4027話
「あ、死んだ。……死んだのか?」
地中で一体どのような攻防が繰り広げられているのかは、レイにも分からなかった。
だが、巨大な薔薇が暴れ始めてから十分程が経過したところで、不意に暴れ回っていた巨大な薔薇が動きを止めると、地上に出ている部分の茎がその美しい青い花諸共に地面に横たわる。
それを見たレイの口から出たのが、今の言葉だった。
とはいえ、これで本当に死んだのかどうかはレイにも分からない。
分からないが、ピクリとも動かなくなったのは間違いない事実だ。
そうなると、やはりこれは死んだと判断してもいいのかもしれないが。
そんな風に思っていると、レイのすぐ側の地面からセトが姿を現した。
地面の中から姿を現したセトだったが、その身体には土埃の類はついておらず、いつも通りに綺麗なままだ。
地中潜行は物理的に地面に潜っている訳ではなく、スキルによって地面に潜っているからこそ、汚れたりしなかったのだろう。
(例えば存在している次元が実は微妙に違うとか、そういう感じなのか? ……いや、でもそれなら何で地中で巨大な薔薇の根に攻撃出来たのかといった疑問もあるけど)
少し考えたが、最終的にはこれはスキルだから……それも魔獣術で生み出されたセトのスキルだからということで、レイは納得する。
実際にそれが正しいのかどうかはレイにも分からなかったが、取りあえず自分が納得出来ればそれでいいだろうと、そう思いながら。
「セト、よくやったな。あの巨大な薔薇を倒したんだよな?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
そんなセトを数分撫でつつ……それでもレイは倒れた巨大な薔薇から完全に意識を外すことはない。
恐らくは大丈夫だと思うのだが、それでも……もしかしたら、不意に起き上がって何らかの攻撃をしてくる可能性があると思えたからだ。
だが、数分の間セトを撫でていても、巨大な薔薇が動くようなことはない。
「……さて、じゃあそろそろあの巨大な薔薇を確認してみるか」
そう言い、レイはセトと共に荒れ地に踏み入る。
もし巨大な薔薇が倒れているのが、偽死……いやゆる死んだ振りであった場合、こうしてレイとセトが荒れ地の中に、つまり巨大な薔薇の攻撃範囲に入ったのだから、即座に攻撃されてもおかしくはない。
その為、もしそのようなことがあった場合は即座に対処出来るように準備をしていたのだが……レイもセトも、特に何らかの攻撃を受けるようなこともなく、巨大な薔薇の側まで移動出来てしまった。
「えー……」
レイにしてみれば、ここまで近付いても何も反応しない以上、やはり死んだのだろうと、そう思う。
念の為にミスティリングから取り出した使い捨ての槍で巨大な薔薇の茎を突いてみても、やはり何も反応はない。
「根を全部破壊されても、魔石はある……ある……あるんだろうし、そう考えればやっぱりこれで死んだというのはちょっと不思議だよな」
再度突いてみても、やはり何も変わった様子はない。
明らかに巨大な薔薇は死んだのだと、そう断言しても間違いはなかった。
「じゃあ、最後の試しだな」
生存確認に使った壊れかけの槍をミスティリングに収納し、入れ替わりにドワイトナイフを取り出す。
魔力を混め、巨大な薔薇に突き刺し……すると次の瞬間、周囲は眩い光で照らし出された。
そして眩い光が消えると、そこに残っていたのは巨大な青い薔薇の花、鋭い棘の付いた蔦、そして保管容器に入った何らかの液体と、魔石だった。
「……やっぱり死んでいたのか」
残った素材や魔石にではなく、セトの攻撃によってやはり死んでいたことにレイは驚く。
恐らくは死んでるだろうとはレイも思っていたのだが、それでも実際に間近で確認しても、そう確信は出来なかった。
「グルルゥ!」
レイの呟きが聞こえたのだろう。
セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
(実際、地中からの攻撃で一方的に……無傷でこの巨大な薔薇を倒せたのは大きいしな)
荒れ地になっている状況から見ると、この巨大な薔薇は普通に強敵だった可能性が非常に高い。
実際に戦った訳ではないので何とも言えないが、それでもレイの予想としてはそうだった。
そんな相手をこうして一方的に倒すことが出来たのだから、それを喜ぶなという方が無理だった。
「さて、じゃあそうなると……この魔石だな。当然ながらこの魔石はセトが使うべき物だ。……青い薔薇とかも、かなり気になるが、これについてはここでどうこうといったことは出来ないし、ミスティリングに収納しておけばいいしな」
