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忘却メズマリズム~清楚なお嬢様に催眠をかけたのに、ヤンキー人格が出てきて尻に敷かれたんだが~  作者: 春代 羽羽


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幕間その2:好きなキャラ

 なぜ俺の部屋には、さも当然のように寝ながら漫画を読む灯里がいるのだろうか。


「おー。やっぱり愛花はそういう娘として……ほへー」


 真剣にずっと恋愛漫画を読んでいる。思えば最初にこいつが見てた『スパイシーオレンジウォーター』だって甘酸っぱい恋愛漫画の定番。夏向から借りてるやつだけど。


 にしてもこいつ、意外に恋愛マンガが好きなんだな。こいつでも胸キュンとかしたりするんだろうか。……灯里が?


「いますっごい無礼な気がしたんだけど気のせい?」

「ナンデモナイヨ」

「……」


 ボスっと足でわき腹を蹴られた。


「てかあんた、なんでこんなに少女漫画が多くあるのよ」

「夏向の趣味だ。俺があいつの恋愛漫画を、あいつが俺のバトル漫画を互いに借りパクしてる」

「……それ借りパクって言っていいものなの?」


 そういいつつ、灯里は『スマイルカノジョ。』を読み終える。


「むー。これはちょっといまいちだったかも。次回作に期待ね」


 灯里は腕を頭の下に敷き、寝そべる。足を組み、様相は淑女のそれでは決してない。

 ……ない、のに。先日のベッドでのことが頭をよぎり、思わず顔を背ける。見てはいけない物を見てしまっている気分だ。


「……なによ。あんた顔キモくなってるけど」

「その体勢が目に毒なんだよ。ここはてめえの家じゃねえ」

「なんだ。ならあたしの家も同然よ」


 反射的に言い返したくなるが、やはり待つのは同じ結末なのだろうと、俺は代わりにため息を吐く。灯里はギャグマンガを今度は手に取り、ケラケラ笑い出す。笑い方にwが入っている。はしたない。


 まあこいつがこのままいてくれるなら願ったりかなったりだ。ようやくこいつにこき使われずに済むというもの。少なくとも今日は肩を揉まなくていい!


 俺は足音を立てずに自分の部屋に帰還、そしてStichを展開。机の上において、スパブラのオンライン対戦へと潜る。一応レート的に、これがVIP昇格戦だ。


「グヘヘ。俺の射撃Piiが火を噴くぜぇ?」


「うーわ笑い方きっも」

「へっ。ほっとけ……ぇぇええええ!?」


 背後に灯里がいた。


「な、なんでここに?」

「勝手に消えるからついてきただけよ。それよりあんた、早くも一機消えてるけど」


 そして小画面に目を移し、やっと惨状を理解する。3ストック制だからまだ巻き返せるとはいえ、昇格戦である以上楽に勝てる相手でもない。


 ……しかも相手、なんかひょこひょこ上下に動いてる。


「こ、こいつ。よりによって昇格戦の相手が煽り厨とは……」


 久しぶりに見る煽り厨。しかも灯里に乱入されていつの間に残機を失っている俺を精神的に追い詰めるのには十分だった。さらに、相手は根本的に相性が悪い反射キャラ。ミサイルなどの反射できる飛び道具がメインウェポンの俺に、勝機は薄い。


 嗚呼。斜め後方で俺を嘲笑う灯里の姿が、視線を向けずともわかる。絶対絶命……。


「糞が……やってやるぁ!」


 俺は、反撃を始める。相手は脳死で反射技を打ってくる。しかしジャンプで出せば、反射してもミサイルを食らわない。そうやって開幕コンボ、そして崖展開へ。そして誰も知らない、こいつのメテオ効果のある空下で……。


