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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア

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3886話

レジェンド3886話目


3886話

 鴉の魔石を使って魔獣術を終えると、レイとセトは再び十三階の探索を開始する。

 とはいえ、今日のこれまでの出来事を考えれば、そう簡単に未知のモンスターや宝箱を見つけられるとは限らなかったが。

 ただし、そう簡単に見つけられないからといって探さなければ、結局それを見つけることは出来ないのだ。

 そういう意味では、見つかる可能性は低くても、しっかりと探索を続けるのは悪い話ではない。


(とはいえ……飽きてきたな。セトもそんな感じっぽいし)


 既に鴉を倒した時から、一時間程が経過している。

 その間、特に何も見つけられるようなものはなく、ただひたすらに草原を歩いているだけだ。

 レイの振るうデスサイズによって草はあっさりと刈られる。

 また、デスサイズの能力の一つに、レイとセトは重量を感じさせないというのもある。

 そういう意味では、一時間デスサイズを振るっても殆どレイに疲れはない。

 ないのだが、疲れないのと飽きないというのは同じではない。

 ……いや、寧ろ疲れないからこそ、余計に飽きてしまうという一面もあるのだろう。


「セト、ちょっと休憩しないか? さっきの鴉の肉の味見もしたいし」

「グルルゥ? グルゥ!」


 不意に休憩を提案してきたレイの言葉に驚いたセトだったが、鴉の肉については食べたいと思っていたこともあり、すぐに分かったと喉を鳴らす。

 そんなセトの様子を見たレイは、まずはデスサイズで周辺の草を刈って自由に行動出来る空間を作る。

 そして鴉の肉をミスティリングから取り出すと……どのように調理をすべきかと、考える。


(味見なんだし、やっぱり普通に焼くだけにしておくか? 塩を振って。モグラの肉もそんな感じで食べたし)


 本来なら、もっと手間暇を掛けて調理をする方がいいのだろう。

 だが、レイが鴉の肉の味見をしようとしたのは、あくまでも気分転換の為に休憩をしようと考えてのことだ。

 そうである以上、ここでそこまで手間暇を掛けた料理をするのはどうかと思える。

 もっとも、そのような余裕があったとしてもレイはそこまで料理が得意な訳ではない。

 あくまでも最低限の料理が出来るだけだ。

 それでも料理が出来ないという訳ではないのだが。

 ともあれ、今は特に料理をする必要はないだろうと考え、鴉の肉を取り出すと一応一切れ生でセトに与える。


「グルゥ……グルルゥ?」


 レイは生肉は好まない。

 日本にいる時は鶏を絞めた時にささみを刺身として食べたりもしていたし、父親が酒の肴としてスーパーで買ってきた馬刺しや牛肉の炙りを少し貰って食べたことはあったが。

 ……なお、本来なら鶏のささみを刺身で食べるというのは色々と危険だ。

 レイの場合は偶然か、あるいは父親が絞めた時にきちんと処理をしていたのか、それとも小さい頃から食べ続けていたので単純に慣れたり免疫が出来たのか。

 とにかく、ささみを生で食べても特に問題はなかったものの、基本的には好まれていない。


「いまいちか?」


 鴉の生肉を食べたセトが微妙な様子で喉を鳴らすのを見て、そう尋ねる。


「グルゥ」


 レイの言葉に、セトは同意するように喉を鳴らす。


「駄目か。まぁ、鴉の生肉だしな。そう考えればいまいちでも仕方がないのか。とはいえ、十三階に出てくるモンスターだけに、ランクはそこそこの筈だ。……ああ、だからこそ不味いんじゃなくていまいちなのかもしれないな。どうする? もうこれ以上は止めておくか? それとも、火を通して食べてみるか?」

「グルゥ……グルゥ!」


 レイの言葉に少し迷った様子のセトだったが、折角の肉なのだ。美味く食べられる方法があるのなら、それを絶対に見つける。

 そのような思いから、火を通して食べてみると喉を鳴らす。


(そこまで鴉の肉に固執する必要はないと思うんだが)


