4028話
連休なので、今日は2話同時更新です。
こちらは2話目なので、直接こちらに来た方は前話からどうぞ。
セトがレベルアップしたビームブレスの効果の確認を終えると、レイとセトは再び十六階の探索を再開する。
「出来れば、そろそろ他のモンスターと遭遇したいところなんだけどな」
先程巨大な薔薇と遭遇はしたものの、レイの口からそんな言葉が出る。
実際、巨大な薔薇との戦いにおいてはセトだけが戦ってレイは何もしていない。
そのセトについても、地中潜行のスキルを使って地中にあった巨大な薔薇の根を破壊することによって一方的に勝利をしたので、戦いらしい戦いはしていない。
だからこそ、レイとしてはモンスターが出て来ないかなという思いを口にしたのだ。
「グルルゥ……」
レイの呟きに、セトもまた同じように喉を鳴らす。
セトにとっても、やはりモンスターとの戦いを楽しみにしてるのだろう。
……より正確には、モンスターとの戦いそのものよりも、そのモンスターの魔石であったり、そのモンスターの肉を期待してのものなのだろうが。
「グルゥ? ……グルルルゥ!」
「なぁっ!?」
話しているレイとセトだったが、不意にセトが喉を鳴らす。
同時にレイもまた、素早い動きで自分のいる方に近付いてくる何者かの存在を察知する。
ミスティリングからデスサイズと黄昏の槍を取り出そうとして……
(無理、間に合わない!?)
近付いてくる存在の速度は、レイが予想していたよりも随分と速い。
予想外の速度に驚きつつも、レイは地面を蹴る。
「ギュピィッ!」
レイは地面を蹴って何とか敵の攻撃を回避したが、武器を必要とするレイとは違い、セトは武器を必要としないので、前足による一撃を放った。
その一撃が素早く近付いて来た敵を地面に叩き付けることに成功する。
(鳥か!?)
一口で表現すれば、翼を四枚持つ鴉程の大きさの鳥。
ただし、その体色は斑模様で、周囲の景色に紛れるようになっている。
いわゆる、迷彩に近い存在の体色。
また、素早く飛びながらその速度が攻撃力に直結するように、クチバシは鋭く、長い。
言ってみれば、槍やレイピアのような突きを主体とする武器が空を飛んでくるような、そんな攻撃をするモンスターだ。
それも一匹や二匹ではなく、十匹近い数がジャングルの中を飛んでレイとセトに襲い掛かって来たのだ。
「マジックシールド!」
レイは木の陰に隠れつつ、デスサイズのスキルであるマジックシールドを使う。
スキルの発動と同時に、レイの周囲には四枚の光の盾が姿を現す。
その盾を確認すると、レイは木の陰から姿を現し……丁度そのタイミングで、先程飛んでいった方向から、四枚の翼を持つ鳥のモンスターの集団が再び姿を現す。
レイはマジックシールドで生み出された光の盾を前に出し……次の瞬間、光の盾に触れた鳥がその衝撃に耐えかねたように地面に落ちる。
同時に光の盾も攻撃を防いだことで消えていく。
当然ながら、すぐに別の光の盾がレイの前に来て、同様の光景を繰り返す。
二度同じ光景を繰り返すと、その時には既に鳥のモンスターはレイとセトのいる場所を通りすぎていた。
視界の隅で確認すると、今の一連の動きでセトも一匹を倒したらしく、地面には合計四匹の死体が転がっていた。
……いや、光の盾に触れた二匹は、まだかろうじて生きているので、死体は二匹分となる。
そんな様子を見つつ、レイは再び風切り音が聞こえた瞬間、デスサイズを地面に突き刺す。
「セト、待機だ。地形操作!」
セトに攻撃するのではなくその場で待機するように指示してからスキルを使う。
スキルが発動し、地面が盛り上がる。
地形操作のレベルは七なので、その最大の効果は半径三kmの地面を十五m程上げ下げ出来る。
だが、今回はそこまでする必要はない。
鳥のモンスターは明確にレイとセトを狙っているので、レイとセトのいる空間を通る。
であれば、セトの大きさも込みで考えれば二m……一応の余裕をもって、三m程隆起させればいい。
そうして地面が隆起し……
(って、遅い! 間に合うか!?)
