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忘却メズマリズム~清楚なお嬢様に催眠をかけたはずが、ヤンキー人格が出てきて尻に敷かれた件~  作者: 春代 羽羽


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第18話:LIEN に ふたり目の 女子の連絡先 が 追加されました

 なんやかんや。そうめんを食べ、夏の到来を肌の先で感じ始める。そして一緒に食べた氷織はといえばもう自宅に帰った。

 今この自室には、通算2人目の女性の連絡先、氷織とのまっさらなトーク画面を前に、腕を組み続ける俺がいた。


 なに、を……送ればいい? スタンプは全部萌えキャラ、夏向に送るようなスタンプしかない。というか、そもそもLINEのスタンプを送るなどおこがましいのではないか? 変に砕けた口調のキャラを使っても……いやそもそも内輪ノリの様なものを送って大丈夫なのか?

 ……ちょっと想像してみる。


 **

                         『よろしく頼むぜマイブラザー!(スタンプ)』


『はい。よろしくお願いします。』

『あと、私は女なのでブラザーではなくシスターかと。』


 **

「ダメだな」


 氷織はなんとなくだが、こういうことにはノリが悪そうな気がする。今までは対面ならではのペースがあったものの。無機質で空気感のないテキスト上では、彼女の句読点がすっげえ冷徹なものに見えてしまう。むしろノリがいいまであるぞこの返信。

 ならば別の文脈にもっていくか?

 こうなったら……。


 **

『よろしくネ!(スタンプ)(萌えロリキャラ)』

『有難う!(スタンプ)(萌え義姉キャラ)』

『はい。よろしくお願いします。』


 **


 むしろ短いな。俺にはそもそも、LIENでメッセージのやり取りをする人物が一人しかいなかったのだ。連絡先だって4つの人間のものと19の公式LIEN。つまり友達数は23人。公式LIENを入れてもこれというのは痛いものだ。あとで公式LIENを登録しまくろうか。

 むー。仕方ない。乙音にでも訊くか。と、トーク画面を開く。直前のスタンプがスポーツ漫画の『滅びよ!』なので一気に身震い。まずはと、昨日の出来事の弁明をする。


                         『すまん

 昨日はいろいろあって返信遅れた』

『そしていろいろあって八咫野と飯を食えた』

『ありがとネ!(スタンプ)(萌えロリキャラ)』


 するとすぐにレスがつく。そしてすぐさまスタンプ。

『滅びよ!』


 怒られてる……?

