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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市ガンダルシア

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3877/4078

3877話

 アニタとの話が終わり、部屋から出てギルドに戻ってくると……


「おいっ!」

「うわぁ……」


 突然掛けられた声に、思わずレイの口からそのような声が出る。

 レイの横では、アニタもまた頭が痛い……いや、それこそ頭が頭痛といった様子で頭を押さえている。

 当然だろう。ギルドの一階で待ち構えていたのは、先程までレイとアニタが話していた原因……ライグールだったのだから。

 いや、ライグールだけであれば、面倒だとは思ってもまだ納得出来ただろう。

 しかし、ライグールの側には揃いの金属鎧を着た五人の男がいる。

 揃いの金属鎧を身につけているということは、どこかに仕えているということを意味していた。

 もっとも、中には冒険者のパーティであっても結束を示したり、自分達のパーティについて示す為に同じ装備を身に付ける者もいるが。

 ただ、ライグールの周囲にいるのは冒険者ではないだろうとレイには思えた。

 特に何か理由がある訳ではない。

 だが、何となく……敢えて無理矢理理由を挙げるとすれば、ライグールが連れてきたからというものだろう。

 また、ライグールの私兵と思しき者達が周囲にいる冒険者達を見下すような目で見ているからというのも大きい。


「で? どうするんだ?」


 レイは自分を睨み付けてくるライグールを無視し、アニタに視線を向ける。

 そんなレイの視線を向けられたアニタは、そこでようやく押さえていた頭から手を外し、レイの前に出る。

 アニタは受付嬢であって、決して荒事に強い訳ではない。

 勿論、受付嬢の中には元冒険者といった者もいるが……その数は少ない。

 基本的には、受付嬢というのは一般人なのだ。

 寧ろ元冒険者というのは、受付嬢以外のギルド職員の方が多い。

 しかし、今この状況では受付嬢のアニタは自分がレイの後ろに隠れている訳にはいかないと判断したのだろう。

 そこには、何かあったらレイが助けてくれるだろうという打算もあっただろうが。

 とにかくレイの前に出たアニタは、ライグールに向かって口を開く。


「ライグールさん、これは一体何のつもりですか?」


 ライグールはアニタの言葉に驚く。

 ライグールにしてみれば、まさかここで受付嬢のアニタが前に出て来るとは思わなかったのだろう。

 だが、すぐに我に返ると、左手を前に出す。

 そこには本来ある手はない。

 ちょうど手首から先がなくなっていた。


「見ろ、この手首を! この手首はそこにいるレイのせいでこのようになってしまったのだ! そうである以上、責任を取って貰う必要がある。幸い、そのレイという冒険者は有名な冒険者だというではないか。であれば、私の義手を用意させるのも当然と言えよう!」


 自信満々に、自分の言葉が絶対的に正しいといった様子で叫ぶライグール。

 だが、その言葉を聞いたアニタは……いや、アニタだけではない。ギルドの中で一体何が始まるのかと様子を見ていた他の冒険者達も、呆気に取られる。


「何を言うかと思えば……そもそも、ライグールさんがギルドに訴えた内容は偽りでした。また、冒険者というのは基本的に自己責任です。もしどうしても怪我をしたくないのなら、昨日レイさんに助力がいるかを聞かれた時に、素直に頷いておけばよかったのではありませんか?」


