3871話
「肉は予想以上に美味かったな」
「グルゥ」
レイの言葉に、セトは同意するように、そして嬉しそうに喉を鳴らす。
美味かったなと、そうレイが口にしているように、レイもまたモグラの肉を味見したのだ。
実際には違うのだが、レイの中ではモグラというのはネズミの仲間という認識になっている。
そのような認識だったのだが、セトがあまりに美味そうに食べているのを見て、つい手を出してしまったのだが……一口だけ食べたモグラの肉は、かなりの味だった。
味付けは塩を振った程度で、香草を使ったり、手の込んだ料理をしたりといったようなことはしていない。
本当に焼いた肉に塩を振って食べただけだったが、その肉は極上の味だった。
そうなると折角の肉をそのままにしておく訳にもいかず、黒連によって切断された肉塊を全てドワイトナイフを使って解体していく。
レイにとって残念だったのは、金属質の毛皮であったり、胴体に生えていた棘といった部分は素材として認識されなかったことだろう。
あるいは、死体が綺麗なままなら、ドワイトナイフの解体によって、それらもきちんと素材として残ったかもしれないが。
槍で毛皮に穴を開けた程度であれば、ドワイトナイフで修復することも可能なのが、ぶつ切りにされてそのようなことも出来なかったらしい。
あるいは元々素材ではないという可能性もあるが……
(いや、ないな)
レイは即座にそれを否定する。
絶対にないとは言い切れないものの、レイが今まで倒してきた多くの……それこそ、数え切れない程のモンスターから剥ぎ取り出来た素材を思えば、モグラの持つ金属質の毛皮は間違いなく素材となるだろうと予想出来た。
だが、それでも実際にこうして素材にならなかったのだから、それはやはり黒連によってモグラの身体がぶつ切りにされてしまったのが原因なのだろう。
そのことを残念に思いつつ、レイはまたモグラが出て来てくれないかなと期待する。
何故なら、このモンスターの素材はともかく、肉は極上だったのだから。
また、魔石もまだ一個しかないので、セトとデスサイズの双方に使うには、もっと必要だった。
そういう意味では、やはりもう一匹モグラが出て来てくれると嬉しいのだが……そう都合よくはいかない。
(あ、でもこの穴がモグラのいる証明なんだよな? なら、空を飛んでいれば、また別の穴を見つけられるかも? ……まぁ、穴が空いてるからといって、それがモグラの仕業かどうかは分からないけど)
それでも何の手掛かりがないまま、もう一匹のモグラを探すよりはいいだろうと。
そう思いながら、レイは流水の短剣を取り出してモグラの魔石を洗う。
これがデスサイズで切断をするのなら、わざわざ流水の短剣を取り出して洗うといった必要はない。つまり……
「ほら、セト。魔石を使え。幸い、この階層は背丈の高い草が生い茂ってるから、魔獣術を使うところを見られる心配はないし」
「グルゥ?」
いいの? と、そうレイに向かって喉を鳴らすセト。
レイはそんなセトを撫でながら口を開く。
「今まで何度も言ってきただろう? 俺は魔法やマジックアイテムを始めとして、色々な攻撃手段がある。それに対して、セトはスキルが主な攻撃手段だ。なら、セトを優先するのは当然のことだ。違うか?」
「グルルゥ、グルルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに……本当に心の底から嬉しそうに喉を鳴らす。
「えっと……うん」
セトが嬉しそうにしているのは、レイにとっても幸せな光景なのは間違いない。
だが同時に、今まで何度も同じことを言ってるのに、何でそこまで喜ぶのかと疑問に思ってしまう。
とはいえ、それでもセトが喜ぶのだからと、戸惑いと照れ臭さを押し込め、魔石を手にセトを見る。
