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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4033/4119

4033話

 テイマーの厩舎について、冒険者育成校を利用する。

 フランシスのその意見は、レイとしても納得出来るものだった。

 元々この冒険者育成校はガンダルシアにあるダンジョンの攻略を少しでも進める為に作られた場所だ。

 そうである以上、テイマーが自由に使える厩舎というのは有益だろうとレイには思える。

 思えるのだが……


「幾つか問題があるな」

「何かしら?」


 フランシスにしてみれば、まだテイマーに厩舎を自由に使わせるというのは決めた訳ではなく、まだ検討中だ。

 それだけに、何か問題があるのなら前もって聞いておきたいと思うのは当然のことだった。


「幾つか思いつく問題はあるが……まず、厩舎というのは当然ながらモンスターを休ませるだけではなく、それを世話する人員も必要になる。具体的には、その厩舎を快適な状態にするとか、餌を与えるとか。ここの敷地内に厩舎を作るとなると、その辺をどうするのかが問題だな。これが馬とかなら、世話もしやすいだろうけど、モンスターだし」


 レイが言うように、一般的な馬なら世話が出来る者は多いだろう。

 だが、それがモンスターとなると、多種多様だ。

 馬なら問題のない世話の仕方でも、そのモンスターにとっては決して許容出来ないことであったり、もしくはモンスターにとってダメージになるようなことがあってもおかしくはないのだ。

 だからこそ、フランシスの意見……冒険者育成校に厩舎を用意するというのは、実際にやるとなるとその辺が問題になるのは間違いなかった。


「それに、フランシスは従魔となるとセトを思い浮かべているかもしれないが、セトは色々な意味で例外だからな?」

「具体的には?」

「例えば、セトは非常に人懐っこい。それはフランシスも理解しているだろう?」

「……そうね。セトちゃんは凄く人懐っこいわ」


 フランシスはセトを愛でている時のことを思い浮かべたのか、一瞬だけ笑みを浮かべる。

 だが、それでもすぐに真剣な表情に戻ったが。


「だろう? まぁ、セトは俺が子供の頃から育てたからというのもあるんだろうが」


 実際にはセトは魔獣術で生み出された存在なのだが、フランシスにそれを話せる訳もないので、いつものようにカバーストーリーを口にする。


「つまり、普通にテイムしたモンスターだと、セトちゃんみたいに人懐っこくないと?」

「その辺はモンスターの個性だな。人懐っこいのもいれば、主人に対しては友好的でもそれ以外には敵対的なモンスターもいる」


 レイが以前ちょっとしたことからテイマーを希望したダリクソンという冒険者の手伝いをしてたことがあった。

 その時にダリクソンがテイムしたモンスターは、ダリクソンには友好的……というより、レイの目から見ると、そのモンスターが ダリクソンの保護者的な立場のような気すらしていた。

 ともあれ、テイマーとテイムされたモンスターの関係は本当にそれぞれだ。


「もし冒険者育成校にテイマー用の厩舎を作るのなら、生徒達には迂闊にモンスターに触れないように周知する必要があるだろうな。テイマー以外には触れられるのも嫌だというモンスターに対して、セトと同じように気軽に触れるといったことをした場合、騒動が起きる可能性は十分にある」


 レイの言葉にフランシスは難しい表情を浮かべる。

 フランシスはセト好きで頻繁にセトを愛でているだけに、テイマーの連れているモンスターにセトと同じように接触する者は相応にいるのではないかと、そう思えたのだ。


「もし厩舎を作った場合、その辺はしっかりと注意する必要があるかもしれないわね」

「そうなるな。……まぁ、俺としては厩舎を作るというのは悪くないとは思うが」


 実際、レイにしてみればテイマーが増えるというのは悪くないことだとは思うのだ。

 とはいえ、そう簡単にテイマーが増えることがないというのは、予想出来ているが。


「次の話題だけど、ギルムでテイマーの学校をやるという話だったけど、冒険者育成校でテイマーの教育をしてみたらどうかという意見もギルドからあったわ」

「それは……いやまぁ、分からないではないけど、そもそもテイマーの数が少ない以上、どうするんだ? 一応言っておくけど、俺は無理だぞ」

「……やっぱり?」


 フランシスにしてみれば、今の時点で知っているテイマーはレイだけだ。

 そうである以上、もしこの冒険者育成校でテイマーの学校をやるとすれば教師はレイ以外にいない。

 ……もっとも、レイの性格を考えれば、恐らく教師をやるようなことはないだろうと思ってはいたが。


「今でさえ、ダンジョンに挑むのは午後からだけなんだぞ? そこで更にテイマーとしての教師になれと言われても、とてもじゃないが無理だな。そもそも俺がガンダルシアに来たのは、あくまでも臨時の教官としてだろう? 正式な教師としてじゃない」

