3885話
セトの衝撃の魔眼によって、角を持つ鴉五匹のうち、三匹が戦闘不能になる。
だがそれは残り二匹が無傷のままということであり……その二匹は、セトには敵わないと判断したのか、レイに向かって襲い掛かってきた。
「俺が倒しやすいって? いや、いい機会だ。緑生斬!」
先程習得したばかりのスキルを発動する。
敵の鴉は空を飛んでおり、デスサイズの間合いの外側だ。
なら、蔦を鞭代わりとして使える緑生斬をこの機会に使ってみておこうと、そう判断したのだ。
相手がそこまで強くないモンスターであるというのも、レイが緑生斬を試してみようと思った理由だろう。
スキルの発動に伴い、デスサイズの刃が蔦によって覆われる。
「ギャオン!」
そんなデスサイズを見た鴉の一匹は、危険だと判断したのだろう。鳴き声を上げる。
(先程もそうだったが、とてもではないが鴉とは思えない鳴き声だな)
鳴き声についての感想を抱きつつ、レイはデスサイズを振るう。
正確には、その刃を包んでいる植物の蔦を振るうといった方が正しいだろう。
最初に警戒の声を上げた鴉の方は、レイの行動を見た瞬間に危険だと判断して翼を羽ばたかせ、距離を取る。
だが……最後に残った鴉は、仲間の鳴き声を聞いた後でも行動に移るのが遅れ、その結果としてレイの振るうデスサイズの刃から伸びた蔦によって身体を打ち据えられた。
「ギャオッ!」
そんな悲鳴を上げ、地上に落ちる鴉。
地面に落ちた勢いも加わり、その衝撃で鴉はろくに身動きも出来ない状態になっていた。
そうなると残りは最初にデスサイズの刃が蔦に覆われた時に真っ先に危険を察知した鴉だけだったが……
「あ、もういないな」
空を見上げたレイは、そんな風に呟く。
蔦の一撃から逃げた鴉は、仲間が攻撃されている隙に、逃げ出したらしい。
仲間をあっさりと見捨てた鴉に呆れたレイだったが、自分が生き延びるという意味では決して悪くはない。
寧ろ、生存本能が勝ったという意味で、褒められるべきことでもあるだろう。
……もっとも、それでも仲間を見捨てて逃げたというのは間違いなく、そういう意味ではやはり褒められるべきではないのかもしれないが。
レイはデスサイズを握りながら、どうするべきかと考え……すぐに追撃を諦める。
もし倒した鴉の数が一匹だけであれば、レイも何とかして追撃をするべきだと考えただろう。
だが、既にレイが一匹、そして残りはセトに倒されている筈だった。
レイやセトが欲しいのは、あくまでも魔石を二個だけだ。
その倍の数を倒しているのだから、わざわざ逃げた鴉を追って追撃をする必要はなかった。
「セト、そっちは……うん、問題ないな」
最初に衝撃の魔眼を使われ、何とか体勢を立て直した一匹を始め、全部で三匹が既に死んでいるのを確認し、レイは満足そうに頷く。
セトだから大丈夫だろうとは思っていたものの、それでももしかしたら……万が一があるかもしれないと、そう思っていたからだ。
「グルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
予想通りに相手を無事に倒すことが出来て、セトにとってもそれだけ嬉しかったのだろう。
十三階の探索、二日目。
今日もそれなりに収穫はあったものの、それでも出来ればセトとしてはもっと多くのモンスターを……それも一度倒したことがある訳ではない、未知のモンスターを倒したいと思っており、ストレスが溜まっていたのだろう。
もっとも、それはセトだけではなくレイにとっても同様だったが。
あるいはこの階層に生えている草がもっと短い……それこそ一階や二階と同じくらいの大きさの草であれば、レイもそこまで不満を抱かなかっただろう。
だが、この階層の草はレイよりも大きく、それが余計にレイがストレスを溜めるには十分だった。
「さて、じゃあいつまでもこうしていられる訳でもないし……さっさと解体をするか。セトの倒した鴉を集めてくれ。俺も倒した奴を持っていくから」
「グルゥ」
セトは分かったと喉を鳴らし、草むらに入っていく。
どうやらセトが倒した鴉の死体は、草刈りをしていない場所にあるらしい。
レイは自分の倒した鴉の死体を運ぶべく移動し……
「こうして見ると、やっぱりモンスターだよな。普通の鴉の二倍……いや、三倍に届かないくらい、二倍半くらいか? そのくらいはあるし」
レイが知っている鴉……日本で見た鴉と比べても、明らかにこの鴉は大きい。
モンスターだからという、レイが口にした理由で納得出来ることではあったが。
「グルルゥ」
セトの声に視線を向けると、そこには三匹の鴉の死体を集めたセトの姿。
やはりセトが倒した三匹の鴉も、レイが見たのと同じように普通の鴉よりも明らかに大きい。
「さて、じゃあ……早速解体するか。取りあえず角が生えてるし、この角辺りは素材として残ってもおかしくはないけど。どうだろうな」
そう言いつつ、レイはミスティリングから取りだしたドワイトナイフに魔力を流す。
そして最初に解体するのは……レイが倒した個体。
いつものように周囲が眩く光り輝き……そして光が消えた時、そこにはレイが予想したように角があり、尾羽があり、魔石があり、そして……肉があった。
「え? 肉? 鴉だぞ、これ」
「グルルゥ?」
鴉の肉があってもおかしくないのではと、喉を鳴らすセト。
レイとは色々と認識が違っているらしい。
とはいえ、この辺はレイの方が自分の知識や常識に引っ張られている形だ。
レイにしてみれば、鴉というのは生ゴミを漁ったりする鳥という認識がある。
あくまでも鳥である以上、食べるのに支障はないのでは?