「ほら、セト。とにかく魔石を使うぞ。この階層だから大丈夫だとはいえ、もしかしたら何かの間違いで魔獣術を使うところを誰かに見られるといった可能性もあるんだから」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かった! と喉を鳴らす。
そんなセトを見て、レイは魔石をセトに向かって放り投げる。
セトはその魔石をクチバシで咥え、飲み込み……
【セトは『アースアロー Lv.六』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
その内容は、特にレイを驚かせるようなものではない。
モグラは土を使って瞬時に防壁――防ぐのではなく攻撃を逸らすタイプだが――を使ったり、何より地中を移動していた。
その辺りの状況を考えれば、アースアローのレベルが六になるというのは、おかしな話ではない。
寧ろ当然ですらあった。
(他に覚える可能性があったとすれば……アースブレスとか? どういうブレスなのかは、ちょっと予想出来ないけど)
アースブレスという名称から想像すれば、土砂を吐くのか。
あるいはアースアローのように、矢……もしくは槍状の石か何かを放つのか。
(あ、でも土系ってことは、アシッドブレス辺りも……うーん、どうだろうな。アシッド、酸が土系かと言われると、納得出来るような出来ないような)
酸が土属性だと断言されればレイはなるほどと納得するが、土属性じゃないと断言されてもそうかもしれないと思わないでもない。
そんなあやふやな状況ではあるものの、ともあれ、アースアローのレベルが上がったというのは悪くない結果だった。
「グルゥ」
スキルのレベルアップに、セトは嬉しそうに喉を鳴らしながらレイに近付く。
レイはそんなセトを撫でつつ、声を掛ける。
「じゃあ、レベルアップしたスキルの確認をしてみるか。……もっとも、予想は出来るけど」
セトの持つスキルの中にアロー系のスキルは多数ある。
それらのアロー系のスキルは、どのような矢を生みだして放つのか、またその威力や外見といった意味ではそれぞれ違うものの、レベルによって生み出される矢の数は今のところどれも同じだ。
……勿論、これはあくまでも今のところはの話で、もしかしたら同じアロー系であってもスキルによっては違う本数になるという可能性もあるのだが、レイは恐らくそのようなことはないだろうと判断していた。
何故なら、魔獣術を生みだしたゼパイル一門の中には、現代日本から転移してきたのだろうタクム・スズノセがいたのだから。
そのタクムが魔獣術の開発に携わっている以上、ゲームの要素が組み込まれているのは不思議ではないし、実際にスキル名やレベル、またはスキルを習得した時に頭の中に響くアナウンスメッセージはゲームを模したものだった。
であれば、同じアロー系のスキルということで、レベルによって生み出せる本数が画一化されていると感じてもおかしくはない。
それを証明する為に、レイは早速セトにレベルアップしたスキルを使ってみるように言い……
「グルルルルルゥ!」
セトがアースアローを発動する。
するとそれによって生み出された土の矢は、八十本だった。
他のアロー系のスキルがレベル六になった時と同じ矢の本数。
「やっぱりな」
セトの周囲に浮かんだ土の矢の本数を確認したレイの口から、そんな声が漏れる。
「グルゥ?」
撃ってもいいの? そう喉を鳴らすセトに、レイは頷く。
「ああ、構わない。ただし、他の冒険者とかに命中しないようにな。……まぁ、セトならその辺は問題ないと思うけど」
セトの五感を考えれば、そのようなことはまずないだろう。
そう思いつつ言うレイに、セトは分かったを喉を鳴らす。
「グルゥ!」
そして、ちょうどそのタイミングでアースアローが放たれる。
それらは周辺に存在する背丈の高い草を貫いて飛んでいく。
(冒険者はともかく、モンスター辺りになら命中したりしないかな?)
