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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア

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3878/4077

3878話

 レイが階段のあった場所から一瞬にして移動したのは、ギルドにいる冒険者や私兵達をも驚かせた。

 だが、当然ながら一番驚いたのはライグールだろう。

 レイによって転ばされた状況であっても……いや、だからこそか。自分が一体何をされたのかは分からない。もしくは分かりたくない。

 今まで高圧的に接していたのは、あくまでも自分の方が有利だと思っていたからなのだ。

 ……何をどう見れば自分の方が有利に見える?

 もしライグールの気持ちを他の者達が知れば、恐らくそう突っ込んだだろう。

 だが、ライグールにしてみれば、レイの強さそのものを実際に目の前で見た訳ではない。

 また、世の中に流れる情報についても、レイの噂のようなものはその多くが大袈裟になったものだと思っていた。

 ……実際、それは必ずしも間違っている訳ではない。

 噂というのは話が広まる中で、どうしてもそれを聞いた者達が面白おかしく脚色していき、自然と大きくなっていくものなのだから。

 だからこそ、ライグールはレイの噂を聞いても信じなかった。

 あるいは自己顕示欲の強いライグールにしてみれば、信じたくなかったというのが正しいのかもしれない。

 今は無様な様子を見せているものの、ライグールは実際相応の強さを持つのだ。

 でなければ、パーティメンバーがいるとはいえ、短期間で十三階まで到達出来ないだろう。

 つまり、レイがいなければ、ライグールは間違いなくガンダルシアにおいて腕利きの冒険者として、一躍有名になっていた筈なのだ。

 しかし、それはレイの存在によって否定されてしまう。

 ……実際には、別にライグールの凄さが否定された訳ではない。

 態度にはそれなりに問題はあったものの、実績がある以上、腕利きだという噂はそれなりに広がっていたのだから。

 だが……それはあくまでもそれなりでしかない。

 自己顕示欲の強いライグールにしてみれば、とてもではないが納得出来なかったのだろう。

 そんな中、十三階でレイと遭遇し……そしてトラブルが起きた。

 レイの助力を断り、それによって左手を失ってしまったのだ。

 自己顕示欲の強いライグールにしてみれば、そのような状況は認められる筈もない。

 結果として、今のこのような状況になっていた。

 ……いや、それだけであれば、まだ何とかなっただろう。

 だが、ライグールの失敗は最後の最後で自分には権力があると、そう匂わせてしまったことだろう。

 後ろ盾について匂わせず、そのままギルドから出ていれば、このようなことにはならなかった筈だ。

 あるいは、相手がレイでなければ……それこそ後ろ盾も何もない冒険者であれば、ライグールが後ろ盾の存在を匂わせた時点で大人しく退いていただろう。

 しかし、ライグールが敵対した相手はレイなのだ。

 敵対した相手は、貴族であっても一切退かず、その力を振るうことに躊躇しない。

 そういう意味では、ライグールの選択は最悪だったのは間違いなかった。


「で? お前の後ろには誰がいるって? その辺りの状況をしっかりと聞かせて貰おうか」


 尋ねるレイの言葉に、床に尻餅をついたライグールは口を開こうとし……やがて止まる。

 ドラゴンローブのフードを被っているレイの顔を下から見上げることによって、その目の光を……何を考えているのか、本能的に理解してしまったのだ。

 ライグールは、ガンダルシアからそれなりに離れた場所に領地を持つ貴族の出身だ。

 貴族とはいえ、グワッシュ国はそこまで大きな国ではない以上、その権力はそこまで大きくはない。

 グワッシュ国として考えればともかく、ミレアーナ王国の貴族と比べれば同じ爵位であっても圧倒的に力が劣る。

 ライグールはそれを不満に思い、また三男で自分が家を継ぐ立場にないことからも、冒険者として活動することにした。

 幸運……あるいは不運だったのは、ライグールには間違いなく冒険者としての才能があったことだろう。

 短期間でガンダルシアのダンジョンの十三階まで攻略したのは、それを示している。

 しかし、ライグールは色々な意味で運が悪かった。

 そんな中でも最悪なのは、やはりレイと敵対してしまったことだろう。

