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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4023/4084

4023話

「グルルゥ」


 レイが猫店長の店から出ると、すぐにセトがやってくる。

 猫店長の店があるのが裏通りに近い場所というのもあってか、いつものようにレイが店の中にいる間にセト好きがどこからともなく嗅ぎつけ、セトを可愛がるといったことはなかったらしい。

 もっと長時間レイが猫店長の店にいれば、マジックアイテムを売りにきたり、買いに来たりした冒険者がいて、その中にはセト好きがいる……ということもあったかもしれないが。


「セト、待たせたか?」

「グルゥ、グルルルゥ」


 レイの言葉に、セトは待ってないよと喉を鳴らす。

 そんなセトを撫でつつ、レイは右手の中指に嵌めた指輪を見せる。


「ほら、これが俺が欲しかった魔法発動体だ。……もっとも、一度使えば壊れる使い捨てだけど」

「グルルルゥ?」


 使い捨てというレイの言葉に、本当にそれでいいの? とセトは喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、やはり使い捨てというのが問題なのだろう。


「まぁ……そうだな。出来れば何度も使えるような魔法発動体が欲しかったけど、そう都合良くはいかないらしい」

「グルゥ……」


 レイの言葉に、残念だったねと喉を鳴らすセト。

 とはいえ、レイは特に落ち込んだ様子もなくセトに向かって口を開く。


「あまり気にするな。使い捨てとはいえ、実際に魔法発動体として使える……ああ、でもどうせなら使い捨てだろうと、本当に使えるかどうかは試しておくべきか」


 レイとしては、猫店長の店で売っていた……それも直接猫店長と取引をしただけに、魔法発動体の指輪が偽物だとは思っていない。

 思っていないが、それは猫店長が騙されていない場合の話だ。

 これが魔法発動体である以上、本物かどうかというのは実際に魔法を使って確認してみる必要がある。

 だが、当然ながら使い捨てである以上、これを使えば指輪は壊れてしまう。

 つまり、確認するにも大きな損害を受けることになる。

 ……また、それ以前の話として、魔法を使える者……魔法使いというのは非常に希少な存在だ。

 もし猫店長がこの指輪を確認しようと思っても、魔法使いがいないのであればどうしようもない。


(もっとも、マジックアイテム屋なんだし、魔法使いとかに知り合いがいてもおかしくはないと思うけど。もしくは、猫店長が実は魔法使いでしたとか)


