4024話
連休なので、今日は2話同時更新です。
こちらは2話目なので、直接こちらに来た方は前話からどうぞ。
「フランシス?」
窓の外を見ていたフランシスの名前を呼ぶと、そちらを見ていたフランシスはようやく我に返った様子でレイの方を振り向く。
「あら、ごめんなさい。それで何の話だったかしら?」
「魔法だ、魔法。魔法が発動した後で魔法発動体を手放した時、その魔法がどうなるかだ」
「……一応言っておくけど、私とレイでは魔法を使うというのは同じでも、その魔法の種類が違うのは分かるわよね?」
「そうだな。フランシスは精霊魔法で、俺のは一般的な魔法だ」
「そうである以上、魔法の効果も違うわ。ただ、それを知った上で……私が知ってる限りの知識だと、魔法を発動した後で魔法発動体を手放した場合、基本的には魔法は消滅するわ」
「……基本的にはというのは?」
「魔法である以上、それに介入する何らかの手段があった場合、魔法が暴走したりする可能性もあるということよ。……それで? 一体何で急にそんなことを聞いてきたの? それも、こんな朝早くから」
「別にそこまで朝早いって訳じゃないと思うけどな。……今回の件については、無詠唱魔法が関係してくるんだが」
「無詠唱魔法が?」
無詠唱魔法という言葉に、フランシスの表情にやる気が満ちる。
フランシスにとって、レイが使えるようになった無詠唱魔法というのはかなり興味深いと思えるのだろう。
だからこそ、無詠唱魔法に今の話がどう関係してくるのかと、興味を抱いたのだろう。
「実は無詠唱魔法を使う際にも魔法発動体は必要だろう?」
「そうね」
「けど、俺の持つ魔法発動体は知っての通りデスサイズだ。けどそうなると、ちょっと無詠唱魔法を使う際にも毎回デスサイズを使う必要があるだろう? それはちょっと面倒だから、もっと小さい……取り扱いのしやすい魔法発動体がないかと思っていたところ、指輪型の魔法発動体を入手したんだ」
「指輪の魔法発動体? 以前ちょっと見たことがあるけど……それと同じような物かしら?」
「フランシスが見たのがどういうのかは俺にも分からない。けど、そうだな。これだ」
そう言い、レイはミスティリングから箱を取り出し、それを開けて指輪をフランシスに見せる。
「……これ? というか、こんなにあるの? え?」
箱の中には多数の指輪……レイが持っている一個を除き、十八個の指輪が入っている。
その全てが魔法発動体なのだと知ると、フランシスにしてみれば何故こんなに大量に買ったのかと、そう疑問に思うのは当然だった。
「ああ、これが全部だ。とはいえ、この指輪は魔法発動体だけど、同時に使い捨てでもある。一度魔法を使うと、壊れてしまう」
「……なんともはやまぁ……」
レイの口から出た言葉に驚いたらしく、フランシスがそんな声を漏らす。
「ちなみに、一個白金貨二枚だな」
「……使い捨ての魔法発動体で?」
「そうなる。まぁ、ちょっと高い買い物になったのは間違いないが、それでも無詠唱魔法の使いやすさを考えれば、悪くない買い物だったと思う」
「本気で言ってるの? ……いえ、レイにとってはそのくらいの値段は問題ないんでしょうけど」
フランシスにとっても、白金貨二枚程度なら出せないこともないが、それもその辺の屋台で何かを買うような感覚で買うというのは出来ない。
また、一個が白金貨二枚だとすれば、全部で十九個もあるということは、光金貨も必要な金額だ。
「ダンジョンの探索とか盗賊狩りとか、そういうので稼いでいるしな。……ただ、この指輪は使い捨ての魔法発動体だというのは分かっていたが、それはあくまでも聞いただけだ。だから、本当に使えるかどうか試して見る必要があったんだ」
「……なるほど。まぁ、それはそうでしょうね。そういう風に聞かされていたけど、実戦で……それこそ一秒二秒を争う状況で使ってみたら、実は全く違う効果を持つマジックアイテムでした……いえ、実はマジックアイテムでも何でもない粗悪な指輪でしたとなったら、最悪でしょうし」
フランシスの目から見ても、魔法発動体の指輪は質素で特に飾りらしい飾りもついていない指輪だ。