 レイのミスティリングには、今まで倒してきた多くのモンスターの肉がある。

 それこそ四人家族が一生……いや、生まれ変わって更に一生肉に困らないと思える程、あるいはそれ以上の肉が。

 そうである以上、そこまでこの鴉の肉に執着する必要はないだろうとレイには思える。

 とはいえ、こうしてセトがやる気である以上、レイとしてもここで止めたと言う訳にはいかない。

 肉を串に突き刺し、塩を振ってからデスサイズを手に指を鳴らす。

 空中に現れたファイアボールに、肉を刺した串を近づけ……


「ん? 匂いは香ばしいな」


 ファイアボールの炎で肉の焼けた香りが周囲に漂うが、香ばしい……食欲を刺激するには十分な香りだ。

 これはレイにも少し……いや、かなり意外だった。

 生肉を食べた時のセトの様子から、この鴉の肉は焼いてもそこまで美味い肉ではないのだろうと、そう思っていたのだ。

 しかし、そんなレイの予想は良い意味で裏切られる。


「グルゥ!」


 当然ながら、レイよりも五感の鋭いセトは、鴉の肉の焼ける香りにレイよりも先に気が付いていた。

 もういい? と喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトに串焼きをそっと差し出す。


「グルゥ」


 串焼きの肉を横からクチバシで綺麗に取り、食べる。

 そうしてしっかりと味わうと……


「グルルゥ?」


 納得出来ないような、そんな様子で喉を鳴らすセト。


「セト?」


 レイはそんなセトの様子に疑問を抱いて尋ねる。

 だが、セトはそんなレイの言葉に少し困った様子を見せるだけだ。

 セトの様子に、レイはこのままだとどうにもならない以上、自分で肉を食べてみるしかない。

 そのように判断し、新たに一切れ鴉の肉を切り、セトに食べさせた時と同じく塩で味付けをしてから、まだ残っているファイアボールで焼いて口に運ぶ。

 最初に噛んだ時は、ファイアボールで焼けた時のような食欲を刺激する香りが口の中に広がる。

 何だ、美味いじゃん。

 そう思って肉を噛むレイだったが……


(これは……)


 決して不味い訳ではない。

 例えば、獣臭いといったようなものがある訳ではないのだが、肉の味は微妙としか言えないようなものだった。

 決して不味くはない。

 不味くはないが、だからといって美味いかと言われればレイは即座に首を横に振るだろう。

 そのような肉を味わいつつ、レイはやがて肉を飲み込む。


「うーん……これは……何て言えばいいんだろうな。実際に食べてみても決して不味い訳じゃない。まずい訳じゃないが、だからといって好んで食べたいかと言われると……微妙な感じだが」


 それはレイの正直な気持ちだった。

 例えば食料がない状況でこの肉があれば、喜んで食べるだろう。

 だが、ある程度の食料がある中でこの鴉の肉を食べたいかと言われれば、レイは即座に首を横に振る。

 それだけ、この肉の味は微妙なのだ。

 不味くもないが、美味くもなく、自分から好んで食べようとは思わない。

 そんな微妙な肉だった。


「グルルゥ?」


 この鴉の肉、どうするの? とセトは喉を鳴らす。

 レイにとってもそうだったが、セトにとってもやはり微妙な肉なのだろう。


(これで俺だけが不味いと感じたのなら、これが鴉の肉だからという先入観があるからという可能性もあるけど……セトの様子を見る限り、違うしな)


 レイだけではなく、セトの様子を見てもレイと同じ判断をしている。

 そうである以上、この鴉の肉をわざわざ好んで食べたいとは、レイには思えなかった。


「うーん……俺達にとってはちょっとどうしようもないけど、ジャニスに頼めば何とかなるかも?」


 メイドのジャニスが作る料理は、どれも美味い。

 その辺の食堂の料理人よりも、腕は上だろう。

 もっともメイドと食堂の料理人では、求められる技術の方向性が違う。

 食堂の料理人は、それこそ昼や夕方となれば大量の客がくるので、可能な限り早く料理を作る必要がある。

 それと比べると、メイドが料理を作るのは主人に対してのみ。

 あるいはせいぜいが主人の招待した客だろう。

 これが大規模に客を招いてパーティでもするのなら、専門の料理人が必要になるだろうが。

 しかしレイはそのような大規模なパーティを好むようなことはない。

 ともあれ、レイが満足する料理を作るジャニスなら、この鴉の肉もどうにかして美味い料理に出来るのではないかとレイには思えた。


「グルゥ!」


 レイの提案に、セトは同意するように喉を鳴らす。

 今の家で暮らすようになってから、セトもまたレイと一緒にジャニスの料理を毎日食べている。

 だからこそセトもジャニスの料理が美味いというのは十分に理解していた。


「セトの同意も得られたことで、鴉の肉についてはジャニスに任せるとして……次に行くか。出来れば次はもっと他のモンスターが出て来て欲しいところだけど。もしくは、セトかデスサイズのどちらかだけが魔石を使ったモンスターとか」

