3883話
レイはミスティリングから取り出したドワイトナイフに魔力を流し、コボルト……正確にはコボルトの上位種と思しきモンスターの死体に突き刺す。
すると次の瞬間、周囲が眩い光に包まれ……その光が消えると、そこには魔石と素材が残っていた。
まず魔石は、これがレイやセトにとっては最大の目当てだったので、真っ先に確認する。
それが終わると、次に確認するのは素材。
残っていたのは、爪と牙、植物の生えた毛皮。
「植物の生えた毛皮……? えっと、これはどうすればいいんだ?」
これが普通の毛皮なら、なめすなりなんなりして防具、あるいは服や防寒具といったものに使えるだろう。
だが、このコボルトの毛皮からは植物が生えているのだ。
この生えている植物はどうしたらいいのか、レイには全く分からない。
植物が生えたまま毛皮を何かに使えばいいのか、それとも毛皮から植物を抜けばいいのか。
(いや、やっぱり抜くんだよな。防具とか防寒具として使うと考えれば、この植物は明らかに邪魔だし)
例えば防寒具としてコボルトの毛皮のコートか何かを着て街中を歩く時、その毛皮のコートから植物が生えていたらどうなるか。
斬新なファッションとみる者もいるだろうが、多くの者はまず微妙な視線を向ける筈だった。
少なくても、レイはそのようなコートを着て街中を歩きたいとは思わない。
「まぁ、それでも……ドワイトナイフを使った結果、こうして植物が残ったんだ。そう考えれば、恐らく問題はないんだろう。何かに使えるから、こうして残ったんだろうし」
それは半ば自分に言い聞かせるかのような言葉だった。
実際、今のこの状況においてはそうするしかないのも事実。
もしこの毛皮が素材として使えないのであれば、それはレイにとって最悪の結果なのだから。
……もっとも、最悪の結果とはいえ、この素材はあくまでも大量に入手した素材のうちの一種だ。
もしどうしてもギルドで買い取れない、あるいは安くなるというのなら、ミスティリングに収納しておけば、いずれ何かで使えることもあるだろう。
「そういう意味では、牙とかはそれなりに使い道はありそうだな。さて、そんな訳で魔石だ。セト、どういうスキルを習得出来ると思う? やっぱり、身体から植物が生えているのを考えると、植物生成のレベルアップとか?」
「グルゥ? ……グルルルルゥ」
レイの言葉に、セトは悩んだ様子を見せる。
植物生成で生み出される蔦は、相手の動きを封じるという意味ではそれなりに使い勝手のいいスキルなのは間違いない。
また、生みだした植物が少し時間が経てば枯れるというのも、欠点ではあるものの、そのまま植物としてそこに残るよりはいいのかもしれないが。
「まぁ、ここでどうこう考えても意味はないか。セト、準備はいい……の前に、一応周囲の状況を確認してくれ。問題はないか?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは周囲には誰もいないよと喉を鳴らす。
そんなセトの様子に頷くと、レイはセトに向かって魔石を見せる。
「じゃあ、行くぞ」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトはやる気満々といった様子で喉を鳴らす。
そんなセトに笑みを浮かべ、レイは魔石を放り投げる。
セトはその魔石をクチバシで咥え、飲み込み……
【セトは『植物生成 Lv.二』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
予想通りの内容だったこともあり、レイは特に驚きはしない。
セトもまた、予想していたので嬉しそうにしてはいるものの、そこまで激しい喜びではない。
これで実はもっと別のスキルのレベルが上がったり、あるいは新しいスキルを習得したのなら、セトも驚き、大きく喜んだのだろうが。
「じゃあ、ちょっと試してみせてくれるか?」
「グルルルゥ!」
レイの頼みに応じ、セトは早速レベル二になった植物生成を使う。
するとレベル一の時と同じように、地面から蔦の植物が生えてくる。
違うのは、その蔦の太さだ。
レベル一の時は一cm程の太さだったのだが、レベル二になったことで三cm程の太さになっている。
一cmの太さの蔦というのも、それを切るのは少し苦労する。
力自慢の者であれば話は別だが、一般人では刃物の類がなければ力ずくでとはなかなかいかないだろう。
だが、レベル二の植物生成で生み出された蔦は、三cmもの太さがある。
これはちょっとした力自慢でも、素手で引き千切るのは難しいのは間違いない。
……つまり、ちょっとしたどころではない力自慢であれば、その太さの蔦であっても容易に引き千切ることが出来るということを意味しているのだが。