フランシスはその手の装飾品に特別詳しい訳ではないが、それでも女として……また、冒険者育成校の学園長という身分から貴族と関わることもそれなりに多いので、ある程度の知識は持っている。
そんなフランシスの目から見ても、この指輪は決して高級品ではない。……粗悪品というのは少し言いすぎかもしれないが、そう言われても見る者によっては納得するだろう、そんな指輪だ。
「そうなる。で、実際に使ってみたところ、これはきちんと魔法発動体として機能した。同時に、使い捨てというのも間違っていなかったらしく、壊れてしまったがな」
「白金貨二枚の使い捨て魔法発動体……ね。随分と高価だこと」
「それは否定しないが、さっきも言ったように値段についてはある程度どうにかなる。……それで話を戻すけど、無詠唱魔法を使ってファイアボールが出て来たのはいいが、使い捨てといったように、ファイアボールが発動した時点で指輪は壊れた。……で、魔法の発動を確認したからファイアボールを消したんだが、その時は指輪は壊れていたし、俺本来の魔法発動体のデスサイズも持ってはいなかった」
「……それで、レイの思い通りにファイアボールを動かすことが出来たと?」
レイの話の続きを口にするフランシスに、レイはその通りだと頷く。
「それで疑問に思ってデスサイズで無詠唱魔法を使ってみたんだが、ファイアボールを出してからデスサイズを手放したら、ファイアボールは消えた」
「……なるほどね。それでレイは疑問に思ったと?」
「ああ。で、そういうのに詳しそうなのがフランシスだけだったから、こうして朝早くから聞きに来た訳だ。……それで、どう思う?」
「どう思うも何も、レイの思ってる通りで間違いないわ。デスサイズの方が正しい反応よ。……そう考えると、恐らくこの指輪の方がそういう特殊な能力を持っていたんでしょうね」
「やっぱりか」
フランシスの言葉は、レイの予想通りの内容だった。
とはいえ、これで疑問は解消したものの……それで何かがあるのかと言われれば、そういう訳でもない。
例えば指輪が使い捨てではなく、風の杖と同じように何度でも使えるような魔法発動体であれば、レイとしてもそれを応用しようと考えてもおかしくはない。
だが、使い捨てで魔法を一度使えば壊れてしまうのだ。
そうなると、その特性を何かに使おうと思っても、あまり使い道はないように思えた。
せいぜいが、普通とは少し違う魔法発動体。もしくは指輪なので敵対している相手には見つかりにくいといったようなメリットくらいしかない。
「それで、レイはその指輪をどうするの?」
「どうするも何も、こうして折角あるんだ。そうである以上、使わない手はないだろ? ……勿論、使い捨てで後十九回しか使えないんだから、気軽に使う訳にはいかないのも事実だが」
出来れば指輪が全て壊れる前に、何らかの……それこそ、例えば同じような指輪であったり、そこまでいかなくても腕輪や足輪、ネックスレス、耳飾り……そのような形で魔法発動体となるような物が見つかって欲しい。
(ダンジョンに潜っているのだし、宝箱で見つかればいいんだけどな)
現在レイが持っている指輪も、ダンジョンの宝箱……それもレイが既に通りすぎた十三階の宝箱で見つかったのだ。
であれば、もっと深い階層では指輪型の魔法発動体であっても、使い捨てではない物が見つかる可能性は十分にあった。
……宝箱である以上、中身は完全にランダムなのでレイが欲しいからといって入手出来るとも限らないのだが。
何しろ、レイが十六階で初めて入手した宝箱の中に入っていたのは、酒だった。
それは明らかにおかしい……いや、レイにとっては全く納得出来ないことだった。
これでレイが酒を好むのなら、あるいはそれでも喜んだかもしれない。
だが、レイは酒は飲めるものの、とても美味いとは思えない。
せいぜいが、料理に使ったり、あるいは誰かにプレゼントするかといった程度でしかないのだから。
「そう。まぁ、頑張りなさい。……でも、そうね。私もレイが使いやすそうな魔法発動体がないかどうか、探しておいてあげるわ」
「いいのか?」
「ええ。レイには色々と世話になってるもの」
これはレイに対するおべっかとかそういうのではなく、フランシスが心の底からそう思っていることだ。