 そんな風に思うレイだったが、とにかく白金貨二枚の指輪だろうと、実際に試してみなければ実戦では使い物にならない。

 金銭的な損失を考えて、使えるかどうか試さず、実戦で使おうとした時に何らかの不具合があったら、レイにとっては洒落にならない。

 それこそ強敵と戦いの中でそうなったら、場合によってはそれが致命的なミスとなる可能性は十分にあった。


「よし、家に戻ったら庭で試してみるか」

「グルゥ? グルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは慌てたように喉を鳴らす。

 使い捨てだとレイが言っていたのに、それが本当に使えるかどうか試すのはどうなのかと。

 だが、レイはそんな慌てた様子のセトに、落ち着かせるように口を開く。


「安心しろ、セト。この指輪は別にこれだけじゃない。二十個入りのお得バージョンだ」

「……グルゥ」


 お得バージョンという表現にセトは何かを言いたそうにしていたものの、結局分かったとだけ喉を鳴らす。

 そうして取りあえずはレイの言葉に納得したセトと共に、レイは家に向かう。

 夕方だけあって、ダンジョンから戻ってきた冒険者や仕事が終わった者達がいるので、大通りに出るとかなりの混雑となる。

 そんな中を、レイはセトと共に歩く。

 四m近い体長のセトだけに、当然ながら混雑の中でも目立つ。

 何人もの視線がレイとセトに向けられていた。

 そんな中でも特に強い視線をセトに向けるのは、やはりセト好きの者達だろう。

 セトと遊びたい。でも、セトがこうして移動している以上、ここで自分が何か声を掛けるのは違うだろうと。

 もしくは、暗黙の了解を破ったら次からセトと遊ぶ時に他のセト好きから何を言われ、どのように思われるかと。

 その為、ここでセトにちょっかいを出したりは出来なかった。

 また、セト好き以外の者達も、セトの存在を知っていれば、そのセトと一緒にいるのがレイであるというのも知っている。

 深紅の異名を持つレイにちょっかいを出そうと思う者は……あるいはいるのかもしれないが、今ここでちょっかいを出してくるような者はいなかった。

 そうして混雑の中を進んだレイとセトだったが、特に何らかの騒動に巻き込まれたりするようなこともなく、無事に家まで到着する。


「じゃあ、セト。俺はちょっとジャニスに帰ってきたと伝えてから庭に行くから、セトは先に行っててくれ」

「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすと庭に向かう。

 そんなセトを見送った後、レイは家の中に入る。


「お帰りなさい、レイさん。今日は早かったですね」

「ちょっとやることがあってな。今から庭でちょっと訓練……いや、実験か? とにかくそういうのをするのから」

「私は庭に出ない方がいいですか?」

「そうだな。その方がいいと思う」


 無詠唱魔法はもうレイもそれなりに使えるようになってはいるし、それなりにコントロールは出来ている。

 何らかのミスによって、無詠唱魔法が暴発するといったようなことも……何らかの危険な要素がある時ならまだしも、今の状態ではそのようなことを気にしなくてもいいだろうと思えた。

 そういう意味ではジャニスが無詠唱魔法を見るのは別に構わないのだが、今はもう夕方である以上、ジャニスは夕食の準備をする必要があった。

 だからこそ、レイはそちらに集中させておいた方がいいだろうと判断したのだ。


「分かりました。では、失礼しますね」


 そう言い、台所に向かうジャニス。

 そんなジャニスの姿を見送り、レイは家を出て庭に向かう。


「グルゥ!」


 そこではセトがレイを待っていて、姿を現したレイに向かって嬉しそうに喉を鳴らす。

 レイがセトと別行動をしていたのは十分もないのだが……それでもセトにしてみれば、こうしてレイと一緒にいられるのが嬉しいのだろう。


「待たせたみたいだな。さて、じゃあ早速だけどやってみるか。何気にデスサイズ以外の魔法発動体で魔法を使うのは初めて……か? 恐らくは初めてだろうから、セトも一応注意しておいてくれ。何かあっても、すぐ対処出来るようにな」

「グルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは任せて! と喉を鳴らす。

 そんなセトを一撫でしてから、レイは念の為にセトから少し離れる。

 恐らくは大丈夫だろうとは、レイも思っている。

 だが……それでも、もしかしたらということを考えると、やはり安全の為の配慮は重要だった。


「さて」


 セトから離れたところで、レイは右手の中指を見る。

 そこには猫店長の店で購入した魔法発動体の指輪が嵌められている。

 一個白金貨二枚という、使い捨てのマジックアイテムだと考えるとかなりの高額。

 だが、それでもレイにしてみれば端金……というのは少し大袈裟かもしれないが、ダンジョンに潜るなり盗賊狩りをするなりすれば稼げる金額なのは間違いなかった。

 その為、普通の冒険者なら躊躇するような今回の出費も、レイにしてみれば……そう、例えば自分へのご褒美としてちょっと高いケーキを買ったかのような感覚となる。

 あるいはそれよりはもう少し高く、自分が趣味で使っている道具でワンランクかツーランク上の物をかったかのような……そんな感じか。


「行くぞ、セト」

「グルゥ!」


 一応、念の為にセトに声を掛けると、レイは指を鳴らす。

 パチン、と指が鳴った瞬間、無詠唱魔法によって生み出されたファイアボールが視線の先に姿を現す。

 同時に、レイの右手の中指に嵌まっていた指輪が、塵となって消えていく。


「……なるほど、こういう感じで消えるのか。猫店長の目に間違いはなかった訳だな」


 もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、猫店長が冒険者に騙されて、マジックアイテムでも何でもない指輪を売られたり、もしくはマジックアイテムではあっても魔法発動体ではない指輪を魔法発動体として売られたのではないかとも思っていたのだが、レイのそんな予想は良い意味で外れたらしい。