「おっしゃノーダメ一丁!」

「……」


 続く相手に、今度は反射されても良いジャブの様な飛び道具をぶつけ、相手が気を緩めたすきに、反射技の後隙にコンボ始動のグレネード。


 そしてなんやかんや小技を当て続け……。


「一機以外はコールドゲームじゃオラァ! どーだ灯里!」


 と振り向くと、ドン引きした灯里がいた。


「……いや、その、あたしさ、あんたのコトそこまで陰気な奴だったとは思ってなかったというか」

「あ、灯里?」

「その、あんた、友達作りなよ?」

「別にこの戦法の所為でボッチなわけじゃねえよ! あと夏向と乙音がいるだろうが!」


 確かに射撃Piiは所謂「待ち」と言われる、陰気で、相手の神経と自分の友人を減らしていく戦い方がメジャーなキャラだ。しかしその実、射撃Piiは飛び道具以外のインファイトも優秀で、さっきみたいに追いつめられなければ、俺は待ちを選択しない。というかさっきだって待ち少なめだった。


「その、あんたが可愛そうだからあたしともゲームする? って言おうと思ってたんだけど、ちょっとやりたくないかも」

「まてまて誤解だ。リアルで既知の仲のやつにこんな戦法取るわけないだろ」

「そうよね。あんた、学校でそんな扱いをされてるものね……」


 灯里はガチの憐れみの視線を向けてくる。

 

「ちっげーわ! ただどのグループにも入れてないから空気になってるだけだわ! つーかお前だって、氷織の友達はいるけど自分の友達はいないとか言ってただろうが!」

「そ、それはいいでしょ!」

「そりゃそうだろうなあそんな横暴で傲慢ちきな野郎を好んで仲良くするやつなんかいな——」


 調子に乗った俺のどたまにグーの鉄槌。懐かしいまである。


「次馬鹿にしたら縛り上げるから」

「ふぁひ」


「……まったく、なんでこんな奴をあたしは……」


 ぼそっという灯里。しかし俺の耳には入らなかった。


 **


「はい。生姜焼き完成」

「……ついにか」


 そうやって差し出されるのは黄金色のソースと玉ねぎをまとう生姜焼き。いただきますののちに箸で突くと、なんと箸で裂くことができてしまった。さっきまで漫画やらで時間を潰していたのも、豚肉をショウガにつけるための待ち時間だったのだ。


「どうよ」

「舌で肉をきれるってマジなんだな。クソうまい」

「料理にクソとか言ってんじゃないわよ行儀悪い」


 テレビでリポーターがよく言う誇張表現が、しかし的確な表現だったと気付くことになろうとは。高級な牛肉を柔らかくしたら、本当の意味で口の中でとろける肉が実現するのだろうか。


 なんにせよ、今目の前の肉が最高にうまいことには変わりない。ショウガとニンニクが若干主張が激しいが、それがまさに男好きするお味。


 その時唐突に灯里が問うて来る。


「ねえ、あんたの好きなキャラって誰よ」

「……突然なんだよ」

「いや? ただ、気になっただけ。あんたの部屋も、オタクって言うわりにはキャラ物がないし、漫画も聞いたことあるやつしかないし。どんなのが好みなのかなーって」


 そういえばこいつに本棚を漁られてたな。


「まあ、うーん。居ないかな」

「あれ、そうなの」


 たしかに、エロサイトだって特定のキャラや声優さんに偏ることは無い。ちょくちょく好きなキャラは出来るが、2週間もすればなんでもない。


「なんか、わかんねえっていうか。分かりすぎて分からないことがわかって、それが気に入らないというか」

「何言ってんの。わかんないんだけど」


「細けえことはいいんだよ。とにかく好きなキャラは居ない。オタクらしく広く有名どころを抑える程度だ。何にも精通してないし推し活はない」


 灯里は「へんなの」と呟いた。しゃーねーだろ。好きなキャラとか、俺にはわからねえんだから。


 灯里が黙々と生姜焼きを食べ進める様を見て、先程までの灯里の真意を分かり兼ねる。


 なんでこいつは、最初は命令とか言ってたのにご飯を作ってくれるのだ。そもそもこいつはなんでここにいる。当たり前みたいに。


 灯里を見ていたら目が合った。


「……」

 睨まれると思ったら目をそらされた。


 むしろ怖いな。何か言うべきか。えーと……。

「いつもありがとな」

「な、何よ急に」

「いや、まだ礼を言ってないからかなって」

「何が」

「仏頂面。ってそりゃいつもか!」


 殴られると思って身構えるが、灯里は「死ね」とだけ言って食べ進めた。

次回、20話から始まる事件で第一章が終了します

全三章の予定です

おたのしみに!

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