4237話
お盆期間なので、今日は2話同時更新です。
こちらは2話目なので、直接こちらに来た方は前話からどうぞ。
「うおっ……マジか。予想はしてたけど、まさか本当にあるとは思わなかった」
レイが驚いたのは、部屋の中にある宝石の類を見つけた為だ。
レッドキャップの木と階段のあるホールから移動し、他にもレッドキャップの木がないか、あるいは何らかのお宝がないかと思いながら土砦の中を歩いていたのだが、そんな中で見つけた部屋。
レッドキャップの木の枝と思しき物があった部屋と同じくらいの大きさではあったが、そんな部屋の中には錆びた長剣や使い古された槍――どちらもレッドキャップ用の物だったが――が置かれていた。
それ以外に赤、青、緑、黄色、紫といった色の宝石が置かれていたのだ。
もっとも、レッドキャップにしてみれば、この宝石は特に貴重な物ではないのだろう。
床に適当に散らばっている。
レイの趣味の盗賊狩りにおいて、盗賊が貯め込んでいた宝石を奪う時もあったが、それでも宝石は革袋の中に一纏めにしてあることが多い。
……宝石は硬度の違いもあり、革袋の中に纏めるといったことをした場合、その硬度の違いや形の違いから宝石に傷がついて、商人に売る際にも値段が下がるのだが。
ましてや、盗賊と取引をするような闇商人であれば、盗賊から買い叩く……とまではいかないが、普通の商人に売るのと比べても数割は安い値段で買われてしまう。
闇商人にしてみれば、危険を冒して盗賊と取引をしているのだ。
そうである以上、普通に……真っ当な商売するよりも危険手当を考えて自分の利益を多くするというのは当然だった。
もっとも、買い叩くといった程に自分の利益を多くした場合、怒った盗賊達に殺されてしまうので、その辺は十分に注意する必要があったが。
ともあれ、現在レイの視線の先にある宝石……地面に適当に置かれている、もしくは捨てられているのかもしれない宝石は、盗賊達よりも扱いが酷い。
酷いのだが……
「あ、でも革袋の中に纏めて入れておくよりは、宝石の状態は悪くなかったりするのか?」
地面に落ちている宝石の一つ、緑のエメラルドと思しき宝石を拾い上げ、見ながら言う。
実際、地面にバラバラに散らばっている宝石は、革袋の中に多種多様な宝石が纏めて入れられているように硬度や形の違いで宝石が傷ついたりはしない。
見た目的には革袋の方が保管方法としてはマシに思えるものの、実際にはこうしてレイの視線の先にある宝石の方が状態はいいのかもしれなかった。
「宝石の扱いか。冒険者もそれなりに勉強した方がいいとは思うんだけどな」
地面に落ちている宝石を拾いながら、レイはそんな風に呟く。
宝石の扱いという点では、冒険者もまたそれなりに雑だったりするのを知っている為だ。
金貨や銀貨、白金貨といった金は、持ち歩くとなると当然のようにそれなりの重さとなる。
レイのようにミスティリングを持つのであればそのような重量は全く問題とはしないが、普通の冒険者にそのようなことは出来ない。
その為、それなりに稼いだ冒険者の中には、持ち運びを考慮して必要な分以外は宝石にしておく者もいる。
また、一ヶ所で活動するのならともかく、街から街へ、村か村へといったように移動しながら冒険者を続ける者も、持ち運びを考えて宝石を買う者も多かった。
もっとも、換金目的で宝石を購入している以上、多くの者は基本的に相応の知識を持っており、革袋に入れるにしても、布で包んで傷がつかないようにといった程度の保護をする者は多かったが。
……中には、聞きかじりの知識だけで宝石を買い、そのまま革袋に入れた結果、いざ換金しようとした時には購入した金額を大きく下回る……といったことになり、それが納得出来ずにふざけるなと騒いでいる光景をレイも目にしたことがあったが。
「ともあれ、宝石がある以上は回収するべきだな。……まぁ、それで嬉しいかと言われれば、そこまででもないんだけど」
宝石……金銀財宝の類については、レイのミスティリングには大量に入ってる。
また、昨日この二十一階の隠し部屋から見つけた三つの宝箱の中にもそれらは入っていた。
この部屋にある宝石はそれなりに数があるものの、レイが見たところ全体的に小粒。