「グルルルゥ、グルゥ」


 レイの言葉に、心の底から同意した様子で喉を鳴らすセト。

 セトにとっても、出来ればレイの言うように未知のモンスターや、まだセトとデスサイズのどちらかしか魔石を使っていないモンスターが出てくるのを楽しみにしている。


「じゃあ、行くか。……ああ、もしかしたら鴉の肉を焼いたりしたら、その匂いに惹かれてモンスターがやって来るとか、そういうことはないか? ……ないか」


 そう言いつつ、レイはセトを引き連れて歩き出す。

 デスサイズを使い、草を刈り取りつつ歩き……


「あ」


 不意にそんな声を出す。

 セトが聞いたその声には、間違いなく喜びが……それこそ、歓喜に近いくらいの嬉しさを抱いているように思えた。


「グルルゥ?」


 そんなレイに、セトはどうしたの? と喉を鳴らす。

 レイはそんなセトに対し、その場から移動することで自分の前にあった巨大な穴をセトに見せる。


「グルゥ!」


 その穴を見たセトは、こちらもまたレイと同じように嬉しそうに喉を鳴らす。

 当然だろう。以前この穴を見た時に遭遇したモンスター……モグラは、その外見に似合わずかなり美味い肉を持っていたのだから。

 それこそレイはネズミ系のモンスターの肉はあまり好まないにも関わらず、素直に美味いと口に出す程には。

 ……実際には、これはレイが勘違いしているだけで、モグラはネズミの仲間ではないのだが。

 これはレイが単純に勘違いしてるだけの話だ。

 ただ、ここにはそんなレイの勘違いを正すことの出来る者がいないので、レイは今でもモグラをネズミの仲間だと思っているのだが。


「セト!」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは鋭く喉を鳴らす。

 そしてすぐに穴の側まで移動する。

 レイもまた、右手に持っていたデスサイズに加え、左手に黄昏の槍を持ち、いつ戦闘が始まってもいいようにする。

 以前見つけたモグラの穴では、それこそレイ達が穴の側にいる時、すぐにでもモグラは反応して襲ってきたのだから。

 そうである以上、今回も同じようにすぐに穴からモグラが飛び出してきてもおかしくはない。

 そう思っていたのだが……


「あれ?」


 五分程が経過したにも関わらず、モグラが襲ってくるようなことはない。

 一体何がどうなっているのか分からず、レイの口からそんな声が出る。


(もしかして、前回モグラによって襲撃されたのは偶然モグラが穴の近くにいたからとか? そして今は、モグラはこの穴から離れた場所にいるから、俺やセトの存在に気が付かない?)


 本当にそんなことが有り得るのかどうか、レイには分からない。

 分からないが、それでもこうして穴の側にいるにも関わらず、全く襲ってくるようなことがないのを考えると、その予想が完全に外れているとは思えなかった。

 とはいえ、レイとしてはここでモグラの穴を見つけた以上、それを逃がすつもりはない。

 モグラの肉がかなり美味い肉であるのもそうだが、やはり魔石の存在だろう。

 前回倒したのは一匹だけである以上、もう一匹は是非とも倒したい。

 そのように思うのは、魔獣術を使う者として当然のことだった。

 それはレイだけではなくセトも同様で、穴の側でレイと同じく待機している。

 何があっても即座に反応出来るようにしながら。

 だが……そのまま数分、十分、数十分といった具合に時間が流れても、モグラが姿を現す様子はない。


「……あれ?」


 これはレイにとっても完全に予想外だった。

 だが同時に、それも仕方がないかという思いがあるのも事実。

 こうして穴がある以上、モグラがここを出入りしているのは間違いないだろう。

 だが、モグラというのは別に一つの穴を使っている訳でもない。

 いや、このモグラはモンスターである以上、レイの知っているモグラの生態をそのまま使えることが出来るとは限らない。

 そんな諸々について、やはり今のこの状況で取りあえず待つしかないと考え、レイはそのまま待つ。


(時間的に、多分このモグラが最後になるだろうけど……どうだろうな)


 そんな風に思いながら。

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