聞こえてくる音と隆起する速度を考えると、ギリギリ間に合うかどうか。
レイにとって幸いだったのは、鳥のモンスターがかなりの速度である為に、レイやセトに攻撃出来ずに側を通りすぎた後、すぐにその場で反転といったことが出来なかったことだろう。
結果として、その速度故に反転するのに相応の距離を必要となる。
その為、こうしてレイが地形操作を使い、地面を隆起させる余裕が多少なりともあることになったのだが……
「セト、屈め!」
それでも間に合うかどうかギリギリである以上、レイは咄嗟に指示を出す。
レイの指示に従い、セトがしゃがむ……いや、地面に座り込む。
「グルゥ!」
地面に座ったセトが、レイも! と喉を鳴らす。
だが、レイはデスサイズの石突きを地面に触れさせてスキルを発動してる以上、身体を動かすことは出来なかった。
いや、やろうと思えばデスサイズの石突きで地面を突いたまま、しゃがみ込むといったことも出来たかもしれないが、それでも問題がないかどうかというのはレイにも判断出来なかったし、何よりレイの側にはまだマジックシールドによって生み出された光の盾が二枚ある。
これがあれば、最低でも二回は鳥のモンスターの突進を受けても問題はない以上、レイは立ったまま動かない。
ただ、素早く飛んでくる鳥のモンスターを睨み付け……
「よし」
すぐ間近……それこそ鳥のモンスターとレイの距離が五mを切ったところで、地形操作による地面の隆起は完成した。
ドン、ドドドドドドドン……と、そんな音と共に次々に鳥のモンスターが地形操作によって生み出された土の壁にぶつかる音が聞こえてくる。
(というか……これ、本当に大丈夫なんだよな? 自分でやっておいて今更の話だけど)
地形操作で隆起するのは、あくまでも地面だ。
あるいは岩場の上で使えば、もう少し話はちがうかもしれないが、今いるのはジャングルの階層で地面は土である以上、地形操作で隆起させた場所は当然のように土となる。
そんな土壁に、鳥のモンスターは次々にぶつかっていくのだから、それこそ土が掘り進め……いや、砕かれながら進み続け、やがて土壁を貫通するのではないか。
そうレイが不安に思うのは、鳥のモンスターの速度を考えれば当然の話だった。
(まぁ、鳥のモンスターの数はそこまで多くなかった筈だし、大丈夫……だよな? こうしていると、もう音は聞こえないし)
土壁に衝突する音が聞こえなくなったところで、レイは地形操作で作った土壁の横から回り込む。
土壁を作ったのは、あくまでもレイとセトのいる場所だけだ。
その為、回り込むのはそう難しくはない。
そうして回り込むと……
「うわぁ……」
「グルゥ……」
目の前の光景に、レイの口から思わずといった様子でそんな声が出る。
レイと一緒に土壁の様子を見たセトもまた、レイと同じような様子で喉を鳴らす。
まず当たり所が、あるいは当たる角度が悪かった数匹の鳥のモンスターが、死体……というよりも、肉片となって地面に落ちている。
そしてこちらは幸運……それが本当に幸運かどうかは微妙なところだが、とにかく当たった角度がよかったのか、身体の半ばやあるいは完全に土壁に埋まっている鳥のモンスター。
「肉片になったのはともかく、土壁に埋まっているのは……こっちも死んでるな。取りあえず肉片になったのは魔石だけ回収しておけばいいか。クチバシとかも折れてるようだし」
全速力で飛んで土壁にぶつかったのだ。
その威力は、身体が肉片となって地面に散らばっている程。
そうなると、当然だがクチバシも折れたり、あるいは欠けたりしていて、素材としては使い物になりそうもない。
一瞬だけドワイトナイフを使えば欠けたり折れているクチバシも修復出来るのではないかと思ったレイだったが、無理にそこまでする必要はないだろうと思い直す。
まだ他にも土壁に埋まっている個体や、セトの一撃や光の盾にぶつかった個体もいるのだから。
「あ、そう言えばまだ光の盾にぶつかった奴は生きてたな。回復する前に殺してしまわないと」
「グルゥ!」
レイの呟きを聞いたセトが、もう自分がやったよと喉を鳴らす。
そんなセトの言葉にレイは感謝しながら、壁の裏側……先程まで自分のいた場所を確認する。
するとそこでは間違いなくセトの言うように既に死んでいる鳥のモンスターの姿があった。