「それは分かっているけど、それでもやっぱり今の時点で頼れるテイマーがレイだけなのは間違いないのよ」

「……それこそ、俺じゃなくて別にテイマーを見つけた方がいいんじゃないか?」


 捜せば、恐らくテイマーを見つけることは出来るだろう。

 そうレイは思うが、フランシスはレイの言葉に難しい表情を浮かべる。


「まぁ、テイマーの学校をするにしても、それは今すぐには無理でしょうね。それこそ、もっと長い目で見た方がいいでしょうし」

「長い目で見るのはいいけど、その前に俺がダンジョンを攻略する可能性も考えておいてくれよ」


 フランシスがガンダルシアにあるダンジョンの攻略を進める為に冒険者育成校を作ったのはレイも理解している。

 だが、今レイはダンジョンの攻略をかなりの速度で進めている。

 そうである以上、もしかしたら……本当にもしかしたら、レイが冒険者育成校の教官をやっている間に、ダンジョンを攻略してしまう可能性は十分にあった。


「そうね。そうなったらそうなったで、嬉しいような、残念なような、そんな感じになるでしょうね」


 ダンジョンの核が失われれば、ダンジョンはダンジョンとして活動出来なくなる。

 つまり、レイがダンジョンの核を破壊してしまえば、このガンダルシアは迷宮都市としてやっていくことが出来なくなる可能性もある訳で……


「もしレイがダンジョンを攻略したのなら、ダンジョンが使えなくなるのは痛いわね。ガンダルシアも迷宮都市じゃなくて、普通の都市になってしまう訳だし」

「その辺は俺はどうこう言えないな。ダンジョンである以上は、攻略されるのが当然だろうし。……それに転移水晶があるから、攻略しやすいダンジョンなのも事実だし」


 今のところ判明している、五階ごとにある転移水晶。

 五階ごとというのが微妙に厄介だったが、それでもダンジョンに潜る際に毎回一階から始めなくてもいいというのは、冒険者にとってはありがたいことだった。

 オークの住処の五階程度ならともかく、十階、十五階といった場所まで毎回転移水晶を使わずに下りるとなると、それこそ泊まりを前提として移動する必要がある。

 転移水晶があれば、そのような心配をしなくてもいいので、非常に楽なのは間違いなかった。

 そういう意味では、このガンダルシアにあるダンジョンは非常に攻略しやすいダンジョンだった。


(それこそ、ダンジョンそのものが攻略して下さいと言ってるような……いや、考えすぎか。それにしては難易度の高い階層ばかりだし)


 もし……もし万が一にも何らかの理由でダンジョンを攻略して欲しいと思っているのなら、このガンダルシアのダンジョンはまず有り得ない。

 そう思えるくらいには、ダンジョンの難易度は高かったのだから。


「まぁ、ダンジョンの攻略については置いておくとして。……そもそも、何階が最下層なのかというのも、今のところは分からないんだしな」

「そうね。久遠の牙が頑張ってくれているけど、それに続くパーティがないのが難点なのよ」


 レイの言葉を聞いたフランシスは、テイマーについての話から何故か愚痴に移行する。


「久遠の牙は頑張ってるわよ? それは間違いないわ。けど、パーティで見た場合、久遠の牙が突出していて、その次となると一気に下がるのよね。……それこそパーティじゃなくてソロだけど、レイが久遠の牙に続くんじゃないかと思ってしまうくらい」


 俺は久遠の牙の下のつもりはないぞ。

 そう言い返したくなるレイだったが、ここで下手に何かを言い返せばフランシスの愚痴がより長くなることは明白だった。


(それに……ダンジョンに専念してるって訳じゃないにしろ、それでもまだ俺が久遠の牙を追い抜くどころか、追いついてないのも事実だしな)


