表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3891/4075

3891話

「さて、問題なのはこれからどうするかだな」


 食堂で昼食を食べた後、レイはこれからどうするべきか迷う。

 既に今日の授業はもう終わっている。

 そうなると、後はもうギルムに出発する明日の朝まで自由なのだ。

 だからこそ、レイとしては午後からどうするべきなのか迷う。

 ダンジョンに行くのもいいが、昨日と今朝の件もある以上、あまりその気にならない。

 また、ダンジョンで何か大発見をした場合、明日ギルムに行くのが難しくなるというのもあった。

 ……そう簡単にダンジョンでの大発見など出来るものではないのだが。

 ただ、トラブル誘引体質でもあるレイの場合、意図せず何かを引き寄せ、それによってダンジョンの何かを新たに発見する可能性は十分にあった。

 そんな訳で、レイとしては取りあえずダンジョンに潜るのは止めておく。


(あ、でも……十六階をちょっと見てみる程度ならいいかもしれないな)


 ダンジョンを攻略していたレイは、十三階と十四階の探索も殆どせず、まずは十五階に到着して転移水晶に登録するのを優先した。

 これはセトが十階の転移水晶を使いたくないという思いからのことだったが、レイとしても深い階層に到着するのは異論がないので、そのようなことになったのだ。

 そうして十五階の転移水晶を使うようになってから、レイはセトと共に十四階、十三階を探索した。

 勿論、全てを完全に探索したという訳ではないのだが、それでも大体は見て回ったと思う。

 ……未知のモンスターがもっと大量に出て来てくれれば、レイとしては嬉しかったのだが、それはあまり出来なかったのが残念だった。

 ともあれ、そうして十五階に到着してからも十三階と十四階を探索していたのだから、十六階に興味を持つのもおかしな話ではないだろう。

 とはいえ、それで本当に十六階に行って何らかの騒動に巻き込まれるのは、レイとしてもやはりごめんだ。

 それこそ気が付いたら数日が経過しているといったようなトラブルに巻き込まれる可能性は十分にあった。

 実際、十階でリッチの一件があった時は、十階の転移水晶を使った者達が地上に現れたのは翌日の早朝のことだったのだから。

 だからこそ、レイとしては今のこの状況においてやはりダンジョンに潜るのは止めた方がいいと判断し……


「ああ、そうか。土産でも買うか」


 以前猫店長から指輪を買ったことがあったが、それだけではどうかと思う。

 折角ガンダルシアまで来たのだから、何かそれらしい土産でも買っていこうと考える。

 もっとも、このエルジィンにおいて旅行という考えはあまり浸透していない。

 それこそ一生生まれ育った村や街から出ないという者も多い……いや、そのような者の方が大半なのだから。

 例外としては、冒険者であったり、兵士や騎士として領主に仕えたり、あるいは商人の類か。

 貴族ともなれば、物見遊山で他の貴族の領地を訪れるというのも珍しくはないのだが。

 ただ、それで土産を買うかと言われると……土産の類が全くない訳ではないだろうが、それでも一般人が買うような土産というのはほぼ存在していない。

 もっとも、それはあくまでも土産として存在しないだけだ。

 旅先で売ってる何か、その場所では普通に使われている何かがあっても、それはその地方だけの物というのは珍しくはない。

 そういう意味では、探せば土産として使える何かはあるのだ。