 その事に安堵しつつ、レイはファイアボールを消す。


「……ん? 魔法発動体の指輪が壊れた後も、ファイアボールを自由にコントロール出来た?」


 一連の動きが少し気になり、レイはデスサイズを取り出し、それを手にして再び指を鳴らす。

 パチン、と。

 そんな音と同時に、再び無詠唱魔法によってファイアボールが発動した。

 それを確認してから、レイはデスサイズを地面に放り投げる。

 ドスン、と。

 そんな音を立てつつ、微かにだが地面にめり込むデスサイズ。

 レイやセトにとっては重量を感じさせないものの、それ以外の者にしてみれば、その重量は百kgなのだ。

 そんなデスサイズを気楽に地面に放り投げれば、微かにであっても地面にめり込んでもおかしくはない。

 もっともレイはそんなデスサイズの様子を気にせず、ファイアボールに視線を向け……すると次の瞬間、レイの視線の先にあったファイアボールが姿を消す。


「え?」


 予想はしていたものの、それでもレイはファイアボールが姿を消したことに驚く。


「指輪の方は魔法を使った時点で壊れたけど、魔法は指輪が壊れた後でも俺の思い通りに動いた。けど、デスサイズは魔法を発動した後で手から離すと、その魔法が消えた。……これはどういうことだ? どっちが特別なんだ?」


 普通の……一般的な魔法発動体であれば、デスサイズと指輪のどちらと同じ結果になるのか。

 それが気になったレイは、これからどうするべきかを考える。


(指輪型の魔法発動体とは違って、杖なら猫店長の店じゃなくて、普通のマジックアイテムを売ってるような店でもあるだろうし。とはいえ、その為にわざわざ出掛けるのも面倒臭いし……ああ、そうか。フランシスに聞いてみればいいのか)


 冒険者育成校の学園長のフランシスは、マリーナ程ではないにしろ優秀な精霊魔法の使い手として有名だ。

 そうである以上、レイの疑問にも答えてくれるのではないかと、そう思ったのだ。

 ……対のオーブを使って尋ねるというのも少し考えたのだが、もしかしたら実際に色々と魔法を使ってみる必要もあるかもしれないので、そうなると対のオーブ越しでは詳細な分析は出来ない。

 なら、フランシスに聞いた方が手っ取り早いだろうとレイは思えたのだ。

 もっとも、レイの使う魔法とフランシスの使う精霊魔法は別種の魔法だ。

 そういう意味では、レイの考えが上手くいくかどうかは実際にやってみないと何とも言えないだろう。


「取りあえず、今日はこの辺でいいか。……セト、付き合ってくれてありがとうな」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは嬉しそうに喉を鳴らすのだった。






 翌日、レイはフランシスに会うことを考え、少し早めに家を出て、冒険者育成校に向かう。


「おはようございます、レイ教官」

「セトちゃん、おはよう」


 まだ早い時間なのだが、そのような時間でも学校に向かう生徒はそれなりにいる。

 朝から訓練場で訓練をするつもりなのか、それとも予習や復習をするつもりなのか、それ以外に何か用事があるのか。

 その辺はレイにも分からなかったが、レイはセトと共に挨拶を返しながら冒険者育成校に向かい……


「はぁ? いきなり何を言ってるのよ?」


 フランシスはレイの言葉に若干の呆れと共にそう言ってくる。

 レイの言葉は、フランシスにとっては半ば常識だった

 それをレイが知らないとは……と、そのように思ってもおかしなことではない。


「だから、魔法を使って発動させた時……」

「じゃなくて、何で今更そんなことを聞くのよ? レイも魔法の勉強はしてきたんでしょう? 幾ら感覚派の魔法使いだからって、最低限の勉強は必要なんだし」

「……俺の場合は、最初からデスサイズを使っていたからな」


 実は異世界からきたといったようなことは口に出来ず、レイはそう誤魔化す。

 幸いなことに、フランシスもデスサイズがどれだけのマジックアイテムなのかは知っているので、レイの言葉にそういうものかと納得してくれた。


「それで?」

「……そうね。ちょっと待ってくれる? 少し休みたいから」


 まだ朝だぞ?

 そう突っ込みたくなるレイだったが、フランシスがそう言ってるのは自分のせいだというのもわかっているので、その件についてはそれ以上触れないことにする。

 そうして椅子から立ち上がったフランシスは、窓の側まで移動するとその景色を眺める。

 朝ではあるが、夏らしい青空が広がっており、ところどころに雲が浮かんでいる、そんな空の光景を。

 地上を見れば、そこには登校してくる生徒達の姿。

 それを見ながら、フランシスは今日もがんばらないとと、そう思うのだった。

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