lv.四』『砂礫斬Lv.二』『斬撃加速Lv.二』
幻影斬:デスサイズを振るった時、デスサイズの幻が生み出されてレイが振るった一撃の近辺に振るわれる。あくまでも幻影だが、触れた者は実際にデスサイズで斬られた痛みを負う。ただし、幻影なので傷跡は残らず、あくまでも非常にリアルな幻影に脳が痛みを感じるというだけ。レベル一で生み出される幻影は一つ。レベル二で二つ、レベル三で三つ、レベル四で四つ。レベル五で五つ。レベル六で六つ。