「グルゥ!」
魔石を自分が使えると知り、嬉しそうに喉を鳴らすセト。
もしレイがデスサイズにこの魔石を使いたいと言えば、恐らくセトはすぐに分かったと喉を鳴らしただろう。
だが……それを知った上で、レイはこの魔石をデスサイズに使うつもりは全くなかった。
そもそも巨大な薔薇を倒したのは、あくまでもセトなのだから。
かなりの広さを、他の植物すら生えない荒れ地にした巨大な薔薇。
恐らく十六階でも間違いなく上位に位置するだろう実力を持つ、そんなモンスター。
……とはいえ、地中潜行というスキルを持ち、地面の中をまるで水中でも泳ぐように移動出来るセトは、植物という時点で根がある巨大な薔薇にしてみれば天敵でしかない。
あるいは巨大な薔薇が地中に攻撃する何らかの手段でもあれば、また話は違っただろう。
だが生憎と、巨大な薔薇は地上にいる敵に対しては何らかの攻撃手段は持っていたのだろうが、地中にいる敵には無防備だった。
結果として、巨大な薔薇は本来なら持っている強さを全く発揮することが出来ないまま一方的に倒されるという結果になってしまったのだ。
(完全にどうしようもない奴だよな、これ)
レイの目から見て、本当にどうしようもないような結果だったのは間違いない。
もっとも、レイやセトにとって今の状況は決して悪いものではなかったのだが。
何しろ、強敵だったのは間違いない相手を、一種の裏技に近いやり方で倒したのだから。
(トレント系のモンスターの中でも、移動出来ない類の敵ならセトにとってカモでしかない訳だ。……もっとも、トレント系の中には普通に根を地上に出して歩くことが出来たりする種類もいるから、そういう連中を相手にするにはこの手は使えないだろうけど)
レイにしてみれば、今回の一件においてセトの地中潜行は使い方によっては非常に便利な攻撃方法だとは思ったものの、使える場面が限られているのも事実。
また機会があったら使おうと思い、まずは魔石を使うのを優先することにする。
「セト、じゃあ早速魔石を使うぞ。……この魔石を持っていた巨大な薔薇が一体どういう攻撃をするのか全く分からなかったから、どんなスキルを習得するのか、あるいは強化されるのかは分からないけど」
「グルゥ!」
レイの言葉に、やる気満々といった様子で喉を鳴らすセト。
そんなセトに対し、レイは手に持つ魔石を見る。
(地中潜行は使えればかなり有利……というか、一方的に攻撃出来る優秀な攻撃手段なのは間違いないけど、こういう時には厄介な点が多いのも事実だな)
魔獣術というのは、その魔石を持っていたモンスターの特徴によって新たに習得したり、レベルアップされるスキルが変わってくる。
巨大キノコのように外れというか、魔石を使ってもスキルの習得や強化が出来ないような、そんなモンスターもいるが。
ともあれ、その魔石の特徴が関係してくる以上、相手がどのような攻撃をしてくるのかといったことが分からないと、魔獣術でもどのようなスキルを習得したり強化されるのか分からない。
……もっとも、これも絶対という訳ではなく、時には何故このモンスターでこのスキルが? といったようなこともあるのだが。
(ともあれ、使ってみるしかないか。巨大な薔薇の強さというか、周囲を荒れ地にしていたのを考えると、弱くてスキルが習得出来ないとか、そういうのはまずないだろうし)
レイはそのように思いつつ準備を終えて待っているセトに向かって魔石を放り投げる。
セトはクチバシで魔石を咥え、そのまま飲み込み……
【セトは『ビームブレス Lv.三』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それを聞いたレイは、喜ぶよりも先に戸惑いを覚える。
「えっと……え? ビームブレス? え? 何で?」
そう、それが現在のレイの正直な気持ちだった。
これが、例えば植物系のモンスターということで、匂いに関係するスキル、もしくは茨の蔦を持っていたことから、尻尾をそのように使うことが出来たりといったスキルならレイも納得出来た。
だが……ビームブレス。
「何故ビームブレス?」
「グルゥ?」
レイの言葉に、セトも理由が分からず、首を傾げて喉を鳴らす。
セトもまた、ビームブレスのスキルがレベルアップしたのは嬉しい。
嬉しいのだが、レイと同様に……いや、実際にスキルが強化されただけに、レイ以上に何故ビームブレス? といったように疑問に思ってしまうのだろう。
