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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア

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3882/4073

3882話

 隠密の検証を終えると、レイは次の場所に向かうべくセトの背に跨がる。

 するとセトはすぐに歩き出す。

 苺のある場所まで移動する時は、レイはセトの前を歩き、デスサイズで草を刈っていたのだが、それが面倒になったのだ。

 するとセトがレイに向かって背に乗るようにと喉を鳴らしてきたので、レイはそれに甘えた形だ。

 ……もっとも、草を刈っていたレイがセトの背中に乗るということは、それはつまり草を刈る者がいなくなるということだ。

 あるいはレイがセトの背に乗りながらデスサイズを振るってもいいのだが、セトの背の上から前方の草を刈るとなると、場合によってはセトにも被害が出かねない。

 その為、レイは草の処理もセトに任せていたのだが……


「グルルルルゥ」


 威力をそこまで高くせず、クリスタルブレスを放つセト。

 クリスタルブレスによって、セトの進行方向にある草は水晶に包まれる。

 そして、水晶でコーティングされた草の中をセトが歩くと……パキッという音と共に、水晶に包まれた草が砕けた。

 本来なら、クリスタルブレスはまだレベルが低いこともあってか、相手を一時的に水晶の中に閉じ込めるといった効果しかない。

 そして水晶に閉じ込めた後でその水晶を攻撃しても、破壊されるのは当然ながら水晶だけで、中にいる者は無事だ。

 だというのに、セトが今行ったのは、水晶に閉じ込めた後で水晶を破壊すると、同時に中に閉じ込められていた草までもが破壊……砕け散ったのだ。


(そういうことも出来るのか。……まぁ、見た感じだと、あくまでも草だからこそなんだろうけど)


 草刈り代わりには丁度いいかもしれないな。

 そんな風に思いながら、レイは改めてセトの背の上から周囲の様子を確認する。

 セトのクリスタルブレスが使われたのは、真っ直ぐ直線にだ。

 そうなると、水晶に閉じ込められた草とそうでない草の違いが明らかだ。


(ある意味、景色としては悪くない……のかもしれないな。だからといって、これを見られる奴はそう多くはないだろうけど)


 樹氷というのは、それなりに見応えのある存在だ。

 レイが日本にいる時、冬にスキー場でリフトに乗りつつ樹氷を見た覚えがある。

 もっとも、セトが使ったのはあくまでもクリスタルブレスでしかない。

 樹氷と水晶に包まれた草。

 似ているようで、それは決して同じものではないのだ。


「グルゥ?」


 水晶に覆われた草を砕きながら進んでいたセトは、背中に乗るレイの様子に気が付いたのか、どうしたの? と喉を鳴らす。

 レイはそんなセトに対し、何でもないと首を横に振って撫でる。


「取りあえず、セトは敵がどこにいるのか……あ」


 しっかりと探してくれ。

 そう言おうと思ったレイだったが、セトの進む方向から少し逸れた場所にある草から、宝箱の一部が見えていることに気が付く。


「グルゥ? ……グルルルゥ!」


 レイの様子を見て不思議そうに前を見たセトもまた、レイと同じく宝箱の一部を見つけ、驚きと嬉しさから喉を鳴らす。


「えっと、セト。取りあえずあの宝箱まで近付いてくれ」

「グルゥ!」


 レイの指示に従い、セトは宝箱のある場所まで行き……


「グルルゥ……」


 その宝箱を見たセトは、申し訳なさそうに喉を鳴らす。

 何故そうなったのか……それは宝箱の一部……四分の一程が水晶に包まれていた為だ。


「えっと……まぁ、セトもわざとやった訳じゃないだろうし、この程度で宝箱の中身がどうこうなったりはしないだろ。だから、セトも気にする必要はない。な?」

「グルゥ……」


 地面に下りて宝箱を確認しつつそう告げるレイに納得したのか、それでも少しだけ申し訳なさそうに喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、このようなことにするつもりは最初からなかったのだろう。

 だが、その上で考えても、やはり今回の一件は少しやりすぎたと、そのように思ってしまうのだ。

 レイにしてみれば、そこまで気にするようなことではないと思うのだが。


「ほら、セト。そこまで落ち込むなって。この水晶だって、破壊しようと思えばすぐに破壊出来るんだろう? なら、何も問題はない……いや、いっそ、このままの状態でミスティリングに収納してもいいかもしれないな」