それこそ昨日宝箱に入っていた宝石の方が大きいし、質についてもそちらの方が上だったようにレイには思えた。
だからといって、レイが口にしたように宝石が落ちているのなら、それを拾わずに放っておくといった選択肢はないので、床に落ちている宝石は全て拾うのだが。
そうして一通りの宝石を拾い終わると、レイは改めて部屋の様子を見る。
既にこうして確認している以上、これ以上何か重要な物が落ちているとはレイにも思えない。
思えないのだが、それでもこうして改めて見た場合に何らかの発見があるかもしれないと、そう思っての行動だった。
「……何もないけど」
そのことを残念に思いつつ、この部屋でやるべきことは既に終わったので、部屋を出る。
(出来れば、レッドキャップの木のある部屋……というか、ホールに行きたいんだけど。この土砦の複雑さを思えば、そう簡単に目的の場所に行ける筈もないか。それこそ、レッドキャップの希少種や上位種のいるホールか部屋にでも行きたいけど、それも運任せにするしかないし。……そもそも、階段のあるホールにいるのは、こういう場合のセオリーというか、お約束じゃないのか?)
レイの中の常識……あくまでも日本で楽しんだゲームや漫画、小説といったものからの知識だったが、実際にそれが間違っているとはレイには思えない。
この土砦はレッドキャップにとって非常に重要な場所なのは間違いないのだから。
そんな土砦の中をあっさり通して、二十二階に向かわせるというのはレッドキャップ的に許容出来ないだろうというのがレイの予想だった。
(まぁ、あの扉があるから階段は基本的に自由に使えない。それを考えて、レッドキャップ的にはあのホールにいなくてもそこまで問題ないと判断してるのかもしれないが)
レッドキャップの知恵がそこまで回るのかといえば、それは微妙なところではあったが。
ただ、レッドキャップはゴブリン系のモンスターだけあって、意外なところで悪知恵が働く一面もある。
そういう意味では、決して油断出来るような相手でないのは間違いなかったが。
「とにかく、ここには何もない、他の場所……」
そこまで口にしたレイは、数秒言葉を止める。
そして、そっと腰にあるネブラの瞳に手を伸ばし、触れて発動させ……それによって生み出された鏃を、振り向きざまに投擲する。
向かうのは、部屋の外。……正確には、部屋の外の通路にある天井部分。
角度的に狙えるかどうか微妙なところではあった。
もしここが普通の人サイズの者が使うように作られた砦であれば、部屋の中央付近にいるレイがネブラの瞳で生み出された鏃を投擲しても、それが天井にいる敵……レッドキャップに命中するようなことはなかっただろう。
だが、この土砦はレッドキャップが作った……いや、ダンジョンが作ったのかもしないが、とにかくレッドキャップが使うのに最適化されているのは間違いない。
だからこそ、レイが投擲した鏃は天井に張り付くようにしていたレッドキャップに見事に命中し、そのまま地面に落とす。
勿論、それはレイの卓越した技術が前提としての一撃ではあったのだが。
「グギャッ!」
地面に落とされたレッドキャップは、上手く着地することは出来ず、落下した衝撃を殺すことも出来ず、無様な悲鳴を上げる。
それでもすぐに立ち上がったのは、見ていたレイにとって少しだけ驚きだった。
「へぇ。別に手加減をしたつもりはないんだけどな」
立ち上がるレッドキャップを見て、感心したように言う。
勿論、部屋の中から通路の天井に張り付いて潜んでいたレッドキャップに命中するように攻撃したのだ。
その一撃は万全の時に放った一撃と比べると、どうして劣るだろう。
劣るだろうが……だからといって、それでも普通のレッドキャップであれば死んでいた可能性が高い。あるいは死ななくても致命傷に近い傷を負うことになるのは間違いない程度の威力はあったのだ。
だというのに、天井から落ちはしたものの、それでもすぐに立ち上がるといったことが出来るのは、レイにとっては意外であり……同時に、相手が普通のレッドキャップではないと予想する。
つまりは、希少種や上位種だろうと。
それはレイにとっては望むところだった。
寧ろ、出てくるのが遅いという感想すら抱いてしまう。