「えっと、もしかしたらあの青い薔薇からビームブレスを放つような、そんな攻撃方法を持っていたとか? ……けど、もしそれが本当なら、荒れ地となっている場所の外にいてもビームブレスを使ったり出来る筈だよな?」
実はあの巨大な薔薇がビームブレスを使うことが出来たのではないか。
そう思ったレイだったが、それならそれでレイやセトの存在を察知していながら、攻撃してこない理由が分からなかった。
「ビームの範囲が、この荒れ地の中だけだとか?」
そう呟き、改めて荒れ地を確認する。
すると、荒れ地は綺麗な円を描くように出来ていた。
それこそ、コンパスで円を描いた時のように。
そう考えると、もしかしたら自分の予想が当たっているのではないかと、そう思えてくる。
実際にこの荒れ地に生えていた植物……ジャングルの階層だけに、かなりの植物が生えていたのだろうとレイには予想出来るのだが、それらを全てビームブレスで消滅させたのではないかと、そのように思えてしまう。
勿論、これはあくまでも予想でしかない。
しかし、セトがビームブレスを習得したのを考えると、もしかしたら……と、そうレイが思ってしまうのも、仕方がない事実。
「まぁ、とにかく……ビームブレスがレベルアップしたのは悪くない。いや、それどころか喜ぶべきことだ。なら、もしこれが何かの間違いだとしても、それはそれで悪くないか」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトはそうだよと喉を鳴らす。
ビームブレスのレベルが上がったのは間違いない以上、それはセトにとって……そしてセトの相棒であるレイにとっても、メリットでしかないのだから。
「えっと、じゃあ……試しに使ってみてくれるか? 幸いにも、ここは十六階で冒険者も少ないし」
これが射程の短いスキルであれば……あるいは攻撃範囲の狭いスキルであれば、それこそ周囲の様子を気にせず、使うことが出来る。
だが、ビームブレスのように広範囲に……もしくは射程の長いスキルとなると、迂闊に使って探索をしている冒険者に命中すれば大変だった。
しかし、ここは十六階。
だからこそ、ここを探索している冒険者は多くなく、スキルを試すには丁度いいのも事実。
(まぁ、ビームブレスはファイアブレスとは違って直接的な炎じゃないけど、それでも熱があるのは事実だから、ちょっと不安はあるが……まぁ、そうなったらそうなったで、水系や氷系のセトのスキルでなんとかすればいいか)
そう思い、レイはセトに向かって声を掛ける。
「じゃあ、早速試してみるか。……セト、準備はいいか? もしいいなら頼む」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは任せてと喉を鳴らすと、レイから少し離れる。
ある程度距離を取ったところで、セトはクチバシを大きく開け……
「グルルルルルゥ!」
スキルを発動する。
セトのクチバシから放たれたビームブレスは、十六階に広がっている植物を次々に貫いて消えていく。
そのビームブレスは、レベル二だった時と比べて倍くらいの太さになっていた。
レベル二だった時は握り拳程の大きさだったのを考えると、レベル三になって握り拳二つ分くらいといったところか。
レイが見たところ、レベル三になって上がったのは、あくまでもビームブレスの太さだけであって、威力そのものは二の時とそう違いがないように思えた。
(まぁ、これもレベル五になれば一気に強化されるんだろうが)
そう思いながら、レイはスキルの試し撃ちを終え、どう? と自慢げに喉を鳴らすセトを撫でるのだった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv七』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.六』『パワーアタック Lv.三』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.八』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.三』new『植物生成 Lv.二』『石化ブレスLv.一』
ビームブレス:ビームのブレスを吐く。レベル一では指一本分、レベル二では握り拳くらい、レベル三では握り拳二つ分くらいの太さで岩を破壊するくらいの威力。




