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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア

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3893話

カクヨムに倣って、連休なので2話同時投稿です。

こちらは2話目なので、直接こちらに来た方は前話からどうぞ。

「もう、もう、もう」


 イステルが怒ってますと言わんばかりに言葉を呟きながら道を歩く。

 そんなイステルの様子に、通行人が一体何があったのかと視線を向けるが……イステルの様子を見て、関わり合いにならない方がいいと判断したのか、多くの者がそっと視線を逸らす。

 何人かはイステルの美貌に目を奪われたのか、声を掛けようとしたが……


「邪魔です」


 冷たい視線で一瞥されると、それ以上は何も言えなくなる。

 イステルにとって幸運だったのは、まだイステルが大人の女……とまでは言えなかったことだろう。

 それでも子供ではなく、子供と大人の中間といったところか。

 そのような年齢だけに、大人の……成熟した女が好みの男はイステルに声を掛けるようなことはせず、大体がイステルと年齢の近い者達だった。

 つまり、声を掛ける者に冒険者がいても、それは高ランク冒険者であったり、腕利きの冒険者はないということを意味している。

 もっとも、世の中には若くても才能のある者がいるので、その判断も絶対ではないのだが。

 そういう意味で、イステルは幸運だったのだ。

 ……たまに年齢関係なく声を掛けるような者もいるが、それでも今の不満を露わにしているイステルには声を掛けようとは思わなかったのだろう。

 だからこそ……


「イステル、いい加減落ち着けよ。何だってそんなに怒ってるんだ? あの店主が何かしたのか?」

「それは……っ!?」


 レイの言葉に、勢いに任せて口を開こうとしたイステルだったが、何とか堪えることに成功する。

 自分に使う首輪を買って貰えなかったように見えた……などと、とてもではないが言えることではない。

 ましてや、イステルにとってレイは好意を抱いている存在なのだから。


「……何でもありません。少し、私も大人げなかったですね」


 数秒の沈黙の後、イステルはそう言う。

 こうして我に返れば、イステルも自分が信じられない程に頭に血が上っていたのだと、理解出来てしまう。

 そんなイステルの様子に、レイはどう判断すればいいのか迷い……


「まぁ、落ち着いたのならよかったよ」


 結局そう言うだけに留める。

 ここで何か妙なことを口にしたりしたら、それこそ次にイステルがどのように反応するのか分からなかったからだ。

 イステルもレイの反応から自分の失態……もしくは醜態を思い出し、今度は怒りではなく羞恥で頬を赤く染める。


「それで、次はどこにいく? おれの土産は取りあえず買えたし、最低限の買い物は終わらせた。後は、イステルの買い物に付き合いながら、何か土産によさそうなのがあったら、それを買うだけだけど」


 レイの言葉に、イステルは自分達が何をしにここにいるのかを思い出す。

 先程までは首輪の件でそれだけ怒っていて、そのことについては完全に忘れてしまっていたのだ。


「そ、そうですね。……すいません、レイさん」

「気にするな。そういうこともあるだろうし」


 そう言うレイだったが、実はイステルが何故怒ったのか、全く理解はしていなかった。

 それでもここで何故怒ったのかといったようなことを聞かない辺り、賢いのだろう。


「それで、次はイステルの買い物だったけど……何を買う? 確か、色々と足りない物があるとか言ってたよな?」

「え? あ、はい。そうですね。……まずは小物とかそういうのを見たいです。他にも服とかも」


 そうイステルが主張したこともあり、レイ達はまず小物を売っている店に向かうことになる。


「けど、移動するのに必要なのは大体俺が持ってるし、ギルムに到着してから何か足りない物があったら、ギルムで買ってもいいと思うぞ? こう言ってはなんだけど、ギルムはこのガンダルシアよりも品揃えもいいから」


 街の規模だけで言うのなら、恐らくガンダルシアとギルムではそんなに違わないだろう。

 元々ギルムは準都市というべき規模があったのだから。

 だが、そこに集まっている人や物は、明らかにガンダルシアよりも多い。


(まぁ、今は増築工事で人が集まりすぎていて、かなり混雑してるんだろうけど)