 助力するかどうか聞かれた時、大人しく草の四足獣の死体の半分で手を打っていれば。

 あるいは助力を断った後で左手を失った時に、それでレイを恨まなければ。

 そうすれば、今このような状況にはなっていなかったのだから。


「どうした? 急に黙り込んで。お前の後ろにいるのが誰なのか、さっさと教えてくれないか? 明後日には一度ギルムに帰るんだ。その前に処理をしておきたい」


 処理。

 その言葉を聞いたライグールの背筋が冷たくなる。

 あるいは相応の強さがあるからこそ、レイが何をしようとしてるのか、分かってしまったのだろう。

 もしここで自分が家のことについて話したら、レイはすぐにでも自分の家に攻め込むだろう。

 レイを見て、そう判断したのだ。

 ……これが例えば、興奮してそのようにレイが言ってるのなら、興奮が落ち着けば考えを変える可能性もある。

 しかし、今のレイは少し遠くに買い物に行くといった程度の面倒そうな様子は見せているものの、だからこそ、その程度の手間を掛けてでも、ライグールの家に攻め込むのを躊躇しないと、そう思えてしまったのだ。

 遅い、と。

 もしレイについて深く知っている者がいれば、ライグールの今の様子を見てそう言うだろう。

 レイは何も言えなくなったライグールに向かってそっと手を伸ばす。

 ……レイにしてみれば、倒れているライグールを無理矢理立たせて追及を続けようと思っただけだったのだが、手を伸ばされたライグールにしてみれば、レイの手は自分の命を奪おうとしているようにしか思えなかった。


「ひっ……ひいいいいぃぃっ!」


 レイの目の中に一体何を見たのか。

 プライドの高さも何もなく、自分の中に生まれた恐怖から逃げるように悲鳴を上げるライグール。

 しかし、身も蓋もないそんな悲鳴が、とある人物を動かす。


「レイさん!」


 ピタリ、と。

 ライグールに向かって伸びた手が止まる。

 そしてレイは、声を発した人物……アニタに視線を向け、口を開く。


「何で止めるんだ? ギルドは冒険者同士の問題に首を突っ込んだりはしないものだろう?」

「そうです。ですがそれは、ただの喧嘩の場合です。……弱い者苛めをするのは許容出来ません」


 弱い者と評されたライグールだったが、それを口にしたアニタに反論する様子はない。

 ライグールの私兵達もまた、自分が仕えている主が弱いと言われても反論は出来ない。

 ライグールは勿論、私兵達は一瞬にして……自分達には全く気が付かれないままに階段からライグールの側まで移動したのを見て、レイの力を多少なりとも理解したのだろう。

 力の差を理解するという意味では、そんな私兵達の行動は決して間違っている訳ではない。


「アニタの気持ちは分かるが、俺が今まで見てきた限りだと、こういう連中は放っておくと図に乗って余計なことをするぞ? そういう風にならないように、しっかりと上下関係を身体に叩き込んでおいた方がいい」

「それは……いえ、ですがそこまでやる必要はないと思います。見たところ、レイさんとの実力差については十分に理解したかと。それを根に持って報復するなどということはないですよね?」


 最後の方はライグールに向けた言葉だ。

 普段であれば、アニタのそんな言葉にライグールが素直に頷くということはない。

 だが……それでも、今この場において、ライグールには頷かないという選択肢はない。

 もしここでそのようなことをすれば、本当の意味でレイと敵対してしまうと、そう理解した為だ。


「……」


 レイはアニタの言葉に沈黙し、そのままじっとアニタを見る。

 アニタもそんなレイの視線を真っ向から見返す。

 もしここで視線を逸らしたりすれば、その時はレイの行動を止めることは出来ないと判断したのだろう。

 そんな二人の沈黙に、ギルドの中も静寂に包まれる。

 酒場の方から聞こえてくるざわめきを聞きつつ……やがてレイは大きく息を吐く。


「分かった。弱い者苛めは格好悪いしな」


 そう言い、ライグールに伸ばそうとしていた手を引く。

 そんなレイの行動に、ギルドの中にいた者達は全員が安堵の息を吐く。

 もしここでレイが退かないようなら、一体どうなっていたか。

 そう思った者は多かったのだろう。

 ギャバンもまた、大きく息を吐く。

 ライグールやその私兵ならともかく、もしここでレイが退かなければ、最悪自分がアニタの為にレイと戦う……いや、そこまでいかずとも、ライグールを逃がす為にレイを止めなければならなかったのだから。


