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総帥のお嫁さん  作者: 雨傘 はる


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3/6

なぜか目が合わない


へらりと笑うレアは、貴族令嬢というより市井の娘といったふうだ。公爵家はさぞ息苦しかったことだろう。


「名門に嫁ぐのは、構いません。家から出たいですし。でも、だったら、好きな方に告白くらいしたいじゃないですか。断られたら仕方ありません」


「……よそへ行くか?」


「市井で働きます。元々平民ですし」


いや、それは無理だろう。

輝かんばかりの美貌を前に、彼女以外の意見が一致する。市井でこの見目は目立ちすぎる。


どうやらレアは自身の美貌に無頓着なようで、危なっかしい少女に部屋の空気がそわそわした。

家令など、こそっと門の警備強化を指示している。異論はない。


「私が怖くないのか?」


問うと、ものすごくキョトンとされた。何を言っているんだろう、と顔に書いてある。

あまりにも素直な反応に、言葉より先に本音だと理解できた。


「いいえ?」


「……そうか」


「大好きです、総帥。生きる力を、ありがとうございます」


図らずも、ヘラルドは彼女の生きる力にすらなっていたらしい。境遇を思えば同情を禁じ得ない。


美しい少女は家に居場所がなく、おそらく実の母の元へも戻ることはできず、断られたら市井に行くという。

そもそもお人好しで世話焼きなヘラルドが、跳ね除けられるわけもなく。


「…………まずは、婚約でどうだろう」


「ほんとですか!?」


「ああ。あなたはそのまま、ここに住みなさい。あとは私に任せてくれるか」


「すべてお任せします!」


「ああ……あまり、そういうことは言わないように」


何がだろうという顔をしているレアには、笑顔が怖い侍女長が忠告するだろうと判断し、ヘラルドは席を立った。

やらねばならないことができた。急ぐに越したことはない。


「ゆっくりしなさい」


「ありがとうございます! 総帥、大好き!」


「……ヘラルドと」


「わあ! はいっ、ヘラルド様!」


眩い美貌でこうもあけすけに喜色を示されると、どうにも気恥しい。

ヘラルドはやっぱりやや視線をずらしつつ、退室の挨拶を告げて部屋を出た。


「とりあえず潰しましょうか?」


後ろを付いてくる家令の物騒な発言に、小さく笑う。

戦場で見せるのと同じ、獰猛で仄暗い光を灯す黒の瞳は、すでにまっすぐ前を向いている。


「甚振らねばな」




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