一目惚れ
レアは、とある公爵家の庶子である。母と共に市井で生きていたが、ある日突然公爵家へと連れ去られた。
なんでも、公爵家には家門で受け継がれるはずの色を持った子がおらず、レアだけがそれを持っているのだという。
そんなちっさい理由で母と引き離されたレアは、引き取った癖に放置する実父のせいで、本妻とその子供たちにそれはもういびられまくった。
まあ、平民だったレアからしたらみみっちい、陰険そのもののいびりにへこたれるわけはなく、適度にやり返したりもしたが。
陰湿な嫌がらせを受けながら育ったレアだが、美貌と色彩はどの子供よりも強く公爵家の血を受け継いでいた。
実父はあまり有能ではなく、いくらレアが美人でも縁づきたい名門貴族からは距離を置かれている。
そんな中、実父は思いついたのだ。美しいレアがたった一人で押しかけ嫁入りすれば、どんな者も受け入れるだろう!
馬鹿だと思うだろう。あまり有能ではない、という表現では到底足りない脳みそだ。
まあとにかく、実父はどうしても名門との縁が欲しい。何せ阿呆のせいで公爵家はガタガタなので。
そして、庶子といういい捨て駒がいる。やったね! となったわけだ。意味わからん。
それなりに着飾らされたレアは、本当に一人きりで放り出された。
あまり治安のよくない街中に、いかにも金持ちの令嬢が一人でいればどうなるか? 考えるまでもない。
本当は、実父に指定されていた貴族のタウンハウスがあったのだが、レアは指示を無視した。
────どうせなら、行きたいところへ行こう。
そうして目的地に向かっている最中で、賊に絡まれ、ヘラルドに助けられたというわけだ。
あっけらかんとしたレアの語りを、ヘラルドは強面に深い皺を寄せながら静かに聞いていた。
そして、語り終えた彼女に飲み物を勧めてから、ゆっくりと口を開く。
「いくつか、質問してもいいだろうか」
「どうぞ!」
「行きたいところ、とは?」
「モルガン邸です!」
「……嫁入りする気はなかったのでは?」
「ありますよー。お嫁さんが夢です」
「…………なぜ、私なのだろう」
「大好きなので!」
ぱあっと明るい笑顔を直視できず、ヘラルドの視線はやや下がり気味だ。家人たちの目が生ぬるい。
「初対面では?」
「一目惚れしたのは、十歳の時です!」
「十歳……」
「即位記念パレードの時、街頭から遠目に見たんです。列の先頭を行くお姿に、一目で恋に落ちました。今もずっと大好きです」
「…………」
「八年前ですね。総帥になられて、すぐの式典でした。公爵家に来たばかりで、ちょっとへこたれそうな時だったんですが、頑張れたのは総帥のお陰です」
八年前といえば確かに、軍の総帥として立った二十二の時だ。前任が急逝し、若年のヘラルドが任命された。
緊張に強ばり、常よりさらに険しい表情をしていたはずのヘラルドに、美しい少女は一目惚れしたという。