「けど……アニタの言葉で止めたんだ。もしこいつやその仲間が俺やその周辺に危害を加えるようなことがあったら、その時はこっちも相応の対応をするから、そのつもりでな」


 そう念を押しておく。

 ここでアニタの顔を立てて引き下がった結果、レイの知り合い……具体的にはメイドのジャニスに危害を加えられたら、たまったものではない。

 他にもフランシスやマティソン、ニラシスといった面々もいるが、その多くが相応の強さを持っている。

 それと比べると、ジャニスはメイドとしては一流ではあるが、それはあくまでもメイドとしてでしかない。

 ……勿論、メイドの中には主人の護衛を務めるような特殊なメイドもいるし、いわゆる武装メイドと呼ばれるような者達もいない訳ではない。

 だが、ジャニスはそのようなメイドではなく、あくまでも普通のメイドでしかない。

 ダンジョンを短期間で十三階まで行けるライグールにしてみれば、危害を加えるのは簡単なことだろう。

 ましてや、レイがギルムに帰ってる間、ジャニスは家に残る。

 つまり、ライグールがちょっかいを出すのなら、それは非常に簡単なことなのだ。

 レイとしてはそれは絶対に避けたい。

 だからこそ、ここでしっかりとその辺について確認しておく必要があった。


「分かりました。その辺りについてはこちらでも注意をします」

「具体的には?」

「ライグールさんの家の当主にギルドから話を持っていきます。最悪、ギルドが撤収するということにもなるでしょう」

「な……」


 アニタの言葉に思わずといった様子で声を上げたのは、レイ……ではなく、話を聞いていたライグール。

 自分は無事に助かるかもしれない。

 そう思っていたところで、ライグールの家が領主をしている領地からギルドが撤退するかもしれないという話が出て来たのだ。

 もしライグールの家の領地からギルドが撤退するといったことになれば、どうなるか。

 不幸中の幸い……本当に不幸中の幸いなことに、ライグールの家が治める領地には、ダンジョンがあったり、凶暴なモンスターが多数存在するといったことはない。

 だがしかし、それはあくまでもそのようなことはないというだけで、それ以外には色々とあるのも事実。

 例えば、分かりやすいのは盗賊だろう。

 冒険者がいなくなれば、当然だが騎士や兵士が盗賊に対処する必要があるが、それで手が回らなくなれば治安が悪化し、そして一度治安が悪化すれば、加速度的に治安の悪化は続く。

 また、凶悪なモンスター……具体的には高ランクモンスターがいなくても、ゴブリンやオークといったモンスターは相応にいる。

 それらのモンスターは繁殖力が強く、冒険者がいなければ対処するのは難しいだろう。

 また、それ以外にも商人の護衛であったり、素材の採取であったり、他にも多数の仕事を冒険者が担っているのが事実。

 そんな中でギルドがなくなればどうなるか。

 すぐにという訳ではないが、間違いなく領地は滅びの道を進むことになるだろう。

 だからこそ、アニタの口から出た言葉は、自己顕示欲の塊とも言うべきライグールであっても、不味いと思う。


「ば……馬鹿な……一介の受付嬢に、そのようなことを決められる権限など、ある筈が……」


 それはライグールにとって、何とか口に出せた一言だった。

 そして実際、その考えはそう間違っている訳ではない。

 ただの受付嬢には、そのような権限はないのだから。


「そうですね。私はただの受付嬢です。そういう意味では、ライグールさんの考えは間違っていません。ただ、自分で言うのもなんですが、私はそれなりにギルドマスターからの信頼は厚いのです」


 だろうな。

 アニタの言葉を聞いてレイはそう思う。

 実際、アニタは半ばレイの専属という形になっている。

 見る者が見れば貧乏クジなのかもしれないが、それでもギルドマスターがアニタならレイの専属が出来ると、そう理解しているからこその行動なのは間違いない。

 つまり、それだけギルドマスターはアニタの能力を買っているのだが。


「そして、レイさんはガンダルシアにおいても特別な人材です。その二つが組み合わされば……レイさんに危害を加えようとしたライグールさんの家の領地からギルドを撤退させるというのも、不可能ではないと思いませんか?」


 そう簡単に出来ることではありませんが。

 そう思いながらも、それを悟られないようにアニタはライグールに視線を向けるのだった。

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