第13話:【急募】距離感バグった後輩ギャルとの接し方
あの事件から数日後、今日も学校の隅で陰キャをしている朝の時間。いつもより早く登校して、俺はクラスの声に耳を傾けていた。
数名がひそひそ話をし、それがやがてまた1人と伝播していく。
そして、夏向も俺の机に来て、少し興奮してやってくる。
「なあ賢治、聞いたか? 石井が昨日八咫野さんに告って撃沈したらしいぜ。それで逆上して手を出して」
「ヘー。で、石井って誰だっけ」
「……お前。成績の優秀なあいつだって。クラスメイトの名前くらい覚えとけよ」
夏向は呆れたように言う。まあでも。こいつは成績がむしろいい方で、自分より成績が良かった石井にも、何かしら思うところはあったのだろう。
「で、結局どうなったんだ? そいつ今日は来てないみたいだけど」
自分でも白々しいと思いながらも、確認のために尋ねると、夏向は苦笑して続ける。
「……なんかよくわかんないんだけどさ。八咫野さんが抵抗したら、そこに突然……石井の股間が破裂して一件落着したらしい」
「……」
うん。やっぱり我ながら、変な編集をしたと思う。あの時隠れながら撮っていた動画。それの音声を編集し、石井のヤバさを出しつつ俺や灯里のことを隠して、股間の蹴りを破裂音に差し替えて。そんな変な音声を匿名でクラスに広まるようにしたのだ。この手のヤツは逆恨みが怖いため、社会的に懲らしめてやった。
……正直、めっちゃ気持ちいい。
夏向はこっちを見透かすようにじっくり見つめ、それに一瞬ドキリとする。
「にしても、なんで石井の股間が破裂したんだろうな」
「さあ?」
「お前、昨日どこにいたっけ」
「……直帰したが」
「昨日は教室で自習するって聞いてたんだけど」
「………………気が変わったんだよ」
あ。終わった。バレてる。
そして、夏向は穏やかに笑って問う。
「……八咫野さんのこと、大事か?」
「どうした突然」
「いいからいいから」
「……知らね」
そういえば、夏向は「そっか」と一言言ってから、自分の机に戻っていく。なんだこいつ。
表情は見えなかったが、トーンが終わり際に落ちたことに引っ掛かりを覚えた。
**
放課後。ザワザワしていた教室だって、誰も教室に居ないとなれば、当然静寂となる。
結局今日、石井は来なかった。まあ当たり前といえば当たり前だ。社会的に大ダメージを食らったんだ。しばらく動けないだろう。
周りに誰も居ないことを確認して、俺は自分の席で催眠アプリを開く。これ一本で、俺は八咫野と関係を持つに至った。しかし何かと制限も多い。複数人には使えないし、感情植え付けはできない。
改めて思う。このアプリ、本当に催眠アプリと言っていいのかと。醍醐味全潰し。えっちな展開にする気のない。催眠アプリ界の恥さらし。
と、その催眠アプリに注意を向けすぎたからだろうか。
――背後の気配に気づけなかった。
とても無邪気で明るい女声。その無垢さは俺を小馬鹿にするような。
「アハッ! 何見ちゃってるんですか? せーんぱい」
「!?」
俺は椅子から転げ落ちる。
その方を見ると、そこには、「ギャル」がいた。
茶の癖っぽい髪、首元の緩いシャツ。そして何より、胸がでけえ。……いや俺は美乳派だ。それはさておき。
「へ〜。先輩いい趣味してますね。催眠アプリだとか。かけたい、好きにしちゃいたい女性が居たりするんすか? きっもー」
完全にバカにしてくる。最低限の敬意を持ったままなのがまたイラつく。なんだこいつは。……というか、あれ。なんかこいつ見た事ある気が……。と見つめ合っているとギャルの方も何かを思い出したように……。
「「あ」」
「あ〜!!! あんた、ボクがフェンスから落ちるの見て悦んでた変態先輩!」
「お前、ボサ髪マヌケドジっ子!」
互いに指をさして硬直する。そして先に動いたのはギャルの方だった。
「ちょ、なんでそんな酷い覚え方ができるんすか!! ギャルの社交力で社会的に抹殺しますよ!?」
「実現可能性がある怖さやめろ!」
ギャル……あの時見たこいつはもっとパッとしない見た目だったというのに。今のこいつはギャルそのもの。ボサっとしていると思っていた髪は癖毛と言い張れるくらいに様になっている。薄手のカーディガンでラフに着こなした制服が目を引……何故か上部の膨らみを強調する。
――これが、オタクが夢見る存在、ギャルか。すげえ。
まじまじと見ていたらギャルが少しむず痒そうに見てくる。
「……あの、先輩。見すぎっす」
「あ、おう」
しかも語尾が「っす」なギャル……天然で実在したのか。軽く感動する。
「そ、それよりっすよ先輩。そのアプリ、一体なんなんすか。本当に催眠アプリっすか」
「あ、いや、これはまあ……。クッキークリッカーみたいなもんだ。気にする事はない」
……誤魔化しとしては無理があるだろうか。
「何言ってんですかクッキークリッカーなわけないでしょうシバきますよ」
ギャルは仏頂面で言う。誤魔化し、ダメでした。誤魔化しスキルを過信していたらしい。……いや、YHFのあいつが騙されやすかったのか?