 そんな人の数が多い中で買い物をするのは、それなりに大変かもしれない。

 そう思っているレイに、イステルは先程までの怒りを誤魔化すように笑って口を開く。


「ギルムというのは、かなり人の多い場所だと聞きます。レイさんから見てもやはりそうなのですか?」

「そうだな。普段でもこのガンダルシア以上に人が多いが、今はギルムの増築工事をやっているから、その仕事を求めて多くの者がやって来ている。そういう意味では普段以上にギルムは混んでいると思ってもいい」

「そんなに……ですか? ちょっと想像出来ませんね」


 イステルは貴族の家の出だけに、それなりに多くの村や街に行ったことがある。

 ましてや、このガンダルシアは迷宮都市ということもあって多くの者が集まってくるので、王都と同じくらい……場合によっては、それよりも住人が多くてもおかしくはなかった。

 ただ、イステルがそのような経験をしているからとはいえ、それでも結局のところこのグワッシュ国というのは小国でしかない。

 迷宮都市があるので、その分だけ平均的な小国と比べると国力は上だったりするのだが、それでも結局のところ小国であるのに違いはない。

 実質的な盟主国であるミレアーナ王国と比べると圧倒的に国土や国力は低いし、ミレアーナ王国の保護国の中でも中堅国家と呼ばれる国と比べても負けている。

 そんな国の貴族の出身だけに、イステルにしてみればこのガンダルシアよりも人が多いというのは想像も出来ないのだろう。


「特にギルドとかだな。イステルも朝や夕方にギルドに行く時はあるだろう?」

「はい。混んでいるのは分かります。正直なところ、どうにかならないかと思ってしまうくらいには」


 イステルはアーヴァインやザイード、ハルエスと共にパーティを組んでダンジョンを攻略している。

 その多くが学生とは思えない程の実力者なので、探索が終わった後にダンジョンで入手した素材や魔石をギルドに売るということは頻繁にあるだろう。

 そして夕方になってからギルドに行けば、その混雑振りは当然ながら経験することになる。


「今のギルムでは、その混雑具合よりも上だ。ギルドの大きさがこのガンダルシアのギルドよりも大きいのにな。しかもそれでも間に合わないから、増設工事をする場所の近くに臨時のギルドの出張所的なのを作って、それでもそういう感じだな」

「それは……」


 うわぁ、といった具合にイステルがその美貌を顰める。

 貴族出身のイステルだけに、やはりそのような人混みというのは好まないのだろう。


「だから、ギルムに行ってギルドに行くのは、忙しい時間の後にした方がいい。もっとも、そんな時間でもギルドには多くの冒険者や仕事を求めている者もいるし、酒場では宴会をやっている者もいるから、混雑してるけど」

「そう言えば……ギルドに酒場が併設されているのって、何故なんでしょう?」


 それは、イステルにしてみればふとした疑問。


「何故と言われても……まぁ、色々と理由があるんだろうな。すぐに思いつくだけでも、ギルドの収入を確保する為だったり、冒険者の幾らかをギルドの酒場で受け入れることで、他の酒場に行く冒険者の数が減る、つまり喧嘩騒ぎとかが起こる可能性が少なくなるとか」


 それ以外も情報を集める為とか、ギルドの冒険者達の交流の場だとか、他にも幾らか思い当たることはあるレイだったが、やはり一番大きいのはギルドの収入の面だろうと思う。

 依頼をこなして、あるいは素材等を売って手に入れた金を酒場で使い、冒険者が支払った金額はギルドに戻る。

 ギルドにしてみれば、収入は少しでもあった方がいいのは間違いない。


「そのような理由が。……あ、あのお店です。友人から、あのお店の品揃えがいいと聞いています」


 話の途中で、イステルがとある店を見つけると、そう言う。

 イステルの買い物に付き合うつもりでいるレイにしてみれば、ここで断るといった選択肢はなかった。

 その為、イステルと共にその店に入る。


「へぇ、確かにこれは……」


 店そのものは、そこまで広い店という訳ではない。

 例えば、レイがダンジョンの十階の腐臭をどうにかしようとしてマジックアイテムを購入した店と比べると、店の大きさは半分もないだろう。

 しかし、商品の数や種類ということであれば、この店の方が上なのは間違いなかった。

 壁にずらっと大量の商品が並び、通路にも多くの棚があり、それぞれ商品が並べられている。

 マジックアイテム屋の方は、時には貴族も買いに来るような店だけに、ゆったりとした作りになっていた。

 その差だろう。

 扱っている商品についても、小物ということで食器の類もあれば、野営で使う物もある。

 勿論そのような実用品ばかりではなく、木彫りの人形や簡単な玩具といった物も置かれていた。


(まさに百円ショップ的な感じだな)