 今日の午後はそれを探そうと、レイは座っていた席を立ち……


「あら、レイ教官」


 ちょうどそのタイミングで、レイに声を掛けてくる相手がいた。

 聞き覚えのある声に視線を向けると、そこにいたのは予想通りイステル。

 何人かの取り巻きを引き連れているその様子はいつも通りだ。

 ……密かに冒険者育成校の女王と呼ばれているとか何とか、以前そんなことを聞いた覚えがあったが、それらしいと思える様子ではある。


「イステルか。これから食事か?」

「はい。少し授業が長引いたので」

「そうか」


 既に昼になってからそれなりに時間が経っている。

 そう考えると、すこし遅すぎないか? そうレイは思ったものの、別にイステル達が昼食を食べるのが遅れたからといって、それでレイが困る訳でもない。


「言うまでもないけど、明日はギルムに向かう。準備も色々と必要だろうから、その辺は忘れないようにな」

「はい。実は食事が終わったら足りない物を買いに行こうかと思っていました」

「前日にか? ……俺も午後からは土産を買おうと思っていたから、そういう意味では同じかもしれないけどな」

「え? そうなのですか? その……もしよろしければ、私と一緒に買い物をして貰えないでしょうか?」


 いきなりのイステルのその言葉に、レイは驚く。

 ……いや、驚いているのはレイだけではない。

 イステルの取り巻きの女達も、イステルのいきなりの言葉に驚いていた。


「買い物? 俺と? ……俺が買うのは、あくまでも土産だ。イステルが何を買おうとしてるのかは分からないが、一緒に買い物をする意味があるのか?」

「あります。レイ教官が一緒にいれば、妙な連中も寄ってきませんから」

「あー……なるほど」


 イステルは美人と評しても異論のある者は少ないだろう顔立ちをしている。

 そのようなイステルだけに、場合によっては言い寄ってくる男がそれなりにいるのだろう。


(何を心配しているのかは分かるけど……だからといって、それで俺が役に立つかとなると、微妙なところなんだよな)


 レイは午後からの買い物において、セトを連れていくつもりはなかった。

 恐らくは大丈夫だと思うが、ギランの一件があった以上、もしかしたら家にいるジャニスが狙われるかもしれないと思った為だ。

 ……なら午前中はどうだったのかと言われれば、そっちに気が付いたのが先程だったからというのがある。

 また、ギランの件が明らかになった以上、恐らくライグールも表立って行動は出来ないだろうと予想している。

 それでもセトをジャニスの護衛につけるのは、あくまでも念の為だ。

 そんな訳で、レイだけで土産を買う予定だったのだが……レイはセトがおらず、ドラゴンローブを被っていれば、小柄な初心者の魔法使いにしか見えない。

 相手の実力を見抜ける者であれば、レイの身体の動かし方から、その実力を把握も出来るだろう。

 だが、それが出来る者はそう多くはない。

 それこそイステルに言い寄ろうとしている者にそれを求めるのは、無理があるだろう。

 そして……これがもう一つ致命的なのだが、レイの顔は女顔だ。

 それでドラゴンローブを着て、イステルと一緒にいれば……どのように思われるのかは、考えるまでもないだろう。


「お願い出来ませんか?」


 レイが迷っていると、イステルは重ねてそう聞いてくる。

 そんなイステルの言葉に、レイはどうするべきか迷い……


(土産を買うのは家の面々にだ、そうなると、全員が女なんだからイステルからのアドバイスもあった方がいいか)