何となくそう思うレイだったが、セトの様子を見る限りではモンスターの存在を察知している様子もないので、恐らくそれはないだろうと思い直す。
「グルゥ?」
どう? と、喉を鳴らしてレイを見るセト。
レイはそんなセトに笑みを浮かべ、褒めるようにその身体を撫でる。
「よくやったな、セト。今回のアースアローもそうだが、アロー系のスキルというのは使いやすいから、便利だよな」
「グルルゥ!」
レイに褒められたセトは、嬉しそうに喉を鳴らす。
そうしてセトを一通り褒めたところで、これからどうするのかを考える。
勿論、やるべきことは既に決まっている。
この十三階の探索だ。
だが、問題なのは一体どうやって探索をすればいいのかが微妙なところだろう。
(いや、やっぱりまずはもう一個モグラの穴を探すべきか。こうして穴があれば、そこにモグラがいる可能性が高い。もしくはモグラじゃなくても、何か他のモンスターがいる可能性はある。だとすれば、それが手掛かりとなるのは間違いない。それに……穴を探してる途中で、他のモンスターを見つけるといった可能性も十分にあるしな)
レイにしてみれば、セトの五感があればモンスターがいた場合、それを逃すということはないだろうと思える。
実際にそれが正しいのかどうかは分からないが……それでも今の状況を思えば、それが最善なのは間違いのない事実なのだ。
「よし、セト。また空からモンスターを……あるいは宝箱を探すぞ。もしくは、モンスターに襲撃されている冒険者とかでもいいかもしれないな。助ければ、モンスターの死体の所有権は主張出来るし」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。
そうして、再びレイとセトは空から地上の探索を始めた。
(とはいえ、やっぱり草が邪魔だな)
これが例えば、普通の草原……生えている草の高さが足首くらい、もしくはせいぜいが膝くらいであれば、地上を移動しているモンスターの姿も見つけやすいだろう。
だが、レイの背丈以上の草が生い茂っている草原だ。
所々、草の生えていない場所もあるが……そのような場所は決して多くはない。
だからこそ、モンスターが草原の中を移動していても見つけることは難しい。
とはいえ、それでも地上を歩いて探索しなければならない他の探索者と比べると、敵から奇襲を受ける心配がない分、楽ではあるのだが。
「セト、何かモンスターっぽいのとか、宝箱とか、そういうのはありそうか?」
「グルルゥ……」
レイの言葉に、セトは残念そうに首を横に振る。
セトの五感があっても、そう簡単には見つけられないらしい。
(まぁ、モグラは地中にいるし、穴もさっきみたいに周囲に草が生えてなかったりすれば、見つけるのは難しいしな)
モグラの穴があっても、その周囲に草が生えていれば、その穴を覆い隠してしまう。
これが地上を移動しているのなら、草が覆い被さっていても穴を見つけることは出来る。
絶対に見つけられるかは微妙なところだし、その冒険者の能力によっても違うだろう。
だが、空を移動しているレイ達にしてみれば、草が穴を覆っていればどうしても穴がそこにあると見つけることも出来ない。
(さっきの穴のように、周辺に草がなければいいんだけどな)
そんな風に思っていると、不意にセトが顔を動かす。
喉を鳴らすのではなく、あくまでも顔を動かしただけだ。
しかし、その様子から何か……レイには見つけることが出来ない何かを見つけたのではないかと、レイはセトの視線を追う。
もっとも、何かを見つけたのではなく、ただ何となく顔を動かしただけといった可能性もあるのだが。
とはいえ、今は特に何かやるべきことがある訳でもない。
レイはセトの視線を追う。
(何かがあるようには思えないけど。やっぱり俺の気のせいか何かか?)
今のこの状況において、セトがそちらを見たのだ。
そこに何かがあるのだろうと思えるのは、決して自分の気のせいではないだろう。
そう思いつつ、レイは改めてセトの視線を追うが……
(うーん、やっぱり何かがあるようには思えない。セトが向こうに視線を向けたというのは、実は俺の気のせいだったのか? そうなったらそうなったで別に構わないんだが。実際、こうして見てる限りでは何もないんだし)
そう思っていると……
「グルルルルゥ!」
不意にセトが喉を鳴らす。
その視線の先は、やはり先程セトが見ていた方だ。
一体何があったのか。
そう思いつつ、レイはミスティリングからデスサイズと黄昏の槍を取り出す。
セトの鳴き声の様子から、恐らくは敵だろう。
そのように思っての反応だった。
武器があれば、敵が一体どのような行動をしようとも、対処することは可能だ。
そう思い、レイは改めてセトの視線の先を追う。
何も見えない。
見えないが、セトが喉を鳴らした以上は何かがあるのは間違いない。
そう思い、注意深く視線を向けると……
「蛇?」
やがてレイの視線の先にあったのは、空を飛ぶ蛇の姿だった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.六』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.三』『アースアロー Lv.六』new『パワーアタック Lv.二』『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.七』『翼刃 Lv.六』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.二』
アースアロー:土で出来た矢を飛ばす。レベル一では五本。レベル二では十本。レベル三では十五本、レベル四では二十本、レベル五では五十本、レベル六で八十本。威力は一本で金属の鎧を貫く。