 レイは日本にいた時のことを思い出す。

 それこそ百円ショップには、多種多様な商品が置かれていた。

 そういう意味では、この小物屋と似たようなものだろう。


(まぁ、この店は価格が同じじゃないだろうけど。……あ、でもそれなら百円ショップも同じか)


 百円ショップという名称でありつつも、店の中には二百円、三百円、四百円、五百円といった商品もあるのがレイの知っている百円ショップだ。

 それを百円ショップと呼んでもいいのか?

 そう思わないでもなかったが、そうであったのだから仕方がないのは間違いないだろう。


「それで? イステルはここで何を買うんだ?」

「えっと、そうですね。食器の類は……」


 何か気になる物でもあったのか、イステルの視線はチラチラと食器が置かれている場所に向けられていた。


「食器か。とはいえ、野営で使う食器の類は俺が持ってるぞ?」


 ミスティリングの中には多種多様な物が入っている。

 その中には当然ながら食器……皿やコップ、フォーク、スプーンといった諸々も入っている。

 それを使えば、当然ながら食事には困らない。

 困らないのだが……それでもイステルは、食器の置かれている方に視線を向けていた。


「駄目、ですか?」

「あー……いや。別に明日必要じゃないかもしれないけど、家に置いておけば何かに使えるかもしれないし、それを買っておきたいのなら別にいいじゃないか?」


 そうレイが言うと、イステルは嬉しそうに食器売り場に向かう


(ギルムに行くのに必要な物を買いに来たんじゃなかったか?)


 そう疑問に思うレイだったが、嬉しそうに食器を選んでいるイステルを見れば、それはそれで別に構わないかと判断する。

 レイが必要な物……エレーナ達に持っていく土産はもう買ったのだから、残りの時間はイステルに付き合ってもいいだろうと。

 イステルと一緒に買い物をしていれば、いつもとは違う店に行ったり、違うルートで街中を歩くので、いつもと違う何かを見つけられる可能性も十分にあった。


「取りあえず、俺も色々と見てみるか」


 イステルが食器に夢中になっている間、ただ待っているのもどうかと思い、レイも店の中を見て回る。


「イエロは、こういうのを喜ぶか?」


 木彫りのトレントを見て、そんな風に呟く。

 レイにとって木彫りの人形で真っ先に思い浮かぶのは、やはり熊だ。それも鮭を咥えている熊。

 そんな熊と違い、この店にあるのはトレントだった。


(木彫りだと考えれば、そんなにおかしくはないのか?)


 トレントは木のモンスターである以上、当然ながら木彫りで作る際には作りやすい。

 問題なのは、そうして作った木彫りのトレントが売れるかどうかだが。


(もっとデフォルメしたりすれば、売れそうなんだけどな)


 レイが見ている木彫りのトレントは、リアルさを追求したような形状だ。

 よくこの小物屋に並んでいるなと、素直にそう思ってしまうくらいには、場に合っていない。


(ゆるキャラとか、デフォルメとか、SDとか……そういう概念を伝えれば、人形は一気に売れそうな気がするな。いやまぁ、あくまでもそういうのがないのはガンダルシア……もしくはグワッシュ国だけで、他の国には普通にありそうだけど)


 そんな風に思いつつも、取りあえずレイはイエロの土産としてトレントの木彫り人形を買う。

 他にも何か面白そうな物がないかと見て回っていると……


「ん? こういうのも売ってるのか。いや小物屋だとすればおかしくないのか?」


 レイが見つけたのは、木の櫛だ。

 作りそのものは、このような店で売られているだけあって、丁寧な物ではない。

 だが、何となく気に入ったレイは、その櫛も土産として人数分購入するのだった。

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