 どうせ土産を買うのなら、喜んで貰えた方がいい。

 レイも日本にいた時、親戚が旅行のお土産として三角のペナントを買ってきて貰った事があるが、レイにしてみれば微妙だった。

 あまり趣味ではなかったというのもあり、部屋に飾る気にもなれず、かといってお土産として貰った物を捨てるのも気まずい。

 結果として、押し入れかどこかにしまいこまれている筈だった。

 ……もっとも、日本においてはレイは死んだということになっている筈なので、もしかしたら遺品整理で処分されている可能性も十分にあったが。


「そうだな。じゃあ、頼む。イステルには、土産を選ぶ時に意見を聞かせて欲しい」


 そうレイが言うと、イステルの気の強そうな表情がぱぁっと笑みに包まれるのだった。






「じゃあ、セト。多分問題はないけど、家の警備を頼むな」

「グルゥ」

「ああ、セトちゃん……」


 買い物に行く途中、家に寄ってレイがセトを庭に連れていき、そこで家を頼むと言うと、それを聞いていたイステルは心の底から残念そうな様子でそう言う。

 イステルにしてみれば、レイと一緒に買い物に行くということは、セトも一緒に行くと思っていたのかもしれない。


「ほら、イステル。行くぞ。それとも、ここでセトと一緒に待ってるか?」

「え? それは……その……私もレイ教官と一緒に行きます」


 レイが口にした、ここでセトと一緒に待っているかという言葉に反応して迷った様子を見せたイステルだったが、今日の本来の目的はあくまでも買い物だ。

 イステルにしてみれば、自分だけで荷物の用意をするというのは、今まで一回もやったことがない……訳ではないが、そんなに多く経験がある訳でもない。

 それだけに、今回の一件……ある意味で修学旅行と称してもいいような旅行を、イステルは楽しみにしていた。

 本来なら一緒にギルムに行くメンバーの中でも、自分と同じ女のカリフと一緒に買い物をしたかったのだが、カリフは色々と用事があって無理だった。

 なら、パーティを組んでいる者達は。

 そう思ったが、そっちもそっちで男同士で既に買い物に行っていた。

 そうなると、残るのはあまり親しくない異性のビステロ。

 いっそのこと、取り巻き達と一緒に買い物に……そのように思っていたところ、食堂で見つけたのがレイだった。

 セトの件も含めて、イステルはレイに好意を抱いている。

 そうである以上、レイと一緒に買い物に行きたいといったように思ってもおかしくはない。

 取り巻きの中には、これがデートなのでは? と思った者もいたが……幸か不幸か、イステルにそれを言うようなことはなかった。

 ともあれ、そういう理由である以上は、レイとの買い物を止めてセトと遊ぶという選択肢はイステルにはない。


「まずはどこに行く? 俺は土産となりそうなのを買いたいんだけど……どういうのを買っていったら喜ぶのか、ちょっと分からないんだよな」

「装飾品の類はどうでしょう? ガンダルシアはダンジョンの宝箱から出た装飾品はそれなりに売られていますが」

「あー……うん。それは知ってる」


 実際に猫店長の店で見せて貰ったことを思い出すレイ。

 だが、すぐに残念そうに首を横に振る。


「けど、きちんとした効果……相応に役立つ効果のある装飾品のマジックアイテムなんて、金があれば買えるって物じゃないぞ?」

「え?」

「え?」


 レイの言葉に何を言ってるのか理解出来ないといった様子で声を上げるイステル。

 レイもまた、そんなイステルが一体何を言ってるのか分からずに、そんな声を漏らす。


「えっと……その、レイ教官。お互いに何か微妙に勘違いしてるような気がしませんか?」

「そうだな。俺もそれは否定出来ない。……一応確認しておくが、イステルが言ってるのはこういうのじゃないのか?」


 そうレイが言ってミスティリングから取り出したのは、猫店長の店で購入した指輪。


「わぁ……」


 その指輪を見たイステルの口から感嘆の声が漏れる。

 するとレイは、その指輪をイステルに渡す。

 当然だが、これはイステルにプレゼントするのではなく、見たいのなら見せても構わないだろうと思っての行動だった。

 イステルも年頃の少女だ。

 指輪といった装飾品には、相応に興味がある。

 勿論、イステルは貴族の出である以上、家にはそれなりに宝石や装飾品の類はある。

 あるのだが、それとこれとは別だろう。

 そのままたっぷりと数分、レイに渡された指輪を見て満足したイステルは、その指輪を惜しそうにしながらもレイに返し、微妙な表情になる。

 最初はレイの持っている指輪を見て単純に見惚れたものの、レイの言葉を信じるのなら、その指輪は誰かに対する土産……プレゼントの筈だ。

 そう思えば、イステルが微妙な表情になるのも仕方がないだろう。

 憎からず思っている相手が女に土産として指輪を買っていく……それは、イステルにとって決して好ましいことではないのだから。

 もっとも、だからといってまだ自分の気持ちを自覚していないイステルにしてみれば、チクリとした胸の奥の痛みが何なのか、理解は出来なかったのだが。

 そのことが少しだけ気になったイステルだったが、それを気にせず口を開く。


「その、ダンジョンの宝箱の中では、そこまでしっかりとした効果を持つマジックアイテムではなく、効果も何もない……それこそマジックアイテムとして見れば使い物にならないような、装飾品はそれなりに出ますので」

「つまり外れか」


 マジックアイテムを集める趣味を持つレイにしてみれば外れなのは間違いなかったが……イステルはそんなレイの言葉に首を横に振る。


「いえ、装飾品は装飾品で、それなりの値段で買い取って貰えますので、当たりですね」


 そう言われ。なるほどとレイは頷くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