 元々、ビューネに対する土産として宝箱を用意するつもりだったのだ。

 そうである以上、この半ば……というのは少し大袈裟かもしれないが、とにかく一部が水晶で覆われている宝箱というのも、土産としては悪くないかもしれないと思ったのだ。

 一部がクリスタルで覆われた宝箱を見たビューネがどう反応するか。

 それを少し楽しみに思うレイだったが……


「グルルルゥ?」


 レイの言葉に、セトは本当にそれでいいの? 喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、一部がクリスタルに覆われた宝箱というのは、本当にビューネに渡してもいいのか? と、そう思ってしまうのだろう。

 ビューネはかなりセトと仲が良い。

 ギルムにあるマリーナの家では、セトがビューネを背中に乗せて歩いているところをレイも何度か見ている。

 それだけに、宝箱は普通の方がいいと、そう思ったのだろう。

 だが、レイはそんなセトに対して首を横に振る。


「ビューネが盗賊としての技能を磨くと考えれば、難しい宝箱の方がいい土産になる筈だ」


 罠的な意味で難しい宝箱ならともかく、水晶で覆われた宝箱でもいいのか?

 自分で言っておきながらも、レイはそんな風に思う。

 とはいえ、ビューネの故郷であるエグジルも迷宮都市であり、それこそガンダルシアのダンジョンと比べても大きなダンジョンだろうと思える。

 そのようなダンジョンである以上、それこそ何が起こってもおかしくはない。

 もしかしたら水晶ではなく氷によって覆われた宝箱を見つけるかもしれないのだから。


「それに……セトにこう言うのはなんだけど、この水晶は壊そうと思えばあっさりと壊れるだろう?」

「……グルゥ」


 レイの言葉に残念そうに喉を鳴らすセト。

 実際、レイが少しその気になって触れば、宝箱に付着してる水晶はすぐに壊れるだろう。

 なら、ビューネに宝箱を渡した時はその外見から驚くかもしれないが、開けようとした場合は、この水晶が邪魔になるようなことはまずない筈だ。


「よし、セトも納得したようだし、ミスティリングに収納しておくな」


 そう言い、レイは一部が水晶に覆われた宝箱をミスティリングに収納する。


(それにしても、やっぱりこういう草原の中に宝箱があると、空からでも見つけにくいよな。もしかしたら、この宝箱は昨日、もしくはもっと前に誰かが開けていて、今日復活したのかもしれないけど)


 昨日セトに乗って空を飛んだ時には見つけることが出来なかった宝箱を、こうも簡単に見つけることが出来たので、レイはそんな風に思う。


「よし、次だ。出来ればモンスターがいいけど、無理をしない範囲で探そう」

「グルゥ」


 セトの背に再び乗ったレイが言うと、セトは分かったと喉を鳴らす。

 そうしてレイはセトと共に再び十三階の探索を続ける。

 ただし、そう簡単に何かが見つかる筈もなく……


「グルゥ!」

「ワオオオン!」


 不意にセトが右前方を見て鋭く鳴き声を上げると、それとほぼ同時に無数に生えている草の奥からそんな鳴き声が聞こえる。


「セト!」


 その鳴き声が、例えば人の驚く言葉であれば、レイも十三階を探索している冒険者だろうと判断したかもしれない。

 しかし、聞こえてきたのは明らかにモンスターの鳴き声だ。

 しかも逃げるように離れていく者の数はかなり多い。

 その辺りの状況から考えると、恐らくモンスターなのは間違いない。

 だからこそレイはセトに素早く指示を出し、セトもまたそんなレイの指示に従うように草の中に突入したのだ。

 先程までのように、歩きやすくする為にクリスタルブレスを使うといった余裕はない。

 そのままセトは草の中を進み……


「グルルルルルルルルルルルルルルゥ!」


 不意に大きく鳴き声を上げる。

 それが何なのか、セトの背に乗っているレイには理解出来た。

 それはセトの持つスキル、王の威圧。

 その効果は次の瞬間如実に現れる。

 レイから……より正確にはセトから逃げようとしていた気配の多くが動きを止めたのだ。

 それでも数が多かった為に、幸運にも王の威圧に抵抗出来た者もいたのだろうが、その移動速度は先程の走っている時とは比べものにならない程に遅くなっていた。


(あの鳴き声からすると、犬か? まさか、また草の四足獣じゃないよな? あいつらはもういいんだが)


 そんな風に思いつつ、ミスティリングからデスサイズと黄昏の槍を取り出したレイは敵の姿を確認する。

 草に隠れたりしていたものの、それでも数が多い以上、その姿を確認するのはそう難しい話ではなかった。


(コボルト!?)


