なぜか目が合わない
へらりと笑うレアは、貴族令嬢というより市井の娘といったふうだ。公爵家はさぞ息苦しかったことだろう。
「名門に嫁ぐのは、構いません。家から出たいですし。でも、だったら、好きな方に告白くらいしたいじゃないですか。断られたら仕方ありません」
「……よそへ行くか?」
「市井で働きます。元々平民ですし」
いや、それは無理だろう。
輝かんばかりの美貌を前に、彼女以外の意見が一致する。市井でこの見目は目立ちすぎる。
どうやらレアは自身の美貌に無頓着なようで、危なっかしい少女に部屋の空気がそわそわした。
家令など、こそっと門の警備強化を指示している。異論はない。
「私が怖くないのか?」
問うと、ものすごくキョトンとされた。何を言っているんだろう、と顔に書いてある。
あまりにも素直な反応に、言葉より先に本音だと理解できた。
「いいえ?」
「……そうか」
「大好きです、総帥。生きる力を、ありがとうございます」
図らずも、ヘラルドは彼女の生きる力にすらなっていたらしい。境遇を思えば同情を禁じ得ない。
美しい少女は家に居場所がなく、おそらく実の母の元へも戻ることはできず、断られたら市井に行くという。
そもそもお人好しで世話焼きなヘラルドが、跳ね除けられるわけもなく。
「…………まずは、婚約でどうだろう」
「ほんとですか!?」
「ああ。あなたはそのまま、ここに住みなさい。あとは私に任せてくれるか」
「すべてお任せします!」
「ああ……あまり、そういうことは言わないように」
何がだろうという顔をしているレアには、笑顔が怖い侍女長が忠告するだろうと判断し、ヘラルドは席を立った。
やらねばならないことができた。急ぐに越したことはない。
「ゆっくりしなさい」
「ありがとうございます! 総帥、大好き!」
「……ヘラルドと」
「わあ! はいっ、ヘラルド様!」
眩い美貌でこうもあけすけに喜色を示されると、どうにも気恥しい。
ヘラルドはやっぱりやや視線をずらしつつ、退室の挨拶を告げて部屋を出た。
「とりあえず潰しましょうか?」
後ろを付いてくる家令の物騒な発言に、小さく笑う。
戦場で見せるのと同じ、獰猛で仄暗い光を灯す黒の瞳は、すでにまっすぐ前を向いている。
「甚振らねばな」