勿論、色々と報酬を渡したりはしている。
例えば家を用意したり、有能なメイドを派遣したりといった具合に。
それ以外にもそれなりに報酬は渡しているものの、レイのような異名持ちのランクA冒険者に満足して貰える報酬なのかと言えば、それはフランシスも素直には頷けない。
だが……だからこそ、レイが欲している物を入手して渡すことが出来れば、それは報酬として大きな意味を持つのは間違いない。
「悪いな、頼む」
フランシスの考えは分からなかったものの、それでも探してくれるというのであればレイも助かると思うのは間違いなく、そうフランシスに感謝の言葉を口にするのだった。
「さて、今日の模擬戦はいつもと少し違うことをやる」
模擬戦の授業の時、今日の模擬戦を提案した教官が生徒達に向かってそう言う。
生徒達は一体どのようなことを言われるのかと、戦々恐々していた。
模擬戦の授業は模擬戦をやるという意味では同じだったが、それだけではなく同時に教官達によって変わった……普通の模擬戦とは違う形式で行われることもある。
例えばレイの場合は、セトと生徒達の模擬戦というのがその良い例だろう。
生徒達にしてみれば、ランクAモンスター……実際には希少種なのでランクS相当という表現の方が正しいのだが、とにかく普通にしていればまず戦うことがないような相手に模擬戦が出来るのだから、上に行くことに貪欲な生徒達にしてみれば、セトとの模擬戦は寧ろ好むことが多かったが。
また、レイ一人とクラス全員というのも、普通ではない模擬戦となるだろう。
そして今日の模擬戦でも教官の一人が提案した模擬戦がこれから行われるところだった。
「模擬戦の内容は指揮官としてのものだ。今はまだいいし、冒険者育成校を卒業してからも暫くはまだ冒険者としては新人として活動することになるだろう」
教官のその言葉に、生徒達は微妙な表情を浮かべる。
この模擬戦のクラスは冒険者育成校のクラス全体で見た場合、どちらかと言えば上位に位置するクラスだ。
それだけに、新人として活動するという教官の言葉に対して不満に思うところもあるらしい。
教官もそんな生徒達の様子を理解はしているが、だからといって特に気にした様子もなく言葉を続ける。
「だが、冒険者として活動していれば、当然ながらランクも上がっていく。そうなると下のランクの者達を率いてモンスターと戦うようなこともあるかもしれない。……もしくは、ベテランと呼ばれるようになれば、ランクは同じでもベテランだからということで他の冒険者の指揮を執ることもある」
その言葉に、不満そうだった生徒達も幾らかは落ち着いたらしい。
そんな生徒達を見て、教官は再び言葉を続ける。
「そんな訳で、これから行う模擬戦ではお前達生徒が私達教官を指揮して戦って貰う」
ざわり、と。
不意に出て来た教官の言葉に、生徒達がざわめく。
話の流れからして、同じ生徒達を指揮して模擬戦を行うのだとばかり思っていたのだ。
そこに、何故か……そう、何故かいきなり生徒達が教官を指揮するという、完全に予想外の内容を聞いたのだから、ざわめくなという方が無理だろう。
「ただ、教官同士で本気で模擬戦をやると時間が掛かるだろうし……それを踏まえて、これから教官の間でくじ引きを行う。それに書いてる数値がその教官の戦闘能力で、教官同士が戦闘をすることになった場合、その数値で勝ち負けが決まるものとする」
これについては、ある意味でアルカイデのような貴族派の教官達に配慮した為でもある。
マティソンのような冒険者組と本気で模擬戦をやった場合、勝つのはかなりの確率で冒険者組なのだろうから。
そうなると、教官同士の関係が悪化しかねない。
……ただでさえ、最近はレイの影響もあって冒険者組の方の勢力が圧倒的に上なのだから。
また、同時にこれはレイに対して半ばトラウマ……という程に酷くはないが、強い苦手意識を抱いているアルカイデ達がレイと戦った時に何も出来ずに負けるというのを防ぐ為でもあった。
レイから見ても、それなりに考えられていると思い……ふと、日本にいる時に見た人間将棋や人間チェスといったものを思い出すのだった。