 それは、レイにとってかなり意外なモンスターの姿。

 だが同時に、納得出来るモンスターでもある。

 普通ならコボルトはゴブリン程ではないにしろ、弱いモンスターの代名詞的な存在だ。

 十三階という階層にいるのは、明らかにおかしい。

 おかしいのだが……同時に、レイは十四階で遭遇した空を飛ぶゴブリンのことを思えば、普通のコボルトではなく、何らかの……この十三階に適応出来た特殊なコボルトなのだろうと予想する。


「セト、取りあえず動けなくなっている奴を倒そう。逃げ出したコボルトは放って置いてもいい」


 逃げ出したコボルトの数はそれ程多くはない。

 そうである以上、動けなくなっているコボルトを倒してしまえば、レイやセトにとっては十分な収穫となる。

 レイやセトにしてみれば、最低でも二匹分の死体があれば、それでいいのだから。


「グルゥ!」


 レイの言葉にセトも分かったと喉を鳴らして足を止める。

 足を止めたセトの背から下りたレイは、近くにいたコボルトに向かう。


「……なるほど。そう来たか」


 これが普通のコボルトなら、レイもそこまで驚きはしなかっただろう。

 いや、十三階にゴブリンと並ぶ低ランクモンスターとして有名なコボルトがいるという意味では驚くかもしれないが。

 ただ、こうして見たコボルトは、身体から何本かの植物を生やしている。


(というか、これ本当にコボルトか? 実は植物に寄生されているという意味で、植物の方が本体とかそういうのだったりしないよな?)


 レイが思い浮かべたのは、ハリガネムシだ。

 日本にいる時に何か……TVか漫画かゲームか小説か。とにかく何かで知ったのだが、ハリガネムシというのはカマキリに寄生する寄生虫で、カマキリの意思をコントロールして水辺に向かわせ、飛び込ませるというものだった。

 カマキリは決して泳ぎが得意な虫ではないのだが、ハリガネムシによって水に飛び込み、結果として当然のように溺れ死ぬ。

 そこまでの強制力を持っているかどうかはレイにも分からないし、そもそも植物とハリガネムシでは明らかに違う。

 何より、植物に寄生されているというのはあくまでもレイの予想でしかない。


「取りあえず、どういう性質を持っていても、モンスターはモンスターだし」


 そう言い、レイはあっさりとデスサイズを振るう。

 セトの使った王の威圧によって地面に倒れ、動けなくなっている多くのコボルト。

 それが正確にはコボルトなのか、あるいは植物に寄生されているコボルトなのか、もしくはそういう種類のコボルトの上位種なのか。

 その辺りはレイにも分からない。

 分からないが、とにかくモンスターであることは間違いないので、デスサイズを使って次々と命を奪っていく。

 先程のセトの王の威圧によって、大半のコボルトは動けなくなっていた。

 その為、特に戦闘らしい戦闘もなく、草原で動けなくなっていたコボルトは全てレイとセトによって殺されることになる。


「グルゥ?」


 逃がしたコボルトはどうするの? とセトが喉を鳴らしてレイに尋ねる。

 まだ王の威圧の効果は残っているのか、離れてくコボルトの気配はかなり遅い。

 つまり、今からでも倒そうと思えば倒せるのだが……


「いや、放って置いていいだろ。これだけのコボルトは倒すことが出来たんだし」


 草によって隠されているので正確な数は分からないが、それでもレイが殺したコボルトだけで十匹以上はいる。

 それにセトが倒したコボルトもいるので、魔石の数はそれだけで十分だった。


「グルゥ」


 セトも別にどうしても残りのコボルトを倒したいという訳でもないのか、レイの言葉に素直に頷く。

 モンスターは全て倒せるのなら倒した方がいいのかもしれないが、レイにしてみればわざわざそこまでする必要はないだろうと思える。

 王の威圧のせいで正確な力は分からないものの、このコボルトはそこまで強いようには思えなかったからだ。


「さて、じゃあ……解体するから死体を集めるか」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすのだった。

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