4029話
「さて、何とか無事だったのはこれだけか」
レイの前には、鳥のモンスターの死体が六匹分ある。
……もっとも、その中の一部は胴体が微妙に破裂しているように見えないでもなかったが。
それでも地面に散らばった肉片とは違い、普通に死体として……綺麗な死体としてそこにあるのは間違いない。
「グルルゥ」
レイの言葉にセトが嬉しそうに喉を鳴らす。
最初は土壁を壊して鳥のモンスターの死体を取り出すのを楽しみにしていたセトだったが、その途中でこの鳥のモンスターの肉は美味いかもしれないとレイが言ったことで、より土壁を崩すのに熱中するようになった。
セトにしてみれば、肉というのは重要なことなのだろう。
……もっとも、それはレイにとっても重要なことではあったのだが。
(とはいえ、鴉くらいの大きさだし……肉はそんなに取れないだろうな)
それこそセトなら文字通りの意味で一口で食べきることが出来るような、そんな量の肉しか出て来ないだろうとも思える。
(あ、でもセトならそれこそ肉だけじゃなくて、骨とかも普通に噛み砕いて食べることが出来そうだけど)
レイが日本にいた時、TVで雀を料理して食べるといった番組を見た覚えがあった。
その時、雀は羽根を毟ってから内臓等を取り出し、丸焼きにしてから頭から丸囓りといったようにしていた覚えがある、
レイが鳥のモンスターをそのように食べるのは難しいだろうが、体長四m程のセトにしてみれば、鴉程度の大きさのモンスターは丸囓りするのに丁度いいのではないかと、レイには思えたのだ。
実際にセトがそうして食べるかどうかは別として。
「さて、とにかく死体は揃ったことだし、さっさと解体をするか。ここで無駄に時間を使ったりすれば、それこそまた別のモンスターが襲ってくる可能性もあるだろうし。……まぁ、そのモンスターが未知のモンスターなら、こっちとしては歓迎出来るんだけど」
「グルゥ」
レイの言葉に、セトが同意するように喉を鳴らす。
そんなセトを一撫ですると、レイはドワイトナイフに魔力を込めて鳥のモンスターの死体……一番綺麗だと思われる死体に突き刺す。
周囲が眩い光によって覆われ……そして光が消えた時、そこに残っていたのは長く鋭利なクチバシと、保管ケースに入った眼球、魔石、そしてレイとセトが期待していた鳥肉がそこにはあった。
「予想通りか。……いや、眼球が素材として出たのは予想外だったし、羽毛が残らなかったのもちょっと予想外だったけど。まぁ、プラスとマイナスで相殺って思っておけばいいか」
「グルゥ」
レイの言葉を聞いていたセトは、鳥肉を見て喉を鳴らす。
食べさせて、と。
「……えっと、鳥肉を食べたいのは分かるけど、生で食べるのか?」
そう言うレイの言葉には、あまり忌避感の類はない。
レイの家では鶏が飼われており、父親がそれを絞める時はレイも手伝ったりしていた。
そうして捌いた鶏肉のうち、ささみの部分は刺身として普通に食べていたのだ。
……実際にはささみを刺身で食べるのは色々と危険だとTV等ではやっていたのだが、レイの場合は何しろ小さい頃から……それこそ幼児の頃から普通に食べていたので、今更の話だったが。
(とはいえ、セトなら人間だったら危ないとかでも、問題なく食べられそうだけどな。実際、今までにも色々なモンスターや動物の生肉を食べてるんだし)
セトは基本的に料理をした肉を好む。
それは間違いないものの、気分によっては生肉を食べることも珍しくはなかった。
つまり、この鳥肉を食べても問題はないだろうと、そう思えたのだ。
……そもそもこの鳥のモンスターはあくまでも鳥のモンスターであって、鶏ではない。
それ以前にクチバシがここまで鋭利に尖っており、翼を四枚持つ鳥と鶏を一緒にするのがそもそも間違っているのだろう。
「分かった。じゃあ、食べてもいいぞ」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らして即時にクチバシで鳥肉を咥え、そのまま食べる。
「グルルゥ」
肉の味に、嬉しそうに喉を鳴らすセト。
レイはそんなセトの様子を眺めつつ、少しだけ……本当に少しだけだが、自分も食べてみたいと思う。
勿論、レイが鳥肉を食べる場合は火を通して食べるだろうが。
「まぁ、鳥肉については今日の夕食でもいいか。……まずは、全部解体していくぞ」
セトにそう声を掛けてから、次々とドワイトナイフを死体に突き刺していく。
連続して周囲が眩く光る。
この光によって他のモンスターが近付いてこないかと心配、あるいは期待しつつ、解体を終える。
「セト、肉はもう終わりだからな」
次々に解体したということは、当然ながらその分の鳥肉が増えていくことになる。
