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総帥のお嫁さん  作者: 雨傘 はる


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1/6

お嫁さんになりたい

よろしくお願いします。


レアは走っていた。待てとか聞こえた気もするが、だったら追いかけなければいい。

ドレスの裾を捲りあげて、髪を振り乱して、とにかく一目散に。


高いヒールの靴は、とうに脱ぎ捨ててしまった。髪をまとめていた飾りも、そういえばどこへいったのか。

でこぼこと足場の悪い路地を駆け抜け、目指していた馬の足音の方向へと転がるように身を乗り出した。


「止まって!」


突如転がり出た人影に、馬車を操っていた御者が慌てて停止する。

荒い息を吐きながら、レアは必死に声を絞り出した。


「救援要請です!」


御者の開けた扉から出てきたのは、軍服に身を包んだ大男。

馬車の紋章を見た時、ラッキーだと思ったが、まさか当主が出てきてくれるとは。レアは幸運に心底感謝した。


「下がっていなさい」


地響きのような、静かで重い声。レアは一も二もなく頷く。

大きなその姿が掻き消えたと思った次の瞬間には、背後から賊の悲鳴が上がっていた。





意識を失った少女を馬車の中に横たえ、大男───ヘラルド・モルガン総帥は眉間に皺を寄せていた。

事情や名前を聞く前に意識喪失したため、彼女を送る先がない。


「総帥、どうされます?」


「…………屋敷へ」


御者は答えがわかっていたように、迷いなく馬車を出発させた。

無表情かつ寡黙で、何を考えているかわからないなんて言われがちだが、ヘラルドは基本的に弱き者を放ってはおけない人だ。


酔わないようにと少女に上座を譲るあたり、気遣いのできる人に間違いない。

ただ、顔が怖いから勘違いされやすいだけで。とにかく顔が怖いだけで。


屋敷に着くと侍女とメイドを付け、汚れた衣服の着替えを申し付け、靴まで注文してやるまめまめしさ。

加えて、出かける予定を変更して執務室に詰め、医師の診察結果を真剣に聞いて家令に指示を出し、夜は仮眠室で待機。


そうして甲斐甲斐しく世話を焼くこと、二日。

目覚めた白金の髪とラズベリー色の瞳をした美少女は、過ぎるほど充分に距離を保っていたヘラルドに、満面の笑みを咲かせた。


「総帥! わたしをお嫁さんにしてください!」




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