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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア

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3887/4078

3887話

「この肉を……ですか?」

「ああ、モンスターの素材として出て来たんだし、どうせなら美味く食いたい。生肉だったり、軽く焼いたりして食べたけど、どれもいまいちだった」

「え? その、生で……ですか? 身体の方は大丈夫ですか? お腹を壊したりは」


 ジャニスがレイの言葉に心配そうな視線を向けてくる。

 だが、レイは今の言葉が自分の説明不足だったと理解し、首を横に振る。


「俺は生で食べてはいない。生で食べたのはセトだよ。セトなら生肉を食べるのも珍しくはないし。……もっとも、最近はあまりそういう機会もなくなったけど」


 そうレイが言うのは、セトが生肉も悪くはないし、その方が美味い肉もあるのは知っているものの、同時に焼いたり煮たり、蒸したり……他にも様々な調理をして食べる肉が美味いと、そう理解しているからだろう。

 ある意味、レイと一緒に行動することによって贅沢を覚えたといったところか。


「そうですか、それは安心しました。けど……何故その、少し落ち込んだ様子なのでしょう?」


 それは、ジャニスが帰ってきたレイを見た時から疑問に思っていたことだ。

 今の話から、てっきり生肉を食べて腹を壊したのかと思ったのだが、どうやらそれも違うらしい。

 では、一体何故?

 そう疑問を口にしたジャニスに、レイは少し困った様子で口を開く。


「モグラ……正確にはそのモンスターなんだが、そのモンスターが使っていると思しき穴を見つけたんだが、結局そこで待っていても出て来なかったんだよ」


 待ち伏せをしていたが、空振りに終わった。

 それがレイが落ち込んでいる理由だった。


(あの穴を数分で見限って探索を続けていれば、もう少し何かこう……まぁ、それは今更の話だろうけど)


 いつモンスターが現れるか分からない以上、もし数分でその場から離れてしまえば、レイ達がいなくなった後でモグラが姿を現したということになってもおかしくはない。

 勿論、それはあくまでも可能性の話でしかないのだが。

 それでも万が一を考えれば、やはりあそこに残ったのは正解だったとレイには思えた。

 ……結局、モグラが姿を現すことはなかったが。


「そうですか。それは残念でしたね。それで、お肉の方は……」

「ああ、これだ」


 ジャニスは冒険者という職業に対して相応の知識はある。

 だがそれはあくまでも聞きかじりの知識でしかなく、当然ながら実感としてのものはない。

 だからこそ、レイの言葉に込められる感情を本当の意味で……実感として知ることは出来ない。

 ジャニスもそれが分かっていたので、すぐ問題の肉の方に話題を移したのだろう。

 ……それも当然のことだった。

 今は夕方少し前といった時間なのだ。

 既に夕食の準備もある程度出来てはいたが、レイからの要望である以上、出来れば鴉の肉を今日の夕食に出したい。

 勿論、レイは別に今日すぐにその肉を食べたいとは思っていない。

 明後日にはギルムに行くので、出来れば明日の夕食くらいに出してくれればいいなといった程度しかないのだ。

 この辺りはお互いの意識の違いか。

 ともあれ、ジャニスはすぐにレイから肉を受け取ると台所に向かう。

 そんなジャニスの背を見送ったレイは、何でそこまで急いでるんだろうと思いつつ、自分の部屋に向かうのだった。






 ジャニスが何を考えていたのか、レイが知ったのは夕食の場だ。

 いつもより少し遅めの夕食。

 それは、ジャニスが何とか鴉の肉を美味く調理しようと四苦八苦した結果だった。


「本当に申し訳ありません。私の実力不足で……」

「いや、別にそこまで気にする必要はないって。明日の夕食に出してくれればいいから。そもそも、今日の夕食はもうこうして準備をしていたんだろう? なら、無理にそこに鴉の肉を加える必要はないと思うけどな」


 そう言うレイだったが、ジャニスはあまり納得した様子はない。

 ジャニスにしてみれば、今日の夕食に鴉の肉を出せない時点で自分の不手際だと思っているのだろう。


「ありがとうございます。明日の夕食までには必ず。……ただ、あの肉はかなり特殊ですね。何と言えばいいのか……決して肉質そのものは悪くないのですが、だからといって肉の味がぼやけているというか」