そして最初にセトが肉を食べて美味いと思ったので、もう少し肉を食べたいといった様子を見せているものの、レイはセトに向けてそう言う。
セトはレイの言葉に残念そうにするものの、それ以上は残念そうにしながらももっと食べたいと喉を鳴らしたりはしなかった。
……しょんぼりと、残念そうにしてはいたが。
「ほら、セト。肉もいいけど魔石を使うぞ。俺達にはとっては魔獣術が大きな意味があるだろ」
「グルゥ……」
セトはレイの言葉に喉を鳴らすが、そこには残念そうな色が強い。
そこまでセトにとって、あの肉は美味かったのかと、そう思いながらレイは魔石を手に取る。
「セト、いいか? それとも俺が先に魔石を使った方がいいか?」
「グルゥ? ……グルルゥ!」
セトは少し考えてから、自分が最初にやると喉を鳴らす。
セトがレイの言葉を聞いて、やはり自分が最初にやりたいと、そう思ったらしい。
これについてはレイも特に反論はないので、セトに魔石を見せる。
「ほら、行くぞセト」
「グルゥ!」
鳥肉の件は取りあえず忘れたのか、それとも気分を切り替えたのか、とにかくセトはレイの言葉にやる気満々といった様子で喉を鳴らす。
レイはそんなセトに向かって魔石を放り投げた。
セトは魔石をクチバシで咥え、そのまま飲み込み……
【セトは『嗅覚上昇 Lv.八』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それを聞いたレイは、最初不思議に思ったのだが、すぐに納得する。
鳥のモンスターは、かなりの速度で飛んでいた。
それも障害物になるような物が何もない上空ならともかく、大量の植物が生えているジャングルの中をだ。
どうやって大量の植物を回避していたのか、レイは疑問に思っていた。
だが、セトが嗅覚上昇のスキルがレベルアップしたということを考えれば、それはつまり鳥のモンスターは嗅覚を使って障害物を察知し、回避していたということなのだろう。
(あれ? でもそうなると……何で地形操作で作った土壁を回避出来なかったんだ? いや、それとも回避しようとしても出来なかったとか? 実際、土壁が完成したのはかなりギリギリになってからのことだったし)
地形操作のスキルによって生み出された土壁だが、それは決して即座に出来る訳ではない。
ある程度の速度はあるものの、それでも相応に時間は掛かるのだ。
だからこそ鳥のモンスターが突っ込んで来るのに合わせてスキルを使用したものの、それはギリギリ……本当にギリギリになってようやく土壁が完成したのだが、それが今回は功を奏したということなのかもしれない。
そしてギリギリに出来た土壁だからこそ、鳥のモンスターも回避しようにも既に遅く、土壁に正面からぶつかった。
そう考えれば納得出来る。
もっとも、これはあくまでもレイがそう予想しているだけであって、実際にそうなのかはレイにも分からない。
レイにとって重要なのは、セトの嗅覚上昇がレベルアップしたということだけだった。
(嗅覚上昇は、それなりに使い勝手のいいスキルだしな。……それにしても、レベル八か。これがレベル十になったら、どうなることやら)
スキルのレベルが五になると一段階上の……それこそ以前までとは上位互換と呼ぶのが相応しい程に強化される。
であれば、レベル十になってもスキルが強化されるのではないか。
そう予想するのは、レイにとって半ば当然のことだった。
この辺は日本にいた時にゲームを好んでいたのが影響もしているのだろう。
「グルゥ?」
レイに近付いたセトが、スキルを試してみてもいい? と喉を鳴らす。
「ああ、試してもいいぞ。……まぁ、嗅覚上昇は外見的な変化がないから、どういう感じなのかは俺には分からないけど」
これが例えば先程の巨大な薔薇の魔石でレベルアップしたビームブレスであれば、ビームの太さが倍になったということで、見た目からスキルが強化されたのが分かった。
だが、嗅覚上昇となると外から見た限りではなにも分からないので、実際にどのくらいスキルの効果が強化されたのかは、セト自身が確認してみるしかなかった。
「グルルルルゥ!」
セトが嗅覚上昇を使っているのを見ながら、レイはデスサイズがこの魔石を使ったらどのようなスキルを習得出来るのか、あるいは強化されるのかを考える。
(嗅覚上昇は持ってないし……何かこう、もっと別のスキルの筈だよな? これでもしデスサイズが嗅覚上昇を習得したら、どう使えばいいのか分からないし)
デスサイズが嗅覚上昇のスキルを習得したらどうなるのかはレイにも分からない。
もし……本当にもしの話だが、デスサイズを持っているレイに嗅覚上昇のスキルが使えるようになるのなら、まだいい。