「さて、そうなると……まずは、これを引き抜く必要があるのか」
土壁に埋まっている鳥のモンスターを確認し、レイはあまり気分が乗らない様子で言う。
何しろ土壁に埋まっている鳥のモンスターは、半分以上……中には、完全に埋まってしまっている個体もいる。
これはそれだけ飛んできた鳥のモンスターの勢いがあり、速度があったということを意味しているのだろうことは明白だった。
だが、それだけにこうして突っ込んでいる中から掘り出すのは大変だろうと思う。
(とはいえ、土壁にぶつかって肉片となった奴は……これだと、ドワイトナイフを使っても素材とかを確保するのはかなり難しいだろうしな)
レイは地面に散らばる鳥のモンスターの肉片を見ながら呟くと、改めて土壁を見る。
魔獣術に使う魔石だけなら、それこそセトが倒した鳥のモンスターをドワイトナイフで解体すればいいだけだ。
だが、折角鳥のモンスターなのだ。
であれば、鳥肉を確保したいと思うのはおかしな話ではないだろう。
「よし、まずは……鳥のモンスターが埋まっていない場所の土壁は元に戻すか」
元々土壁そのものは、そこまで大きなものではなかった。
だが、それでも鳥のモンスターを取り出す……いや、掘り出すことを考えると、ここは少しでも取り出しやすいようにした方がいいだろう。
そう思い、レイは再度デスサイズを握って地形操作を使い鳥のモンスターの埋まっている場所以外の隆起した土は元に戻す。
「さて、そうなると……問題はここからだな」
「グルゥ? グルルルルゥ、グルルゥ?」
レイの呟きを聞いたセトは、どうせならまずは死体が綺麗――あくまでも肉片となった個体と比較しての話だが――な個体を解体してみたら? と喉を鳴らす。
「んー……そうだな。それもいいんだが、どうせなら全部纏めてやった方が手間は掛からないだろうし、出来ればまずはこの土壁に埋まっている奴を取り出したい」
「グルゥ」
セトも絶対に先に解体をしたかったという訳ではなかったらしく、レイの言葉に分かったと喉を鳴らす。
こうして、レイとセトは土壁を端から崩し始める。
レイはミスティリングから取り出した、壊れかけの槍で。
セトは前足で。
ゆっくりと……土壁に埋まっている鳥のモンスターが傷つかないようにしながら、レイ達は作業を進めていく。
(これ……あれだな。出店とかであった、型抜き。あれに似ている)
レイは型抜きは決して得意ではない。
ただ、小学校の頃の運動会で出店が来ており、その時に友人と型抜きをやった記憶がある。
結果として、型抜きは成功しなかったのだが。
ただ、お菓子で出来ていた型抜きは不思議と美味しかったような思い出がある。
もっとも、これはいわゆる思い出補正のようなものなのかもしれないが。
今となっては、もし同じお菓子を食べても本当に美味いと思えるかどうかは微妙なところだろう。
「あ」
そうして考えごとをしながら作業をしていたのが悪かったのだろう。
土壁の部分だけを壊したつもりが、鳥のモンスターの翼の骨が折れるボキリという感触が伝わってきた。
そのことにやってしまったと思うも、やってしまった以上は仕方がないと判断して再び作業を続ける。
声を出したのだから、当然ながらセトもレイが失敗したのには気が付いていた。
だが、セトはそれを特に気にした様子もなく、土壁を掘り続けていた。
セトにしてみれば、自分とレイ……正確にはデスサイズが魔獣術に使う分の魔石は確保してあるのだ。
そうである以上、他の鳥のモンスターの死体を集めるのは、半ば趣味に近い。
……それでも鳥のモンスターということで、その肉は恐らく美味いだろうと思えるから、それなりに真剣に土壁を掘っていたが。
「グルルゥ……グルゥ? グルルゥ!」
黙って土壁を掘っていたセトだったが、掘り進めているうちにそれなりに楽しくなってきたのだろう。
嬉しそうに喉を鳴らしながら、セトは土壁を掘り進めていき……
「グルゥ!」
セトが一匹目! と上手い具合に土壁を掘り、そこに埋まっていた鳥のモンスターを取り出す。
それを見ていたレイは、自分も負けていられないと思いつつ作業を進め……その後、二十分程で、土壁に埋まっていた鳥のモンスターの死体を全て取り出すのだった。