そのように思うセトとレイの意識は違う。
……もっとも、この辺はレイの知識のなさの証でもあった。
レイの常識では鴉というのは、到底食べられる鳥ではないというものがある。
だが、日本であっても一部地域では鴉を食べたりするし、そのような料理の中には鴉の刺身というのもある。
一種のジビエと評しても、必ずしも間違いではないのだろう。
ただ、鴉が食べられるのは本当に一部の地域だけだし、雑食性だけにどのような餌を食べたのかによっては、体内に何らかの有害な成分が蓄積している可能性も否定は出来ない。
もっとも、それは特に珍しいことではない。
例えば魚……海で獲れる魚であっても、中にはシガテラ毒を持つ個体もいる。
それはその個体が今まで食べてきた餌によって身体に毒となる成分が蓄積したもので、それだけに個体によってその毒に当たるかどうかが決まる。
Aという魚を食べて毒に当たっても、Aと同じ魚種のBという別の個体を食べても毒に当たらないということは普通にあるのだ。
「取りあえず……まぁ、モグラの肉は美味かったんだし、そう考えれば鴉の肉も不味いとは限らないのか?」
それは不味いとは限らないのか? と疑問に思っているのではなく、そうであって欲しいと願っての言葉だ。
「グルルゥ?」
レイの様子を見たセトは、そこまで心配にならなくてもと喉を鳴らす。
セトにしてみれば、鴉の肉も食べられるのなら普通に美味しく食べたいと、そう思えるのだ。
「……まぁ、取りあえず肉については後でいいとして。モグラの時と同じく、後でちょっと食べてみるか?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
(ドワイトナイフでこうして残ったってことは、取りあえず毒ではないのは間違いないだろうし)
肉については取りあえず今はそこまで気にしないことにする。
セトがこうして食べたいと言ってる以上、後でセトにちょっと食べて貰おうと、そのように思いながら。
「さて、じゃあセトが倒した鴉の解体もしていくぞ」
そう言いつつ、レイはドワイトナイフに魔力を流す。
そしてセトの倒した三匹の死体にも次々とドワイトナイフを刺していき……こうして、四匹の鴉の解体はあっさりと終わるのだった。
そして肉や角、尾羽、二個の魔石をミスティリングに収納すると、残るのは二個の魔石。
「セト、周囲は問題ないよな?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは周囲の様子を確認すると、問題ないよと喉を鳴らす。
ドワイトナイフを使った解体は見られても困らない。
魔獣術で新たに習得したスキルやレベルアップしたスキルを試すのを見られても構わない。
だが……レイやセトにしてみれば、魔獣術としてセトが魔石を飲み込んだり、デスサイズで魔石を切断する光景だけは見られたくなかった。
いや、デスサイズで魔石を切断する光景なら、それなりに誤魔化す方法がある。
例えば、魔石を集める趣味を持つレイだったが、この魔石の形は好みではなかったので処分したといったように。
それならギルドに売ればいいのでは? といったものだったり、わざわざ斬る必要はないのでは? といった突っ込みもあるかもしれないが、その辺はレイもある程度誤魔化せるだろうと思っている。
だが、セトが魔石を飲み込む光景は、誤魔化すのが難しい。
もし誰かがその光景を見れば、一体何をしているのかと、驚きを露わにするだろう。
だからこそ、レイとしてはセトが魔石を飲み込むという光景を誰かに見せる訳にはいかなかった。
それこそ、もしそのような光景を誰かに見られた場合、最悪……本当に最悪の場合、口封じをする必要があるかもしれないとすら思うのだ。
勿論、レイとしてもそのようなことは可能な限りしたくはない。
だからこそ、セトが魔石を飲み込むという光景は絶対に見られないようにするべきだと思っていた。
結局のところ、その光景を見られなければ何も問題はないのだから、それが最善なのは間違いないだろう。
「よし、じゃあ……行くぞ」
そう言い、レイは手にした魔石をセトに向かって放り投げる。
それをクチバシで咥えたセトは、そのまま魔石を飲み込み……
【セトは『ウィンドアロー Lv.七』のスキルを習得した】
脳裏に響く、アナウンスメッセージ。
それを聞いても、レイは特に驚いた様子はない。