 その言葉が図星だった為だろう。ライグールの顔が怒りと羞恥から赤く染まる。

 また、周辺で一体何があったのかといった様子で見ていた他の冒険者達も、今のアニタの言葉で事情を知り、ライグールに向かって呆れや嘲笑の視線を向けていた。

 元々、私兵を連れてギルドにやって来た時点で、一体何をやっているのだといったように思っている者も多かった。

 そんな中で事情を明らかにされてしまえば、そのような視線を向けられるのもおかしくはない。

 あるいはレイが今のようなことを言っていれば、レイの一方的な主張だと言うことも出来ただろう。

 だが、ギルド職員のアニタにそう言われてしまえば、ライグールもすぐに反論出来ない。

 ましてや、実際にアニタが言ってる内容が正しく、それをライグールも知っているとなれば尚更に。


「貴様……ギルドの受付嬢如きが、私を侮辱してただですむと思うのか?」

「侮辱ですか? 私は事実を言っただけですが? それとも、ライグールさんに対しては、事実を言えば侮辱になるのでしょうか?」

「貴様ぁっ! おい!」


 ライグールが周囲にいる私兵に声を掛ける。

 そんなライグールの指示に、私兵達は動こうとするが……


「おっと、一体何をするつもりだ?」


 そんな私兵達の前に一人の男が姿を現す。

 それが誰なのか、知ってる者はそれなりに多い。


「おい、ギャバンの野郎……アニタちゃんにいいところを見せようとしてるぜ」

「……まぁ、俺はガーラさんの派閥だし、構わないけどな。それにギャバンはそれなりの強さを持ってるし」


 そんな会話がレイの耳に入ってきた。

 その言葉にレイがアニタを見ると、そのアニタは微妙な表情を浮かべている。


(派閥とか言ってたけど、多分ファンクラブ的な感じなんだろうな)


 それはレイにも何となく分かる。

 実際、ギルドで受付をする時に決まった受付嬢の列に並ぶ者がいるのは何度か見ている。

 もっとも、その気持ちもレイは分からないではなかったが。

 ギルドの受付嬢は、容姿の整った者達が採用される。

 ただし、容姿が整っていればそれでいい訳ではない。容姿が整った上で、受付嬢としてやっていけるだけの能力も必要なのだ。

 ギルドにしてみれば、そのよう受付嬢を採用することで冒険者達のやる気が上がるのなら採用しない手はない。

 ……もっとも、そのようなことが出来るのはある程度の大きさのギルドならではの話で、小さな村の場合は受付嬢が老人であったり、そもそも受付嬢ではなく男が受付をしていたりもするのだが。

