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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4032/4117

4032話

「……これ、ギルドからよね? 本気?」


 レイがアニタを驚かせた日の翌日。

 現在生徒達は授業をしている中で、フランシスは自分の仕事を片付けていた。

 冒険者育成校の学園長という仕事をしているフランシスだが、当然ながらその仕事は多い。

 場合によっては、それこそ夜まで仕事をしていることも珍しくはないし、何人もの相手と面会をすることも珍しくはない。

 特に面会を希望する者の中には、援助金をチラつかせたり、自分は誰々と知り合いだったりといったようなことを口にする者もいる。

 ……そのような者達の大半は、いわゆる青田買いが目当ての者達だ。

 冒険者育成校でしっかりと鍛えられた若者。

 まだ強さはそこまでではないが、素質については冒険者育成校を卒業したことから相応のものがあるのは間違いない。

 だからこそ、ここで確保しておきたいと考える者がいるのは当然だった。

 だからといって、フランシスがそれに応じることは本当に何か特別な事情がない限りはなかったが。

 何しろこの冒険者育成校があるのは、あくまでもガンダルシアにあるダンジョンの攻略を進める為だ。

 だというのに、そのダンジョンを攻略する為の人員を引き抜かれるというのは、許容出来ない。

 ……もっとも、フランシスが今見ている書類はその辺りのことが書かれている訳ではない。

 ギルドからの陳情書……もしくは要望書。

 より正確にはそこまで厳密なものではなく、こういうことが出来ないかといったアイディアのようなものだ。

 その内容は、アニタからの報告を聞いたギルドが、採用されればラッキー程度の気持ちで送ってきた書類。


「この学校でテイマーを……ね。悪くはない。悪くはないんだけど……」


 フランシスにとっても、ギルドからの提案が魅力的なのは間違いない。

 実際、グリフォンのセトを従魔としているレイは他の冒険者とは比べものにならないくらいの早さでダンジョンを攻略している。

 その原因はレイの実力にもあるが、同時にセトの存在が大きく関係しているのは間違いない。

 ガンダルシアにおけるセト好きの代表的な立場にいるフランシスだったが、セト好きだからといって贔屓をしたりはしない。……若干、本当に若干甘い目で見ている点があるのは間違いなかったが。

 とにかくフランシスから見ても、テイマーがいればダンジョンの攻略が今よりも進むのは間違いないように思えた。


「とはいえ……ダンジョンの攻略はいいけど、それ以外が問題よね」


 書類にはアニタがレイから聞き出したテイマーの問題点が幾つか書かれている。

 中でも特に大きな問題となるのが、二つ。

 一定以上の大きさのモンスターをテイムした者が宿を使う時は、厩舎のある宿を使う必要がある。……つまり、普通に宿を使うよりも宿泊費用が掛かる。

 また、他にもモンスターをテイムした場合、そのモンスターの食費が必要になるという点。

 こちらもまた、宿屋と同じく相応の資金が必要になる。


「厩舎の問題は、この学校の厩舎を貸すという手段もあるけど、食費となると……ちょっと難しいわね。どこかに雇われているのなら、そのテイマーの食費を出すといったことも出来るけど、冒険者だし。そうなると、倒したモンスターを解体して、その肉を食料にするとか?」


 そう考えるも、それはそれで難しいように思える。


「将来的に……もっと冒険者の数が多くなったり、冒険者育成校を卒業した生徒が多くなったりしたら、何とかなるかもしれないけど。どう考えても今は無理よね。……ああ、でもちょっとレイに話を聞いてみてもいいかしら」