(もっとも、植物生成はまだレベル二だ。これからどんどんレベルが上がっていけば……レベル五になったら、一体どういう風に強化されるんだろうな。蔦じゃなくて木を生み出せるとか? いや、けどそれはそれで使い道に困るな)
蔦の場合は、それをセトが自由に動かすことによって相手の動きを封じることが出来る。
だが、木では当然ながらそのようなことは出来ない。
(となると、もし木が生えるようになったら蔦とはまた違う使い方をする必要があるのか。……まぁ、もしかしたら木を生み出すんじゃなくて、生み出せる蔦の数が増えるとか、そういう感じかもしれないし。そう考えれば、レベルが上がるのが楽しみになるな)
植物生成について予想しながらも、レイは次にもう一つの魔石を手にする。
セトが使ったので、当然ながら次はレイの番……より正確にはデスサイズの番だ。
セトもそれが分かっているので、レイの邪魔をしないように少し離れる。
それを確認してから、デスサイズを手にしたレイは魔石を空中に放り投げ……魔石を切断する。
【デスサイズは『緑生斬 Lv.一』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それを聞いたレイは、微妙な表情を浮かべる。
「これ……一体どういうスキルだ?」
てっきり何らかのスキルのレベルが上がるかと思っていたレイだったが、コボルトの魔石を使った結果は、新しいスキルの習得。
だが、緑生斬というスキルの名称は分かるが、それが一体どのようなスキルなのかは分からない。
いや、予想は出来ない訳でもない。
~斬というスキル名称からすると、すぐに思い浮かべるのは氷雪斬、雷鳴斬、火炎斬といったように刃の周囲に何らかの……そう、属性を纏わせるスキルなのだから。
もっとも、他にも飛斬や多連斬、幻影斬といったような、それらと違うスキルもあるので、絶対にそうだとは断言出来ない。
「結局のところ、使って見るしかないのか。……緑生斬という名前と、セトの植物生成のレベルが上がったということを考えると……あまりいい予感はしないな」
とはいえ、結局のところレイが口にしたように、実際に使ってみるしかないのも事実。
全く未知の、それもどういう効果なのかも想像出来ないスキルなので、レイはセトにしっかりと離れるように言ってからデスサイズを手にスキルを使う。
「緑生斬」
スキルが発動した瞬間、植物の蔦がデスサイズの刃に絡まる。
「えー……」
その光景に、思わずといった様子でレイが声を漏らす。
当然だろう。
氷雪斬と似たようなスキルという意味ではレイの予想は当たった。
それは間違いない。
だが同時に、デスサイズの刃が植物の蔦によって完全に覆われたのも事実。
言うまでもなく、デスサイズというのは大鎌だ。
そして大鎌である以上、刃がある。
その刃で相手を切断するのが大鎌という武器なのだから。
……もっとも、レイの場合は石突きを槍のように使うこともあるが。
ともあれ、大鎌の特徴である刃が蔦に覆われてしまえば、当然ながらその部位で切断しようとしても、斬ることは出来ない。
「これ……一体どういうスキルなんだ? 実は、蔦に覆われていても斬れるとか?」
呟き、すぐ側にあった草、レイよりも背丈の高い草に振るってみるが、当然ながら刃が出ていない以上、草は切断出来ない。
勿論レイが本気で、その高い身体能力と戦闘センスを存分に発揮してデスサイズを振るえば、草を切断することも出来るだろう。
だがそれは、つまりそこまでしなければデスサイズで草すら切断出来ないということを意味しているのも事実。
一体何がどうなったのか。
このスキルはどう使えばいいのか。
それがレイには全く想像出来なかった。
とはいえ、こうして習得したスキルである以上は何らかの使い道があるのも間違いはない。
「えっと……デスサイズを使うのに、大鎌じゃなくて打撲武器として使えるとか? ……まぁ、それはそれで使い道がない訳じゃないけど」
デスサイズの刃は非常に鋭く、それこそ金属鎧であってもあっさりと切断出来る。
それはけっして悪いことではないのだが、同時に強力すぎる、鋭すぎる武器なのも事実。
だからこそ、相手を殺さないようにする時には使いにくいのも事実。
……それこそ、その時はデスサイズの刃ではなく、柄を使って殴るといった方法もあるのだが。
ともあれ、そういう意味では緑生斬というのも使えるのだが……
(だからって、スキル名に斬がつくのはおかしいよな? 多分、まだ何か俺が気が付いていないことがあるんだろうけど)
蔦の絡まった刃を眺めていたレイは、ふと気が付く。
このコボルトの魔石でセトが習得したのは、植物生成のスキル。
そして植物生成のスキルで生み出された蔦は、セトの思い通りに動かすことが出来る。
であれば、もしかして……と。
「あ」