 そういう意味では、ガンダルシアは迷宮都市としてかなり大きい街なので、受付嬢も顔立ちの整っている者達が揃っていた。


「退け。貴様に用はない」


 ギャバンと呼ばれた男に、ライグールの私兵の一人が見下すように言う。

 元々冒険者を見下してはいたが、先程の周囲の会話……ギャバンがアニタの派閥だというのを聞いて、余計に見下す気持ちが強くなったらしい。

 私兵の一人が相手にするのも面倒臭いといった様子で、ギャバンの横を移動しようとするが……


「おい、俺の話を聞いていたか? アニタちゃんに何をするつもりなんだ? アニタちゃんに危害を加えようってんなら、ただじゃおかねえぜ?」

「黙れ、冒険者風情が。そこを退け!」


 わざわざ自分の前に立ちはだかったギャバンに、私兵の一人が苛立たしげに言う。

 しかし、そんな私兵の言葉を聞いてもギャバンが動く様子はなく……それを見た私兵は、苛立たしげにギャバンの身体を突き飛ばそうとして、あっさりと回避される。


「おわっ!」


 完全に自分がギャバンを突き飛ばす側で、抵抗されるとは思っていなかったのだろう。

 それだけに、ギャバンに回避されことによって、私兵はその場でつんのめり……やがて転ぶ。

 とはいえ、金属鎧に身を包んでいるので、この程度で怪我をするといったことはなかったが。

 しかし、それでも私兵にとっては恥を掻かされたのは間違いなく、急いで立ち上がると腰の鞘から長剣を引き抜く。

 他の私兵達も、自分達の仲間にそのようなことをしたギャバンは許せる筈もなく、続けて同様に腰の鞘から長剣を引き抜く。


「そこまでにして下さい! ギルドの中で武器を使った喧嘩騒ぎをして、ただですむと思いますか? ライグールさん、どのようなつもりですか?」


 このままでは本当に武器を使った乱闘になると思ったのだろう。

 ……また、ギルドの中で武器を抜いたということで、先程まではギャバンの様子を笑って見ていた他の冒険者達も何かあったら介入しようとする動きを見せる。

 これが例えば、素手での乱闘騒ぎであれば、他の冒険者達も余程のことがない限り、介入するようなことはしなかっただろう。

 だが、武器を抜いたとなれば話は別だ。

 そうなってしまえば、それは喧嘩ではなく殺し合いになってもおかしくはないのだから。

 そして自分達が武器を抜いたことで、周囲にいる冒険者達の様子が変わったことは、私兵達も感じていた。

 しまったと思っても、もう遅い。

 既に武器は抜かれているのだから。

 数秒前までは、周囲で様子を見ていた冒険者達は野次馬でしかなかった。

 だが、武器を抜いた瞬間には野次馬達は何かあったらすぐ動けるように……戦闘が出来るようにしている。

 先程までは冒険者達を見下していたライグールの私兵達だが、今は違う。

 自分達の方が上だと、そのように思っていた心は一瞬にして砕かれてしまった。

 勿論、ライグールの私兵という立場にある以上、相応に自分達の腕には自信があった。

 実際、一対一なら今でも冒険者達を相手にしても勝てると思っている。

 しかし、周囲にいる冒険者達の数を思えば、どうしようもない。

 それこそ自分達の主人であるライグールですら、守り切れるかどうかは微妙なところだった。


「ライグールさん、ここは一度退いた方がいいかと」


 私兵の一人が周囲を警戒したまま、ライグールにだけ聞こえるような小声で言う。

 あるいはライグールが万全の状態……左手がなくなっていなければ、この状況でも何とかなったかもしれない。

 だが、ライグールは左手を失っている。

 ライグールは右利きなので、左手を失っても戦闘は可能だ。

 可能だが、それでも戦いの中で左手がないというのは致命的だった。

 少し身体を動かすにも、ライグールにしてみれば左手があるのが前提となっているのだ。

 左手がない状態では、どうしても以前通りの動きは出来ない。

 あるいはこれで、敵が雑魚であればそれでもどうとでもなる。

 しかしここはギルドで、周囲にいるのはライグールよりは弱いとはいえ、相応の実力を持つ者達だ。

 また、この場合のライグールよりも弱いというのは、あくまでも万全の状態……左手がある状態での話である。


「くっ、分かった。……ここは一度退く。だが、いいか! レイ、お前がどれだけ有名な冒険者であっても、私を……そして私の家を敵にしたのは事実なのだ! それを忘れるな!」


 そう言い捨て、ライグールはその場を後にしようとする。

 自分の後ろにいる存在を匂わせ、それによってレイにプレッシャーを与えようとしての、せめてもの言葉だったのだろうが……


「待て」


 その言葉に、ライグールの動きが止まる。

 気が付けば……本当に気が付けば、ライグールのすぐ側にはレイの姿があった。

 先程までは、二階に続く階段にいた筈のレイが、気が付けばライグールのすぐ側にいたのだ。

 一体何がどうなってそうなったのか、ライグールには理解出来ない。

 それこそレイがいるのは何かの見間違いではないかとすら思うが……こうして実際にレイが側にいるのを見れば、これが見間違いでも、ましてや幻でもないのは間違いのない事実だ。


「っ!?」


 ライグールに出来るのは、驚きつつも半ば反射的にレイから距離を取ろうとすることだけ。

 それでも距離を取ろうと行動に出る辺り、ライグールが短期間で十三階まで到着するだけの実力の持ち主だということなのだろう。もっとも……


「うおっ!」


 後ろに跳んで距離を取ろうとしたライグールだったが、次の瞬間には服の一部をレイに掴まれており、跳ぶに跳べずに空中でバランスを崩して床に倒れ込むことになったが。


「さて、今の言葉だとお前の後ろには誰かがいると……邪魔だ」


 ライグールに危害を加えたと判断したのだろう。

 私兵の一人がレイに向かって殴り掛かる。

 抜いていた武器を使わなかったのは、それが半ば反射的な動きだった為か、あるいはここで武器を使えば自分達の主人であるライグールをも巻き込むと思ったからか。

 だが、レイはそんな私兵の一撃を見もせずに回避し、言葉通り邪魔だと言わんばかりにこちらもまた空いている方の手で拳を振るう。


「が……」


 半ばカウンター気味に入った一撃によって、その場に崩れ落ちる私兵。

 私兵にしてみれば、ろくに自分を見もせずに放った一撃でここまでダメージを受けるというのは完全に予想外だっただろう。

 ……次の瞬間には意識を失ったので、そのようなことを考える余裕もなかっただろうが。

 ざわり、と。

 そこまでなったことで、ようやく冒険者達もざわめく。

 私兵達が武器を抜いた時から、いつ戦いになってもいいようにしていた。

 だが……それでも、レイが階段からライグールの側にまで移動したのが全く分からなかったのだ。

 一体何があったのか。

 曲がりなりにもここにいる冒険者達はそれなりの腕利きが多い。

 だというのに、それに全く気が付かせることなくこのようなことをしたのだから、驚くなという方が無理だった。

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