「モンスターは数え切れないくらいの種類がいる。そう考えれば、あの鴉のような特殊な肉があってもおかしくはない。いや、寧ろ食べられるだけ悪くないのかもしれないけど」


 もっとも、もし食べられない肉であればドワイトナイフを使っても残ることはないだろう。

 そう思いながら、レイは言葉を続ける。


「いざとなったら……そうだな、干し肉とか、そういうのに試してみてもいいかもしれないな。干し肉なら、肉の質はそう関係ないだろうし。いやまぁ、貴族とかが食べる干し肉は話が別だけど」


 冒険者が一般的に食べる干し肉というのは、味よりも保存性を重視したものだ。

 中には徹底的に保存性を重視し、そのままでは食べられないくらい塩辛い干し肉もある。

 そこまでいかなくても、保存性を重視した干し肉であればどうしてもその肉の味は二の次、三の次になる。

 ……勿論、冒険者の中でも金に余裕のある者であれば、貴族達が食べている……いや、場合によってはそれ以上の干し肉を買って食べたりするのだが。

 実際、レイが食べる干し肉は、味を重視したものだ。

 普通の冒険者どころか、少し金に余裕がある程度の冒険者では到底買えないような金額の干し肉となる。


「干し肉ですか。……そうですね。どうしても駄目なようなら、それを試してみます。ただ、干し肉を作るにはかなり時間が必要になりますので、ギルムに行く時に持っていくことは出来ませんが」

「まぁ、その辺は仕方がない。俺がギルムから戻ってくるまでに出来てればいいよ」


 そう言うレイに、ようやくジャニスは安堵の表情を浮かべるのだった。






 翌日……レイがガンダルシアにいる最後の日。

 もっとも、それはあくまでもギルムに一時的に帰るという意味で最後の日で、ギルムでの休みを終えると、再びガンダルシアに戻ってくるのだが。

 そんな最後の日、レイは冒険者育成校に向かう道をセトと共に歩いていた。


「グルルゥ?」


 今日はどうするの? と喉を鳴らすセト。

 セトも今日は教官としてきちんと仕事をするのは理解している。

 セトが聞きたいのは、授業が終わった後のことだ。

 冒険者育成校は基本的に午前中で授業が終わり、午後からは多くの生徒がダンジョンに挑む。

 その時、レイがどうするのかと、そう聞いていたのだろう。


「モグラか?」

「……グルゥ」


 端的なレイの言葉に、セトはそっと視線を逸らす。

 そんなセトの様子を見て、レイは昨日の件が関係しているのだろうと、容易に予想出来る。

 昨日、結局レイとセトは二匹目のモグラを倒すことが出来なかった。

 穴があった以上、あの穴をモグラが使っているのはほぼ間違いない。

 だというのに、昨日モグラと遭遇することはなかったのだ。

 セトにしてみれば、それがかなり悔しかったのだろう。

 ……悔しさ以外にも、モグラの肉がそれだけ美味いのだと理解しているからというのがあるのだろうとレイには思えたが。

 ともあれ、昨日が駄目だったということで、今日の午後からもとセトが思ってもおかしくはないが……


「いや、止めておこう。明日にはギルムに戻るとなると、何か俺に用件のある者が会いに来ないとも限らないし。ダンジョンに行っても夜に家に来るのを待つという手段もあるけど、そこまではしないが、用事があるという者もいるかもしれないし」

「グルゥ……」


 レイの言葉に、セトは残念そうに喉を鳴らす。

 とはいえ、レイの言いたいことも分かるので、セトはこれ以上無理を言ったりはしなかったが。

 残念そうにしているセトと共に歩き続け、やがてレイは冒険者育成校の校舎に到着する。

 そしていつものようにセトを厩舎まで連れて行ったのだが……


「おはようございます」


 厩舎の……より正確にはセトの護衛として雇われている冒険者が、レイを見るとそう挨拶してくる。

 冒険者にしては丁寧な挨拶なのだが……


(ん?)