空を飛ぶ鴉の持つ魔石と考えれば、風系のスキルを習得するのはそうおかしなことではないと思えたからだ。
少しだけ疑問に思ったのは、風系のスキルということで納得は出来たものの、もし鴉がその手のスキルを使えるのなら、何故風を使った攻撃をしてこなかったのかということだろう。
(あ、でもそれどころじゃなかったというのが正しいのか?)
セトの使った衝撃の魔眼は、使ってから実際に発動するまでの時間は非常に短い。
それこそ相手を見るだけでスキルが発動するのだから、その発動の速度はセトが持つスキルの中でもトップクラスなのは間違いなかった。
「グルゥ」
レイと同じく、セトもウィンドアローのレベルが上がったのは特に驚く様子もなかったらしく、喜んではいるものの、そこまで突出して喜んでいる様子はない。
「じゃあ、セト。早速だけどレベルアップしたウィンドアローを試してみてくれるか?」
「グルルルルゥ!」
レイの言葉にセトは喉を鳴らし、スキルを発動する。
同時にセトの周囲には風の矢が生み出される。
その数は、百十本。
アロー系のこれまでの結果を思えば、予想出来る結果なのは間違いなかった。
そして放たれた風の矢は、周囲に伸びている背の高い草を貫き、斬り裂くのだった。
「よし、ナイスだセト。予想していたとはいえ、このウィンドアローは使い勝手のいいスキルなのは間違いないな」
「グルルゥ!」
ウィンドアローのレベルが上がった時と比べ、レイに褒められた時の喜び方は明らかに上だった。
撫でて撫でてと頭を擦りつけてくるセト。
レイは当然のようにその頭を撫でてやる。
それに嬉しそうに喉を鳴らすセト。
数分、セトの頭を撫でていたレイだったが、いつまでもそうしている訳にはいかない。
これで終わりと、最後に強くセトの頭を撫でると、少し離れる。
そうしてデスサイズを手に、魔石を空中に放り投げ……次の瞬間、デスサイズが振るわれ、魔石が切断される。
【デスサイズは『風の手 Lv.七』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
その内容はセトと同じく……いや、セトの時にウィンドアローという風系のスキルがレベルアップしたので、予想通りだった。
「とはいえ、風の手か。……あまり使い道がないスキルなんだよな」
レイの代名詞でもある。炎の竜巻……火災旋風を作るのに必須のスキルではあるものの、ダンジョンの中ではあまり使い道のないスキルというのは間違いのない事実。
そんな風に思いつつ、それでもいずれは使い道を思いつくかもしれないと考え、スキルを発動する。
「風の手」
スキルが発動して生み出された風の触手は……千m、一km以上伸ばすことが可能になっていたのだった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』new『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.六』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.八』『翼刃 Lv.六』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.二』『植物生成 Lv.二』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.七』new『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.六』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.三』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.二』『緑生斬Lv.一』
ウィンドアロー:レベル一で五本、レベル二で十本、レベル三で十五本、レベル四で二十本、レベル五で五十、レベル六で八十本、レベル七で百十本の風の矢を射出する。威力自体はそれ程高くはないが、風で作られた矢なので敵が視認しにくいという効果や、矢の飛ぶ速度が速いという特徴がある。
風の手:風の魔力で編み込まれた無色透明の触手のような物がデスサイズから生える。触手の先端部分で触れている物のみ風を使った干渉が可能。Lv.四で二百五十m、レベル五で五百m、レベル六で八百m、レベル七で千百mまで触手を伸ばせる。