そう思った瞬間、デスサイズの刃に巻き付いていた蔦がレイの思い通りに動く。
そんな蔦を見て、レイはこの緑生斬というスキルの使い方を何となく理解した。
……もっとも、理解したから使えるスキルかと言われると、正直なところ微妙だが。
(つまり、緑生斬というのはデスサイズの刃に巻き付けた蔦を鞭のようにして使える訳だ。……けど、鞭というだけなら既に氷鞭があるんだよな。氷鞭の場合はレベルが三なこともあって、使える鞭は一本じゃないし、少しトリッキーだが氷鞭を使ったままデスサイズの刃も使える)
それと比べると、緑生斬はスキルを使うとデスサイズを刃として使うのは難しい。
また、氷鞭はその名の通り氷の鞭である以上、炎属性のモンスター……例えば十五階に棲息するようなモンスターを相手にする時に有利だが、植物の蔦ではそういうことも出来ない。
(やっぱり外れか?)
そうも思ったが、黒連の例もある。
最初は使えないと思えるスキルでも、レベルが上がれば……そしてレベル五になって強化されれば、どうなるか分からない。
大器晩成型とでも呼ぶような、そんなスキルである可能性は十分にあった。
勿論、実際に本当にそのようなスキルなのかどうかは、レベルを上げないと分からない。
もしかしたら……本当にもしかしたら、レベル五になっても、そしてこちらはまだ予想でしかないが、更に一段スキルが強化されるレベル十になっても、緑生斬は全く何の役にも立たないスキルであるという可能性も否定は出来ない。
その辺りについては、実際にレベル五に、そしてレベル十になってみなければ、分からないことだったが。
「スキルの性能という面ではちょっと使いにくいのは間違いないけど、見た目で驚かせるという意味では、悪くない……のか?」
レイは蔦に覆われたデスサイズの刃を改めて見る。
外見という点では、今のデスサイズは異様な迫力を持っていた。
それを抜きにしても、元々デスサイズは柄の長さが二m、刃の長さが一m程と、見る者を圧倒するような迫力を持つ大鎌だ。
そんなデスサイズの刃に蔦が絡まっているのだから、それを見て驚くなという方が無理だった。
(こけおどしというか、見た目の迫力で相手を退かせる時とかには使える……か? いや、寧ろ下手に蔦を鞭のように使うよりも、そうした方が手っ取り早いし分かりやすい使い道なのは間違いないかもしれないな)
それはそれでどうなんだ?
自分の考えに微妙に突っ込みたくなったレイだったが、今の緑生斬の能力を思えば、それが最善なのだろうことも間違いのない事実。
だからこそ、今の状況で使えるようならそれを使うという風に考えつつ、緑生斬を解除する。
すると次の瞬間にはデスサイズの刃から蔦が消え、そして鋭い刃が露わになる。
そんなデスサイズの刃を見つつ、レイは息を吐く。
緑生斬という新しいスキルを習得したのは、レイにとって悪いことではない。
悪いことではないが、だからといってすぐに使えるスキルなのかを言われると、それはまた違う。
そう思いつつ、レイは取りあえず新しいスキルを入手したのだから、何もスキルを習得出来ないよりはマシだろうと、半ば自分に言い聞かせるのだった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.六』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.六』『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.八』『翼刃 Lv.六』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.二』『植物生成 Lv.二』new
【デスサイズ】
『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.六』『地形操作 Lv.六』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.六』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.三』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.二』『緑生斬Lv.一』new
植物生成:数秒で植物を生み出す。ただし、地面が土でなければ使えない。レベル一では一cm程の、レベル二では三cm程の蔦を持つ植物を生み出し、レベルそれをある程度コントロール出来る。生み出された植物は数分で枯れる。
緑生斬:デスサイズの刃を蔦で覆う。刃で切断は出来なくなるが、打撃と同時に刃を覆っている蔦を鞭のように使える。レベル一で使える蔦は一本。