 レイはそんな冒険者……より正確には冒険者達の姿に違和感を抱く。

 何がという訳ではない。

 こうして見た感じでは、特に何かおかしいところがあるようには思えない。

 冒険者に何人かの目には若干暗い色があるものの、それは今まで何度も向けられてきた視線だ。

 普通の冒険者にしてみれば、レイという存在は嫉妬を抱いてもおかしくはない。

 実際、レイも自分の幸運は自覚してるので、そのような嫉妬の視線を向けられても、実際にそれで何かおかしなことでもしない限りは気にしないようにしている。

 当然だろう。レイに嫉妬を抱く者は、それこそ数え切れない程に多いのだから。

 そのような者達一人一人をわざわざ警戒しても意味はない。

 そういう意味では、この冒険者達も今までそのように扱ってきた他の冒険者達と同じなのだ。

 それは間違いない。

 にも関わらず、レイは目の前にいる冒険者達に何かを感じたのだ。

 それが具体的に何なのかは、生憎とレイにも分からない。

 分からないが、それでも何かを感じたことは間違いないのだ。


「えっと……あの? レイさん? どうしたんですか?」


 レイが訝しげに自分を見ているのに気が付いた冒険者達……その中でもリーダー格で、レイに挨拶をしてきた男がそうレイに尋ねる。

 何もおかしなところがないのは間違いない。

 間違いないのだが、それでも何かが妙にレイの気に掛かる。

 実際何があってそのようなことを思っているのか、レイには分からない。

 だが、レイは少し……本当に少しだけだが、警戒の視線を向ける。


「一応聞いておくが、お前達は厩舎の護衛を受けた冒険者ということでいいんだよな?」

「ええ、はい。だからここにいる訳ですし」


 レイの言葉にリーダーの男はあっさりとそう言ってくる。

 また、これをどうぞといった様子でギルドカードすら見せてくる。

 そこにはギランという名前とランクD冒険者であることが表記されている。


(俺の気のせいか?)


 もしレイが感じたように、何かが……後ろめたい何かが男にあった場合、こうも簡単にギルドカードを見せるとは思えない。

 それはつまり、やはりこの男に対して感じた何かはやはり気のせいだったのではないか。

 そう思ってしまうのは、レイにとって当然のことではあった。

 だが同時に、レイは自分の勘を信じている。

 今まで何度となく、この勘に救われてきたのだ。

 そうである以上、自分の勘を信じないという選択肢はレイの中にはなかった。


(とはいえ、俺がおかしいと思ったから捕らえるとか、もしくは仕事をキャンセルするとか、そういうことは出来ないしな)


 さてどうするか。

 そう思っていると、見覚えのある……ありすぎる、エルフがこちらに近付いて来たのを見つける。

 この冒険者育成校のトップである、フランシスだ。

 何故フランシスがここに来たのかということについては、レイにとってそこまで驚くようなことではない。

 ガンダルシアにおいても、かなり重度のセト好きの一人として知られている――正確にはレイがそう思っている――相手なのだから。

 だからこそ、レイが冒険者育成校に来たのを精霊魔法か何かで察知し、こうして会いに来たのだろう。

 勿論、会う相手はレイ……ではなく、セトだ。

 特にここ四日程はレイはダンジョンに潜っており、冒険者育成校に来ていなかった。

 また、明日にはセトは選抜された生徒や引率の教官と一緒にギルムに行き、戻ってくるのはかなり先になる。

 だからこそ、フランシスにとってセトを愛でることが出来る最後のチャンスが今日なのだ。

 ……いずれまたガンダルシアに来ると分かっているものの、それでもある程度の期間セトを愛でることが出来ないというのは、フランシスにとって辛いのだろう。


「レイ? セトちゃんも……一体どうしたの?」


 近くまで来たフランシスが、一体どうしたのかといった様子でレイとセトに尋ねてくる。

 フランシスにしてみれば、レイが来た以上はもうセトは厩舎の中に入っているのだとばかり思っていたのだろう。

 なのに、離れた場所から見ると、何故かレイがセトと共に動いていない。

 それを不思議に思うのは、フランシスとしては当然のことだった。

 レイはそんなフランシスに向かって口を開こうとし……その動きを止める。

 一瞬、間違いなく一瞬だったが、ギランの顔が微かに顰められたのだ。

 それを見たレイは、先程の自分の勘を踏まえた上で、このギランという男が……そしてその仲間達が明らかにおかしいと判断する。

 そう判断した時、レイは半ば反射的な動きでミスティリングからデスサイズと黄昏の槍を取り出すのだった。

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