だが、もしデスサイズが嗅覚上昇を使えるようになるのなら、意思を持たないデスサイズがそのようなスキルを使っても無意味である以上、それは完全に死にスキルになってしまう。
レイとしては、それだけは絶対に避けたかった。
「グルゥ!」
嗅覚上昇を使うのを止めたセトは、レイに向かって効果は間違いなく上がっているよ! と喉を鳴らす。
そんなセトを軽く撫でると、レイは次は自分の番だとセトから離れる。
その手には鳥のモンスターの魔石を持ち、もう片方の手にはデスサイズ。
(何かいいスキルが当たりますように)
祈りつつ、放り投げた魔石をデスサイズで切断する。
【デスサイズは『ペネトレイト Lv.八』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「……ああ、なるほど」
そのアナウンスメッセージは、レイを納得させるのに十分な内容だった。
セトが嗅覚上昇のレベルが上がったから、もしかしてデスサイズも……と思ったのだが、よく考えてみれば、あの鳥のモンスターの特徴は高速で飛びながら、鋭いクチバシで相手を貫くといった攻撃方法だった。
であれば、デスサイズの持つスキルのうちペネトレイトのレベルが上がるのは、そうおかしなことではない。
いや、寧ろ嗅覚上昇よりも納得出来るところすらあるだろう。
「グルゥ!」
アナウンスメッセージを聞いたセトは、おめでとうと喉を鳴らす。
「ありがとな、セト。ペネトレイトは使いやすいスキルだし、このスキルのレベルが上がったのは、俺にとっても悪くない感じだ」
実際、ペネトレイトは飛斬程ではないにしろ、レイがそれなりに使うスキルだ。
元々は貫通力を高めるといった効果を持つスキルだったのだが、レベル五を超えた今となっては、ペネトレイトを使うと螺旋による追加効果が発揮することになった。
螺旋による追加効果……分かりやすく言えば、ドリルだ。
「じゃあ、早速試してみるな」
そう言い、レイは近くにある木……それも幹の周りを囲うのに両腕を広げた大人が四人から五人は必要なくらいの太さの木に狙いを定め、デスサイズを構える。
その構えは普段の刃を使う時のものではなく、石突きを前に、槍のように構えていた。
「ペネトレイト!」
スキルを発動し、デスサイズの石突きを前に突き出す。
石突きは木の幹に命中し……次の瞬間、あっさりと木の幹を貫く。
同時に、貫いた場所を中心に螺旋状の傷が生み出され……
「って、危なっ! セト!」
「グルゥ!」
木の幹が貫通され、同時に螺旋状の傷が生み出され、その結果として大人四人から五人は必要な太さの木の幹があっさりと折れてしまう。
……折れるだけなら、レイもそこまで気にはしない。
だが、その折れた木が丁度自分達のいる場所に倒れてくるとなると、話は別だった。
幸い、既に解体した鳥のモンスターの素材は全てミスティリングに収納しているので、倒れてきた木を回避するのを躊躇する必要はない。
その為、レイはセトと共に素早くその場から退避し……そして、レイとセトが移動してから十数秒後、ペネトレイトによって幹を貫通された木は、レイとセトのいた場所に倒れてくる。
「ふぅ、危なかったな」
「グルゥ」
レイの言葉に頷きつつも、微妙に責めるように喉を鳴らすセトだった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv八』new『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.六』『パワーアタック Lv.三』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.八』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.三』『植物生成 Lv.二』『石化ブレスLv.一』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.八』new『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.七』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.三』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.三』『緑生斬Lv.一』
嗅覚上昇:使用者の嗅覚が鋭くなる。
ペネトレイト:デスサイズに風を纏わせ、突きの威力を上昇させる。ただし、その効果を発揮させるには石突きの部分で攻撃しなければならない。レベル五になったことで、一撃に螺旋による追加効果が発生するようになった。