 思い立ったら即実行と、精霊魔法を使って訓練場にいるレイに声を届ける。


「レイ、少しいいかしら。今が授業の最中だというのは分かるけど、ちょっと私の部屋まで来てくれる?」


 そうして一方的に声を届けると、フランシスはレイが来るまで書類仕事を進めるのだった。






 一方、こちらは模擬戦の授業で二組のイステルと模擬戦をしていたレイ。

 ギルムに行ったことによって、イステルのレイピア捌きは以前にも増して上達している。

 だが……そんなイステルにとっても、やはりレイの相手が厳しいのは当然のことだった。

 鋭く連続で放たれる突きを、レイは余裕をもって回避していたのだが……不意に、耳元でフランシスの声が聞こえる。


「うおっ!」


 これが、例えばフランシスがいて、遠くから声を掛けてきたのならレイもここまで驚くようなことはなかっただろう。

 だが、フランシスの姿もないというのに、いきなり耳元でフランシスの声が聞こえてきたのだから、それに驚くなという方が無理だった。

 ……この場合不運だったのは、レイもそうだが、レイと模擬戦をしていたイステルもそうだろう。

 突然の耳元の声に驚いたレイは、その驚きから反射的に模擬戦用の槍を横薙ぎに振るったのだ。

 それでも槍がイステルに命中する直前、何とかその動きを止めたので、イステルは大きく吹き飛びはしたものの鎧の上からだったのも良い方向に影響し、骨折のような大きな怪我ではなく打撲程度ですんだ。


「きゃあっ!」

「あ、悪い。大丈夫か?」


 吹き飛んだイステルに近付いて尋ねるレイ。

 ……吹き飛んだイステルにしてみれば、想い人の顔がすぐ近くにあるのだ。

 それでいて胴体の痛みもあり……どう対応すればいいのか、分からなくなってしまう。


「えっと、あの、その……」

「ほら、イステルの相手は私がするから」


 そんなイステルを見かねたのだろう。

 女の教官が近付いて来て、レイの代わりにイステルの相手をする。


「あー、悪い、頼む。俺はちょっとフランシスに呼ばれたから、そっちに顔を出さないといけなくなった」

「……学園長に? レイ、何かしたの?」


 レイが何かをしたのだと、半ば決めつけたような言葉。

 こういう言葉が出て来る辺り、女がレイをどのように思っているのかは明らかだった。

 ……もっとも、レイがガンダルシアにやって来てから起こした騒動の数々を考えれば、そのように思う者がいてもおかしくはないのだが。

 何しろ、アルカイデの派閥にいた貴族の多くが教官の仕事を辞めてしまったのだから。

 とはいえ、レイにしてみれば自分が何か特別なことをしたといったような覚えはない。


(……ない、よな?)


 心当たりがないかどうかを確認するが、ふと昨日十七階の海水を蒸発させるというのをアニタに話した時のことを思い出す。

 もしかしたら、その件でフランシスにギルドから苦情が入ったのではないか。


(いや、でも……別にフランシスは俺の上司や保護者、パーティメンバーって訳でもないよな?)


 フランシスはあくまでも今のレイにとっては雇い主でしかない。

 ……もっとも、雇い主だからこそギルドからの不満が報告されたのではないか。

 そう思いながらも、レイは話していた教官に向かって口を開く。


「とにかく、ここでこうしていても意味はないし……というか、寧ろフランシスに早く来いと言われるだけかもしれないから、俺は学園長室に行ってくるな」


 声を届けたのは精霊魔法によるものだろうというのは、フランシスからの声だったことを思えばレイにも容易に想像出来た。

 もしかしたら精霊魔法ではなくマジックアイテムであるといった可能性もない訳ではなかったが、その可能性はかなり低い。

 ……レイを呼ぶのなら、レイがマジックアイテムを集める趣味を持っているというのは知っているので、精霊魔法ではなくマジックアイテムを使うという可能性も絶対にないという訳ではなかったが。


「分かったわ。学園長が来いと言ってる以上、急いで行った方がいいのは間違いないでしょうね。……まぁ、レイのことだから、何があるのか分からないけど」


 その言葉に何となく嫌な予感を覚えつつ、レイは最後に訓練場にいるセトに声を掛ける。


「じゃあ、セト。俺はちょっと行ってくる。授業が終わっても俺が戻ってきてなかったら、厩舎に戻ってるんだぞ」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らすのだった。






「あら、随分と早かったわね」


 学園長室に入って来たレイを見て、フランシスが読んでいた書類を執務机の上に置きながら、そう言う。

 自分で呼んだ割には、こうも早く来るとは思っていなかったといった様子のフランシスに、レイは不満そうにしながら口を開く。


「早かったって、俺を呼んだのはフランシスだろう? それも、わざわざ模擬戦の最中に精霊魔法を使ってまで。……ちなみに一応、本当に一応聞くんだが、俺を呼んだのは精霊魔法を使ってだよな? 実はマジックアイテムを使って呼んだとかそういうことはないよな?」