 まだ久遠の牙に追いついていない以上、久遠の牙よりも下だと言われても反論は出来ない。

 ……いや、反論しようと思えば幾らでも反論は出来ると思うが、実際にそのようなことをした場合、自分に対して言い訳をしているみたいで情けなくなってしまう。


「その久遠の牙に続く為に、この冒険者育成校を作ったんだろう? それで成果も相応に出ているんだから、そこまで気にする必要はないと思うんだがな」

「私もそうは思うわよ? でも、私に面会を求めて来る人の中には、露骨に言ってくる人がいるのよ」

「言ってくるって、何をだ?」

「この学校の卒業生が冒険者として活躍するのは分かるが、その大半はダンジョンで死ぬ。そのような人材を失うのはガンダルシアにとって損失だ。なら、自分のところで引き取ろう……ってね」

「ようは引き抜きか」

「そうよ!」


 レイの言葉に不満そうに頷くフランシス。

 フランシスにしてみれば、自分がわざわざこのような学校を作ったのは、お前達の私兵を養成する為ではないと、そう思っているのだろう。


「まぁ、実力の分からない奴を雇うよりは、ここの生徒となれば素性や能力は前もって知ることが出来るし、そういう意味では貴族や商人にしてみれば美味しい場所なんだろうな」

「随分と他人事だけど、レイはそういう連中に言い寄られたことはないの?」

「ない……とは言い切れないが、かなり少ないのも事実だな」


 レイの実力だけを知り、高ランクモンスターのグリフォンを従魔にしているということで、レイを部下にしようと思った者はそれなりにいた。

 だが……それは本当にあくまでもレイがギルムに姿を現したばかりの頃だけの話だ。

 何しろ、レイは気に食わない相手に対しては容赦なく力を振るう。

 それは相手が大商人であろうと、それこそ貴族であろうとも変わらない。

 幾ら強くても……いや、下手に強いだけ、そのような人材を部下にしたいと思う者はいない。

 何かあったら、レイが即座に敵に回るということなのだから。

 だからこそ、短期間ならともかく仕官するという意味でレイを雇おうと思う者は多くはない。

 そもそもレイが人に縛られるのを好んでいないというのもある。

 ……また、今のレイは実際には違うものの、ギルムの領主であるダスカーの懐刀という風に思われているので、それもあってレイを雇おうと……ダスカーと正面からぶつかろうと思う者は、そう多くはない。

 もっとも、レイは自分がダスカーの懐刀としてそこまで多くの者に見られているという認識はなかったが。


「へぇ、そうなの? それは羨ましいわね。……寄付とかそういうのは嬉しいんだけど……」


 レイの言葉に羨ましそうに、そして恨めしそうに見るフランシス。

 フランシスにしてみれば、寄付をしてくれる相手というのは助かるのだが、だからといって生徒達を引き抜かれるのも困るのだろう。

 そんな自分とは違い、気楽にしているレイが心の底から羨ましかった。


「いや、そういう目で見られても……ちょっと困るんだが。ああ、そうだ。この冒険者育成校は別にフランシスだけで運営している訳じゃなくて、ガンダルシアの領主も関わってるんだろう? なら、そっちから釘を刺して貰うのはどうだ?」


 学園長のフランシスの場合は、この冒険者育成校を運営していく必要があり、寄付をしてくる相手に強く出ることが出来ない。

 なら、この冒険者育成校を作るのに手を貸したというガンダルシアの領主ならどうか。

 そうレイが思うのは、おかしなことではない。

 だが、フランシスはそんなレイの言葉に微妙な表情を浮かべながら首を横に振る。


「そういうのでわざわざ担ぎ出したりすると、それは私が無能だってことになるじゃない。それは困るのよ」

「……そういうものか」


 フランシスの言葉にはそれなりに理解すべきところがあり、だからこそレイはその言葉にそう返すしかなかった。

 自分には分からないような、色々と複雑なことがあるんだろうなと、そう思いながら。

 レイの様子にフランシスは笑みを浮かべ……それからまた愚痴が続くのだった。

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