……もっとも、レッドキャップがそんなレイの感想を聞いても、知ったことかと思うのは間違いなかったが。
「で? お前は一体どんな種族なんだ? 見た感じ杖も持っていないし……メイジとかそっち系じゃないよな?」
「ギャギョ!」
レッドキャップはレイの言葉の意味を理解しているのか、いないのか、腰から短剣を引き抜き構える。
ただ短剣を手にしているというだけではなく、その構えは堂に入ったものだった。
そのことや天井に何らかの手段で張り付いていたことから、レイは何となく理解する。
「レッドキャップアサシン……ってところか?」
勿論、それはレイか勝手に予想して付けた名称でしかない。
実際にはもっと違う種族である可能性もあるが……レイにしてみれば、他にピッタリとくる名称がなかったのも事実。
「ギョギャ」
そしてレッドキャップがレイの言葉を肯定するような鳴き声を発する。
勿論それはあくまでもレイがそのように思っているだけで、実際アサシンが何と言ったのかはレイには分からない。
そもそもアサシンと呼び掛けたものの、本当の名前は分からないのだから。
もっとも、ギルドで名付ける名前も名称にプラスしてメイジやアーチャー、アサシンといったようにつけることが多いので、レイの呼び名も決して間違っている訳ではないのだろうが。
ともあれ、アサシンはトン、と地面を蹴ると短剣を構えたままレイに向かって走り出す。
レイもまた、ミスティリングから出したデスサイズと黄昏の槍を手に、アサシンを待ち受ける。
ここでレイが自分から前に出るのではなく、アサシンを待ち受けるといった選択をしたのは、相手の行動を理解した上で倒したいと思った為だ。
魔獣術は使う魔石によって……より正確には、その魔石を体内に持っていたモンスターの影響を受けやすい。
……勿論それは絶対にそうだといった訳ではなく、あくまでもそういう傾向があるといったものでしかないので、信じすぎるのは好ましいことではなかったが。
それでも魔獣術で習得する、あるいはレベルアップするスキルを大雑把にだが予想出来るというのは、大きな意味を持つ。
そんな訳で、このアサシンもどういう特性をもっているのか、どのようなスキルを使うのかをレイとしては見てみたかった。
アサシンだけに、周囲の景色に紛れるといったような能力があってくれると、レイとしては嬉しいのだが。
具体的には、セトの光学迷彩であったり、デスサイズの隠密であったりがレベルアップするのを期待して。
そんな風に思っていると、アサシンはそれがレイの弱点であると、戦いに集中していないとでも判断したのか、レイに向かって短剣を持っていない方の手を振るう。
(何だ?)
疑問に思いつつも、飛んできたのが石……それも小石であると見て取ると、レイはがっかりする。
てっきりこのタイミングでこうして攻撃をしてくるのだから、何かもっとこう……別の、例えばアサシンが持つ何らかのスキルでも使ったのではないかと期待したのだが、その期待は残念ながら大きく外れた形となる。
左手の黄昏の槍を振るうことで、あっさりと小石を弾く。
すると間髪入れずにアサシンはレイに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる動きを唐突に真横に向けて動く。
アサシンにしてみれば、手に持っていた小石を投擲してそちらに意識を向けさせ、自分から意識を逸らさせることによって、自分の姿を見失わせようとしたのだろう。
その判断そのものは、そう間違ってはいない。
人というのは縦の動きから急に横の動きをされると、真っ直ぐにくると予想していただけに、見失いやすい。
ましてや、戦闘の最中ともなれば、その緊張感から余計に思考を乱され、相手の……この場合はアサシンの術中に嵌まってしまうことも珍しくはなかった。
もっとも、それはあくまでも普通の人ならの話だ。
戦闘慣れしている相手……それもこれまで多種多様な戦闘を経験してきたレイにしてみれば、そんなアサシンの行動はあっさりと見抜かれ……
斬、と。
横に跳び、地面を蹴って三角跳びに近い動きで襲ってきたアサシンは、レイの振るうデスサイズにあっさりと胴体を切断されるのだった。