「え? 何よ急に……ああ、なるほど」


 レイの様子から、何故今のように尋ねてきたのかを理解したフランシスは、笑みを浮かべて口を開く。


「レイにとっては残念なことだけど、今のはマジックアイテムじゃなくて精霊魔法よ。……それくらいはレイも予想出来ていたと思うけど?」

「精霊魔法の可能性が高いのは分かっていたけど、それでももしかしたらと思ったんだよ」


 そう言いながらも、やはり微妙に残念な様子を見せるレイ。

 恐らく違うだろうと、マジックアイテムではなく精霊魔法によるものだろうというのは予想していた。

 予想していたのだが、それでももしかしたらと、そう思ったのも事実。

 残念ながら、それは外れてしまったが。


「まぁ、その件はそれでいいとして。……それで? 俺を呼んだのは何の為だ?」


 ギルドからの苦情でもあったのか?

 最初はそう思っていたレイだったが、こうして改めてフランシスの方を見ると、特に困ったり怒っている様子はない。

 それはつまり、ギルドからの苦情の類が来たのではないのだろうと予想出来た。

 レイとしてはそのことに安堵したものの、だがそうなると一体どういう理由で今ここで呼ばれたのかと、そのような疑問があった。


「テイムの学校についてちょっと聞きたくてね」

「……ああ、その件か」


 ギルドからの苦情ということであれば、それこそ十七階の海水を全て蒸発させる件かと思っていたが、ついでのように昨日アニタと話したテイマーの学校の件で呼ばれたというのは、レイにも少し驚きだった。


「昨日、ギルドで話したんでしょう? それでギルドからどうにか出来ないかと要望書……というのは少し大袈裟かもしれないけど、そういうのが来たのよ」

「……へぇ。まさかそこまでやるとは予想外だったな。昨日その話をした時は、受付嬢のアニタは少し乗り気だったようにも思えるけど、結局難しいと判断していた筈なのに」

「それでも、テイムしたモンスターがいればダンジョンを攻略する上で便利だと思ったんでしょうね。……幸い、ガンダルシアにはダンジョンもあるから、テイムするモンスターにはそこまで困らないし」

「まぁ、それは否定しない」


 実際、テイマーになる上でその冒険者が活動している場所というのは、非常に重要だった。

 ギルムにいればあまり実感はないものの、基本的に辺境以外の場所に現れるモンスターというのは、限られている。

 ゴブリンやオーク、コボルトといったところか。

 後は空を飛ぶモンスターの場合は辺境から普通に出るので。そういう意味ではテイムに適しているモンスターなのかもしれないが。

 ただし、空を飛ぶモンスターをテイムするのが非常に難しいのは、考えるまでもなく明らかだったが。

 そのような場所と比べると、迷宮都市のガンダルシアにはダンジョンがあり、多数のモンスターがいる。


(とはいえ、ダンジョンの中のモンスターはテイム出来るのか?)


 そんな疑問を抱くレイだったが、その辺については触れないでおく。


「でしょう? だから、ちょっとテイマーについて詳しく聞かせて欲しかったのよ。……ギルムでテイマーの学校が作られるという話だけど、さすがにガンダルシアからその為にギルムまで行くのは無理があるでしょうし。出来れば、ガンダルシアで何とかしたいの」

「そう言っても、俺にどうしろと? 何を聞きたいんだ? 一応言っておくけど、テイマーになる方法と言われても、テイムの方法は人によって違うから、自分に合ったテイムの方法を見つけるしかないぞ?」

「そうでしょうね。私も元冒険者だから、それは分かるわ。何度かテイマーに会ったこともあるし」

「なら、何を聞きたいんだ?」

「そうね。まずは、テイマーとして活動する上で重要な要素の一つ、宿の厩舎についてだけど……冒険者育成校にある厩舎を使うということは出来ると思う?」

「あー……なるほど、そう来たか」


 厩舎のある宿に泊まるのではなく、厩舎だけを別に用意して、宿は普通に使う。

 そのようなアイディアを口にするフランシスに、レイは感心しながら頷くのだった。

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