それに何故、一発で催眠アプリだと看破したんだこのギャルは。もしや。
するとギャルが、何か思いついたようにニヤけ、隣の机に座って見下ろすよう構図をとる。
「まあでも……。催眠アプリってのには興味あるっすね」
そして爆弾発言。
「氷織様には及びませんが、ボクの身体、好きにしてみるっす?」
「なっ……!?」
彼女は何かを期待するようでいて煽る表情のまま余裕綽々の笑みを崩さない。
一瞬、彼女の言葉で灯里を思い出してしまった。どちらも、男の夢である言葉。扇情的極まりない。その小馬鹿にする態度が、一種の闘争心を刺激する。
いけない、しかし目を持っていかれる誘いと身体。
――でも、このアプリは一度に1人しか使えない。ここで使ってしまえば一体八咫野がどうなるか。それ以上に、あいつ以外の人間に、こんな矯正装置を使うというのは気が引ける。しかしこういうのに使うのが醍醐味で……いやしかしやっぱり絶対決定的に。
アプリは絶対に使わな――。
「アハッ!!! これっすよこれぇ!! 最ッ高にエッチっすよ! もうこれがやりたいがためにギャルをやってるまである!」
突然の大声、恍惚とした表情。俺は呆気にとられる。
「…………は?」
「ん。なんすかクソ倫理観変態先輩」
「お前も呼び方大概酷いな! つか、お前なんなんだよ!」
「ボクは夢のシチュエーションをやってみただけっすよ。……ゾクゾクするっすねこれ」
彼女の言葉の節々に感じた違和感。ギャルらしからぬ異物感。催眠アプリの存在を知っていて「っす」の語尾で胸がでかくてオタクの夢のシチュエーションを理解する。そしてこのテンションの昂りよう。
――こいつは、オタクだ。やっぱりこんな天然ギャルはいない。養殖ギャルだ。
養殖ギャルがこちらを警戒する目つきで睨んでくる。
「あ、先輩。本当にかけようとかしないでくださいね。やったら軽蔑するっす。ボクが来たのは夢のシチュエーションのためじゃないっすから」
ギャルは机から降りて、俺のすぐ隣で見下ろす。今度は威圧的に。
「元YHF(八咫野非公式ファンクラブ)会員、石井の起こした事件について。HUF(Hiori Unofficial Fanclub)のボクが、あなたにことの仔細を聞きに来たんすよ」
「知ってること、全部話してもらうっすよ」
そう言って不適切に笑う。
「……ハッ。知らね。俺はクラスメイトとの関わりがほぼないんだ。流れてきた音声の分しか情報持ってねえよ」
「とぼけるのはダメっすよ〜。だって昨日のアレ、見ましたし」
……。いま、こいつなんて言った? 見た? あの場面を?
「あ、あと、そうだ。もうひとつ聞きたいことがありまして」
手を打ち鳴らし、ひょうきんな声色で、ギャルは続ける。
「『あかり』って、なんすか?」
これは――逃れられない。
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