『いろいろとツッコミたいっすけど』

『まあ成功したんならよかったっすね』

『あとそのスタンプきもいっす

 それ氷織様に送ったりしたら一生分軽蔑するんで』

『プルアパを現実に持ち込むな』


『まだ送ってない』


『滅びよ!(スタンプ)』

『滅びよ!(スタンプ)』

『滅びよ!(スタンプ)』


 まだ送ってないって言ってんじゃん。そんな怒んないでよ……。


『それと一つ相談があってな』


『なんすか』


『八咫野と漸くLIEN交換したんだが、

 第一メッセージって何を送るべきなんだ?』


『……』


『女性にLIENを送る経験が無くて』


『え、私は?』

『ボクも女子っすよ?』

『なんで私の記憶消してるんすか?』


 そういえ、ば……乙音も女性か。今まで何の気兼ねもなく送ってしまっていたな。


『一体何を送ればいいんだろうか』


『わかりました氷織様に告げ口するっす』


『え』


『てか第一声とか何でもいいっすよ』

『弱者男性先輩はそれを決めるのに数時間かかってそうですけど』

『てか氷織様からはまだメッセージ来てないんすよね?』


『おん』


『LIENの第一声なんてあってないようなもんですし

 どうせ年単位の付き合いをすれば

 最初の会話なんて忘れるんすから』

『テキトーに送ればいいんすよ』

『ボクにしてるみたいに!』


『ごめんて』


『キモオタスタンプ以外ならなんでもいいから早く送るっすよ』

『LIENはスピード命!』

『LIENでの既読無視は極刑っす

 さらに言えば、スピードが遅れたがゆえにハブられる子も……』


『ヒエッ』


『先輩、早く令和人になるっすよ』

『昭和じゃダメっす』


『精進します』


 スラスラと文面が捗ってしまう。乙音とは波長が合うのだろか。送ってから思いついて、俺もまたテキストボックスに文章を入力する。

『あ、あと

 ありがとう乙音』

『乙音が居なきゃダメなコトばっかりだったから』

『一緒にいて楽しかったし

 感謝もしてるし、これからも話せると嬉しい』


 そう送ってみる。このLIENの送り方まで、丁寧に教えられるとは。感謝をしてもしすぎることはない。と、思っていたのだが、送った直後に自分の文面が脳内で処理され……。


 あれ!? 俺今めっちゃ変なこと送った?! なんか、なんか背中のあたりがムズムズするぞ!? 柄にもないことを言ったのは確かだけど、なんか! ……なんか!!!! このままじゃまたキモイって乙音に返される!


 トーク画面を恐る恐る見る。その間にも自分の文面が目に入り、もはや胸のあたりに精神ダメージを受ける。

 しかし、待てども待てども、既読の次に続く返信はなかった。……返信をする気も失せるほどキモかったのか?

 **

 まあともかく氷織に第一声を。……乙音の言う通りシンプルに、スタンプに甘えずに行くか。

『LIEN追加ありがとう

 よろしく』


 よし。無難! 無難! これでいいだろ!


『こちらこそ。』

『よろしくお願いします。』


 本当に予想通りの返信がついた。……文末に句点が付くだけで怖さを感じる。文脈はただのテンプレートのような往復なのに。まあ俺も無駄を削ぎ落そうとしてテンション悪めになっているけれども。

 そんなことを考えていれば、不意にスマホのバイブレーション。氷織がもう一通。

『また、会って話しましょうね。』


 と。ただそれのみ。どういう意図かわからんが、まあともかく返信返信。テキストボックスに「わか」と入力し、そのままその内容に近しいスタンプを送信する機能で手早に。

『OォォォォォォKェェェ!!!(スタンプ)(萌えキャラ)(プルアカ)』


 ……。削除する。代わりに文字で「わかった」と送った。氷織は無視してくれた。


 ようやくLIENが一段落する。


そしてLIENホーム画面戻ると、改めて『友達』の欄に4人が映し出される。夏向はもう既に居たし、もう一人、去年のクラスの文化祭で同じ仕事になったやつとの必要最低限の数往復のやり取りだけだったはずなのに。今日で2人も女子の、いやそれ以前に夏向以外の連絡先が2人も! これはあれだろうか。これが高校生活というものだろうか! 縁がないと思ってたのに! 今目の前に! 友だ……。あれ?


 ……はしゃぐ心に頭が急に冷徹なツッコミをする。俺と氷織の関係は、彼女の人格切り替えを手伝うという役割の上で。そしてその対価としてご飯を作ってくれたり、関係を保ったり……。乙音とも、どちらかといえば共犯のような、協力者のような。夏向だって……。


 おそらく普通の関係性は一人もいない。だけど、普通みたいだと感じるのは、この日々に少なからず満足を覚えているのは、傲慢なのだろうか。


 手で、何も考えないままLIENを操作するうちに、氷織のトーク画面が出てくる。何かを入力しようかとも考えるが、でもやはり気が進まないのだ。

 ここ最近で知った。多分、俺は文面上よりも対面で話した方が、楽しい。叶うなら氷織とまた話したい。今日の午前にあったばっかりだと言うのに、LIENがむしろ、温度付きの会話を欲する。

 氷織の『会って話しましょう』というのも、そういうことだろうか。

 そう考えただけで、不思議と、何故か不思議と腹の当たりが蠢いて、胸の当たりが広がる感じ。感じたことがない。

 ……もっと、感じたい。


 ――――――――しかし、電話が鳴る。

 スマホにバイブレーション。滅多にかからぬ電話。一瞬後退る。しかし名前を確認して、伸ばそうと思った手が途端に重くなる。

 意図的に5コール目まで待ってから出る。


 俺は、ただ無心で、その声に応える。

 さっきまで持っていた温かさたちが、揃って嘘を吐いたように消えていた。

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